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ワールズダスト ~現世に現れし黒き森~  作者: Hekuto
第一章 救出と救済

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第百十八話 視姦者オークズ

 修正等完了しましたので投稿させてもらいます。どちら様もゆっくり楽しんで行ってもらえれば幸いです。



『視姦者オークズ』


 ユウヒが新たな創作に頭を悩めながらクマと自分の脅威になりそうなオーク達の動向を調べている頃、その対象達はハラリアの闇に身を潜めていた。


「・・・」

 そこへオークが闇に潜むとも知らぬ一人の獣人男性はズボンを下し、小さな個室で開放的な気分に浸りながら小さな水音を鳴らしている。


「・・・・・・」

 男性が静かに息を吐く小さな個室は作りが荒いのかあちこちに隙間が見られ、その小さな隙間からは複数の赤い目が覗き込んでいた。その怪しげな気配を感じたのか背筋をを震わせた男性は、そっと右肩の向こうに見える壊れた壁に目を向ける。


「・・・ひぃ!?」

 瞬間、赤い目は一斉に男性のある場所を射抜くように見詰めると個室をギシギシと揺らす。そのあまりに悍ましい瞳の群れに恐れおののいた獣人男性は、そのしなやかに鍛え抜かれた体からは信じられないほどか細い声で悲鳴を上げると、太くふさふさな尾を股に挟んでズボンを引っ掴むと個室から転がり出る様に逃げ出すのであった。


「デュフフ・・・怯えるお尻もそそるわ」


「じゅる・・・生殺しよね」

 男性が逃げ出した部屋は所謂共同トイレであり、身体的特徴の様々な獣人達が安心して用を足せるようにハラリアの里では男性も女性もみなトイレは個室のみなのである。そんな男性が逃げ出したトイレの共用部にある明り取りの木戸からは、彼を脅かした張本人たちが顔を出し興奮した表情で涎を垂らしていた。


 赤く血走った眼をした彼女らは、魔族傭兵団オークレディースの中でも若いオーク達で、彼女らは戦いの後の興奮をそのまま引きずりハラリアの中で覗きを繰り返しているようだ。今も逃げていく狐人族男性の臀部を眺めてだらしなく顔を緩めている。


「ひっ捕まえた基人族は今一だし体力ないし」


「姐さんからも壊さないようにって注意されてちゃ発散しきれないわぁ」

 そんなオーク女子は一人や二人ではなく、かなりの人数がその場に居り、どうやら興奮しすぎたことでその巨体が共同トイレ全体を揺らしたのが先ほど男性を驚かした揺れである様だ。彼女らはすでに先の戦闘で捕まえた基人族の男で戦いの興奮を発散した後である様だが、若さゆえか全く足りていないと口々に愚痴を零す。


「戦闘の後は昂ぶってしょうがないのに・・・」


「おい! あっちにすげー揉み応えがありそうな尻の熊人族が居たぞ!」


「「マジ!? 行かないと!」」


 持て余した性欲を吐き出すかのような大きなため息を漏らすオーク女子達は、困ったようにその場に座り込もうとしたが、走り込んできた仲間の言葉に目を輝かせ涎を垂らすと、その巨体からは信じられない機敏な動きで共同トイレの裏手から表に飛び出す。


「B班はこのままあの狐人族を追いなさい! A班C班は一緒にケツを拝みに行くわよ!」


『了解!』


 表に飛び出した瞬間三つのグループに分かれて並んだ彼女達は、リーダーなのだろうフリル付きベルトを腹の肉に食い込ませたオーク女子の指示に、ピタリとそろった動きで返事を返すとやはり機敏な動きで走り去るのであった。





 獣人男性の排尿シーンを覗いていたオークレディースであったが、その姿が別の場所から見られていた事には気が付いていなかったようで、


「何をしているのかと近づいてみれば・・・覗きに視姦かよ」

 一部始終を見ていたユウヒは、頬を撫でる風すらオークレディースに呆れているような気がして小さくため息を吐いている。外壁上からオークの姿を探していたユウヒは、怪しい動きをするオークを見つけると、【飛翔】の力を使いとある高い建物の上に移動していた。


「あ! ユウヒ様だ!」


「ん? あぁ悪いな邪魔か?」

 その高い建物と言うのは、固く太く長い石の支柱にいくつもの梁を通し、さらにその上に箱型の家を設置した鳥獣族用の高層建築物である。その高層建築物の梁は拡張性を持たせるために長くとられており、今ではユウヒが想定したものとは違う止まり木として使われていた。


