第百十七話 異種族間交流
どうもHekutoです。
修正等完了しましたので投稿させてもらいます。是非楽しんでいただければ幸いです。
『異種族間交流』
荒ぶる女神が現れる予感を感じ、友人たちに妹の宿題の手伝いを任せて立ち去ったユウヒは、戦闘により壊れた建物の状況や異常がないかを確認しながらハラリアを散歩していた。これは別に遊んでいるわけではなく、ルカや友人たちのトラブルの元がないか気にしての行動だ。
「・・・ん?」
そんな何かと妹に甘いユウヒが被害の酷い外壁近くを見回っていると、彼の耳に片言の言葉とエルフの鈴を鳴らすようなイケメンボイスが聞こえてきた。ちなみにエルフは見た目も良いが声も良いとは、ユウヒの友人たちの総意である
「オマエ、ヨイミミ」
「ありがとうございます。貴方の耳も長くて素敵ですよ」
「セガタカイ、ウラヤマシイ」
「そんな、私たちは少し高すぎて困っているので、小柄なゴブリンさんたちがうらやましいです」
声の聞こえる方に向かったユウヒが見たものは、休憩中なのか丸太のベンチに座り雑談を交わすゴブリン男性とエルフ男性。ゴブリン男性の言葉に笑みを浮かべながら受け答えするエルフの姿は、美形同士と言う事もあって非常に絵になる光景であった。
その会話も穏やかで、互いに互いの良いところについて語っているらしく、しかしゴブリン男性はエルフ男性の返答が不思議なのか小首を傾げては目を瞬かせている。
「・・・チイサイ、イイカ?」
「ええ」
「・・・デモ、チイサイイヤ、イウヤツオオイ」
一頻り目を瞬かせたゴブリンは、エルフ男性を見上げたままじわりと眉を寄せると懐疑的な目を向け、そんな視線を柔らかい笑みで受け止めたエルフ男性の表情からそれは真意の様であった。
小柄な種族であるゴブリンには想像できなようであるが、人間でも飛びぬけて背の高い者が感じる生き辛さをエルフ達は大人になると感じ始め、一方ゴブリン達は子供の頃からほとんど変わらない体格に対して不満を持っているようだ。
「そうなのですか? やはり隣のバラは赤いものなのですね。リンゴ達が言う通りでした」
「トナリ? バラ? リンゴ?」
隣の庭に咲いている花の方が、自分の庭の花よりきれいに見えると言う意味の言葉を、どこか感慨深げに呟くエルフ男性。どうやらこれは日本人であるリンゴ達から教えられたらしく、意味を知らないゴブリンは不思議そうに小首をかしげる。
「同じものでも、他人の持つものは良く見えてしまうと言う意味だそうです」
「・・・フカイナ!」
「そうですね、ふふふ」
ハラリアを歩き回ってはあちこちで交流を繰り返すリンゴやパフェがもたらした価値観は、エルフや獣人、さらに魔族にまで理解されるものであるらしく、エルフ男性に説明された内容を噛みしめる様に目を瞑っていたゴブリン男性は、大きく目を見開くとキラキラと瞳を輝かせエルフと笑い合うのであった。
「・・・えらく仲がいいな、メロンさんが居たら喜びそうだ」
そんな様子を離れた場所で観察していたユウヒは、背景にバラが浮いているようにも感じる一画に思わず呟き、メロンがこの場に居たならば普段隠してる本性が漏れただろうなと、青く澄んだ空を見上げる。
「ユウヒ様どうされました?」
「え? ああ・・・」
遠い目をしたユウヒがきれいな空で自分の汚れた心を洗濯していると、すぐ近くからエルフ特有の澄んだ声で呼びかけられ、その声に引き戻されるように、手放していた意識を取り戻したユウヒは、振り向いた先に居た神官服の女性エルフに思わず苦笑いを浮かべた。
「ゴブリンと仲がいいんだなと思ってな」
「そうですね、彼等とは色々と考えが合うみたいなのです」
不思議そうに見つめてくる女性に苦笑いを浮かべたユウヒは、腐った妄想に萎えた感情を誤魔化す様に顔を背けると、視線の先で談笑を続けるゴブリンとエルフを見詰める。ユウヒの視線を追った女性は、ユウヒの言葉に頷くと優しい笑みを浮かべながら考え方がゴブリンとエルフは似てるのだと話す。
