第百二十八話 巨大ドーム収縮
修正等完了しました。楽しんでもらえたら幸いです。
『巨大ドーム収縮』
その日、中国西部にある巨大なドーム上空で爆発的な光と膨大な熱量が膨れ上がり、周囲に衝撃波をまき散らした。
「現在政府は情報収集に奔走していますが、未だ電波障害や通信網の復旧が完了しない為、詳細は不明であるとの事です。続いて現在の各都市の状況を中継でお伝えします」
光は全部で三つ、それは破壊を振りまく核の光である。中国軍のドームに対する核攻撃に、日本は最大限の遺憾の意を伝えるも、現在の所それに対する返答は無く中国大使館も沈黙を守ったままである。
元々核使用の可能性を提示していたものの、まさか本当に使うとはどの国も思っていなかった。しかし作戦は前情報も無く断行される事となったようで、各国は非難の声を上げているが、とある二国はその影響力の割に発言が大人しいもので、その対応の温度差に周囲は首を傾げている。
「はい! こちらSL広場の渋谷です。街の様子はいつも通りの様ですが、道行く人は本当に核攻撃が行われたのか半信半疑と言った声が多い様です」
また、これは中国の軍関係者も首を傾げている事なのであるが、計三発の核が使われたにしては爆発の規模が小さく、またスクランブル発進した空自の調査機によってサンプリングされた空気から検出された放射性物質は極めて微量であった。
本来なら大量の放射性物質の飛散が予想されていたのだが、日本各地に緊急避難が発令された割には二日ほど経過した現在、日本に住む人々への影響は極めて小さい。今では誤報だったのではないかと言う意見も増えてきているほどだ。
「どう思いますか?」
「どうって・・・あれじゃないか? 新型の核兵器開発してて、その実験も兼ねてたんじゃないですかね?」
報道各局もこの報道に関しては消極的な対応が多い様で、一部のテレビを除いてはすぐに消極化しそうな状況である。
「こう言った声がりますが、実際の所どうなのでしょうか?」
「そうですね、効率の良い核反応を実現したとするなら脅威ですが、政府が情報を隠している可能性の方が高い気がしますね」
「なるほど」
「いや! 今回の攻撃対象はドームだったと言う話もあります。この場合ドームが核に対して見せる振る舞いの方にこそ関心を示すべきだ!」
「しかし、専門家であるあなたでもよく解らないものの事を考えるより、先ずは責任ある対応をとれない政府を問題視する方が先ではないでしょうか?」
現在最も報道がされているこの局でもこの程度であり、中国の行動よりも日本政府や与党の対応の遅さを批判している状況であった。むしろ今回の騒動に関してはネットの掲示板の方が、盛んに意見交換がなされているであろう。
【これは始まりの】真・ドームについて調べるクロモリプレイヤーの会【火である2】49スレまとめより
801:名無しの黒い調査員@転載禁止
そろそろこのスレも終わりそうだが、結論としてどうなの? 実験なの? それとも前に話していた核でドームが消滅するって話はマジもんだったのか?教えてエロい人
812:名無しの黒い調査員@転載禁止
数日前から例のドームの避難範囲が広がったって話があったから暴走ではないだろ、実験的な話もあるんだろうけど核心に足る情報でもあったんだろ
818:名無しの黒い調査員@転載禁止
核心と確信どっちでもいいけどね、でもそれなら何で声明出さないんだろか? 正確な結果待ちなのか、向こうも情報に不安があるのかね?
820:名無しの黒い調査員@転載禁止
やっぱ核爆発に合わせて核心だろと、実際まだ砂ぼこりとかでドームが確認できないだけだろ? そろそろアメさんの衛星写真出るだろ
822:名無しの黒い調査員@転載禁止
スパイ衛星さん待ちだな、日本の自称専門家も真面な話できてないしな、テレビもいつの間にか政府批判番組に変わってるし詰まらん
824:名無しの黒い調査員@転載禁止
822>テレビに期待しすぎだろ、やっぱここは自衛隊観察だな、今日何回目の発進かな? スクランブル待機ご苦労様です
910:名無しの黒い調査員@転載禁止
そろそろ次スレ立てれ
912:名無しの黒い調査員@転載禁止
次スレまだっぽいからここに貼っとくけど中国のドーム小さくなってるみたい
914:名無しの黒い調査員@転載禁止
うお、またグロかよ俺はだまされないぞ! どこのスパイ衛星だよマジで小さくなってんじゃね? 最近はちっぱいが流行なの? 大きいのはだめなの?
920:名無しの黒い調査員@転載禁止
続報はまだか! どのくらいの速度で小さくなってるんだ!
