第百四十七話 崇められる者、その理由
修正等完了しましたので投稿させてもらいます。楽しんで行ってください。
『崇められる者、その理由』
日本政府からの重大なお知らせにより、日本中どころか世界中が上に下にと大騒ぎになった翌日早朝、とある暗い一室では複数のモニターの前に立つ女性が一人、口元に満面の笑みを浮かべている。
「リソースに余裕があるって・・・素敵」
その女性はユウヒと協力して今回一つのドームを縮小させた未だに謎の多い女性だ。彼女は湯気を上げるマグカップを机に置くと、椅子にゆっくり座りながらモニターに表示される数値を見詰め嬉しそうに呟く。
「こっちからも最低限監視は残し撤収っと」
椅子を少し引きキーボードに向かった彼女は、片手でマウスを操り反対の手でキーボードを打って次々とその数値を変化させていっては笑みを深める。手を少し休めマグカップの中のホットミルクに口を付けた彼女は、そのままじっとモニターを見詰めた。
「やらないといけないものはこれとこれ、あとライフプロテクターの強化くらいしておいた方が良いかな?」
彼女の前に広がるモニターには、世界中に存在するすべてのドームの状態が表示されており、彼女の操作によっていくつかのドームが示す数値の色が赤から緑に変化していく。色によって状態が見分けやすくなっているらしく、変化を見届けた女性は満足そうに頷くと別の画面に目を向けながら、椅子のリクライニングを前後に揺らす。
「ユウヒ君の助けがあれば遠隔からでも縮小出来ると思うけど・・・こっちの手が足りないなぁ」
一つだけ白い絵柄で表示されたドームに目を向けた彼女は、それ以外の黒く表示されたドームの数に眉を顰めるとユウヒの名を出し呟く、しかし彼に手伝いを頼む以前に自分の手が足りないと呟くとため息を漏らす。
「おじいちゃんなら鼻歌混じりでやってくれるんだろうけど・・・才能って残酷よね」
今回一つのドームを縮小し安定化させたことによって、予想以上にリソースが確保できた女性であるが、しかしそれも全体から見れば微々たるもので、未だに大規模な行動には移れそうにないようだ。
「そういう意味ではユウヒ君もすごいんだけど・・・!? ・・・お風呂入ろ」
彼女の探し人である祖父であれば、ドームを特に問題なく終わらせることが出来るだけの才能があるらしく、未だに自分では何も出来ていないと感じている彼女は、実際に動き回り問題を解決していくユウヒに憧れの様な感情を抱く。しかしその感情がそれだけではいないような気がした瞬間、彼女は急に立ち上がり小さく顔を振る。
その際にマグカップから撥ねたホットミルクが彼女の手に飛び散り、飛び散ったホットミルクを小さな舌で舐めとった彼女は、眉を寄せて肩を落とすと、お風呂に入るためモニターの前から姿を消すのであった。
一方、頬を赤くした女性が思い浮かべていた人物はと言うと、
「と言うわけで! ドーム縮小の実績ある専門家のユウヒ大先生のご助力を賜り、この調査ドームも縮小作業の為の調査を並行して行う事となりました!」
「・・・」
調査ドームの奥に広がる滅びを回避できそうな異世界の、テントとプレハブが並ぶ自衛隊仮設基地の真新しい一室で、何故か忍者に囲まれ、複数の人間の視線を集めていた。晒しものになっているような気分で、自然と眉間にしわが寄るユウヒの周囲では、ヒゾウが機嫌良さそうに話し続けている。
「またユウヒ殿は異世界の専門家でもあるため、忙しい中その他の調査も手伝ってくれるそうでござる!」
「・・・」
