第百四十五話 突入、自衛隊SFと遭遇す
修正等完了しましたので投稿させてもらいます。面白おかしく楽しんでもらえたら幸いです。
『突入、自衛隊SFと遭遇す』
夜遅くから開始された日本のドーム縮小作戦。そろそろ日付が変わりそうなアーケード街の公園で、ユウヒは一人スマホを耳に当てて電話をしていた。
「大丈夫、こっちも異常は検出してないし固定化も完了済み。やったわね」
「何とかなったな、最後微妙に動きが悪いのが気になったけど」
正確には電話を持った左腕に巻かれた通信機で会話しているのだが、そこから聞こえて来る声は実に楽しそうなもので、声を聞くユウヒも自然とその口元に笑みが浮かぶ。
真夏の夜の重たい空気の中、まるでクリスマスイルミネーションの様な発光を起こしたドームは、次第にその光を強めながら小さくなって行き、最終的には辺り一面を真っ白に染め上げ一枚の板状へと姿を変えていた。
「その辺りはドームと関係なく空間に歪みがあったみたい。その歪みに引っ掛かって縮小が阻害されたのね・・・何の歪みかしら」
高さ3メートルほどの縦に長い長方形の板は、縮小時の目を焼くような光も治まり、今は優しい光を放っている。最後の最後で若干縮小する動きに異常があったものの現在は特に問題なく、協力者の女性が調べる限りでは周辺にも問題は起こっていない。
「この公園は前まで魔窟と言われたゴミ捨て場だったからな・・・あ、そういえば俺ここから異世界に行ったんだよ、それかも?」
「なるほど・・・元々何かしら空間に影響のある特異点だったのかもしれないわね」
この場所は元々魔窟と言われたゴミ溜めであり、ユウヒがアミールに連れられ異世界に旅立った場所でもある。さらに言えば清掃活動を行っていた三人の男性が忽然と姿を消した場所でもあり、その事からこの場所が何らかの特異点となっていそうだと話す女性。
「それで? 切り離しは出来そう?」
「そっちは今のところ100%無理ね。というか何をどうしたら切り離せるか解らないわ」
そんな彼女は、ユウヒの腕に表示された小さな画面の向こうで、湯気を上げるココアを啜りながら満足気な表情を浮かべ、ユウヒの質問に少し眉を寄せるもリラックス出来ているようだ。
「そか、まぁ向こうには一号さん達もいるし、切り離されても微妙に困るんだけどな」
「例の・・・こっちの世界ってまだそこまでSFじゃないと思ってたんだけどなぁ」
現状以上の進展は無理そうであるが、切り離されたらそれはそれで困ると話すユウヒに、女性は苦笑を漏らしながらモニターに表示された巨大な二足歩行ロボットに目を向ける。元々彼女がいたと言う世界とユウヒの住む世界の決定的な違いは、その発展速度にある様で、彼女にとっては比較的見慣れた二足歩行ロボットの姿に、どこか懐かしそうな表情で呟く。
「あの子らは例外だよ」
じっと一点を見詰め、寂しそうにも聞こえる声で呟く女性の姿をチラ見したユウヒは、白く光る壁を見詰めると困った様な笑みを浮かべた。
「天野さん! 周辺家屋には特に異常ありません。バリケード設置を始めてもいいでしょうか?」
光る壁の先に居るであろう一号さん達を思い何とも言えない表情を浮かべていたユウヒに、背後からハキハキとした声がかけられる。日付が変わろうかと言う時間帯にも関わらず、眠気を一切感じさせない声で話しかけられたユウヒは、肩を僅かに躍らせると眠気が飛んで行くのを感じながら振り返った。
「はい、こっちも特に周辺空間に異常はないので大丈夫です。白い壁に触れても向こうに行くだけなので大丈夫ですよ?」
「そ、それは裸になるので勘弁してほしいのですが・・・」
