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ワールズダスト ~現世に現れし黒き森~  作者: Hekuto
第二章 異界浸食

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第百四十六話 政府からの重大なお知らせ

 修正等完了しましたので投稿させてもらいます。楽しんでもらえたら幸いです。



『政府からの重大なお知らせ』


 ユウヒの案内で名も無き異世界の土を踏んだ自衛隊員が、予想もしなかったSFとの遭遇に言葉を失った日、大半の家庭が昼食を終えたばかりの時間帯に、テレビ番組が一部を除き一斉に同じ内容の放送を行っていた。


「まもなく官房長官による緊急記者会見が始まります」

 その中の一つを垂れ流すとあるリビングでは、無言の室内を僅かに緊迫した空気を感じるテレビの音声が流れ続けている。


「内容はまだ発表されていませんが、昨日突如として消失した東京のドームに関する事ではないかと思われます」

 どうやら官房長官の緊急記者会見が行われるらしく、詳しい事前説明なしの記者会見に、女性アナウンサーはほぼ確定と思われる記者会見の内容について説明し、周囲のコメンテーターに目を向けた。


「やっぱり噂は事実なんですかね? 今も色々な国から非難の声が上がっていますし」

 若いタレントの女性は今一状況が分かっていない様で、ネットニュースで手に入れたばかりの情報を口にして不安そうな表情を浮かべる。それは真実など一切関係なく、面白く不安を煽れればいいだけのサイトであったらしく、その情報を信じた女性は心底不安そうであった。


「そうですね。いったい何が起こっているのかはわかりませんが、真夜中の繁華街が昼間の様に明るくなったと言う話もあるので、核かもしくはそれに準ずる兵器を使った可能性が高いですね」

 彼女の話すニュースサイトの内容を知っているらしい、黒々とした髪をきっちりまとめた中年の男性は、東京の市街地で核が使われた可能性を話すと、深刻な表情を浮かべる。どうやらドーム縮小時の発光現象は何らかの兵器が爆発したことによる光であると、一部の報道機関は発表したようだ。


「それはおかしい、もし何らかの熱量兵器を使ったと言うのなら周辺地域に多大な被害が及んでいるはずだ」

 しかし、それは非常に穴だらけの内容であり、現在は到底信じられていない法螺話として一般人に受け止められている。


 実際に縮小した周囲の環境は、SNSなどで瞬く間に拡散されており、一部壊れた看板や割れた店のショーウィンドウなどが拡散されて、兵器説の信憑性を上げようとしているが、ごくごく一部を巧妙に撮影している風景などの動画も周辺住民から上げられ、SNS上で笑いを誘っていた。


「・・・各国の報告では熱量がドームに吸い込まれると言う話でしたからあり得ます」


「それでも衝撃波が発生していますし、中国での核使用時は遠く離れた工場の窓ガラスが割れるなどの被害も出ています」

 それでも尚、兵器使用説を推す男性は、反論する白髪交じりの男性を鼻で笑うと自信に溢れる笑みを浮かべ語り続ける。


「うまくやったのでしょう」


「そんなあやふやな情報を公共の電波で話さないでもらいたい」


「あやふやではない!」

 二人の討論は次第に熱を帯びて行き、睨むように話す白髪交じりの男性に兵器説を推す男性が声を荒げた瞬間、


「どこが「官房長官が現れました! 記者会見が始まる様です」・・・」

 テレビの上部に緊急速報の文字が現れ、耳障りなアラームを鳴らしお茶の間の視線を奪う。どうやら記者会見が始まるらしく、荒ぶる二人の中年男性を映していた画面は切り替わり、日本国旗が掲げられた会場を映し出す。





 場所は映像の向こうである記者会見会場に移り、そこでは壇上の国旗に一礼した官房長官が、書類を演台の上に広げると再度一礼し口を開いていた。


「えー、昨日22時40分。東京都に発生したドーム、通称12号ドームにて、自衛隊と民間の協力により縮小実験を行いました」

 緊急記者会見と言う形で行われた会見内容は、お昼のワイドショーの中で語られていたドーム縮小の話で当たっていたらしく、官房長官の言葉に周囲は期待した様なざわめきとカメラのフラッシュ、さらにパソコンのキーボードを打つような音が広がる。


