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ワールズダスト ~現世に現れし黒き森~  作者: Hekuto
第一章 救出と救済

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第百二十七話 破壊の始まり

 修正等完了しましたので投稿させてもらいます。今回の話が一章の最後となる予定ですが、楽しんでもらえたら幸いです。




『破壊の始まり』


 男性自衛官にそっと肩を叩かれ、傷ついた心に優しさが沁みて目尻に涙を浮かべたユウヒが、女性自衛官に微笑まし気に見つめられてから十数分後、


「先ずメディカルチェックを受けてもらいますので、女性の方はこちらにお願いします」

 ユウヒ達の登場で俄かに騒がしくなる規制線の中を抜けて、自衛隊の仮設施設に通されたユウヒ達は、検疫と健康診断を受ける為に別々の部屋に案内されているようだ。


「男はこっちだ」


「対応が・・・」

 しかしその対応は男女で格差があったらしく、筋肉質な体が服の上からでも想像できる体格の良い男性から手招きされたクマは、自分たちのぞんざいな扱いぶりと、パフェ達が受ける丁寧な対応を見比べ、思わず不平を洩らしてしまう。


「そんなもんだろ?」


「差別いくない」

 クマの呟きを見て呆れた様に呟くユウヒは、彼が別に扱いに対して不平を洩らしていたわけではないと見抜いており、制服をきっちり着込んだ女性自衛官から目を離さないクマの、曲がることない信念に呆れながらも感心するのであった。


「早くこっち来いって、別に取って食いやしねぇよ。ほれ行くぞ」


「ちょま! うおマジか!?」


「・・・重機だな」


「お兄ちゃん・・・」

 一向に移動を始めないクマに声をかける自衛官の男性は、彼の視線の先を追うとため息交じりに肩を落とし、そのまま太い腕を上げると身長的にはそう変わらないはずのクマを軽々と引きずっていく。


 まるで重機のような力強さを感じる自衛官の姿に感心していたユウヒは、後ろからの呼びかけに足を止めると振り返り、その先で心配そうな表情を浮かべていた流華を見詰めた。


「大丈夫だ。また後でな」


「・・・うん」

 日本に無事帰ってくることが出来て緊張の糸が緩んだばかりだと言うのに、すぐにまた気の抜けない状況に陥ったせいか、現在の流華はとても弱々しく見える。そんな流華の縋るようなか細い声に、ユウヒは明るく笑みを浮かべると大丈夫だと言って片手を上げると、上げた手を振りつつ軽い足取りで踵を返す。明るく自然体で、何の心配も要らないと背中で語っているような兄を見送った流華は、じっとユウヒを見詰め小さな声ではにかむのであった。





 そんなやり取りから小一時間後、夜も深まりそろそろ日付が変わりそうな時間帯。


「すまんな、上からの指示でな」


「必要な事でしょうからしょうがないんですよ」

 血液や尿、便だけではなく体のあちこちや髪の毛なども採られ、防疫の為の消毒まで受けたユウヒとクマは、ようやく検査の終わりを告げられ同時に医者とは思えない体格の男性から謝罪を受けていた。


 当初予想していた事よりずっと検査内容などが多かったとは言え、想定内であるユウヒは、採血を受けた部分に張られたテープを剥がすクマを横目に苦笑いを浮かべ答える。


「ふむ・・・ここだけの話なんだが、ドームから出てきても内部の細菌なんかは持ち込めないようになっているんだ。滅菌なんてレベルじゃ説明できないくらいにな」


「あぁやっぱり、たぶん長期間でも変わらないと思うんですよね」

 妙に落ち着いた雰囲気のあるユウヒと、何の不安も感じてないのかテープが張られていた部分をそっと掻いているクマを見詰めた男性は、ここだけの話だと言って調査が進んでいるドームの秘密を話す。その内容にユウヒは頷くと、右目の目尻辺りを触りながら自分の調べた事実と変わらに事に満足そうな表情を浮かべる。


「・・・上からある程度聞いてるが、ドームの専門家ってのはマジなんだな」

 実際に異世界と日本を行き来して検証した後も、いろいろと右目の力で調べていたユウヒ。腕につけた通信機の向こうで今もドームを調べている女性に、いろいろと質問するためにもと調べた内容は、まさに専門家と言っていいレベルになっている。


