第百二十九話 暇人呼び出しを受ける
加筆修正書き直し・・・完了しましたので投稿させてもらいます。楽しく読んでもらえたら幸いです。
『暇人呼び出しを受ける』
ユウヒの与り知らぬところで彼に直接関わるうわさがされ、実家の財政がさらなる潤いを求めて蠢いている頃、ユウヒは相も変わらず自衛隊の簡易施設の一室に保護されている。
「今日も検査終わったなぁ・・・いつまでここに居たらいんだろな」
「検査結果が出るまでじゃね?」
感染症などの問題が無いという結果が出るまで、外界との接触を極力減らすという決まりは、ドーム発生直後に出来た法令に記載されており、一部大怪我を負った救助者以外一様に自衛隊等の簡易施設で保護される決まりとなっていた。
「むぅ・・・外への連絡もダメとか、スマホでゲームも出来ねぇしさぁ」
ユウヒが異世界でちょっと救世主になっている間にも、ドームからの生還者はそれなりに現れており、総じて保護されている間の愚痴はクマがつぶやいている内容と変わらない。
「使用履歴から色々洩れるのを気にしてるそうだ」
「ほうほう、昔はザルと言われた日本が成長したもんだねぇ」
スマホ一つ触らせてもらえない理由には、スマホの利用履歴やGPSの記録から救助者の情報が洩れる可能性を危惧したものであるらしく、その徹底した保護措置にクマは感心半分嫌味半分と言った声で呟き肩を竦める。
「散々やらかしてるからな、今でも大して変わらないけど、流石に自衛隊まで来るとやる事やってるってことじゃないか?」
実際これらの決まりが出来た背景にはそれなりの失敗が積み上げられているのだ。大半が意識の緩い国の組織が、軽い気持ちでとった行動が火種になっており、日ごろから厳しい訓練や想定を行っている自衛隊は、多少の差異はあれどそれなりに節度を持って行動できている様だ。
ただそれでもどこかで綻びが出てしまうので、その為に彼らは相互に監視する環境が作られている。最近は特に、某所で忍者がやらかしそうになる度に、女性自衛官が冷たい眼差しや声で注意する事が増えている様だ。
「それで俺は暇を持て余すと・・・テレビも同じことばっかだし」
「どの局も内容が変わらんな」
そんな一部の特異な例は別として、ユウヒ達が保護されている施設はしっかりと教育がなされているのか、クマは心底暇そうな表情で一方的に垂れ流されるテレビを眺め、その内容に飽き飽きとした声を漏らす。
「微妙に百八十度違う事言ってる局もあるが、なんでみんなして同じことしかやんないのか、いつも変わらずアニメ流す局を見習えと」
「そこ見習うのかよ、まぁありがたいけどな・・・ふむ」
現在彼らが眺めるテレビは、どの局に変えても大抵が中国の核兵器使用に関する話題ばかりで、代り映えしない同じ内容の繰り返しに飽きた二人の暇つぶしは、数少ない平常運転を続ける局のアニメやバラエティーだけである。
クマの呟きに苦笑を洩らしたユウヒも、安全な保護と言う名の軟禁状態の現在より、まだ危険が近くにあっても魔力が自由に使えた異世界の方が良いなと、洩れ出そうになる不謹慎ともとれる感情を飲み込み、窓の外に浮かぶ白い雲を見上げた。
「しっかし核かぁ・・・どうなるのかね?」
「・・・あんまりよくない気がする」
椅子にだらしなく座ってテレビを眺めるクマは、視線の先から聞こえて来るテレビの内容に耳を傾けると、何となしに気だるげな声で問いかける。その声に、テレビをラジオの様に聞き流し、全身をベッドにあずけていたユウヒは、空をゆっくり流れて行く雲を見詰めたままの状態で、感じたままの返事を返す。
異世界から日本に帰って来たユウヒは、傍から見ていつもと特に様子が違うと言った印象は無い。しかし日本に戻って来てからずっと、彼は微かな胸騒ぎを感じていた。
「マジか、何が起きるんだ?」
「さぁ? ただまぁ海外旅行は控えた方が良いかな」
