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ワールズダスト ~現世に現れし黒き森~  作者: Hekuto
第二章 異界浸食

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第百三十六話 日本の方針

 修正等完了しましたので投稿させてもらいます。ゆっくり楽しんでもらえたら幸いです。




『日本の方針』


 太陽が中天を過ぎ、最も暑い時間に突入した日本のとあるビルの中、情報の共有をやり直した人々は、六つの内三つまで弁当を攻略したユウヒに様々な表情を浮かべながら向き合っていた。


「本当にドームの縮小は可能なのだな?」


「いえ、ですからやってみない事には」

 すでに会議が再開されてそれなりの時間が過ぎている様で、額に汗を滲ませる男性の言葉に、ユウヒも顔にうっすらと汗を滲ませながら困った様に応える。どうやら同じような質問を何度もされているらしく、しかしその答えは変わらず、何度目かになる同じ内容の返事を返していた。


「専門家なんだろ! なんでわからないんだ!」

 困った様に返答を返すユウヒに突然声を荒げた男性は、ユウヒの事を終始胡散臭そうに見ていた男である。彼は、一向に自分が求める様な答えが聞けないことに焦れた様で、テーブルを叩くと、同じ返事を返し続けるユウヒに怒鳴り始めた。


 やってみないと分からない、現状では情報が足りなくて結果が予想出来ない。彼らの質問にそう返し続けるユウヒに、周囲の表情は二つに分かれている。一方はユウヒの目の前で苛立ちを隠そうともしない男性と同じように、未だキナ臭げな表情を浮かべる者達。もう一方はユウヒの発言に理解を示し頷きつつ、時折ユウヒの口から洩れだす情報に驚きの表情を浮かべる者達だ。


「いえ、ドームに関しては専門家とは言えないのですけど、異世界専門家と言うのも自称したわけではないですし?」


「じゃあなんでここに居るんだよ! 知らないなら来るな!」

 理解出来る者にとっては重要なヒントを洩らすユウヒであるが、それ以外の者にとっては何も知らない一般人にしか見えず、ユウヒ自身も専門家を自称したわけでは無い。ドームに関してなど自分よりもとある女性の方が詳しいわけで、異世界経験者なだけであって彼自身今も場違い感を感じているのだ。その為、ユウヒは怒鳴られても、怒鳴られた内容に首を傾げるしかない様である。


「え? そちらが連れて来たんじゃないですか」


「なんだと―――!?」

 大体にしてこの場にユウヒが居る理由は、どうしてもと言われ朝からアポも無く連れ出されただけであり、連れだしたのは目の前で怒鳴る役人や政治家側である。その為、わざわざ母親の暴走を止めてまで出向いたユウヒは、不思議そうにそう問いかけたのだが、その問いかけは目の前の男性を激高させるだけであったようだ。


 今にも掴みかからんばかりに椅子を蹴飛ばし、勢いよく立ち上がった男性を冷めた目で見上げたユウヒの耳に、テーブルを平手で叩く大きな音が突き刺さる。


「・・・すまん、急ぎだったからな」


「・・・まぁ、本当に嫌だったら母さん止めてませんから」

 声を荒げユウヒに食って掛かっていた男性は、大きな音を立てた石木に睨まれ怯んだのか着席し、そんな男性を見ていたユウヒは、その視線にジトっとした空気を滲ませながら石木を見詰めた。


 テーブルを叩いた音にびっくりしたらしいユウヒのジト目に、二重の意味で謝罪した石木を、ユウヒは小さく溜息を洩らすとそこまで気にはしていないと話す。もし本当に嫌ならば、全力で明華を止める気も無かったらしいユウヒの言葉に、石木は思わず口元を引きつらせる。


「それは、被害が半端じゃなくなるから、毎回止めてくれるとありがたいな」


「・・・善処します」

 今回の天野家訪問時、万が一ユウヒが止めていなければ死人が出ていたかもしれないと感じている石木は、強張る顔で精一杯の笑みを浮かべるとユウヒに毎回止めてほしいと頼み、頼まれたユウヒは視線を宙で彷徨わせると、まるで政治家の様な返事を返すのであった。





