第十三話 妹の軌跡 後編
どうもHekutoです。
加筆修正等終わりましたので、投稿させて頂きます。皆様のお暇のお供に楽しんで頂ければ幸いです。
『妹の軌跡 後編』
流華がユウヒのPCを弄り、さらにユウヒの荷物を漁って夜晩くまでユウヒの部屋から出てこなかった翌日、早めの昼食をすませた彼女の姿は、ランチタイムを迎えるために活気付くアーケード街にあった。
「やぁ流華ちゃん久しぶり」
「あ、球磨さんお久しぶりです。えっとそちらが・・・」
そんな彼女は、自分を見つけてニコニコとした笑みを浮かべて歩いて来る大柄な男性に頭を下げると、友人に見せるよりも少しだけ硬い笑みを浮かべて、男性の名前を呼んだ。
「ギルマスのパフェだ。お姉ちゃんと呼んでくれて構わないぞ?」
そんな球磨と呼ばれた男性の隣には、自信に満ちた目に楽しげな色を浮かべた長身の女性が立っており、球磨の視線を受けてすっと前に出ると、肩にかかった長い髪を手で払いながら自分の事をパフェと名乗り、さらに流華に対してお姉ちゃんと呼ぶことを許可する。
「えっと・・・」
しかしそんな許可をもらっても、相手は初対面、さらに年上でどこか近寄りがたい印象を受ける綺麗な女性とあってか、なんとも言えない圧力を感じた流華は思わず後ずさると、助けを求める様に球磨へと視線を向ける。
「あぁ気にすんな・・・この人は姉さんってのが渾名みたいなものだからな、テキトウに呼んでやってくれればいいさ」
パフェを挟んだ向こう側から助けを求める視線を感じた球磨は、苦笑を浮かべると目の前のつむじに目を向けながら軽い調子でそう説明する。球磨の口から漏れ出す言葉のイントネーションからは、気にしてもしょうがないので好きに呼んでいいと言う感情が透けて見え、その言葉を聞いた二人の女性の表情は、実に対照的であった。
「おいクマ! どうしてお前が決めるんだ!」
「いたいいたい、そんなの話が進まなくなるからでしょ」
僅かにホッとした表情の流華に対し、納得のいかない憮然とした表情で振り返ったパフェは、その姿から飛び出してくるとは思えない男勝りな言葉使いで球磨を見上げ、その怒りを蹴りと言う形で彼の脛へと発散する。
「あなたがユウヒ君の妹さんね? 私の事はメロンって呼んでくれればいいわ」
パフェからの攻撃から球磨が怠そうに逃げ惑う中、彼の後ろに控えていた女性は流華の前に進み出ると、彼女の手を取って胸の前に持ち上げ、ゆったりとした印象の微笑みを浮かべながら自己紹介を始めた。
「め・・・メロンさんですか」
「はい」
手を取られて優しげな笑みを受けた流華は、その視線よりも自分のすぐ目の前で揺れる大きな果実に目を奪われてしまい、思わず相手の名前をその目の前で揺れる二玉の果実に問い掛けてしまう。
「あぁ・・・言いたいことは解るがなって痛い痛い!? 何で流華ちゃんまで蹴るんだよ・・・」
「何となくイラっとしてしまって、すいません」
流華の反応を見て不思議そうに首を傾げているメロンと、彼女の胸を凝視する流華の胸を見比べてしまった球磨は、苦笑を洩らしながらそっと優しく流華に声をかけるも、即座に振り返った彼女から、パフェとまったく同種の蹴りを貰ってしまう。
妹分の様な相手からの急な攻撃に、思わず切なげな表情を浮かべた球磨は、大して痛くもなかった脛を擦り、彼女からの返答に何とも言えないショックを受けた表情を浮かべる。
「ほんとクマはデリカシー無いなぁ・・・おっと、私のことはリンゴお姉さまって呼んでくれればいいよ?」
「・・・リンゴ、さんですか」
謝罪と同時に冷たい目でクマを見詰める流華。そんな彼女と球磨の姿を肩を竦めながら少し離れてみていた三人目の女性は、流華と目が合うとすぐに近付き、目線を合わせると軽やかな笑みを浮かべて見せ、自分の名をリンゴと名乗り、ついでに冗談交じりに敬称も要求してくる。
彼女達の名前は当然本当の名前では無く、所謂ハンドルネーム、この場合はゲームのキャラクターネームだ。
「・・・騙されるなよ流華ちゃん、この人は見た目や印象と違ってがさつだから気を付けろっていった!? 何故いきなり蹴る!?」