当初その胸騒ぎは、中国の核兵器使用を感じ取っていたのかと彼自身考えていた様であるが、今も変わらず存在する違和感に今以上の事態が起きそうで、その事がユウヒをどこか憂鬱な気分にしている様だ。
「海外任務入ってないと良いけど、この情勢じゃ先ず入れないと思うけど」
海外の事を考えると僅かに違和感が増すことから、ユウヒは日本に居た方がまだ安全だと感じて、クマの為にも海外は止めておけと呟く。その呟きに体を起こして真剣な表情を浮かべたクマは、仕事に復帰して早々に海外行きの仕事が入っていないだろうかと、少し不安そうな声を洩らす。
「母さん辺りが止めるでしょ」
「明華さん様様だな」
「言い辛いなそれ・・・」
不安そうなクマの声にベッドから体を引き剥がす様にして起き上がったユウヒは、大分長くなった髪の毛を撫で付けながら肩を竦めると、自分より圧倒的に勘が良い母が止めるだろうと軽い調子で呟く。彼の呟いたようなことが過去にもあったのか、納得した表情を浮かべるクマは、屈託のない笑みを浮かべて窓の外を拝むも、その語呂の悪い呼び方にユウヒは呆れた様に背中を丸める。
「失礼します。夕陽さん今よろしいでしょうか?」
「はい?」
何処までもゆったりと、そして怠惰な空気が充満する男子部屋で僅かな静寂が流れたのも束の間、扉を叩く音と共に男性自衛官がパリッとした空気と共に入室し、敬礼一つ見せてユウヒに呼びかけた。
その呼びかけに思わず声を洩らしキョトンとした表情を浮かべたユウヒに、クマはそっと視線を向けると、
「なにした?」
ほぼ確信をもって何か悪い事でもしたのかユウヒに問いかける。
「だから、なんで何かやった前提なんだよ」
日本に帰って来てからは大人しくしており、何かやった覚えもないユウヒは、流石に少し頭に来たのか強めの語調でクマに問い返す。
「え?」
「えぇ・・・」
しかし返って来たのは心底不思議そうな、何を言ってるんだとでも言いたげなクマの声であり、地味にショックを受けたらしいユウヒは細く長い声を洩らすと、いつも以上にやる気を感じない表情を項垂れさせるのであった。
「ははは・・・」
その後、乾いた笑いを洩らしてしまった自衛隊員が、ユウヒを連れ立ってその部屋から出るのに十分以上の時間を必要とする。尚、ユウヒが出て行った後の部屋にはクマが床に伏していたが、誰も助けに来ることは無かったそうだ。
一方、魔法により静寂が訪れた部屋の中で、クマが関節技のフルコースを味わって悲鳴を上げている頃、女子部屋では四人の美女美少女が、西日の伸び始めた部屋で思い思いに過ごしていた。
「ぐぬぬ・・・」
「ふふふ」
ベッドやテレビと言った内装は男子部屋と変わらぬものの、どこか全体的に小綺麗な印象のある部屋で、椅子に腰かけテレビに映し出されるワイドショーの様子を、いつもと変わらない笑みで見詰めるメロン。しかし、時折背後から妙なうめき声が聞こえるたびに、くすくすと声を出して笑っている。
「・・・」
「ぬぬぬ」
メロンの笑い声に、窓の外を眺めていた流華は振り返ると、呻き声の発生源に目を向けじっと見つめる。呻き声を発する人物を見詰めていた流華は、どこかホッとした様な表情を浮かべ、そんな表情をメロンに向けると彼女はまたもくすくすと笑い声を洩らす。
「・・・まったくうっさいわねぇ、暇なのはわかるけどもう少し落ち着きなさいよ」
「しかしだな、こうじっとしているとなんだか気持ち悪いんだ」
キョトンとした流華と可笑しそうに笑うメロンが見つめ合う姿を、ベッドの上に寝転んだ姿勢で眺めていたリンゴは、その視線を呻き声の主へと向けると、どこか可哀そうな者を見る様な目で煩いと注意する。
リンゴに注意された呻き声の主であるパフェは、うろうろと歩き回っていた足を止めると少し申し訳なさそうな表情で振り返り、気持ち悪いと言って溜息と同時に肩を落とす。
「散歩でもする?」