 一方その頃、ユウヒの機転で事件現場にはならなかった天野家の門前では、近隣住民の視線にさらされて居るにも拘らず、奇抜な格好を恥かしがること無く着こなしている怪しい人物が三人、


「何と言う事だ・・・」

「まさかフラグだったとは」


 熱く熱された地面に膝を付き項垂れていた。


「どうするでござるかなー」

 項垂れているのはジライダとヒゾウの二人で、その隣には呆然とした表情でユウヒの部屋の窓を見上げるゴエンモ。彼が見上げるユウヒの部屋のカーテンは開かれ、しかしそこにユウヒの姿は無い。


「ん? お前ら夕陽の友達の忍者だったか」

 一流の忍者ともなれば、気配だけでユウヒがここに居ない事くらいすぐわかるらしく、そんな彼らの感知範囲にとある人物が入ると、三人は揃ってそちらに目を向ける。そこには買い物帰りなのか、牛乳の入ったビニール袋を提げた勇治が立っており、忍者達の姿に眉を上げると爽やかな笑みを浮かべながら気軽に手を上げる。


「おお!?」

 地獄で仏を見たかのような表情で目を輝かせた忍者達は、笑みを浮かべる勇治に駆け寄るべく素早く立ちあがった。


「夕陽に会いに来たのか?」


「そうでござる。どこに居るかしらないでござろうか?」

 忍者の三人がここに来る理由など、ユウヒに会いに来る以外ないだろうと勇治が小首を傾げると、ゴエンモが代表して話し出す。コクコクと頷くジライダとヒゾウにも目を向けた勇治は、彼らに向ける目を僅かに細めると、顎を扱きながら不思議そうに首を傾げる。


「何か用事か?」


「迅速かつ低姿勢でお願いに来ました」


「ふむ、急ぎか・・・ちょっと待ってろ」

 三人を見渡していた勇治は、彼らの言動から何か感じ取った様で一つ頷くと、彼らに待っている様に言って家の中へと入っていく。


「「「?」」」


 ちょっとした会話だけで何か納得したらしい勇治の背中を見送った三人は、不思議そうに首を傾げると言われた通りその場で待ち続け、真っ黒な服装で太陽の光を吸収し続け数分後。


「ほれ、ここに行けば会えるらしいぞ」

 一枚の紙切れを持って現れた勇治は、サンダル特有の音を立てながら忍者達の下まで歩いてくると、その紙切れを三人に渡す。


「ほうほう」

「ふむふむ」

「どこかで聞いた地名でござるな」


 その紙切れには、都心のとある住所が書かれており、勇治曰くユウヒは現在そこに居るのだと言う。どこか丸みのある文字は、明らかに男臭い風貌の勇治が書いたものでは無く、明華が書いたものである。


「まぁ言ってみればいいさ、急いでんだろ?」

 住所を見ただけで尻込みし始める忍者達に苦笑を洩らした勇治は、とりあえず行ってみろと話しながら、ゴエンモが手に持つ異常に頑丈そうなジュラルミンケースに目を向けた。


「行ってみんべ」

「・・・そうでござるな」


 勇治の言葉に、アイコンタクトで話し合った忍者達は、とりあえず書かれた住所に行ってみることにした様だ。頷くジライダに、なぜか階数や部屋番号まで書かれたメモに首を傾げながら懐に仕舞ったゴエンモは、手に持った荷物を持ち直すと頷き返す。


「あ、これどうぞ皆さんで食べてください」

 ジライダとゴエンモが方角を確認している中、まったく話に付いて行けないヒゾウは、持ってきていたお土産のお菓子を取り出して勇治へと丁寧に渡す。


「お、わりぃなあ・・・自衛隊せんべい? ってもういねぇよ」

 勇治が受け取ったのは自衛隊せんべいと言うもので、自衛隊の主力兵器などが焼き印されたせんべいで、一番日持ちがするお土産であった。そのよく解らないお土産センスに思わず首を傾げた勇治であるが、顔を上げた時には姿の見当たらなくなっていた忍者達に目を見開くと、楽しそうな笑みを浮かべながら踵を返した。