ドーム縮小成功と言う実績のおかげか、新たな仕事を国から請け負ったらしいユウヒは、さらに調査ドーム内で行われる調査の手伝いも引き受けた様で、その事自体に対しては特に思うところは無いが、妙にテンションの高い忍者達には思うところがあるらしく、直立不動のまま不機嫌そうな感情を目の奥に宿らせ始める。
「さらに我らの努力が認められ、民間協力の重要性から各大学から調査員の派遣がなされました! はい拍手!」
『・・・・・・』
そんなユウヒと同じく壇上に立っている複数の男女は、民間協力として大学から派遣された教授や学生たちで、ジライダによって大げさに紹介されたせいか面妖な表情を浮かべたり、周囲からの拍手に恥かしそうに会釈しており、そんな彼らに同情の籠った視線を送るユウヒ。
「うん、説明ありがとう。でもなんで君らがそんな偉そうなわけ?」
そんなユウヒと一緒に気遣わし気な視線を向けていた調査部隊の隊長は、忍者達の紹介に礼を述べるも、呆れた様に問いかける。
「「「その場のノリ?」」」
「はぁ・・・夕陽君の説明だけでよかったんだが」
キョトンとした表情で小首を傾げる忍者達に溜息を吐いた隊長は、元々ユウヒの事を簡単に紹介する様に頼んだようであるが、いつの間にか彼が話すことまで話しはじめ、最終的にほぼ全て教えていないはずの事まで話してしまっていた。
「頼む相手、間違えてません?」
「返す言葉もないな・・・。んん、大体のところは把握していると思うが、まだ機密だらけなので口外しないように、これは民間協力である大学側の方も同意してもらっている。質問か?」
いつもより五割増しで疲れた表情を浮かべるユウヒの呟きに、隊長は頭を掻き頷いて見せる。そんな二人のやり取りを不思議そうに見詰める忍者達に気が付いた隊長は、小さく咳き込むとパイプ椅子に座る隊員たちに話し始め、小さく手を上げた隊員に気が付くと頷き促す。
「はい、縮小のために必要な調査の概要と、大学側の調査内容について知らないのですが」
「まだ決まったばかりでな、詳細は決まっていないがこちらで調査して判明した内容について、大学の方に詳しく調べてもらうそうだ。その辺は俺もよく解らないので調査班に任せてある」
こういった話は事前にある程度の話されるものの様で、しかし今回は一切情報が出ていなかったことで隊員の男性は不思議そうに問いかける。それもそのはず、この話は昨夜突如決まった話であり、ユウヒも朝からまたも黒塗りの車に運ばれて来たばかりなのであった。
「任されました!」
朝から母を宥める大仕事をやる羽目になったが故に、今の様に疲れているらしいユウヒを横目で見た隊長も、調査に関して詳しい内容はよく解らず。調査班宛に届いた命令書を軽く流し見て、後はユウヒを先生と慕う調査員の女性達に放り投げている様だ。
「はいはい・・・それと、夕陽君の調査についてだが我々で手伝えることはほとんどない。何でも魔力を知覚できなければ調査もできないし、危険もあるそうだからな」
隊長の任せてあると言う言葉に元気よく敬礼を見せた女性は、御座なりな返事に頬を膨らませると、ユウヒの調査の話に目を輝かせる。しかしドーム縮小の調査と言えば現代の科学力では理解の範疇を越えており、危険も伴う為自衛隊ではユウヒを直接手伝う事は不可能であった。
「なるほど・・・」
「目下我々の任務は、基地の安全確保と調査班や民間協力者の護衛。それから現地民との関係を築くことも頼まれているな、先ずはそこからやって行こう」
実際に魔力と言うものが及ぼす危険性を肌で感じている隊員たちは、隊長の説明に納得したように頷き、同時に悔しそうでもある。そんな隊員たちの表情に目を細めた隊長は、少し声を張ると今出来る事を一つ一つやって行こうと元気付ける。
そんな言葉に隊員たちが力強く頷く中、自衛官の仲間入りをしているが人一倍浮いている三人が小首を傾げ不思議そうな表情を浮かべ始めた。