「ほう、感性が合うのかな?」
「ええ、美意識など特に・・・そういえばユウヒ様に貰ったと言う器を自慢されましたが、あれはいいものです」
「うつわ・・・あれか」
女性曰く、ゴブリンとエルフは美的感覚的にも共通するところが多いと言い、ユウヒの横顔を見詰めるとゴブリン達から自慢されたものについて思い出した様だ。それはゴブリン達がユウヒから貰ったと言う器であると言う。
美形同士何か通じるものでもあるのだろうかと、持たざる者の妬みを感じそうになっていたユウヒは、自分から貰ったと言う器の話題に彼らと会った当初の事を思い出す。
「なんでも魔法で加工されたとか、あれほど滑らかな曲線の器、あまり手にする機会は無いですよ。それに木材も良いものでしたし、柄もきれいな木目と相まって・・・」
「そ、そうか・・・多分木材は精霊たちに選んでもらったのがよかったんだろな、流石樹の精霊と言ったところか」
魔法により木が独りでに削れていくような光景に面白みを感じ、無駄に大量生産してしまった木の器の事をユウヒが思い出している隣で、ゴブリンに見せて持った器が如何に素晴らしかったか語るエルフ女性。
そんな彼女に思わず笑みを引きつらせたユウヒは、彼女から視線を外しながら、きっと素材がよかったのであろうと、流石は樹の精霊だけあってその辺の審美眼はあるのだろうと、感心しながらつぶやく。その呟きに、彼の隣で耳心地の良い声で熱弁していた女性は、言葉も動きも急に止めてしまう。
「・・・・・・いまなんと?」
「え? いや、精霊たちに木材を選んでもらったんだが・・・だめだったかな?」
女性が急に話すのをやめたことを不思議に思ったユウヒは、妙に距離感の近い女性に目を向けると、黒々とした緑の瞳を大きく見開いた女性の姿に後ずさり、絞り出すように問い質してきた彼女に材料の木を精霊達に選んでもらったともう一度話し、彼女の表情から何か悪い事でもしてしまったのかと不安になり始める。
「そ、そんな・・・精霊様が選んだ樹の器だなんて、だから僅かに精霊様の気配が・・・・・・」
「お、おう? どした?」
迫るようにユウヒを見詰めていた女性は、彼の言葉を再認識すると肩を大きく落として俯きぶつぶつと聞き取り難い声で呟き始めてしまう。その様子に思わず恐怖を感じたユウヒは、しかし心配そうな表情で女性に声をかけ首を傾げる。
「わ、私にも作っていただけないでしょうか! お礼はします。厚かましいお願いではありますが、そんな特別な器だと聞けば余計に欲しくなって・・・わ、私の初めてを捧げてでも是非!」
「ちょ!? まって、ちょっとまって!」
ユウヒと大して身長の変わらない女性が俯き小さくなる姿に、心配そうに声をかけるユウヒ。しかし彼が不用意に女性へと近づいた瞬間、勢いよく顔を上げた彼女はユウヒの胸にぶつかるように縋りつくと、ゴブリンが自慢していた器を自分にも作ってほしいと懇願し始める。その姿は鬼気迫るものがあり、さらにその口から漏れ出るとんでもない内容に赤面したユウヒは、慌てて彼女の肩を両手で掴むと怪我をしない程度に引きはがす。
「是非!」
「ひ、暇があったら作ってみるから、そんなお礼とか気にしなくていいし! 自分の体は大事にしてよ!?」
引きはがした後も割と強い力で迫ってくるエルフ女性に、ユウヒは力を緩めることなく腕を伸ばし続け、暴走する女性を落ち着けるよう必死に声をかける。その姿は傍から見たらユウヒがエルフ女性に襲われているようにしか見えず、周囲のエルフやゴブリン達は状況が呑み込めず傍観することしかできないようだ。
そんなざわつく周囲を気にしながら必死に声を張ったユウヒの言葉は、彼女の耳へと無事届いたのかふっと彼女の体から力が抜け、その隙に一歩後ろに下がって様子を見るユウヒ。
「いえ・・・後半は願望のようなもので」