「今回の実験は民間の協力者の事もあり、また非常に特殊な方法を用いた為、極秘に進められております」

 定期的に行われる記者会見と違い5割増しに騒がしい会場内を見渡した官房長官は、少し視線を手元に落とすとしっかり前を向き話し出す。その内容は、今回の実験が急遽行われたわけでは無く、機密性が高いがために今まで報告できなかったと言う内容で、その言葉に周囲は目を見開く。何故ならどんなに機密であっても、ある程度の情報はどこかからか洩れるのが常であったからだ。


「一部、何者かのリークにより各報道機関の方や活動家、市民団体と名乗る方々が集まりましたが、危険を伴う実験と言うこともあって丁重にお引き取りを願い。その結果、無事実験に成功した旨をお伝えします」

 しかし、今回洩れて来た情報と言えば政府が12号ドームと呼称する場所に人を集めていると言うものだけであり、その日は特に人が集まる予定であると言うものだけであったのだ。そのほかの情報は大半が洩れて来た情報から妄想を膨らませたものであり、信憑性に欠けるものばかりであった。


 それ故、場を荒らすことで何かしらの漏洩を目論んだ人間によって、活動家や市民団体が呼ばれたのである。その事に触れて僅かに不機嫌そうな視線を会場の一部に向けた官房長官は、しかし無事に実験は成功したと話し、その瞬間またも会場が音にも視覚的に騒がしくなった。


「・・・今回の実験に用いられた技術は、既存のどの技術にも該当しないものであり、政府もまだ全容を把握できていない為、詳しい方法については差し控えさせてもらいます」

 しばし会場が落ち着くまで待っていた官房長官は、眩し気に細めていた目を開くと、この後の質問時間を円滑に進めるために事前注意を周囲に促す。


「そのうえで質問があればこの場でお受けいたします」

 こう言った注意をしておかないと、延々答えられない質問をされて話が進まないことがよくあるが、正直事前に注意をしていても答えられない質問を行うのが今の報道機関である。


「尚、協力者の詳細については機密としてお教えすることは出来ませんので悪しからず」

 そんな疲れる事前提の記者会見を前に心の中でため息を漏らした官房長官は、司会の男性が促す注意事項に関しても、あまり注意の意味はないだろうなと思い思わず抜けそうになる力を腹に込め直す。


「・・・それでは質問を始めます。質問には挙手の上でお願いします」

 力を籠め直し、その効果が彼の表情に現れると同時に、記者たちの腕は一斉に上がり始めるのだった。





 そんな記者会見の映像を、静かに見詰めていたとあるリビングの住人は、急に眉を顰めると口を窄め


「・・・うーん」

 不満そうな唸り声を漏らしている。


「どした?」

 不満そうな表情と唸り声を洩らす女性、天野明華の隣では、不機嫌な彼女に気が付いた勇治が、ソファーから頭を上げて不思議そうなに小首を傾げ、彼女と繋いでいた手を優しく握る様に力を入れた。


「ユウちゃん頑張ったのに名前出てないわ」


「いやいや、夕陽が嫌がるだろ」

 握られた手を握り返しながら不満に思ったことを正直に呟く明華に、勇治は苦笑いを浮かべながら火を見るより明らかな事実を語る。目立つことや面倒なことを嫌うユウヒである、もしここで名前が出ようものなら勇治が思っている以上に嫌がり、最悪異世界に引きこもりかねない。


「そうだけどー・・・納得いかないなぁ」

 そんな未来を予想できているだろうにも関わらず、やはり不満そうな声を洩らす明華は、どちらかと言えば目立つことが好きであり、それ以上に正当な評価を得られないと言う事に不満を持つタイプである。


「ちゃんと報酬も貰えるらしいじゃないか」


「まぁね? ほかにもいろいろ便宜を図ってもらえるらしいわ・・・でも安いわよね」

 さらにそこへ溺愛する息子と言う要素が加われば、彼女の感情が暴走してもしょうがない。そんな事を理解して居る勇治は、彼女の手を少し強めに握りながら彼女の暴走しそうな感情を抑制しようと試みている様だが、