声をかけながら小走りで駆け寄って来た自衛隊員に、スマホを下ろしながらこちらも問題ないと答えたユウヒは、返事に苦笑いを浮かべる隊員に目を向け察する。
「あ、登録外の方でしたか」
「あれは地味に恥ずかしかったですよ・・・。それではバリケードと仮設壁の設置を始めさせてもらいます!」
どうやら目の前の隊員は、とあるサイトでの登録を行っていない様で、その上そのままドームに侵入した経験がるようだ。この登録による脱げる脱げないの違いは、協力者の女性が原因であるが、限られたリソースと闘う女性は褒められぞすれ責められはしないであろう。
「わかりました。私はこっちと向こうを行ったり来たりしてますので、何かあったら声をかけてください」
そんな裏事情を少しだけ聞いていたユウヒは、恥かしそうに頬を掻く自分より若そうな隊員の敬礼に頷くと、笑みを浮かべて彼を見送った。
「いやぁ・・・本職はかっこいいねぇ」
「そうね、私の世界とは制服がだいぶ違うけど、こっちの方が派手じゃなくて私好みだわ」
そんなカーキ色の制服にも包んだ男性を見送ったユウヒは、一人無言で頷き始めると小さく呟き、そんな彼の言葉に話を聞いていた女性も同意する。どうやらこの世界と彼女の世界では自衛隊の制服も違うらしく、彼女は地味な色合いの方が好みの様だ。
「・・・ふむ、さて俺は一号さん達の様子見て、活性化装置の残骸を回収するよ」
彼女の言う派手な制服がどういったものなのか想像できないユウヒは、その考えをいったん脇に置いて光る壁へと歩き出す。その背中にはどこか哀愁が漂っており、その原因は少し前に一度名も無き異世界に戻った際聞かされた、新型魔力活性化装置カスタムが壊れたと言う話にあるようだ。
「ふふ、またね」
壊れる確率が高かったとは言え、実際に壊れるとへこむのがいつものユウヒクオリティである。そんな彼の姿に覚えがあるらしい女性は、困った様に眉を寄せると少しだけ優しく声をかけるのであった。
名も無き異世界に散らばる新型活性化装置の残骸を見渡し、暗いこともあって回収を朝に回して自衛隊に連絡後仮眠をとることにしたユウヒが、ココに目覚ましをお願いして世界樹の根の上で眠りに着いている頃、そろそろランチのメニューを考える様な時間に差し掛かったアメリカ某所。
「馬鹿な!? それは本当の話なのか? トリックではないのか!?」
「目の前で消えてなくなったそうです。ただ、バリケードの設置が行われている様ですので、完全に消えたとは・・・」
真っ白な豪邸の中でこの国のリーダーが驚愕の声を上げている。その愕然とした表情の理由は、日本に潜伏させている諜報員から今しがたもたらされた情報の所為であった。
唾をまき散らし叫ぶ大統領に報告を読み上げる男性は、彼自身読んでいて信じられないのか、その額にうっすらと汗を滲ませ時折ハンカチで拭っている。
「すぐに調べろ! 状況によってはプランの変更が必要だ。下手すると三国共倒れの可能性も、いや・・・単純に小さいドームだからか」
大統領の機嫌を窺い、顔から夏の暑さによるものでは無い気持ち悪い汗を流す男性は、怒鳴るような命令に慌てて頭を下げると小走りで部屋を後にした。そんな部屋に一人残された大統領は、椅子の背凭れに体重を預けると頭を抱え考え込み、彼のプランから著しくずれ始めた状況に歯を食いしばる。
「考えても解らん・・・先ずは情報だ。それから日本と電話会談だな」
小さな島国にも関わらず、度々世界的な影響を発信する日本と言う国の存在に恐怖を感じた彼は、急にうそ寒さを感じて肩を振るわせるのだった。