傍から見れば行動的で好印象に見られがちなパフェであるが、実際はただ単にじっとしているのが苦手なだけである。そんな彼女のストレス軽減に散歩へと誘うメロンであるが、流華の立っている窓の外に目を向けたパフェは少し考えこむ。
「むぅ・・・暑そうだな」
「贅沢か!」
しばし考え口を開いたかと思うと、彼女は暑そうだと言って西日の差し込む窓辺から後退る。そのどこか矛盾する言動に、ベッドにうつぶせで寛いでいたリンゴは、思わず勢いよく起き上がりツッコミを入れるのであった。
「だって、むこうとこっちじゃ暑さの質が違うから・・・まだ慣れないのよ」
じっとしてるのは嫌だ、しかし散歩も暑そうなので嫌だとちょっとした我儘を見せるパフェ曰く、別に暑いから単純に嫌なのではなく、異世界の暑さに体が慣れてしまい、まだ日本の暑さに耐える準備が出来ていないのだと言う。
「そういえば、向こうは森ばかりだったのになんだか乾燥してましたよね」
「そういえばそうね、涼しいのはわかるけど、なんであんなに湿度が低かったのかしら?」
しゅんとした表情でベッドに腰掛けたパフェの言葉に、流華は思い出す様に部屋の天井を見上げ、確かに異世界も夏であったが、日本と違い湿度が低かったと、むしろ乾燥してるようにも感じたと呟く。
事実、彼女達が最近まで足を踏み入れていた異世界の森は不思議と湿度が低く、また夏と言っても日本の夏の様に気温は上がらない。言われてみれば確かに湿度が低かったと頷くメロンは、森の中なら湿度はある程度ありそうなものなのにと、今更ながらに不思議そうな声で呟く。
「異世界だからでしょ? 気になるならユウヒにでも聞いてみたら?」
「お兄ちゃんならわかるのかな」
不思議そうに見つめ合うメロンと流華であるが、とうの昔に夢見る少女じゃいられなくなったリンゴは、全て異世界と言う言葉で切って捨て、そんなに知りたければユウヒにでも聞いたらいいと肩を竦める。リンゴのどうでもよさそうな言葉に、少し目を見開いた流華は、兄のやる気を感じられない顔を思い浮かべると、何とも言えない微妙な表情で小首を傾げた。
「あの右目である程度はわかるらしいわよ?」
「金色の目だな! くぅ・・・羨ましい!」
ユウヒの金色に染まってしまった右目は、視界に入れたものの詳細を文章として視界に映し出す神の瞳である。ただ制御が大変で、漠然としたものを知ろうとしたり、あまりに詳しく知ろうとすると膨大な文章が視界を塞ぎ調べるどころではなくなってしまう。
そんな、人間が持つには少々過ぎた瞳を持つこととなったユウヒに、先ほどまでしょげていたパフェは元気よく反応し、キラキラした瞳で羨ましげな声を上げる。
「左目は青かったわよねぇ」
「青ってより藍っぽかったけどね、そっちは精霊とか魔法とか見れるらしいから、こっちでも精霊探すとか言ってたわね?」
また左の眼は深い青色で、こちらは主に魔力を視覚化したり、精霊とコミュニケーションをとるのに使われており、その辺の話をユウヒから聞いている、と言うより聞きだしていたリンゴは、呆れた表情を浮かべると嬉々としてユウヒが語っていた内容をみんなに話す。
「なぜだ、なぜユウヒばかり・・・」
気になる事はとりあえず調べ、未知との出会いに好奇心を擽られていたユウヒの表情を思い出し、どこか微笑まし気な笑みを浮かべるリンゴに、メロンが笑みを浮かべている中、つい先ほどまでキラキラとした目で元気が良かったはずのパフェは、向かいのベッドに手を突き心底納得いかない様子で項垂れていた。
「物欲センサーじゃない?」
「Oh no!」
欲すれば欲するほどに、欲した物が遠のいて行く現象を、一部の者は物欲センサーが働いたなどと呼ぶ。その言葉はクロモリオンライン内でもよく使われており、その意味を深く深く理解しているパフェは、呆れた口調のリンゴに心を抉られ思わず仰け反る。
「・・・(発音きれいだなぁ)」
「ふふふ」