 ユウヒへの質問時間が終わり、具体的なドーム対策について議論が交わされていた室内では、結論が出たのか会議の内容がまとめられていた。


「では、ドーム縮小計画は夕陽君の結果が出るまで一時凍結。少なくとも熱量攻撃による方法は一切禁止とする」

 現在日本で進められているドーム縮小計画は、各国で行われている熱量負荷を基本的には行わず、最終手段として用意されていたのだが、今回ユウヒの齎した情報によりその一切が禁止となった様だ。一部しかめっ面を浮かべる人間も居るが、ほとんどの者は理解を示す様に頷いている。


「次に、ドームの向こうとの外交交渉は、夕陽君が調査と安全確認を済ませたドーム内の正式な安全確認が終わり次第順次行っていく」

 現在ユウヒが行っている調査と実験が成功した場合、ドームの縮小は一気に進む。その為、一時的に政府のドーム対策が凍結された一方で、不安要素が多いことで遅々として進んでいなかった異世界との外交交渉は、ユウヒが安全確認を済ませたドームで進められることが決まった。


「安全確認の部隊は再編制しますか?」


「今展開している部隊から用意させるつもりだ」

 しかし、そこは一般人のユウヒが確認しただけであり、国としては様々な調査がまだ必要であるとし、現在アーケード街のドームに展開している自衛隊の部隊から人間が派遣される様だ。


「調査用ドームの方は継続ですか?」


「あっちはあっちで少し問題が起きているからな」

 一方、遭難者が居ない事と東京から近いこともあって調査拠点となっているドームでは問題が発生している様で、その問題も含めた調査と交流は継続して行われるらしい。そんな話に耳を傾けながらユウヒは静かにお茶を口にしながら、口をもごもごと動かしている。どうやらお昼の弁当が歯に詰まって気になっている様だ。


「謎の体調不良でしたね」


「ああ、その影響で資源調査は少し様子を見る必要がありそうだ」


「わかりました。どのみち焦りすぎた感がありましたから」

 我関せずと言った様子のユウヒに、一部の人間が面白くなさそうな顔をする中、会議で決まったことのまとめは終わった様で、いつの間にか情報のすり合わせなど周囲では小さな声による話し声が聞こえ始める。


「隣国のドームがまさかそのような状態だったとは、早々に派遣員を戻した方が良いですね」

 ある者は、ユウヒの齎した情報によって判明した核攻撃後のドームの状態について話している様で。数人の男性が険しい表情を突き合わせている。


「本当かどうかわからんがな」

 学者特有の空気を纏う男性達が険しい表情を突き合わせる姿に、糊が効いてパリッとしたスーツを着た男性は、ちらりとお茶を飲むユウヒに目を向け、その話はとても信じられないといった様子で吐き捨てる様にに呟く。


「・・・それでは会議は終了とします。次の会議までに気になることがあれば纏めておいてください。補佐官の方は詳しく伝えておいてください」

 総理の隣で会議室全体を見渡していた男性は、騒がしくなり始めた全体に聞こえる様に声を張ると、会議の終了を告げた。立ち上がり終了を告げたのは、現在の官房長官であり、彼の言葉によって会議室に詰めていた人々はそれぞれに立ち上がり退出していく。


「・・・」


「はぁ・・・」

 会議室に複数ある扉から人が出ていく姿を見渡していた総理は、視界の端で、動く気の無さそうなユウヒを捉えると、疲れた様にため息を漏らす彼に思わず苦笑を浮かべる。突然呼び出したことを少なからず申し訳なく思っている総理は、徐に立ち上がるとゆっくりとした歩調でユウヒに近づく。