一方、深夜にも関わらず就寝できずにいた中国のリーダーは、日中から妙な動きを始めた日本から齎されたドーム消失の報告に驚愕すると、そのまま鬱憤を抑え込むことなく物に当たって晴らしている。
「フゥー! フゥー! フゥー! ・・・・くそ!」
一通り暴れた彼は荒い息を整える様に肩で息をすると、手に持っていた酒瓶を壁に投げつけ、そんな彼の姿に傍で控えていた男性は一筋の汗を頬に流す。
「調査報告が入りました」
「・・・話せ」
追加報告を行う為に入室した彼は、目の前の人物が落ち着くまで直立不動で待機していた様で、落ち着きを取り戻し始めた男性と視線が合うと手に持った書類に目を向け話し始めた。
「東京にあるドームの一つが縮小したのは確かなようです。現在ドームがあった中心地では目隠しの囲いが作られているので、完全になくなったわけではないようです」
「・・・ということは、我々のドームもなくならないと?」
地理的に近いこともあり、中国は現在最も日本のドームに関しての情報に詳しい外国である。その中国をもってしても、今回の日本の行動は全容を把握することが出来ず、その為万が一を考えて国家主席は深夜まで起きていた様だ。
そんな彼は報告を聞きながら椅子に座ると、怪訝な表情を浮かべ呟く。
「いえ、方法が根本的に違うと思われる上にドームの規模も違うので判断が付かないと」
昨日までは世界で最も早くドームを消滅させるのは中国であると考え、その事実をもって国家運営上重要な諸外国への影響力を増そうと考えていた矢先に起きた事態に、最悪の可能性も考え表情を歪める国家主席。彼の表情に顔を蒼くした男性は、少し慌てた様に彼の想像を否定する。
「くそっくそっくそ! それでも先を越されては意味がないのだ! 何故だ! 何故奴らは成功した!」
「それは、目下調査中でして・・・」
しかしその擁護するような言葉でも、今の彼の心を慰める事は出来ない様で、苛立ち机を何度も叩く彼の頭の中は日本に対する憎悪で染まっていく。その姿を心底恐ろしく感じている男性は、顔中から汗を流しながら身を縮めて頭を下げる。
「・・・外せ」
「はっ」
縮こまり今にも死にそうな顔色の男性に目を向けた国家主席は、急激に頭が冷えるのを感じて肩を落とすと、部屋から出て行くよう小さく呟く。その言葉を聞いた瞬間弾かれるように動き出した男性は、返事を返すのと同時に踵を返し部屋から出て行く。
「何故だ、何故いつも日本ばかり・・・我らには神の加護があるというのに」
そんな男性の姿を見送った彼は、その目に冷たく濁った色を宿すと常に邪魔な存在として立ちはだかる日本に呪詛を吐く。彼の言葉が何を意味するところかわからないものの、彼の中で日本とは常に邪魔で格下に位置する存在である様だ。
中国のとある荒れ果てた部屋で、部屋の主が酒を煽っている頃、北の大国では諜報員からの報告を一通り受けた大統領が、静かにティーカップへと口を付けている。
「やはり侮れんな」
香りを楽しむ様にカップを口から放した彼は、閉じていた目を開くと重みのある声で呟く。
「・・・」
そんな彼の姿とは裏腹に、言葉を発する事も出来ない圧力を感じて報告書の挟まれたバインダーを握りしめる女性は、視線を向けられたことで元々伸びていた背筋をさらに伸ばす。
「率直な感想を述べても構わんぞ?」
「は、いえ・・・やはり手を結ぶ相手も間違えてしまったのかと」
それ以上は伸びないだろうと、どうでもいい感想を抱いた男性は、女性に笑みを浮かべながら率直な意見を求める。突然の事に驚いた女性であるが、目の前の人物の言動に眉を寄せると、言われた通り率直な意見を述べた。