目線を合わせ一歩踏み込んでくるリンゴに思わず後ずさった流華に、球磨はすかさず小声で注意を促すも、その説明の途中で脹脛に痛みを感じ、流華の耳に合わせて屈めていた体をまっすぐ伸ばす。
「なんとなくむかついたから?」
「聞こえてなかったくせに、理不尽な・・・」
振り返り苦情を洩らす球磨に対し、彼の脹脛に容赦の無いローキックを喰らわせたリンゴは悪びれる事無く、キョトンとした表情で不思議そうに首を傾げて見せる。どうやら彼女は勘が良いのか、球磨が自分にとって不利益なアドバイスを流華に聞かせている事に感付いた様であった。
「あの・・・」
「あぁ一応このメンバーで行くことになったから、本当は行ってほしくないんだけど・・・な」
悪びれもしないリンゴに肩を落として哀愁を背負う球磨、そんな彼に、流華はどこか不安げな声をかける。すると球磨はその顔に苦笑を浮かべ、自分も居れた四人が流華と共にどこかへ行くメンバーだと告げるのだった。
「何を言っているクマ! あの黒き森が目の前にあるのだぞ? 行かざるを得・・・んん、ゴホン、ユウヒが囚われてるかもしれないんだゾ?」
「姉さん・・・本音が先に漏れちゃったからな?」
その行く場所とは、パフェの言葉から解る通り【ドーム】なのである。
その理由は建前上、流華の兄であるユウヒの捜索と言うものであったが、彼女の輝く瞳からはどう考えてもそれだけでは無いことが分かり、それ以前に本音ダダ漏れのパフェに、球磨は自然とツッコミ入れる。
「ぐぬ、私だって・・・ユウヒの事は心配なのだぞ・・・」
球磨の適切なツッコミにパフェは言葉を詰まらせると、頬を赤く染めて彼の視線から逃れる様に顔をあさっての方向に向け、ぶつぶつと小さな声で呟く。
「どっちかと言うと、逆にパフェの方が心配されそうだけどねぇ」
そんな小さな呟きも、隣のメロンにはしっかりと聞こえたらしく、彼女はその言葉には疑問を抱かずにはおれず、困ったような笑みを浮かべ指先三本で頬を押さえると、パフェ以外の者に視線を向けながら同意を求める様な声を零した。
「んな!? どういう意味だメロン!」
「いつもの事じゃない、騒動起こすのパフェの方が圧倒的に多いんだし」
まさかの方向から飛んできた追い打ちに、パフェを驚きの声を上げるとメロンに振り返りその言葉の真意を問い詰める。さらには別方向からもリンゴの同意する声が届き、その言葉の挟撃に、メロンの苦笑とリンゴの小悪魔の様な笑みを見比べるパフェ。
「おめぇもだろ・・・」
「あ?」
「なんでもないですマム」
「!?」
まさかの展開に焦るパフェの姿を楽しそうに見詰めるリンゴに、流華の隣へと退避していた球磨は、ジト目を向けながら流華にも聞こえる程度に小さくぼそりと呟く。
しかしその声は離れた場所に居たリンゴにも聞こえたらしく、彼女は闇を感じる、笑みにはとても見えない笑みを浮かべながら球磨に振り返り、その恐怖を感じる笑みに思わず背筋を伸ばして首を振る球磨と、彼の背中に隠れる流華。
「ふん・・・まぁいい、作戦会議の準備は出来ている。行くぞ!」
背筋を伸ばす球磨を下から見上げる様に微笑み睨むリンゴの姿に、自分がおちょくられていたことに気が付いたパフェは、恥ずかしさを隠す様に鼻を鳴らすと、流華達に背中を向けて一人歩き出し始める。
「・・・(大丈夫かな? でも球磨さん居るし、お兄ちゃんも球磨さん子供には安全で無害って言ってたし)」
基本的に人見知りの傾向がある流華は、初対面の人間達が見せるあまりに濃いやり取りに圧倒され、この先の展開に僅かな恐怖を感じていた。しかし兄の友人である球磨の存在と、球磨と言う男性が子供にとっては無害だとユウヒに教えられていた事で、まだ前に進む勇気を維持できていた。
この事が彼女にとって良かったのか悪かったのか、それはまだわからない。
それから数時間後、パン屋さんビル三階の居間。
「以上でドーム内部、異世界探検かい・・・ゴホン、ユウヒ救助作戦会議を終了する」
広い居間に置かれ、場違い感を感じさせる様々な書き込みのなされたホワイトボード、その前で仁王立ちをしたパフェの声により、数時間に及んだ会議は終了した。
「・・・」
終始洩れつづけたパフェの本音に、冷気を感じそうなジト目で彼女を見上げる流華。
「う、コホン・・・出発は明日早朝だ。今日は楽しみだからと言って燥がず、ゆっくりと休むように」