「だれがそんなことを?」


「さぁな?」

 ただそれは、ユウヒ個人で行っていた調査であり、自衛隊が知りうる内容ではないはずであった。それでも男性自衛官はユウヒの事をドームの専門家だと聞いていると話し、しかし情報源がわからないと訝し気なユウヒに、どこかあっけらかんとした声で答える。


「異世界に詳しいのは事実じゃね?」


「否定はせんが・・・まだまだ調べないといけないことがあるなぁ」


「・・・え? 俺? ちょっとまて何かおかしいことになってるのか?」

 一方、満足いくまでテープかぶれを掻いたクマは、パイプ椅子に座ったまま実際事実だろと、どうでもよさそうに首を傾げ、立っているユウヒを見上げた。


 異世界に居る間いろいろと話を聞いているクマにとって、ユウヒが異世界の専門家だと言う話は全く過言ではない。なので、何を当たり前のことを言っているんだろうと不思議そうな顔をするクマであったが、ユウヒからじっと見つめられ始めると、次第に顔を蒼くしていく。


「・・・・・そうだな、汗臭い」

 自分の体に異常でもあるのかと不安になり始めるクマを、まるで某クイズ番組の回答演出の様に焦らしたユウヒは、小さく深刻そうな声を洩らすと、突然鼻を摘み汗臭いとつぶやく。


「仕方ねぇだろ! 水浴びくらいしかしてねぇんだよ! ・・・あれ? そういえばユウヒ、それに姉さん達も」

 どうやら異世界と日本を行き来して細菌を持ち込む事は無くても、におい成分までは除去できないらしく、クマの脇や頭などの体からは臭気が感じられる。それは生きている以上当然の事であり、石鹸らしいものも温かいお風呂も早々入れるものではなかった異世界で、クマの体臭はだいぶ熟成が進んだようだ。


 事実とは言え、面と向かって臭いと言われたクマは、勢いよく立ち上がると本気ではないがそれなり怒って見せ、しかし詰め寄ったユウヒから汗臭さを感じないことに気が付き不思議そうに首を傾げた。さらに異世界で行動を共にしていたパフェ達の事を思い出し、顎に手を添えると深く首を傾げる。


「魔法って便利なんだよ・・・脅されたわけでは無い」


「おkすべて理解した。だが俺にも教えてほしかったな」

 医官の男性が忍び笑いを洩らしながら書類を纏めている姿を横目に、小さな声でさらりと白状するユウヒ。その言葉にはっと顔を上げたクマは、目を逸らすユウヒの表情から何があったのか察すると、静かに頷いて少し寂しそうな表情を浮かべた。


「・・・魔力もったいない」


「ヒドス・・・」

 友人の行動に理解を示すクマであるが、その友人は脅されることさえなければ元々魔法で消臭などするつもりがなかったようだ。実際ユウヒの魔力事情は常にぎりぎりであったため、そう言った考えになるのも頷けるのだが、その事実があったとしても正直なユウヒの答えには、何とも言えない悲しみを感じるクマであった。





 一方その頃、男性陣と別れて一足先に検査を終えた女性陣はと言うと、


「すみませんが、やはり全員一緒ではないと詳しいお話しは出来ません」


「そうですか、解りました。すぐに場所を準備しますのでお待ちください」

 男性陣が休んでいる部屋より幾分綺麗な部屋で同じく休憩しており、とある女性が医官の女性に申し訳なさそうに頭を下げていた。


「無理を言ってしまい本当に申し訳ありません。でも彼の妹も帰って来たばかりで、まだ・・・」


「いえ、私達もよく考えもせずに申し訳ありません」

 立ち居振る舞い、また言葉の端々から感じられる空気は、まさに深窓の令嬢と言った言葉がよく似合う長い黒髪の女性。異世界からようやく帰ってこれたというのにも関わらず、その長い髪に傷みは見受けられないほどだ。


「・・・メロンさん」

 そんな女性を黒々とした瞳で見つめていた流華は、錆びついた機械を無理やり動かすような緩慢な動きで振り返ると、隣でくすくすと笑うメロンさんに助けを求めるような目を向ける。