「夕陽君、今回はすまなかったね」


「え? あ、いえ・・・」

 ユウヒは、会社に勤めていた頃会議で使っていたパイプ椅子と違う、妙に座り心地の良い椅子に体を預けており、不意に名前を呼ばれるとずり落ちそうになる体を慌てて持ち上げ、いつの間にか近くまでやって来ていた日本国現総理大臣を見上げ、ぎこちない返事を返す。


「緊張しなくていいぞ? 別に変なことしなけりゃ捕まったりしないから気軽に話せ」


「変な事・・・」

 返事を返しながら椅子から立ち上がったユウヒは、妙に見詰めて来る総理の視線に居心地悪そうに後ずさる。どうやら自分と全く住む世界が違う相手に対して、どう対応したらいいものか分からないらしく、異世界で王様と対面した時より緊張を感じている様だ。


 そんなユウヒに、ニヤニヤと面白そうな表情を浮かべて近づいて来た石木は、気軽に話してくれて構わないと、ユウヒの緊張をほぐす様に声をかけるも、変な事と言うワードでユウヒの脳裏には両親の姿が過り、あれは良いのだろうかと首を傾げる。石木と知り合いとは言え、個室料亭での出来事は気軽の範囲を超えていた気がしてならないユウヒ。


「お前の両親の場合は止められんからあきらめている」

 ユウヒが何を考えているのか察した石木は、少し背中を丸めながら息を吐くと、ユウヒの考えていた通りの人物については、すでに匙が投げられた後だと語るのであった。


「そうですね。それにお二人には返せないほどの恩もありますし」

 もうどうする事も出来ないので対応を放棄された二人であるが、しかしそこには明華と勇治が傍若無人な他に、大きな恩がある故に許されているのだと話す総理。その表情はどこか懐かしそうな表情で、彼の後ろに立つ官房長官も似たような表情である。


「恩?」


「すまんが機密でな」

 ユウヒにとって雲の上の人たちが、自分の両親に大きな恩を感じているというのが、どうにもしっくり来ていない様で、きょとんとした表情で呟くと彼は石木に目を向けた。しかし何があったかユウヒに聞かせることは出来ないらしく、石木は申し訳なさそうな笑みを浮かべる。


「そうですか・・・・・・?」


「どうした?」

 少し残念そうに眉を寄せたユウヒであるが、しかし別にそれほど知りたいとも思っていなかったようで、すぐに表情をいつもの気怠げなものに戻すのだが、何かあったのか急に眼をすっと細めた。急に変わったユウヒの空気に、石木はいぶかしげな表情で問いかける。


「ご家族にも話せないのですよ」

 ユウヒの空気の変化に、両親の事についてであるにも関わらず知ることが出来ないことに対する怒りか何かだと思った総理は、申し訳なさそうにユウヒへ語り掛けるも、彼の空気がそういった類のものではないことに気が付いた石木は、総理を守るようなポジションに動く。


「・・・おい、何か―――」

 ユウヒが纏っている空気が、戦場に身を置く兵士の様なものであることに気が付いた石木は、何か起きているのかと彼に声をかけようとするも、その瞬間素早い動きで後ろを振り返ったユウヒに言葉を飲み込む。


「そこだ! 【ショック】!」

 シャツの裾をはためかせながら、後ろを振り向きざまに手を大きく振りぬき翳したユウヒが気迫の籠った声を放つと、同時にその手から周囲を明るく照らす紫電が放たれる。


「「「ギャーー!?」」」


 何も見当たらない空間へと放たれたユウヒの魔法は、見えない何かを追いかける様に不規則な軌道で伸びて行き、馬鹿三人に痛烈な一撃を見舞う。


「「「!?」」」


 目の前で起こった現象と、その現象の結果何もなかった空間から真っ黒な何かが現れ、床に落下する光景に目を見開いた石木と総理と官房長官の三人。彼らは突然姿を現した何かが人であることを認識すると、突然の暴挙に出たユウヒとその黒い人間達の間で視線を彷徨わせる。