「最後のはもうクリアしてね?」
「そうだな、ユウヒが居れば問題ないだろ」
「そうでござるなぁ」
どうやら三人曰く、現地民との関係を築くと言う任務についてはほぼ完了しているらしく、しかもユウヒさえ居れば何の問題も無いと話し頷き合っている。
「は?」
蚊帳の外に居る様な気分を感じて聞きに回っていたユウヒは、忍者達の言葉に心底わけが分からないと言った声を洩らす。
「あれか・・・」
「どれ?」
しかし、訳が分かっていないのはどうやらユウヒだけで、後は大学関係者は完全に蚊帳の外でよく解ってない表情である。忍者達の言葉にユウヒが首を傾げていると、隊長が少し困った表情であれかと呟き、その呟きを聞き逃さなかったユウヒは、ぐるりと顔を隊長に向けて目を見開き気味にして問いかけた。
彼らの反応に妙な胸騒ぎを感じたユウヒの問いかけに、思わぬ説明が隊長の口から跳び出す。
「それがだな、どうやら近隣の村で夕陽君が治癒の神だと崇められているらしくてな」
「え?」
それはユウヒが近隣の村人に神として崇められ始めたと言うものであった。
「さらに精霊を従える精霊王だと言う噂まで出ているらしい・・・まぁそのおかげで我々も好意的に受け入れられているわけだが」
さらには精霊を従える精霊王とまで言われているらしく、そのおかげでユウヒと服装が似ている言う事もあって、仲間と認識されている自衛隊も、村人たちに好意的に受け止められていると言う。
そんな初めて聞く話にユウヒが呆け、民間協力の大学関係者が興味部深そうな表情を浮かべていると、そういう流れになった理由を忍者達が話し始める。
「実はな? あの村ってあっちこっちの国から捨てられた人の集まり何だと」
「そそ、住んでる人の出自とか聞いたらすごかったぞ? 元王族に貴族とかはごろごろ、元聖女や精霊を崇める教団の巫女の家系まで居たんだよ」
「んん?」
ジライダとヒゾウ曰く、近隣にある村々は所謂隠れ里の様な物であり、様々な場所から様々な理由で流れ着いた者達が身を寄せ合って生活していると言う。それは非常に特殊な事であるが、普段勘の良いユウヒもまだその内容からでは原因に辿り着けない様で首を傾げている。
「ほらユウヒが運びやすいように魔法でパッキングしたじゃん? 黒い石」
「やったな」
そんなユウヒに、ヒゾウはつい最近の出来事について確認するように説明する。ユウヒは、新型魔力活性化装置を作る際、必要となる黒い石を纏めて近隣から運び出しており、その際ほとんどの石を運び出すために、魔法の力を使い風呂敷で包む様に、物理的な作用のある魔力の膜で一纏めにしていた。
「んで、気持ち悪くならないように毒電波も封じただろ?」
「そんなこともしたな?」
その時、体調不良者を出す原因が纏められた黒い石同士が共鳴する事によるものだと言う事で、共鳴した魔力の波が周囲に漏れないようにもしている。この通称毒電波と呼んでいる共鳴現象は、すでに自衛隊の中でも浸透しており、忍者達の説明に隊員たちは静かに頷く。
「その時周りの精霊はどうだったでござる?」
「あの時か、妙に喜んでじゃれついて来たので適当に手で追い払ったかな?」
またこの毒電波は精霊達も嫌っており、黒い石の大半を包んで毒電波もシャットアウトしたことで、周囲に隠れていた精霊達はユウヒに体全体で喜びを表現し、一斉にお礼を言いに現れる。しかしやることが多いユウヒは、じゃれついてくる小さな精霊達を適当に相手してすぐに追い払っていた。
「なるほど、そういう・・・」
「?」