「それは前任者たちに言ってくれ、私もそう思うからな・・・」
「・・・」
彼女の意見に肩を竦めて鼻で笑ったロシア連邦大統領は、自分も同じ意見だと言いながら顔を横に振る。多大な権限を持つ彼であっても、一度動き出したものを軌道変更するには時間と労力を必要とするようだ。
「しかし、今回は全く情報が上がってこなかったな。その上諜報員が捕まるなど・・・」
「現在原因を調査中ですが、捕まった本人たちもなぜ捕まったのか、いつの間に掴まったのか解らないと言っておりまして・・・その」
ニヒルな笑みを浮かべていた男性は急に真顔になると、報告に上がった日本の行動に関して真面な情報が手に入らなかったことに不満そうな声を洩らす。その声に肩を振るわせた女性は、慌てて経緯を説明し始める。
「いや、責めているわけでは無い・・・無いのだが、今回の事に関わっている人間が誰なのか慎重に調べてくれ」
「はっ! すぐに現地諜報員に指示を出します!」
未だ原因究明と対策が取れないことで焦る女性に、大統領は僅かに優しげな眼を向け責めているわけでは無いと話し、しかしすぐに目を鋭く細めると妙な胸騒ぎや違和感に口を濁して慎重に調べるよう指示を出す。
「・・・追加の人員と予算も追加しよう。最大限に注意しろ」
「はい!」
指示を聞き背筋を伸ばした女性が踵を返す直前、何事か考え込んでいた男性は追加の人員と予算を出すと言って、重ねて慎重に行動するよう促した。
「・・・嫌な予感がする。こんな事は政権を奪った戦い以来だ」
元気よく返事を返した女性が部屋から出て行くのを見送った彼は、一向に止まない胸騒ぎを誤魔化す様に紅茶を飲むと、過ごしやすい夏にも関わらず背筋に這い寄る悪寒を吐き出す様に呟き、まだまだ沈む様子の無い日が照らす外へ、睨むような視線を向けるのであった。
翌朝、アーケードドーム改め、アケードゲートの前には二十人ほどの自衛隊員が整列していた。
「準備完了です!」
周囲をすっぽりと仮設の壁で囲まれた公園の中央には、ゲートと呼称されることが決まった白く光る壁が鎮座しており、壁と整列した自衛隊員達の間にはユウヒが少しだけ緊張した面持ちで立っている。
「はい、それでは先に入りますので後に付いてきてください。後、中に入って色々驚く事があると思いますが、安全ですので落ち着いてくださいね?」
「大丈夫です。我々もプロですから」
これから行われるのは、ユウヒによる名も無き異世界の案内の様だ。案内と言っても異世界側ゲート周辺と、仮設宿営地の建設現場の指定、エルフや獣人達との仲介である。ユウヒが間に立つことで余計なわだかまりを回避する意味があるのだが、そこから先の関係構築は自衛隊の手腕次第であり、その事は皆理解して居た。
「そうですよね・・・信じています」
しかし、ユウヒにとって心配の種は一つや二つではない為、今も僅かに引きつった表情を浮かべる姿から見るに緊張が消えない様だ。
「・・・荷物の片手保持確認! 前進!」
念を押すユウヒがするりとゲートの中に潜り込む姿を首を傾げ見送ったこの隊の隊長は、気持ちを入れ替える様に気合いの籠った声を上げ指示を出すと、自ら先頭を歩みゲートを潜る。
「あ、こっちです」
「これは、木造?」
しっかりとした足取りでゲートを抜けた隊長が見たものは、8畳ほどの空間で、足下も壁も天井も同じようなつるりとした質感の木で覆われていた。ユウヒの手招きに気が付き歩を進める彼は、周囲の不思議な光景を見渡し不思議そうに呟く。
「この部屋は世界樹の根で覆われているんですよ」
「世界・・・樹?」