 そんな梁の一本で、中腰と言うよりは座るような態勢になり眼下を見詰めていたユウヒの背後から、大きな羽音と共に子供のように高い女性の声が聞こえる。声の聞こえた背後を振り返った先の梁に降り立つ鳥獣族を見上げたユウヒは、どこか年寄り臭く立ち上がると目の前の女性を見下ろして頭を掻く。


「そんな事無いよ? 何してるの? 家によってく?」


「いや今は遠慮しておくよ、ちょっとオークが悪さしてないか見て回ってるんだ」

 どうやら彼女は目の前の箱型住宅の住人であるらしく、ユウヒの言葉に大きく頭を横に振ると、片手の羽を広げて家に寄っていくか問いかける。


 見覚えのある柄の翼を広げた、少女のように見える鳥獣族の姿を見たユウヒは、彼女が戦場で一時行動を共にした女性であることに気が付くと、特に怪我らしい怪我の無い元気な姿に笑みを浮かべて軽く頭を横に振り遠慮し、今は用事があるのだと眼下に目を向けて見せた。


「あぁあのおっきな人達だね」


「まぁまだ犯罪は犯してないような、もうアウトのような・・・」

 ユウヒの視線に誘導されて下に目を向けた女性は、跳ねる様な軽い足取りでユウヒの隣に移動すると、足の鉤爪で梁をしっかり掴んで大きく身を乗り出す。一見不安定で今にも落ちてしまいそうであるが、風が吹いても小動もしない彼女は、ユウヒに体を寄せながらユウヒの何とも言えない感情のこもった声に耳を傾ける。


「えっとね、里に入ってきてからずっと獣人さん達を追いかけてるよ?」


「・・・・・・はぁ」

 上から見る限り集団ストーカーにしか見えないオーク達は、ハラリアの里に入ってからずっと同じことを繰り返しているらしく、鳥獣族女性からの説明にユウヒは思わず無言で頭を押さえると、冷たいと言うより冷めた様な目でオーク女子を見下ろし溜息を洩らす。


「ラミアの人が来たらすぐ逃げるの、でもしばらくしたらまた追いかけてるよ」


「いたちごっこだな」

 そんなユウヒの腰を両の翼で掴みながらラミアとオークの行動について話す女性は、抑揚の感じられないユウヒの疲れた声を聞くとくすくす笑いだすのであった。





 疲れた様子のユウヒが足場から落ちない様にと、鳥獣族女性が腰を支えてくれていることに気が付いたユウヒが、少しだけ心をほっこりさせながら監視を続ける中、その視線の先では共同トイレから逃げだした狐人族の男性が仲間と共にオークの追跡から逃れ、まだ営業を始めていない酒場の裏手に身を潜めていた。


「はぁはぁ・・・撒いたか?」


「何なんだよあいつら」

 荒い息を吐く男性に、途中で追われている彼を見つけ一緒に逃げ始めた友人の男性は、困惑を隠すことなく荒い語調で悪態をつく。


「じっと見て来るだけとは言え、あんな血走った目で見られたら堪らねぇぜ」


「そうだよね、いくら今回助けてくれたからって・・・これじゃおちおち休憩もできねぇよ」

 友人が困っているからと咄嗟に助けに入った男性であるが、彼自身オークに太刀打ち出来るほどの膂力を持っているわけではないようで、悪態をつくが頭の上のとんがり耳は萎れ尻尾も力なく垂れている。実際は腕力など関係なく唯々血走った目で見られるだけなのだが、いつ襲われるかわからない恐怖に彼らは逃げ続けることしか出来ず追い詰められていた。


「寝てたら襲われそうだしな・・・」


「やめろよ! 夜眠れなくなるだろ!」

 周囲を警戒してオークの影が無いことを確認した友人男性は、建物の軒下に積み上げられている木箱に腰かけると、トイレから走り詰めで動く気力もない友人を見下ろし、揶揄い気味な声をかける。しかし、そんな恐ろしい事は冗談でも言ってほしくないと言った表情の友人に、彼は目を見開くと肩を竦めて見せるのだった。