「ぐふっ・・・なぜ、いつも、わかる」

「・・・ほんと死ぬから、普通の人なら死んでるから」

「・・・だから、忍び込むのはやめようと、あれほど・・・ござ」


 明らかに相手が誰であるか解っていながら、何の躊躇もなく攻撃したユウヒに、とある傭兵の姿が重なって見えて思わず閉口してしまう大臣たちを前に、痛烈な一撃を受け床に這いつくばる三つの影は、のろのろと身を起こしながら口々に不平不満を洩らし始めた。


「・・・なんだゴキブリか」


「誰が見ただけで嫌悪感抱くようなカラーリングだ!」

 そんな知り合いの姿に、彼らの前で仁王立ちしていたユウヒは、じっくり彼らを眺めた後冷めた声で呟く。そのあまりにひどい言われ方に勢いよく起き上がったヒゾウは、痺れる体にも関わらず思いっきりツッコミを入れる。


「「「・・・」」」


 その動きからは特に大きなダメージは感じられず、その事に三人の大臣はまたも目を見開く。それほどにユウヒの手から放たれた紫電は強力なものに見えた様で、事実普通の人間なら心停止しかねない一撃なのである。


「何しに来たの?」

 しかし、少し痺れて動きがぎこちなくはあるものの、特に怪我らしい怪我の見当たらない三人の忍者は、服に付いたほこりを払いながら起き上がり、ユウヒのやる気なさげな問いかけに顔を上げる。


「お前ら何時から・・・」


「先ほどからでござる。丁度良く扉が開いたので入らせてもらったでござるよ」

 精神的衝撃から立ち直った石木は、見覚えのある黒頭巾の三人が、実際に彼の知っている忍者三人であることを確認すると、いつの間に会議室に入っていたのか問いかけ、ゴエンモは何でもないかのように答えた。どうやらこの三人は、会議の終了で扉が開いた瞬間に、姿を隠して室内に侵入した様である。


「石木さんもしかして彼らは、それに今のは・・・」


「あぁ、例の忍者の三人だ」

 悪びれる事無く、誇るわけでも無く自然体でユウヒに文句を洩らしながら歩いてくる忍者達に、総理は驚きでうまく出ない声で石木に問いかけた。彼らが石木のスカウトした忍者なのかと、その答えは当然イエスである。


「彼らが、全く存在に気が付きませんでした」


「影薄いってさ」


「んなこと誰も言ってねぇよ! ・・・言って無いよね?」

 頷いて見せる石木に、官房長官の男性は忍者達を見詰めながら、全く何もない空間から突然現れた事に心底驚き、同時にその存在に勘づいたユウヒに驚きを覚えた様だ。しかしそんな驚きを覚えた人物からは、先ほどまで感じていた威圧感は感じられず、その事が余計に畏怖となって大臣たちの心を振るわせる。


「あっと、夕陽ちょっといいか?」


「はい?」


「今のが魔法か?」

 しかし、彼等にはそんな畏怖よりも重要なことを確認する必要があった。


「・・・そんなキラキラした目で見詰められましても、まぁそうですけど」


「「ほほう!」」

 それは今ユウヒの手から出た紫電が魔法であるか否かである。科学的に再現しようと思えばできなくは無いであろうが、今見せられた光景は正しく魔法であり、頷くユウヒに大臣たちは目を輝かせた。その目な輝きは大人が有用なものに対して輝かせる光ではなく、少年が夢見る様な純粋な輝きである。


「確かに分かり易く魔法してたな」

「電撃が迸ってくるくせに指向性高すぎだからな」


 目で見て明らかに魔法であると分かり易い光景であったことも、彼らの瞳を輝かせた理由の一つであり、音は小さくとも光は盛大に広がっていき、しかし確実に対象を射貫く一撃は幻想そのものであった。


「・・・それで? ほんと何しに来たの?」

 良い大人が目を輝かせる姿に少し誰かを思い出したユウヒは、何とも言えない表情でため息を洩らすと、まだ文句を洩らしている三忍に向き直って何の為に忍び込んで来たのか問いかける。