後ろから次々と自衛隊員が姿を現し、先を歩くユウヒに着いて歩く彼らは、ユウヒの説明に首を傾げ、木造の空間から外に出ると朝陽に目を細める。
「隊長! 上!」
「・・・は? うお! でか!?」
軽く顔を上げた先に昇る太陽に目を細めたのも束の間、葉擦れの音に気が付き振り返った隊員が一人、驚きの声で隊長に呼びかけた。上だと言う部下の言葉に従い頭上を見上げた隊長は、自分たちの頭上を覆う緑の屋根に気が付くと、それが樹であることを認識するのにしばしの時間を必要とし、気が付くと驚きの声を洩らす。
「この樹、何の樹ですかね?」
「少なくとも、ハワイの樹は目じゃないな・・・」
ゲートがある木の根の部屋から出て来た隊員たちは、皆一様に隊長へと目を向け、隊長の視線を追いかけて驚きの声を上げている。隊長の隣で上を見上げる隊員は、とあるコマーシャルのフレーズを口にしながら問いかけ、そのフレーズが何を意味するのかよく解っている隊長は、ハワイにある大きな樹など比べ物にならないほど巨大な世界樹に目を奪われていた。
「皆さん通過できましたか?」
「・・・ああ、問題ない。装備も持ち込めている」
ゲートのある部屋から出てくる隊員が居なくなったことで、人数の確認の為問いかけたユウヒに、隊長は視線を下ろすと慌てて人数を確認。問題ないことを確認し終えると、普段と変わらないどこか覇気の欠落したユウヒに目を向け、そのリラックスした彼の姿に感心する。
ほんの数分前に落ち着けと言われ、問題ないと答えた自分を叱ってやりたくなった隊長は、手に持った荷物の重さ感じると、周囲の部下の手にも荷物が握られている事を確認してほっと息を吐く。
「そうですか、それじゃこっちに均した場所があるんで、そこなら問題なくテント張れると思います」
自衛隊員たちの確認作業に笑みを浮かべたユウヒは、彼らが休むためのテントを張る場所として、とある実験が行われたことで均された場所へと案内し始める。その実験とは、新型魔力活性化装置カスタムの事だ。自爆装置を搭載していないにもかかわらずバラバラになって吹っ飛んだ可哀そうな装置は、現在ユウヒを慕う者たちの手で回収作業が進められている。
「了解しまし「親方~壊れた装置の破片回収、全部終わったよ~」・・・は?」
そんな回収作業は丁度終わったらしく、太い樹の根の向こう側から顔を出し現れた一号さんは、ユウヒだけを見詰めると掌に載せた瓦礫を見せながら嬉しそうに声をかける。
『・・・は?』
「あー・・・」
「あ・・・」
突然聞こえて来た無邪気な声に思わず振り返った自衛隊員は、そこに佇む巨大な人影に呆然とした表情で固まり、一号さんもユウヒ以外の人影に気が付き、呆れて頭を掻くユウヒと驚く彼らを見渡し小さくばつの悪そうな声を洩らすのだった。
「ろ、ろぼっと?」
「にそくほこう・・・」
全くふらつくことなく、しっかりと重心を維持して歩く5メートルを超える鉄の巨人に思わず言語機能が低下する自衛隊員、いくら屈強な戦士達であっても、SFの前では無力であった。と言うか一部の隊員は感動で目を潤ませてすらいる。
「あぁ・・・えっと、私の部下でここの警護をしてくれている一号さんです」
「え? 部下?」
驚きどよめく自衛隊員達を見て苦笑いを浮かべたユウヒは、一歩進み出ると驚いて片足立ちのまま動きを止めている一号さんに手を向け彼女を隊長に紹介し始めた。しかしその言葉は上手く隊長の耳に入ってこない様で、首を傾げ返される。
少しずつ気持ちを持ち直してきた自衛隊員であるが、そこに更なる驚きが投下された。
「姉さん! まだ出てはいけないとマスターに・・・ぁ」