965:名無しの黒い調査員@転載禁止
次スレ立てたよ、続報まだだけど今のうちに次スレ移るべ
966:名無しの黒い調査員@転載禁止
はーい
967:名無しの黒い調査員@転載禁止
はーい、おやつはいくらまで?
970:名無しの黒い調査員@転載禁止
ここの調査員ほんと素直だよな、あとバナナはおやつだろ異論は認める!
燃料の再投入が繰り返され、掲示板の更新速度が加速度的に上がっている一方で、とある政治家の仕事部屋では、一仕事終えた後の草臥れた様な空気が流れていた。
「非難でよかったんじゃねぇか?」
「個人的には最大に非難したいところですが、同調を求められてはね」
その部屋に集まっていたのは日本の総理大臣を筆頭に、以前も集まっていた三人である。お茶の置かれた机を囲み深く椅子に座る彼らの中で最初に口を開いたのは、防衛大臣である石木であった。
しばらく続いていた静寂から脈絡なく問われた総理は、しかし何を聞いているのか分かっているらしく困った様に笑う。彼らが話している内容は、同席している官房長官が報道陣の前で告げた内容であり、それは中国の核使用に対するものである。
「何か裏がありそうですよね」
「まったく裏でこそこそするのが好きだな」
現在テレビで弱腰外交などと呼ばれる原因となった緊急会見と定例会見、二度行われた会見のどちらでも日本は中国に対して遺憾の意を伝えていた。しかし遺憾の意と言うのは核兵器を使用した中国に対してあまりに弱腰であると言うのが、報道各社の意見であるらしい。
実際問題、内陸部のしかもドーム上空で核爆弾を使用したならば、その被害は周辺各国に波及するであろうことからも、総理はもっと強い対応である『非難』の言葉を使いたかったようだ。そんな予定を立てていた彼だが、何者かの要求により会見時の言葉を変えざるを得なかったようである。
「石木さん、何か楽しい話はないですかね?」
「なんだよ藪から棒に」
石木の言葉を聞き同意する様に頷いて見せた総理は、小さくため息を洩らして虚空を見詰めたかと思うと、突然面白い話を要求し始めた。その要求には石木も驚いたようで、脈絡なく求められた内容に眉を寄せると、官房長官と目を合わせて首を傾げる。
「ストレスで胃に穴が開きそうなんで、少しは楽しいこと聞いておこうかと」
二対の視線に晒された総理は、自分の言った言葉であるにも関わらず、妙な事を言ってしまったと苦笑いを浮かべながら、ストレスの軽減になりそうな楽しい話を聞きたいのだという。総理と言う精神的に大変な職に就けるだけの能力があっても、ストレスの蓄積には悩まされるものの様だ。
「なんだそれ、こっちも忙しくて来季アニメのチェックすら出来てないんだぞ」
「来季ですかぁ・・・今期はほのぼの系が少なかったからあまり見てないんですよね」
真面目な話からの落差に肩を落とした石木は、革張りのソファーに背中を預けると、大きなため息交じりの声を洩らし、頭を乱雑に掻きながら自分だってアニメのチェックが出来ていないと話す。
総理の妙な発言により空気が一気に緩んだことで、休憩ムードに変わってしまった部屋の雰囲気は元に戻ることなく。官房長官も背凭れに体重を預けてアニメの話を始めてしまい、来期のアニメに期待しながら今期の不作に悩まし気な溜息を洩らしている。
「今期も全部見れてねぇよ」
「何でもかんでも見るからですよ、厳選しないと」
国のトップまでもがすっかりサブカルに毒された日本に一抹の不安も覚えるが、しかし切迫した状況でもそういった余裕を持てるのは、ある意味良いことなのかもしれない。ちなみに石木はとりあえずすべてのアニメを録画してみるタイプで、官房長官は自分の趣味に合うものをリサーチして厳選するタイプの様だ。
「厳選ねぇ・・・あ、そういえば」
「何かオススメでも思い出しましたか?」
やれやれと困った表情を浮かべる官房長官に、ジト目を浮かべた石木は眉を寄せて考え込むと、何か思い出したのか目を開き、背凭れから勢いを付けて体を起こす。その動きに、総理はキラリと目を輝かせると明るい笑みを浮かべる。どうやら自然とそんな表情出るほどに、彼は癒しを求めている様だ。
「ちげぇよ、例の息子が帰って来たらしい、全員救助してな」
「・・・私は聞いてないですが、いつの話しですか?」
「今日ですか?」