そんな視線にパフェは声を詰まらせ表情を引き攣らせると、わざとらしく咳き込んで視線を逸らし、生ぬるい視線を向けてくる球磨達に向かって締める様な言葉を告げる。
「・・・」
「・・・うーむ、情報が多すぎて良く分からんが、結局入ってみないと解らないこと尽くめだな」
流華からの無言のプレッシャーを感じ頬に汗を流すパフェの姿に、怠そうな表情で目を伏せた球磨は、体の向きを机に戻して重厚感のあるノートPC操作しながら、何も無かったように解らないことだらけのドームに愚痴を零す。
「流された・・・だと!?」
ユウヒが居たら突っ込んでくれる様なパフェの言葉も、そのツッコミ要員の居ない現状では彼女が優しく突っ込まれることは無いようで、球磨にそっと優しく流されたパフェがショックを受けて固まる中、彼女を除いたギルドメンバーは自分達のノートPCを見詰める。
「・・・まぁ、国もまだ動き出したばかりだし、むしろ掲示板の方が情報多いってのがねぇ」
パフェから視線を外したリンゴは、自らのノートPCに映し出された政府のホームページ見詰めると、その情報量の少なさに呆れた様な声を洩らし、対照的に情報量だけは多い民間の掲示板に対しても別の意味で呆れた表情を浮かべた。
「流華ちんのプレイヤー登録も済んだし問題無いと思うけど、駄目ならすぐ出ればいいんだし、だいじょぶだよ」
机に頬杖を突き、ノートPCを操作するリンゴの背中には、小柄な少女であるミカンがへばりつく様にくっついており、流華用として渡されたノートPCをぎこちなく操作する流華を楽しそうに見詰めている。
因みに、ミカンは流華より一個年上なのだが、その見た目や仕草からは到底信じる事は出来ない。
「おまえのだいじょぶは心配にしかならねぇよ」
リンゴの背中におぶさり、彼女も巻き込み体を左右に揺らすミカンを、何とも言えない表情で見詰めた球磨は、心配しか感じられない声色をミカンに目を向けずPC画面に吐き出す。
「なんだとクマ!」
「うお!? こらやめい!」
その瞬間、ミカンは目を大きく見開くと猫のような身軽さでリンゴの背中から飛び退き、そのままの勢いで球磨へと文字通り跳びかかる。
「あらあら?」
「お! 猫と熊のじゃれあいだな、いいぞもっとやれ!」
そんな二人の様子に、メロンは微笑ましげな表情を浮かべ笑い、リンゴはノートPCを見詰めていた詰まらなさそうな目を楽しそうに歪め、防御に徹する球磨に掴みかかるミカンを煽るのであった。
「にゃー!」
「こら引っ掻くな! 爪が割れたらどうすんだ!」
「・・・(お兄ちゃんの知り合い・・・真面な人少ないな)」
既に猫そのものと言った動きで球磨を引っ掻くミカン、さらにそれを面白そうに見て笑うリンゴとパフェに、唯一真面そうに見えるが止める事なく微笑み続けるメロン。そんな今までの人生で接した事の無いタイプの人間達に、流華は不安と共に兄の交友関係を心配するのである。
「ふふふ、さぁ可愛い義妹ちゃん、お布団引いたから義姉ちゃんと一緒に寝ましょうねっていたいいたい!?」
「そうか、それでは一緒に寝ようではないかパン屋よ」
そこへ、その不安を感じ取ったのか、いやまったく気にすらしていないであろう、このビルの家主である香織がふらりと姿を現すと、流華に向かって一緒に寝ようと純粋に見える笑みを浮かべて近づく。
しかし、そんな彼女の画策したユウヒの外堀を攻めると言う密かな作戦は、即座に動いたパフェに頭を鷲掴みされると言う物理的妨害により潰えるのであった。
「・・・大丈夫かな」
一瞬も落ち着かない慌ただしい目の前のやり取りに、流華はその不安を大きくすると、頭を掴まれ引きずられて行く香織の姿を見送り、二重の意味での不安を洩らすのであった。
これらの様子を見る限り、もしかしたら彼女の選択は悪手だったのかもしれない。
いかがでしたでしょうか?
一話分で終わらせようかと思っていたら、いつの間にか二話分になっていた流華の軌跡でした。でももっと伸びそうだったのを、とりあえず自重してみたなんて・・・げふん、そんなお話を楽しんで頂けたのならいいのですが。
それではこの辺で、また次回もここでお会いしましょう。さようならー