それは空から舞降りた3メートル近い人影で、女性的な曲線が美しい鉄の鎧にしか見えないゴーレムの二号さんである。彼女は片手に大きな箒をもって舞い降りると、音もなく地面に着地して姉を叱りつけ始めた。しかし彼女も周囲の状況に気が付くと、箒を両手で抱えながら姉同様に小さな声を洩らし動きを止める。
「・・・・・・こっちが同じく二号さんです」
すでにいろいろ諦めたユウヒは、二号さんの隣まで歩くと彼女の足に手を置き紹介し始めるのだった。
「あ、えっと・・・初めまして、自衛隊の方々ですね」
「は、はじめまして・・・アーケードゲート先発調査部隊隊長の佐々木です」
突然足をユウヒに触られたせいか、カメラアイをピンクに染めた二号さんは、若干土盛りながら目の前の隊長に挨拶して問いかける。その問いかけに、呆けていた隊長は必死に意識を取り戻しながら挨拶と自己紹介を行うが、その光景は傍から見て何とも奇妙で、どう考えても正気を保った会話には見えなかった。
「申し訳ありませんマスター」
「予定とは狂ったけど、まぁ紹介はしないといけなかったし・・・良いんだよ」
本来彼女たちは、ただでさえ気の張っている自衛隊員を必要以上に刺激しない様、段階的に紹介される予定だったのだ。その予定を乱してしまった事で、心の底から申し訳なさそうな声で謝罪する二号さんに、ユウヒは慰めるような笑みを浮かべて彼女を見上げる。
「なら問題ないね!」
ユウヒの笑みを見詰めカメラアイを瞬かせる二号さんは、何か言おうとしたようだが、彼女の行動に被せるような一号さんの声に、二号さんはその目を赤一色に染める。彼女たちのカメラアイは、搭乗者の感情で変わる為、一種のコミュニケーションツールとしての役割があった。
「姉さん!」
「ひゃい!?」
それ故、相手がどのくらい怒っているのか一発で分かり、二号さんに見上げられ怒鳴られた一号さんは、その怒りの度合いに心底恐怖して大きな体を跳ねる様に縮こませる。
「いい子たちなので、危害を加えなければ問題ないですよ」
「は、はは・・・危害を加えるとか無理でしょ」
そのまま巨大な箒を振りかざす二号さんと逃げる一号さん。しかし大きな体故周囲の影響を考えて思い通りに逃げられない一号さんは、已む無くステップを踏みながら二号さんの箒をよけ続けることになるのだった。
苦笑交じりの笑みで語るユウヒに、自衛隊員たちは無言で首を振っており、隊長は乾いた笑いを洩らすと、隊員たちの心の声を代弁する。その後しばらく姉妹喧嘩を見ていた自衛隊員たちは、次第に仕事の目になっていき彼女たちのスペックの異常さに再度恐怖していた。
『・・・・・・』
時折小さな声で話し合っている自衛隊員達からは、「あの巨体であれほど軽やかなステップが可能なのか・・・」「そのくせ振動をほとんど感じないなんて・・・」「機体が軽いのではないか?」「張りぼてか?」「それならあんな速さで動けば装甲が歪むはずだ」などの声が聞こえてくる。
彼らの驚きが冷めるにはもう少し時間が必要であろうと、ユウヒは小さく肩を落とし、そんな彼を自衛隊員達には見えないココを筆頭にした精霊たち。彼女達のやさしさに癒されるユウヒは、何事も順調にはいかないものだと小さくため息を吐き出すのであった。
いかがでしたでしょうか?
ファンタジー全開なドームが縮小し、幻想的な光が街を埋めた翌朝、いきなりSFと遭遇した自衛隊員でした。予定は未定とは言え、何とも衝撃的な出会いをさせてしまった事に、流石のユウヒも申し訳なさそうです。
それではこの辺で、またここでお会いしましょう。さようならー