「ふふふ」

 しかし返って来るのはいつもと変わらぬ笑い声だけで、さらなる助けを求めた流華は反対側にも同じ様な動きで振り返った。


「・・・リンゴさん」


「あんな感じなのよ・・・」

 振り返った先に居るのはリンゴ、その顔にはニヤニヤとした人の悪そうな笑みを浮かべており、しかし流華の助けを求めるような声に肩を竦めると、苦笑いを浮かべる。


「どうしたのかしら流華さん? まだ怖いのかしら、大丈夫よ? 私が付いてるからね」


「・・・・・・」

 リンゴの助けになっているのか分からない言葉に、思わず表情を硬くした流華は背後に何者かの気配を感じてゆっくりと振り返った。そこには医官と話し終えた長い黒髪の女性ことパフェが立っており、心配そうに儚げな表情を浮かべる彼女の言葉に、流華は声を失ったかの様に口の開け閉めを繰り返す。


「ふふ(ニコリ)」


「―――」

 まるで漫画に出てくるお嬢様学校の一幕の様に、流華の頬にそっと手を添えるパフェ。そんな彼女を見上げ、思わず顔を赤く・・・いや蒼くした流華は、パフェが浮かべた優しい笑みに薄ら寒いものでも感じたのか、声にならない微かな悲鳴を洩らすのであった。





 見たことの無いパフェの言動に怯えた流華が、メロンとリンゴの後ろに隠れてしまい一人の大人の女性を本気でへこませている頃、とある一室では女性自衛官からの報告を聞いている男性の姿があった。


「ええ、特に問題は見られませんでした」


「そうか、まだ調べているところだがこの名前は聞いたことがある。大物の令嬢様だな」

 簡単に纏められたメモと女性の主観を聞いた男性は、安っぽい椅子を軋ませ背もたれに体重をあずけると、メモに書かれた名前を見ながら聞いたことがあると話す。どうやらメモに書かれた名前の人物に思い当たる節がある男性曰く、結構な大物の娘の様である。


「なるほど、どうりで育ちが良さそうな雰囲気だったわけですね」

 男性が見詰める先に書かれた名前を覗き込んだ女性は、その人物の姿を思い出しながら納得したように頷き、苦笑いを浮かべながら顔を上げた男性と見つめ合う。


「そう言うこったな・・・どうした? ああわかった。準備できたから会議室に案内してやってくれ」


「わかりました」

 どこか気安く距離感の近い女性の行動に困った様な笑みを浮かべる男性を、女性が不思議そうな表情を浮かべ見ていると、男性は小さく肩を竦め溜息を洩らす。何か言いたい事を飲み込んだ男性は、耳に引っかけていたイヤホン型通信機から聞こえて来た声に耳を傾けると、簡潔に応えて女性に指示を出す。


「森野に天野か・・・まさかな」

 ユウヒ達に詳しい話を聞くためには、人との接触を少なくするための準備が必要であった。その準備が終わったことで、無事彼等から詳しい話が聞ける事実に、男性は小さく息を吐くともう一度メモを見詰める。そこにはユウヒ達のプレイヤーネームではなく、本名が書かれており、二つ並んで書かれた苗字の組み合わせに何かを感じた男性は、小さく呟き眉を寄せるもすぐに息を吐きメモをテーブルに放り投げるのだった。





 それから数分後、同じ建物の中にある他の部屋と同じような作りの一室に通されたユウヒ。


「お、なんだみんな先に来てたかよ」


「おまいが話し込んでるからだろ」

 彼が部屋に入ると既に女性陣は揃っており、折り畳みの椅子に座って待っていた彼女達に目を向ける。そんな女性陣に珍し気な声を洩らすクマであったが、どうやら彼らが女性達より遅くなった理由は、クマが男性自衛官と長話を続けたのが原因である様だ。


「いやぁ趣味が合ってさ」

 ユウヒの呆れた様なツッコミに、クマは頭を掻きながら申し訳なさそうな表情を見せるも、その声は楽しそうであるが何の話をしていたのか、ユウヒの表情は仕方なさそうな笑みであった。