「そこは、まぁ否定しないな・・・やっぱ俺も足りないと思えてきた」

 彼もまたユウヒの貢献に対する報酬が少ないと考えている一人であった。


「やっぱりそうよね! 勲章授与されてもおかしくないわよ!」


「いいな、ちょっと働きかけてみるか」

 実の息子が正しく評価されないと言う事に対して、昔から思うところのあった彼の言葉に、明華は抜身の日本刀の様な光を目に宿すと、勇治の上に覆いかぶさり畳みかける様にそう話す。


「よし! そうと決まったら石ちゃんとこに突撃よ!」


「それはやめてやれ・・・」

 妻の柔らかな感触に頬を緩めた勇治は、興奮した彼女の息遣いを頬で感じると彼女の案に頷き、彼女を膝の上に乗せながらソファーから起き上がる。しかし、膝の上で体を上下に揺らし跳ねる明華の言葉には流石に頷けないらしく、呆れた様に妻を諭す。


「そう?」


「ん」

 ただでさえこの間の突撃で心労を抱えているであろう石木に、これ以上急激なストレスを与えては危険だと苦笑を浮かべる勇治に、明華は不満そうに首を傾げるも、頷く彼の苦笑に目を瞑る。


「そっかー・・・じゃあ阿賀野ちゃんでいいや!」

 しばし考え込んだ明華は勇治の意見に同意すると、新たな生贄の名を呟き満面の笑みを浮かべた。


「もっとだめだから!? 阿賀野はもう総理だからね!?」


「えー・・・」

 しかし、その人物はさらにダメらしく、勇治は立ち上がろうとする明華をの脇を両手で抑えると不満を隠そうともしない明華を宥める為に時間をかける覚悟をするのであった。


 現日本国総理大臣の名前は、阿賀野 誠一郎と言い、天野夫妻とはそれなりに面識のある人物のようだ。





 そんな阿賀野総理も気にしている緊急記者会見会場では、質問時間も中盤に差し掛かっていた。


「現場では強力な発光現象が確認されています。これはやはり何らかの高火力な兵器を使ったと言うことですよね」


「ですから、先ほども言ったようにそう言った物は使っていません」

 しかしその質問は、官房長官も危惧した通り一向に話の進まぬ質問が繰り返され続けていた。すでにそれは質問と言うより、決めつけた返答をもらうためだけの作業であり、返ってくる言葉は毎回同じ返答である。


「でしたらいったい何を使ったと言うのですか! 兵器ではないと言うなら何を使ったか言えるでしょ!」


「それも最初に言った通り機密に抵触しますから言えません」

 どうやら、声を荒げ質問を続ける男性は、政府主導の下、市街地で強力な兵器を使ったと言わせたいらしく、呆れた表情を浮かべる官房長官に質問を続ける彼の中では、危険な兵器が使われたことが確定事項の様だ。しかしそんな物を使った事実はなく、また事前に注意を促した通り実験内容の詳細については話せないと念を押している為、延々同じ質問と返答が続いていた。


「機密機密って! そういう秘密主義の所為で国民の心は離れているのではないですか!いつまでも国民を騙せると思っているのですか!」


「関係のない話の様ですので次の質問者・・・あなた、そうポニーテールの」

 いい加減周囲も飽きて来た為、ちょうどいい男性の主張に乗って強制的に質問を終わらせた官房長官は、彼から視線を切り、新たな質問者を求め周囲を見渡す。視線を切った後も喚いている男性を無視した彼は、まるで吸い寄せられるように少し場違いな明るく緩い雰囲気の若い女性を指名する。


「は、はい! ニヨニヨ動画報道部の沢です」


「ああニヨ動の方ですか、どうぞ」

 指名された女性は目を見開き慌てて立ち上がると、大きく一度頭を下げた。どうやら彼女は大手動画投稿サイトの報道部の様で、『世界中に居るユーザーの声を国にへ』をスローガンにしている彼女たちの活動を知っている官房長官は、先ほどまでの質疑応答の疲れが癒されたように目尻を細め質問を促す。


「ありがとうございます。それでは質問させていただきます。今回我々で行った緊急アンケートで上がったユーザーからの質問なのですが、先ず核かまたそれに準ずるものを使いましたか?」