仰け反る際に思わず口を突いて出たパフェの英語のイントネーションは、ネイティブと変わらぬもので、その綺麗な発音に流華は妙に感心した様で目を輝かせた。そんなどこか似たとこのある兄妹の姿に、メロンはやはり楽しそうな表情でくすくすと笑う。
「・・・あれ? お兄ちゃん」
変なところで感心する癖が兄と似ている妹は、メロンの微笑みに小首を傾げると、眩しい西日が差す窓の外に目を向ける。その日最後の輝きを見せる太陽が好きな彼女は、今日の見納めと窓辺に陣取っていた様であるが、その視界に兄の姿を捉えると真っ直ぐ兄だけを見詰めて呟く。
「なに!? どこだ」
「ほんとユウヒね、どこ行くのかしら?」
流華の呟きに勢い良く動いたのはベッドに腰かけていたパフェとリンゴ、彼女達は足音を立てながら窓辺に駆け寄ると、流華の背後から顔を出し、遠くを武装した自衛官と共に歩いているユウヒを見つけたリンゴは、不思議そうな顔で首を傾げる。
「ずるいぞユウヒ!」
彼女たちに割り当てられた部屋は擁壁の上にあり見晴らしがよく、階段で降りられる擁壁の下は道路に繋がる空き地となっていた。その空き地を歩き自衛隊の車両に乗り込もうとしているユウヒをようやく見つけたパフェは、一人だけ出かけようとしているユウヒに羨ましそうな声を上げながら、流華を後ろから抱きしめる。
「あ、こっち見たわよ? 手を振ってるわ、ふふふ」
三人は一つの窓に身を寄せユウヒを見ている様だが、この部屋に窓が一つと言うわけでは無い。仲良く一つの窓から外を見下ろす三人を微笑ましげに見ていたメロンは、すぐ隣の窓からユウヒを見下ろすと、急に振り返ってこちらに手を振って見せたユウヒに手を振り返し嬉しそうに笑う。
「あいつ、なんでこの距離で解るのかしら」
「お兄ちゃん、校舎の窓から外見ていても気が付いてくれますよ?」
「・・・外から?」
大きく手を振るユウヒと顔の横でひらひらと手を振るメロンを見比べたリンゴは、背後で大きく手を振るパフェの腕に当たらないように身を掻屈めると、近くは無い距離でこちらの存在に気が付いたユウヒに疑問の声を洩らす。
割と遠い距離で、しかも直近まで背中を見せていたユウヒが、振り返った直後に自分達に目を向け手を振ったことに疑問を持ったリンゴであるが、すぐ隣で首を傾げた流華はいつもこんなものだと話す。
「はい、学校の外からなんで・・・100メートル以上離れてるのかな?」
「どういう目をしてるのかしら・・・」
流華の学校へ忘れ物を届けに来たユウヒが、窓際で外を見ていた流華に気が付き学校の外から携帯に連絡することは良くある事で、毎回流華の居場所が違うにもかかわらず、連絡を入れながら的確に手を振って見せていたそうだ。
その距離は毎回流華の言う距離くらいは十分離れており、それが普通だと言う認識の不思議そうな顔の流華に、彼女の頭に顎を載せたリンゴは車に乗り込むユウヒの背中をジト目で見詰めた。
「お母さんは1キロ先の視線も解るそうです」
「ルカちゃんのお母さんは、何をやっている人なの?」
しかし、天野家にはユウヒ以上におかしな人が居る為、流華の認識が一般とずれているのはしょうがない事なのかもしれない。そんな可笑しな存在であるユウヒの母である明華は、実際一キロ先からの狙撃でも平気で気が付き避ける。
その事をぼやかして聞かされている流華の話に、メロンは珍しく引き攣った笑みを浮かべ問いかけるも、流華は両親が元々何の仕事をしていたか、あまり興味が無いため深く聞いたことが無い。
「さぁ? 海外に行って色々教える仕事だそうです」
『おしえる??』
その為、昔少しだけ聞いた話を思い出しながら首を傾げた流華の中で、明華は何かのインストラクターか何かではないかと言った認識の様である。
実は戦場で教官、または頭に鬼が付けられて呼ばれるような仕事であるのだが、それを知らない女性陣は、流華の言葉に首を傾げると様々な想像を膨らませるのであった。