「大体お前は・・・」


「・・・・・・?」

 悪態や洒落にならない冗談を言いても悪びれる事のない友人に、疲れているにもかかわらず声を荒げ掴みかかろうと足に力を入れた男性は、なぜか友人男性の方を見て急に顔を蒼くし始めた。口をパクパクと動かすだけで何もしゃべらない姿に、流石の友人男性もおかしいと思ったのか、木箱から降りて男性に近づくも不意に感じた何かの気配に後ろを振り返る。


「・・・ハァハァ」


『ハァハァ・・・』


『? ・・・! ギャアァァ!?』


 彼らの視線の先には大量の木箱が積み上げられており、その隙間は真っ暗な影になって何も見えない・・・はずであった。しかし今、その隙間と言う隙間からは荒い息遣いと共に妙な熱気が漏れ出してきており、友人男性が目を凝らした瞬間、大小さまざまな隙間と言う隙間が赤く光り、その正体に気が付いた二人は大きな叫び声を上げて這う這うの体で逃げ出す。


「デュフフフフ」


「ひぃ!?」

 手足が縺れうまく逃げられない二人の目の前に、木箱の山を崩しながら現れたのはオーク女子の群れ、しかもそれは目の前の木箱からだけではなく、どうやったらその巨体を隠すことが出来るのかわからない場所から次々と姿を現すオーク達。彼女たちは腰を抜かした二人を囲むように歩き、すでにトイレからここまでの間に精神をすり減らし続けた男性に少女のような悲鳴を上げさせる。


 まさに絶体絶命、少女の様な悲鳴を洩らす男性に興奮して舌なめずりをするオークがさらに一歩前に出た時、奇跡は起きた。


「貴様らまたか! いい加減大人しくしていろ!」


「ブヒッ!! 莫迦な!? 奴らが来たわ逃げるよ!」

 いつの間にか路地を塞ぐように作られていたバリケードを吹き飛ばし現れたのは、ラミア騎士団の警備小隊5人。彼女たちは現れるなり先を丸めた木製の槍を突き付けオーク女子を威嚇する。そんなやり取りはすでに何度も繰り返されていたらしく、双方ともに慣れた動きで動き出す。


「ブフィィィ!!」


「こら逃げるな!」

 方や下手人を捕まえるために槍を振りぬき、方やどこかの大泥棒の如く軽いステップで蜘蛛の子散らす様に逃げ去る。


「大丈夫だったか?」


「あ、ありがとう」


「お前たちも休憩出来ないのか?」


「あ、ああ・・・」

 部下3人がオーク達を追いかけ、一人が周辺警戒しながら小隊長のラミアがへたり込んだ狐人族に声をかけ、そんなラミアの存在に安心した二人の男性は大きく息を吐いて彼女の問いかけに力なく答え始めた。


「そうか、集会所周辺は安全を確保しているからそこで休むと良い」


「いいのか? 今あそこにはユウヒ殿の友人が居るだろ?」

 既に数組似たような状況に陥っていた獣人男性を救助してきたらしい彼女は、言い慣れ始めた定型文を口にし微笑む。


「ウォボル殿の指示で簡易の休憩場所が作られているからそちらになるが」


「ありがたい、流石族長だよ・・・行こう」


「ああ・・・立てるか?」


「・・・肩貸してくれ」


「おう」

 彼女の笑みと、ウォボルが動いてくれていると言う事実に救われた二人の狐人族は、肩を貸し合い立ち上がると、オークを取り逃がしてしまった三人のラミアに先導されながらその場を後にした。


「・・・しかし困ったな、戦闘後のせいで余計にしつこいぞ」


「このままじゃ本当に襲い始めかねないな」


「同盟直後に問題起こすとか・・・」


「一度副団長に報告しておこう」

 彼らを部下に任せて見送った小隊長は、周囲を警戒しながら小さくため息を漏らす。彼女たちはほんの数時間と言う間にすでに何人もの獣人男性を救出していた。それは彼女たちだけではなく、現在ハラリアを巡回している数部隊が同じような状況なのである。


 たった数時間で両手の指じゃ足りないほどの問題を起こしているオークに、二人は疲れた表情を浮かべ合うと一路ラミア騎士団副団長アテリの下へと向かうのであった。





 ほかの小隊もアテリの下に向かっている頃、オーク女子達も戦果報告のために人気のない場所で集合していた。


「ブヒィィ、フフィィ・・・」


「B班、戻りました」


「お疲れ様、全員揃ったわね」

 息が荒くまともにしゃべれないオークは、先ほどまでラミア騎士団から逃げていた狐人族ストーカーたちで、リーダー格と思われるオーク女子の隣でへたり込んでいる者達を数えたオークは、リーダー格のオークにB班の集合確認を伝える。