お礼が言いたいだけで邪魔するつもりの無かった精霊達は、ユウヒに手で払われると嬉しそうな笑い声を上げて飛び去り、毒電波の無くなった村を嬉しそうに飛び回ったのだ。
そんな経緯を聞いた隊長は、彼の聞き及んでいた内容とユウヒの言葉をすり合わせ何かに気が付いた様で深く頷き、ユウヒは不思議な表情を浮かべた。
「あの村、精霊を知覚できる人多くてさ、見えるばーちゃんとちっさい子もいんだよ」
「へー珍しいな」
頷く隊長に、一部の自衛官も何かに気が付いたらしく小さく口を開いたり目を見開き、そんな隊員たちを横目にユウヒはジライダの話に興味深げな表情を浮かべる。世界が変われば住んでいる人たちの特性も変わるのは当然であるが、やはりどの世界でも精霊達と人の間の距離はそれほど近くなかった。特に自分達とそう見た目が変わらない種族と精霊の間では交流が乏しく、精霊が見えると言う事はユウヒにとっても驚く内容である。
「その人達曰く、ユウヒが病の原因を封印して村を救ってくれた。さらに精霊に指示して村を守ってくれている。その証拠に村にはあれ以来精霊達の祝福の声が聞こえている。だそうだ」
「封印・・・指示・・・あぁね」
そんな一連の流れを説明し、極めつけにその見える人たち視点での話を聞いたユウヒは納得し、同時に遠い目を浮かべた顔を両手でゆっくり覆い肩を落とす。完全に勘違いではあるが、村人からしてみれば別に違いは無いので、いまさら何を言っても手遅れである。
「やったねユウヒ、新しい称号よ!」
「・・・・・・」
どうしようもない現実に思わず顔を覆い項垂れたユウヒに、ヒゾウはここぞとばかり良い笑顔で煽り、そんな煽りに指の隙間から見えるユウヒの目は深い青色に濁り輝く。
「まぁなんだ。今のところ害は出ていないのでな、一応こちらから崇めないようには言っているんだが」
「・・・・・・」
「流石ユウヒ先生!」
忍者を睨み、申し訳なさそうな隊長に何とも言えない視線を向けたユウヒは、屈託のない笑みで目を輝かせる調査班班長の視線に、また目を覆い隠す。
「うはwwここで更に追い詰めるスタイルwww」
「天然こえぇな」
「あれ?」
素でユウヒを褒め称える女性班長に周囲の人間が苦笑いを浮かべる中、周囲の人間達が思っている事を代弁するヒゾウとジライダ。ヒゾウに関してはただ追い打ちをかけているだけなのだが、天然と言うに認識の無い班長は不思議そうに首を傾げ周囲の苦笑を誘う。
「まぁ、ユウヒ殿はこの後、お外でお仕事でござるからしばらく接触も無いでござろう」
「俺たちがちゃんと説明しとくから安心しるwww」
「そうだな、我らに万事任せておけ」
苦笑いを浮かべたゴエンモは、未だに天岩戸に隠れるがごとく両手で顔を覆ったユウヒにフォローの言葉をかけ、ヒゾウとジライダも謎の自信に溢れたフォローになっているのか解らない言葉をかける。
そんな彼らの言葉が通じたのか、ユウヒは顔を覆っていた手を解くと、いつもなら浮かべない爽やかな笑みで忍者達を見詰め、
「・・・・・・戻って来てさらに悪化してたら、お前ら纏めて強化電撃な」
「「「理不尽な!?」」」
ニコヤカに死の宣告を告げる。
『・・・(信用されているのかされていないのか・・・)』
朝の会議がコントの様な状況に陥り、大学関係者が呆ける中、忍者達の素行にも慣れて来た自衛官達は、般若の面を隠すような笑みを浮かべるユウヒと弁明を繰り返す忍者達を見詰め、ユウヒの忍者達に対する認識について考えずにいられないのであった。
いかがでしたでしょうか?
今回も少々短かったですが、いつの間にかユウヒは異世界で神様になっていた様です。例の如く煽る忍者達がその後どうなるかは、彼ら次第ですかね?
それではこの辺で、またここでお会いしましょう。さようならー