 そんなユウヒが再度女性陣に目を向けようとした首を動かした丁度その時、


「お兄ちゃん!」


「うお?」

 ユウヒを呼ぶ流華の声と同時にお腹と腰に鈍い衝撃が走る。どうやら流華がユウヒの腰に抱き着いてきたようで、思いもしない展開にユウヒは思わず変な声を洩らす。


「おっとと、どうした流華? 何かあったか?」


「パフェさんが、パフェさんが」

 前から抱き着いてきた流華の背中を優しく子供をあやす様に叩いたユウヒは、涙目で見上げてくる妹の言葉に目を見開くと、前方からゆっくりとした動きで近付いて来ているパフェに目を向ける。


「あら、流華さんそんなに寂しかったのね。うふふ」

 パフェはユウヒの腰と言うかお腹に抱き着く流華に優し気な笑みを浮かべると、ユウヒを見ながらくすくすと笑い、そんな彼女の姿に流華はユウヒに抱き着いたままぐるりとその背に隠れてしまう。


「あぁ・・・まぁ害は無いので慣れなさい」


「うぅ」

 流華がなぜ飛び付いてきて、なぜ怯えているのか、目の前のパフェの言動と流華を見比べ理解すると、背中から顔だけ出している妹の頭を落ち着かせるように優しく撫で諭す。


「うふふ、ユウヒさん?」


「ん?」

 目の前の光景はこの世のどうする事も出来ない節理であり、慣れるしか手は無いのだと悟った表情で、流華の頭を撫でるユウヒに、パフェはゆっくりと近づきながら笑みを浮かべ呼びかける。


「(ひどくない!? ちょっと猫被ってるだけじゃないか! ルカも怖がって逃げるし! それ以上貶したら泣くぞ! 私泣いちゃうぞ!?)」

 その距離が異常に近くなり、一歩前に踏み込めばキスしてしまいそうな距離まで近付くと、それまでの笑みを嘘の様に歪めたパフェはユウヒに噛み付く。


 どうやらパフェは知らない人間が多い場所の為、猫を被っていただけの様であるが、そのことを流華が怖がるし、ユウヒは優しい笑みで貶すしで、ユウヒの目の前で見開かれている彼女の目は、もう少しで決壊しそうなほど涙で潤んでいる。


「別に貶しちゃいないだろうが、ほら人が来たぞ、被り直せその厚着猫スーツ」


「むぅ」

 間近に迫るパフェの顔を頭を撫でる様に押し返したユウヒは、会議室の中に自衛隊の人間が入って来た事に気が付くと、パフェに猫を被り直せと言って肩を竦めて見せ、その言動にパフェは恥かしそうに頬を染めて猫を被り直す。


「お待たせしました。前の方に座ってください」


「はいはい、ほら座れって」

 会議室に入って来た女性医官の集まる様促す声に、ユウヒは猫を被り直したパフェの背中を押して、未だに恨めしそうな視線向けてくる彼女を椅子に座らせる。


「・・・わかりました」

 恨めし気な目で不承不承返事を返したパフェが、会議室の前の方に移動しながらも、無理やりユウヒを女性医官の正面に座らせ、自分は端に避難してから小一時間後、



「なるほど、それで天野さんが救出に向かったわけですか」

 正面に座らされたユウヒは、神だの異世界だの、また法に触れそうなことは話さず、しかし簡単にではあるがこの場にいる人間がドームの中に居た理由を話し終える。


 面倒な説明の大半をユウヒに任せ、しかし女性医官とユウヒの間で話される内容に、改めて自分の無謀をさを再認識して、引き攣りそうになる笑みを厚着猫スーツで維持しながら反省するパフェ。


「ええ、一応専門家らしいので他人に頼むよりはと、あとは父にせっつかれたので」


「・・・お父さん」

 また、猫を被っているのはパフェでけではなく、女性医官と話すユウヒもいつものやる気を感じない顔ではなく、爽やかめな笑みを浮かべている。正確には、仕事で身に着けたビジネススマイルなのだが、パフェの猫と違いこちらは見慣れているのか、流華は特にその笑みを気にする事無く、ユウヒの隣で父の行動に頭を抱えている。