「いいえ、一切核に関わる物もそれに準ずるような物、兵器等は使っておりません」

 質問を促された女性は、マイクを受け取ると喚く男性を少し気にしながらも、手元のメモ帳に視線を落として話し出す。その質問の内容は先ほどまでの男性とさして変わらないものの、それは二ヨ動ユーザーと言う一般市民からの質問であるため、官房長官は丁寧な口調で明確に否定する。


「使っていないっと・・・それでは謎の発光現象は何だったのでしょうか? 現在二ヨ動では異星人のUFO説と地下文明説、さらに異世界からの侵攻説と言ったところが多いのですが?」

 官房長官を見詰めて返答を聞いていた女性は、マイクを持った手にペンを持ち書き辛そうにメモ帳へと何かを書き込む。そんな彼女はパッと顔を上げると、官房長官を見詰めながら次なる質問を投げかける。


「くくっ・・・いや申し訳ない。中々楽しい想像ですが、特に空からも地下からも何か来てはいません。異世界からの侵攻もありません。あの光は副次的なもので特に危険はないとお考え下さい」

 投げかけられた質問の突拍子もない内容に、思わず周囲が噴き出す様な笑いを堪える中、少し不安そうな表情を浮かべる質問者の女性に目を向けていた官房長官は、心底楽しそうな表情で笑いを洩らすと、表情を戻すことなく真面目に答えて行く。


 真面目に答える官房長官は、周囲が笑っている中、ドームと言う超常現象が起こって居る以上、そう言った考えを真っ向から否定することは難しいと冷静に考え、まだそう言った分かり易い対象が居た方が良かったかもしれないと思わず考え込んでしまう。


「あぶなくないっと・・・えっと次に、結局ドームって何なのですか? すでに政府は把握しているのではないかと疑う声が多いのですが」


「そちらについても現在調査しておりますが、現状は皆様の安全の為にドームが周囲に及ぼす影響などを重点的に調べておりますので、ドームの正体等に関してご回答できる十分な情報は持ち合わせておりません」

 ままならない現状に思わず考え込む官房長官など気にせず、やはり書き辛そうにメモを書き込んでいた女性は、小さなメモ帳を捲り次の質問を投げかける。二ヨ動ユーザーの中では様々な憶測が流れているドームの正体、しかしそれは政府も知りたい事であるのだが未だ判明していない。


 ドームに関わる政府関係者の中では、すでにユウヒがその情報を掴んでいるのではなかと言う憶測も流れては居るものの、本人が解らないと言う以上、彼から齎された情報以上のものを持ち合わせていない政府は、その言葉を信じるほかない。


「調べている人は居るのですか?」


「そうですね。優秀な調査員や専門家たちに任せております」

 総理と同席したユウヒとの会議を思い出していた官房長官は、女性の問いかけに笑みを浮かべ頷くと自信をもって返答する。その瞬間またも周囲が騒がしく瞬き始め、その眩しさに官房長官は目を細めた。


「ほう、この異常事態にスペシャリストが居ると言う事ですか・・・興味深いお話ありがとうございました」


「こちらも楽しませてもらいました。それでは次の方」

 彼の言葉に目を見開いた女性は、メモを取るのも忘れて考え込むと質問は以上なのか、花の咲いたような笑みを浮かべて大きく頭を下げると椅子に座る。そんな女性の一瞬見せた表情に、常に振りまく場違いな雰囲気とは違う知性を感じた官房長官は、彼女の名前と顔をしっかりと覚えると、次の質問者を選ぶのであった。


 この会見の映像はニヨニヨ動画の報道部生放送でも配信されており、ユーザーたちはその質問と答えに対して「新人ちゃん可愛いフゥフゥ」「沢ちゃん可愛いハァハァ」「官房長官イケメン抱いて♂」「同じことしか言わん頭おかしい奴おるwww」「他社の迷惑顔に噴いたwww」などと一喜一憂したらしい。自分たちの質問が国の偉い人に届くと言うこの報道部放送には割と人気があり、二ヨ動の中でもトップテンに入る人気生放送である。



 いかがでしたでしょうか?


 少々短い話ではありましたが、勘に従い好き勝手動き回るユウヒの行動が、あちこちに影響を及ぼしている事を感じて頂けたらと思います。そんな波紋が今度はユウヒにどう返って来るのかも楽しみにしてもらえたら幸いです。


 それではこの辺で、またここでお会いしましょう。さようならー

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