一方その頃、鬼教官ことSランク傭兵『赤狐』である明華は、リビングテーブルの上に広げられたいくつものモニターの前で、何かに気が付いたのか急に動きを止めていた。
「・・・ダーリン」
「ん? どしたん? 俺これ以上モニター増やされたら手が回らんぞ? ・・・どしたの?」
ユウヒ以上に勘の良い明華である為、とある自衛隊の簡易施設で噂されたことに気が付いたのか、いつもの甘くふわふわした声とは違う冷たい声で夫に呼びかける。しかし、勇治がモニターの壁から顔を出して見た彼女の表情は、そんなレベルの表情ではなかった。
「遊びは終わり、お出かけの準備して」
「お出かけ? なんぞあったか?」
今彼女が浮かべている表情は、戦場の最前線に立っているかのような、研ぎ澄まされた刃を彷彿とさせる空気を纏っている。そのただ事ではない妻の立ち上がる姿を目で追った勇治は、心底不思議そうな表情を浮かべると、静かに歩き出す彼女の背中に何があったのか問いかけた。
「石ちゃんのとこ行きましょう」
『ダーリン愛してる』と刺繍されたエプロンを脱いだ明華は、そのエプロンを大事そうにハンガーにかけると、勇治に振り返って笑みを浮かべて魅せながら行先を告げる。
「は? なんでまた?」
「私に黙って変なことしようなんて、そうはいかないんだから!」
その妙に迫力のある魅惑的な笑みに色々な意味でドキッとした勇治は、彼女の告げた行先に首を傾げるも、直後彼女が怒りだしたことで、石木が秘密で何かやらかそうとしている事を察し、思わず何とも言えない表情で背中を丸めた。
「仕方ないなぁ・・・え? ちょとまてまて!? スパスはダメだって! 15はまだ整備中なんだから!」
呆れ顔を浮かべ丸まった背中を伸ばしながら立ち上がった勇治は、荒ぶる明華に付き合うため彼女に待ってくれと声をかけようとしたのだが、日の当たる窓辺から彼女が持ち上げた黒とミリタリーグリーンの物体を目にした瞬間慌てて駆け出す。
彼女が手に持ち、勇治が自ら出せる最速の動きで奪い取った物体とは、朝から勇治が整備していた銃である。それもただの銃ではなく、名前をSPAS-15と言い、その太い銃身からは散弾を連射可能であり、さらにボックスカートリッジにより素早く絶え間なく給弾が可能と言う凶悪な代物であった。
「一発撃てればいいのよ」
「誰に撃つんだよ!?」
抱きしめる様に銃を奪い取った勇治に、可愛らしく口を窄めて見せる明華であるが、その口から飛び出る内容にはどこも可愛いところは無い。誰に撃つ気か薄々気が付いていても聞かずにいられない勇治は、詰まらなさそうな顔の妻に冷や汗を流しながらも、使用できないように手早く銃を分解する。
「じゃあ12で我慢してあげる」
「いやいやどっちも変わんねぇよ、てか日本じゃどっちも目立ちすぎるからダメだって」
分解されていく銃を残念そうに見つめていた明華は、ばらした銃をテーブルに置いて溜息を洩らす勇治を見詰めると、両掌を指し出しながら別の銃を要求するが、彼女の言う12とは、SPAS-12と言う銃の事であり一発撃つだけなら性能はほぼ変わらない、SPAS-15の元となったショットガンである。
尚、どうでもいい事であるが、これらの銃は今では古い型に属し、もっと性能の良い銃はたくさんある。それでも勇治がこの使いこまれた銃を大事に使っている理由は、単に趣味の問題だけの様だ。
「えぇ~・・・じゃこれにしとくぅ」
「まぁそれくらいならいいか・・・ユウヒ、すまん」
明らかに危険物を所持して出掛けようとする二人の目的地は、当然ユウヒが居る場所である。どう転んでもユウヒの身に面倒事が降りかかりそうな現状であるが、まだこの頃のユウヒは、厄介者の接近に気が付いてはいないのであった。
いかがでしたでしょうか?
なにやらユウヒは一人、自衛隊施設から移動を開始した様です。厄介事の渦中に単身飛び込むユウヒはどうなるのか、また次回をお楽しみに。
それではこの辺で、またここでお会いしましょう。さようならー