「あまり無茶は感心しませんよ?」


「耳が痛い限りだなぁ」


「うっさいわね」


「うふふ」

 彼らの行動は無謀ではあるものの、理由を聞く限りそこにあるのは親愛や友情であり、女性医官も全面的に責める事も出来ず、特に今は帰って来たばかりで精神不安定な状況である為、軽めの注意だけにとどめている様だ。


 そんな注意に、ニヤニヤした笑みを浮かべるクマは、他人の前である事とユウヒに驚かされて弱っているのをいいことにリンゴを弄り、しかしユウヒを挟んでいないと怖いらしいクマと大きな声を出せないリンゴのやり取りに、メロンは微笑まし気な笑みを浮かべている。


「少し休憩を入れてまたお話を聞きたいのですが、よろしいでしょうか?」


「わかりました」

 俄かに騒がしくなり始めたユウヒ達に笑みを浮かべた女性は、腕時計に視線を落とすと小さく頷く。どうやらまだ聞きたいことはあるが一度休憩を入れるようだ。


「それでは」


「あっとすみません。ちょっとお聞きしたいんですが」


「はい?」

 休憩と言う事でホッと息を吐くパフェに目を向けていた女性医官が、笑みを浮かべて立ち上がり部屋を出ようとしたところで、ユウヒは何か思い出したのか顔を上げると、会議室のドアに手をかけていた女性を呼び止める。


「忍者の3人は元気にしてますかね? たぶんそちらで働いてると思うんですが」


「え?」

 急に忍者などと話し始めたユウヒに、女性だけではなくクマや流華もキョトンとした表情でユウヒを見上げ、一方パフェは厚着猫スーツの奥でピクリと反応を示す。


「ゴエンモとヒゾウとジライダって言う3人なんですが知りません?」


「ああ! それじゃあなたがあのユウヒさんなのね」


「あの?」

 突然何の脈絡も無く三人の忍者について話したユウヒであるが、どうやら彼の勘が彼女と忍者達が知り合いであると囁いた様だ。普通ならそんな勘など当たるわけないのだが、そこは母譲りの異常な勘である。


 どうやら実際に女性は、忍者達と面識がありそれなりに会話を交わす間柄の様で、三人の名前とユウヒの名前から思い当る節があったのか、それまでの微笑むような笑みとは違う明るい笑みを浮かべた。


「ええ、とても頼りになるまお、ゲフン! た、頼りになる人だと・・・聞いてますよ?」


「おk把握・・・次ぎ会ったら話付けますね。ふふ」

 それまでのどこか作った様な笑みから自然な笑みに変わった女性は、首を傾げるユウヒにくすくすと笑いながら忍者達から聞いた話をするも、思わず余計な部分まで洩らしてしまいそうになって慌てて咳き込み、引き攣った笑みで言い直す。しかしすでに遅かった様で、何を言おうと、そして何を吹き込まれたのか察したユウヒは、黒く満面な笑みで女性に笑いかける。


「私、何も言ってないからね?」

 ユウヒの黒い笑みに思わずそれまでの丁寧な言葉使いが崩れてしまた女性は、困ったような笑みを浮かべながら口を人差し指で隠す。どうやらそのジェスチャーから、忍者たちに自分が洩らしたことを黙っていてほしいということの様だが、そんな女性の苦笑いにユウヒは黒さを引っ込めた笑みを浮かべる。


「大大丈夫ですよ、あいつらヘタレだから女性に手は出しません。笑って流しますよ」


「ふふ、確かにそんな感じね」

 忍者たちとは短いながらもそれなりに濃い時間を過ごしたユウヒは、彼らの性格をすでに見抜いている様で、勘もあるのだろうがたとえ彼女の事を話したとしても彼らは笑って済ますだろうと話し、女性もくすくすと笑う。


 そんな急激に仲を深めた様に見える女性医官とユウヒの姿に、背後の女性陣が面白くなさそうな顔をしてることなど気が付きもしないユウヒは、さらに何か話そうと口を開く。


「それに―――」


「腕時計か?」

 そんなユウヒを、女性陣の殺気から離れる様に近づいて来たクマが注意しようと背中をつついたのだが、それと同時にユウヒの手首に巻かれた装置から電子音が流れる。どこか急き立てる様な電子音にクマが首を傾げる前で、ユウヒは腕時計の様な装置に口を近づける。