「我々の方針はいつでも初志貫徹だ!」

「要は、拙者等じゃわからない物が出て来たのでユウヒ殿を頼りに来たでござる」


「わからないもの?」

 ユウヒの問いに、ジライダは何故か自信満々に胸を逸らし、ゴエンモがユウヒに調べてほしいものがあって尋ねたと、手に負えない事態なので助けてほしいと話す。


「おう、この危険物をちょっち調べておくれよ」

 ゴエンモの言葉にユウヒが首を傾げていると、ゴエンモの手からアタッシュケースを引っ手繰ったヒゾウは片膝を付きながらユウヒの前でアタッシュケースを開き、その中に治められた拳大の黒く僅かに光沢のある石をユウヒに見せる。


「え、危険なの? ・・・ん、んー?」

 危険物と言う発言にびくりと肩を振るわせたユウヒであるが、すぐに右目を瞬かせると石炭にも見える石を見詰め始めた。


「ん? おま!? そりゃまさか意識不明者の原因って言う!」


「近づかなければ大丈夫だ、問題ない」


「フラグかよ・・・」

 ユウヒ越しでよく見えないアタッシュケースを覗き込んだ石木は、その中に納められたものに見覚えがあったらしく、慌てて後ずさって総理と官房長官を下がらせる。ここまで来ると秘書官達も大臣たちの異常事態に気が付きはじめ近寄って来るが、石木のアイコンタクトで皆一様に動きを止める。


「お、おい夕陽」

 周囲で秘書官や警備が様子を伺う中、ゆっくりとユウヒに近づき、黒い石から離れる様に伝えようとした石木、


「んー・・・ほうほう」

 しかし彼がユウヒに注意するより早く、彼は目の前の黒い石を手に取り様々な方向から石を見詰める。その不用意な行動に顔を蒼くして心配する石木を他所に、ユウヒは数分前に見た石木達の様に目を輝かせ、石炭の様な石を見詰め興味深そうな声を洩らし始めた。


「自衛隊のみんながさ、これ持ったり近づくと倒れっちまうんだよ」

「魔力っぽい感じはするでござるが・・・これが何だか解るでござるか?」


 黒い石を手に持ちじっと見詰めるユウヒに、ジライダは何が起きたのか話し、その説明に石木は頭を抱えため息を洩らす。またゴエンモが調べた結果、魔力の気配を感じるらしく、その説明にユウヒは頷いて見せる。


「いいもの持って来たな」


「「「いいもの?」」」


 軽くユウヒが調べた結果、この黒い石は魔力が関係した物質であるらしく、同時にユウヒにとって有用なものであったようだ。妙に機嫌がいいユウヒの笑みを見詰めた三人は、いいものであると言う発言に心底不思議そうに首を傾げる。それも当然であろう、なにせ彼らにとっては病原体と言ってもいい謎の物体であり、そんな物がいいものだと言われても納得できない様だ。


「・・・やっぱ赤狐似だな」


「面白くなってきましたね」


「ですね」

 首を傾げ合う忍者達を後目に、手に持った黒い石を金と青の瞳で見詰めるユウヒは、その顔から気怠げな表情を消して満面の笑みを浮かべている。その表情は彼が合成に精を出すときの笑みであり、同時に彼の母親が見せる表情ともよく似ていた様だ。


 忍者とユウヒを政府関係者や警備の人間が遠巻きから見詰める中、面白くなると話す三人の大臣は、同時に大変なことになりそうな予感も感じ、しかし変わらず楽しそうな笑みを浮かべるのであった。



 いかがでしたでしょうか?


 日本の方針決定に多大な影響を与えたユウヒ、その認識が薄いユウヒが、また何やらやらかしそうな雰囲気を出しているようです。何をやらかすのかこの先もお楽しみに。


 それではこの辺で、またここでお会いしましょう。さようならー

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