しかし石木が思い出したのは別に面白いアニメの事ではなく、例の息子ことユウヒが、要救助者を連れて異世界から帰ってきたという報告であった。その話を初めて聞いた総理は、思わず官房長官に目を向けるも首を横に振られ、唯一情報を知っている石木を見詰めた二人は彼に問いかける。
「二日前の夜だ。今は健康診断を受けてもらってっから、外に情報は出てないはずだ」
「そうですか、何か面白い話が聞ければいいのですが」
ドームに関する調査は日夜進められているものの、それは直接ドームをどうにか出来るような内容ではなく、ドームがどういった性質を持っているのかの調査でしかなかった。未だ未帰還者が多数いる中で、現れたのがユウヒである。自らの独力のみで異世界から帰還し、さらに今回はドームに迷い込んだ複数の人間を救助してきたという。
それだけの事をやってのけている時点で、すでにユウヒは異世界探索のエキスパートとして見られている。さらには限られた者しか知らないながらも、知るものなら皆その偉業に一目置く男女の息子ともなれば、石木の目の前で明るい笑みを浮かべる二人の様に期待せざるを得ない。
まぁ、総理に関しては半分くらい癒しを求めて居そうではあるが、この男はサブカルチャーでもファンタジーが好きなタイプなのである。
「この後、直接話すのに少し時間調整が必要でな、ちと忙しいんだよ」
「それは面白い話しより優先ですね。よろしくお願いします」
官房長官と一緒に総理をジト目で見詰めていた石木は、どうやらユウヒと実際に会って話しをするつもりでいるらしく、そのための調整であまり時間が無いのだと話す。その話には、総理も先ほどまで浮かべていた素の表情を仕事用のものに切り替え、石木を激励する。
「はぁ・・・気が重いよ、赤狐は良いけど黒いのがなぁ」
「おや? 普段聞く話と逆ですね」
総理の激励に一つ頷いた石木であるが、頷くと同時にため息を洩らした。実は、ユウヒとの接触に関する時間調整作業は、細心の注意を払い秘密裏に行われている。その最たる理由は彼の両親であり、今回は特に黒鬼こと父である勇治にユウヒ達の帰還が感付かれない様進められていた。
普段であれば、ユウヒの事になると容赦と言う言葉を捨て去る母親の明華に注意し、勇治はストッパーとして重宝されるらしいのだが、今回に限り彼にストッパーとしての期待は出来ないようだ。
「娘に会いたいんだとさ、赤狐が居なかったら今頃異世界に突入してるぜ」
「それは、仕方ないですね」
「・・・そうですね」
何故なら現在、容赦や常識を捨てているのは勇治であり、珍しく明華の方がストッパー? になっているからである。普段は理性的な勇治も、目に入れても痛くない娘の長期失踪は、彼の理性を弱体化させるのに十分な効果があった様だ。
そんな話を聞いた二人は、互いに目を合わせ考え込むと首を横に振って仕方ないと話す。どうやらこの二人にも勇治同様、目に入れても痛く無い娘がいる様で、
「・・・」
そんな二人の親馬鹿が見せる表情に、石木は何とも言えない表情で空を仰ぐと、小さくため息を吐く。その後席を立った石木は、親馬鹿二人から勇治に情報が漏れないか少し不安になった様で、二人の行動に注意するよう秘書へ伝えるのであった。
一方その頃、国のトップ二人が噂し勝手に親近感を抱いている黒鬼ことユウヒの父である勇治は、まだユウヒが流華を連れて帰って来てるなど知らずに、日の光がよく当たるリビングの窓際に大人しく座っている。
「わぁすっごーい! ダーリン見て見てぇ」
「んーどうした? 俺は早く流華に会いたいんだが・・・あぁすげぇな」
しかし、大きく楽しげな声で明華に呼びかけられ振り返った彼の手には、黒光りする鉄の塊が握られており、妻の監視が無ければ今すぐにでもフルアーマー状態で飛び出す準備は万全の様だ。
そんな彼は、床に敷かれた耐火シートの上に持っていたパーツを置くと、手招きする明華の操作するノートPCを覗き込み、そこに表示されている折れ線グラフの急降下を見ると少し驚いた様に目を見開く。
「政府の弱腰姿勢が原因なんですってぇ」
「はっは! うそだぁ」
二人が見ているのは株価の状況を示すグラフであり、明華が趣味で行っている株取引の為のウェブサイトである。その隣には株関連のニュースサイトのウィンドが開かれ、株価下落の原因がいくつも書かれていた。しかしそこに書かれている内容は、二人にとって見当違いの内容な様だ。
「そうよねぇ、ドーム縮小発表が出た瞬間だもの、煽る連中もまさかここまで下がると思ってなかったでしょうけど」