「姐さんは?」


「まだ会議してるわ、でも終わるのにそれほどかからないかも」

 周囲を見回したオーク女子リーダーは、満足そうに頷くと周囲より一回り小柄なオークにコズナの動向を訪ね、その返答に難しい表情を浮かべて見せた。


「時間がないわね、確保できそうな雄は居た?」


「だめねぇみんな逃げちゃうのよ」


「強引に捕まえられれば・・・」


「姐さんに殺されるわよ」

 この場に集まっているのは、オークレディースの中でも若手のオークで、それは同時に立場の低さを現す。年功序列とまでは言わないものの、経験とはすなわち強さであり、群れの順位が強さで決まるのは魔族にとってはよくある話である。


「・・・でも昂ってしょうがないし、捕虜は?」


「駄目ね、まだみんな気を失ってるわ」

 そんな順位は、そのまま彼女たちが雄にありつける順番にもなっており、自分たちの番が回ってきたころには捕まえた雄も疲弊しており、そのことが今回の騒ぎの元凶と言えた。そう、彼女たちはまさに性的に襲うためにハラリアの住民を追いかけていたのだ。


「・・・どこかからか火の中に飛び込んでくる様な獲物は居ないかしら」

 今回の行動はまさに若さ故の過ちと言える行動なのだが、ハラリアの住民としては迷惑極まりない話である。


 正直そんな獲物は先ず居ないだろうと分かっていながらも、呟かずにはいられないオーク女子リーダーの詰まらなさそうな声に周囲も頭を振った・・・が、


「そんなのいな「おい、おまいらいい加減にしてくれ」い?」

 どうやら彼女達には運があったのか、オーク女子しか居らず男どころかほかの種族すら見当たらない寂れた里の一画に、彼女達以外のそれも男の声が聞こえて来た。


『ぶひ?』


「あまり騒がしいと俺も困るんだよ」

 思わぬ展開に目を見開いたオーク女子達は、雄の声が聞こえた方向に向かって一斉に顔を向け、そこに立っていたやる気なさげな顔の基人族を血走った目で見つめる。


「・・・」


「前見たときはここまで酷くなかったと思うんだが、何かあったのか?」

 そう、性的に滾って燃えそうなオーク女子の下に単身飛び込んできたのはユウヒ。彼はオークによる惨状を確認した後、その状況に危険を感じて釘を刺しに来たのである。


「・・・戦の後は昂るものなのよ?」


「フゥフゥ・・・」

 以前魔王領の山間部で出会った時以上に荒ぶった雰囲気のあるオーク女子達に、ユウヒは不思議そうに首を傾げて何かあったのか問いかけ、その問いかけに対して訝し気な表情を浮かべたオーク女子リーダーは簡潔に返答を返した。


「昂るかぁ・・・鎮静作用のある薬でも作ってみるから、もうしばらく我慢してくれ」

 命を懸けた戦いの後には本能的に性欲が高ぶると言うのは、ユウヒも経験上理解があるらしくあまり強く批判することは出来ない様で、代わりに鎮静剤を用意するので我慢してほしいと気軽に話す。


「・・・ヒソヒソヒソ」


「・・・・・・ヒソヒソ、ヒソヒソブヒ!」

 彼が知りうるオーク達なら、今の説明でうまく行くと思われたがしかし、ユウヒはある勘違いをしていた。それは彼女たちとユウヒが初対面であり、ユウヒが何者なのか彼女たちは知らないと言う事実をだ。


「ん?」

 正直、違う種族と言うのは一見しただけでは違いなど分からず、ユウヒもオークレディースと言うだけで交渉に来たのだが、この場に居るオークは浮気者の雄オークを捕まえた時にはいなかった別動隊、未婚者オーク達なのである。


「デュフフ・・・姐さんが戻る前に虜にしてしまえばこっちのもの」


「一度私たちを味わったらもう普通には戻れないわよん♪」


「・・・いや、止めとこうぜ?」

 その事実に気が付かないユウヒであるが、このまま大人しくしていたら自分が性的に襲われると言うことは、彼女たちの涎と息遣い、それと逃げられない様に周囲を囲みだした行動で即座に理解できた。それでも割と余裕そうなユウヒは、困ったように止めようと提案するのだが、