「あー・・・もしもし、なんぞあったか?」

 口を近づけたユウヒは、腕に付けられた通信機の向こうに居る女性と目を合わせると、何かあったのかと問いはじめ、彼にしか聞こえない特殊な通話方法で耳に入ってきた言葉に眉をひそめた。


「うお!? 警報?」


「はい、はい・・・わかりました。みなさんすぐに」

 眉を顰め、まるで独り言を言っているようなユウヒを心配したクマは、さらなる音の出現に身を少し屈め驚きの声を洩らす。彼の耳に突き刺さった音は自衛隊の放送設備から鳴った不安になる様な警報音であり、同時に耳の通信機から連絡があったらしい医官の女性は、誰かとやり取りを行った後真剣な表情でクマや怯えた表情の流華に目を向けながら話し始める。


「は? 中国のドームで爆発? テロな・・・え? 作戦で、使ったのは核なの!?」

 しかしその言葉はユウヒの大声を聞いた瞬間止まってしまい、女性は目を見開いたまま固まってしまう。


「・・・え、なんで」


「なるほど、電波障害か・・・でもドームが収縮っていい事・・・じゃないのか」

 絞り出すような声を洩らしてユウヒの大声に驚いた女性は、周囲から注目が集まる中で話し続けるユウヒにゆっくりと慎重に近づく。


「天野さん、その話を詳しく聞かせてもらえますか?」


「え? ああ、構いませんがとりあえず一時避難とかひつよ、いやちょっといま自衛隊に捕まって、いや保護? されてて」

 腕を覗き込みながら、自衛隊でも一部しか知らず、また知らない情報を呟くユウヒに、女性は自己の判断でユウヒに詳しい話を要求する。そんな女性の真剣な声に少しだけ驚いた表情で振り返ったユウヒは、目を瞬かせて頷き了承すると、再度通信機の向こうに居る相手と話し始め、何とも曖昧な会話を続けた。


「お兄ちゃん、それって電話なの?」


「むむ! ・・・むぅ」


「よく我慢出来ました」

 何やらいろいろと深刻そうな話をするユウヒに、すでに止んでいる警報がまだ耳に残ったままの様な気がして頭を振った流華は、ユウヒの服をつまんで引っ張ると少し興味深そうに問いかける。


 パッと見た感じ腕時計にしか見えない通信機は、最近復旧し始めた腕時計型携帯電話によく似ており、興味がある流華を状況に関係なく惹きつけ、それはパフェも同様であったようだ。しかし他人の目がまだある場所ではいつもの様に動けず、微妙な表情で葛藤した後、下唇を噛んで顔を伏せた彼女に、メロンは子供に語り掛けるような声をかけながらパフェの頭をやさしく撫でる。


「おいユウヒ、その話マジか」


「ああ・・・マジらしい」

 無事異世界から帰還したが、自衛隊に保護されてしまいその差し金が誰なのか首を傾げるユウヒ。そんなユウヒに更なる追い打ちとして響き渡る自衛隊の不安になる緊急警報に、腕から鳴り響き直接鼓膜を揺らす協力者の慌てた声。


 協力者の言葉を驚きでそのまま聞き返し洩らしたユウヒは、目を見開き問いかけてくるクマに、しかめっ面を浮かべると真剣の声で頷く。ユウヒの表情にただ事ではない事を察してパフェ達は、いつものふざけた空気はどこに行ったのか、強張った顔でユウヒを見詰めるのだった。


 ユウヒの背中を不安そうに見つめていた精霊たちの勘が当たったのか、まだまだ彼の冒険は波乱に満ちている様だ。日本に戻って来たユウヒには、いったい何が待っているのか、それは誰にも分からない。



 いかがでしたでしょうか?


 異世界から戻ってちょっとした一波乱と思いきや、ちょっとどころではない爆弾が落ちた様です。この事件がユウヒのこれからにどう影響していくのか、この先も楽しんでもらえたら幸いです。


 それではこの辺で、またここでお会いしましょう。さようならー

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