ニュースサイト曰く、日本関連株の急激な下落の原因は、中国への弱腰な対応を見せた政府に原因があり、一部では弱腰な対応を見せる現政権は即刻退陣すべきと言う見出しまで書かれている。
しかし二人の見解は別な様で、実際に株価が急激な反応を見せたのは政府会見時ではなく、その後に行われた中国のとある発表直後のようだ。
「・・・でも不味いわねぇ」
その発表とは、核兵器の攻撃を受けたドームを包んでいた砂煙が晴れ、ドームが実際に縮小していると確認されたことで、大々的に作戦の成功を祝うものであり、さらに中国はドームの被害に苦しむ国に手を差し伸べる準備があると言うものであった。
その結果、現在中国と険悪な国の一つである日本株が下がる要因となった様で、さらにそこを煽る人間も居るのだと話す明華は、ニコニコとした笑みを急に消すと目を細めながら不味いと呟く。
「まずい? 全部売っておいただろ? 何か売り残しでもあったか?」
「そっちじゃなくてぇ、第二第三くらいは覚悟しないとねぇ」
明華の呟きにきょとんとした表情を浮かべる勇治に、クスリと笑った彼女はいつもと変わらぬニコニコとした表情を浮かべると、指でコツコツとノートPCの画面を突きながらそう話す。そんな彼女の楽しそうな表情と、彼女が突く場所に映された膨大な熱量を振りまく爆発の画像を見比べた勇治は、ジワリと顔を蒼くする。
「マジかぁ、・・・はっ! こりゃ流華をさっさと連れ戻さないとな!」
「はいはーい「ぐえっ!?」そっちはいいの♪」
第二第三とは、どうやら核兵器の使用に関する事の様で、まだまだ荒れそうな時世にうんざりした表情を浮かべる勇治であったが、はっと顔を上げると目を輝かせて踵を返す。どうやら今の会話を口実に、流華を迎えに行くつもりの様であるが、しかし彼の行動は、残像を残すような勢いで動かされた明華の手により、即座に封殺される。
「良くないだろ! 核だぞ? 新型なんて話は無いし、不良品廃棄も一緒にやったって話だぞ?」
「ほんとは4発だったってやつねぇ」
襟首を掴まれた事で咽る勇治は、何やらニュースに出ていない内容まで知っている様で、その事もあって余計に流華を心配していたらしい。窓際で危険物の整備なんてやっていたのも、流華を心配する自分を落ち着かせるための行動で、三つの爆発が映された画像を見詰めて笑う明華に恨めし気な目を向ける。
「そうだ、下手すると日本に大量の」
「ダイジョブよ、それより手伝ってね?」
「手伝う?」
核兵器が使われた場合発生するのは純粋な破壊の他に、誰もが良く知る毒もばら撒かれる。中国で発生したそれらの物質は、国の位置関係的に風に流され自然と日本に降り注ぐことになるだろう。その事も心配している勇治であるが、明華は大して気にしていないのか手を振ると、そのまま手招きをしながら手伝いを要求する。
「か・い・も・ど・し♪」
「・・・そこまで下がったのか」
その手伝いとは買い戻し、要は売った株を買い直すのだが、どうやら現在の株価が当時買った時よりも安くなっているようで、上機嫌な笑みを浮かべる明華はどこからかもう一台ノートPCを取り出し、勇治に無言で渡す。
「一部だけね、あと新しく買いたいところもあるの、リスト出すからお願いね」
仕事を申し渡された勇治は、小さく溜息を洩らして肩を落とすと、テーブルの上を広げて明華の対面に座る。勇治がテキパキとノートPCをセッティングする姿に微笑んだ明華は、これから買う株のリストをメモに書き出していく。
「はぁ・・・最近の株ってのは反応が機敏な事で」
「ほんと、踊らされ過ぎよねぇ」
株取引のサイトを開いた勇治が、メモ書きを片手にPCを操作し始めると、そのあまりに急激な変化を再確認してまた溜息を吐く。ちょっとしたニュースや扇動で、ころころと反応を変える株に呆れる勇治を見て、明華も同意する様に苦笑を洩らすも、その顔は儲けることが出来て満足そうである。
ちなみに、天野家の家計は全て株の長期投資やデイトレードなど明華の趣味によって維持されていたりするのだが、別に勇治が紐と言うわけでは無い。
いかがでしたでしょうか?
今回が二章部分の開始となります。異世界から帰ってきてすぐに違う異世界へと足を踏み入れたユウヒ、妹を無事救出した彼にいったい何が待っているのか、お楽しみに。
それではこの辺で、またここでお会いしましょう。さようならー