「グフフ、嫌よ嫌よも好きのうちなのよ・・・」


「じゅるり・・・おいしそうな体よね。全身くまなく舐めてあげる」

 完全に理性が本能に負けている彼女たちの耳には、ユウヒの善意の言葉も本番前のちょっとした言葉遊び程度にしか感じられていないようだ。


「あー・・・」

 完全に状況を見誤ったことに気が付いたユウヒは、疲れた顔で長い声を伴った溜息を吐くと、頭を無造作に掻きながら自分を取り囲むオーク達を見回す。


「逃げようなんて思わない事ね、すぐに良い夢見せてあげるから」


「それ以上近づくなら俺も実力行使に出るしかないんだが、冗談もその辺でやめね?」


「プフフフ、この距離はあたしらの間合いよ、しかもこれだけの人数に囲まれて何が出来ると言うの? 馬鹿な男だけど、そんな男も嫌いじゃないわよお!」

 周囲を見回すユウヒの行動が逃げ場を探している様に見えたオーク女子リーダーは、口元の涎を舐めとりながらにじり寄り、ユウヒの最後通牒にも笑い声を上げると魔力を溢れさせ飛び掛かる。


「イタダキマース!」


『ブヒイィィイイ!!』


 オーク女子リーダーの動きに合わせて周囲を囲んでいたオーク女子も飛び掛かり、その姿は理性が吹き飛び片言になるどころか、すでに野生の獣とさして変わらない様相であった。そんな恐ろしい形相のオークに囲まれ飛び掛かられれば、いかに強靭な獣人戦士であろうと思わず尻尾を股に挟んでしまうであろう。


 ましてやそれが基人族ならば、下手すると何かされる前に精神的に死んでしまいかねない。それほど危機的状況であるにも関わらず、ユウヒはいつもと変わらずやる気がなく、むしろいつも以上にその顔から覇気が感じられない。


 この時ユウヒの違和感に誰か一人でも気が付いていれば、もしこの場にユウヒの表情の違いを理解できる妹の流華が居たならば、彼女達オーク女子に悲劇は訪れなかったであろう。


「・・・あぁもう、【マルチプル】【ワイドレンジ】疑似全周囲・・・死なない程度【ハイボルテック】!」


『『『ブピュギィィィイイイイイ―――!!?!?!?』』』


 流華曰く、大体今のような感情が抜け落ちた様なやる気ない顔の時、ユウヒは真面目に怒っている。そしてそう言った時のユウヒは、冷静かつ理性的に躊躇なく懲罰行為を行う。


 単体に及ぶ効果を複数同時に発動する補助魔法の【マルチプル】。さらに単体効果を範囲効果に変える補助魔法【ワイドレンジ】。そして単体に高圧の電気を流し気絶させる攻撃魔法【ハイボルテック】。これらはすべては、彼が青春を捧げたゲーム『クロモリオンライン』の登場魔法である。


「・・・ふむ、忍者はショックでこのくらいだったかな? 流石は耐久力に定評のある種族だな」

 情け容赦なく普通の人なら死にかけない魔法を放ったユウヒは、抱え上げられ泣き叫ぶ子豚の様な断末魔を上げ崩れ去ったオーク達を見下ろすと、以前忍者たちに使った下位互換の電気魔法の事を思い出し、改めて異世界のオークと言う種族の耐久性能に感心するのであった。


「何事だ! ・・・・・・え?」

 そんなどこか人間としてはずれた思考で感心していると、近場の茂みをかき分けラミア騎士団が突然の悲鳴に何事かと姿を現す。茂みから飛び出してきたラミア騎士団は、まずユウヒの姿を見て驚き、そしてただ一人立つ彼の周りに転がり痙攣している、どこか香ばしい香りを放つオーク女子の姿に目を見開き言葉を失う。


「ん?」

 散歩の途中のような気軽さで、まさに地獄絵図のような状況の中心に立つユウヒと言うミスマッチな光景に、後続の騎士達も同じような表情で固まり、彼女たちが正気を取り戻して動き出したのは、遅れて現れたアテリがユウヒに声をかける数分後であった。



 いかがでしたでしょうか?


 本能に従い暴走するオーク女子に流石のユウヒも切れたようですね。怒らせてはいけない火薬庫を怒らせたオーク女子は生きているのか、そして若干すっきりしたユウヒはこの後何をするのか次回をお楽しみに。


 それではこの辺で、またここでお会いしましょう。さようならー

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