しかし彼の言葉が届いたところであまり状況は改善しない様で、キョトンとした表情で小首を傾げたエルフの女性神官は、小さく頭を横に振ると真っ白な肌を僅かに桃色に染めて苦笑を洩らす。
「・・・聞かなかったことにします」
「・・・そうですか、残念です」
頬に手を当てながら私の初めて云々については交渉ではなく願望だと話す女性に、ユウヒはさらに一歩後ろに下がると何も聞かなかったことにするようで、一言そうつぶやくと疲れたように顔を萎め、心底残念そうな女性に肩を落とすと脱力しそうになる体に力を籠める。
「でも・・・新しい器が出来たら一番に買いに行きますので!」
「お、おう・・・作ったらな」
「はい!」
残念そうな表情を浮かべながらも、すぐに気持ちを切り替え笑顔を浮かべた女性に、思わずまた一歩後退しったユウヒ。一方エルフ女性は一歩下がったユウヒに向かって一歩前に出ると、元気な声で嬉しそうに頷く。
「・・・ところで、ゴブリンと仲良くなった切っ掛けって何なの? 前から仲良かったとか?」
無言の笑顔に思わず苦笑いを浮かべてしまうユウヒは、彼女の真っ直ぐな視線から逃げる様に顔を横に向けると、また一歩にじり寄ろうとしていた女性にゴブリンと仲が良い理由を問いかける。
「・・・耳ですね」
「耳?」
ユウヒの質問を受けにじり寄る事を止めた女性は、ユウヒの見詰める先に目を向けると微笑を浮かべながら耳だと話し、首を傾げるユウヒに自らの細く長く張りのある耳を動かして見せた。
「エルフにとっては耳は特別なのです。それがゴブリンさんもそうらしく、耳談議で盛り上がって・・・そのまま仲良くなっていましたね」
目の前でピクピクと可愛らしく動く耳を見詰めるユウヒに、彼女はエルフにとって耳は特別な意味を持つと話し、それはゴブリン族にとっても同様であると言う。
目の前の女性もゴブリン族も、肌の中で一番きれいなのは耳であり、そこにはピアスなどの装飾品は一切付けられていない。それは彼女達が素のままの耳を良しとし、小さな傷をつけることを嫌うほど大事に扱っている事の表れである。
「耳か・・・長くて確かに綺麗だもんなぁ・・・ぁ」
元から肌のきれいなエルフ達の耳は特に滑らかで、改めてみると何とも言えない色気を感じさせ、別に耳フェチと言うわけでもないユウヒも思わず心の声を洩らしてしまう。自分の口から洩れた言葉を認識したユウヒは、気まず気な声を洩らすとエルフ女性を見ながら頬を掻く。
「・・・・・・ゆ、ユウヒさまが触りたいと言うのであれば、いいですよ・・・?」
ユウヒの口から洩れ出た言葉に一瞬きょとんとした表情を浮かべた女性は、頬を掻く彼と目が合うと急激に顔を赤く染め上げ、耳どころか首まで真っ赤にして俯く。その姿にユウヒまで頬を赤くしていると、蚊が鳴くようなか細い声で呟いた女性が自分の赤くなった耳を触りながらユウヒを視界の端で見詰める。
「・・・・・・それって、誰にでも触らせるものじゃない奴ですよネ?」
思わぬ発言でユウヒとエルフ神官の女性を中心に甘い空間が拡張されて行くハラリアの一画、しかし女性の潤んだ瞳を見詰めたユウヒの表情は何故か引き攣っており、どうやら彼女の瞳の奥で揺れる怪しい光に嫌な予感を感じた様だ。
「・・・伴侶でも中々触らせないですね」
「遠慮しておきますね?」
背中を這うような悪寒を感じる勘に従ったユウヒの判断はある意味正しかった様で、エルフの耳とはたとえ伴侶になったとしても、軽々しく触らせるものではない様である。
「そうですか、残念です・・・」
そんな耳を触らせると言う事はエルフにとっての交際の申し込みであり、触ると言う事はその申し込みを受けたことになるのだが、その試みに失敗したエルフ女性は赤みの引いてきた顔を残念そうに萎えさせると、耳が良く見える様に掻き上げていた髪を戻し捻じる様に弄ぶのだった。
それから十数分後、しきりに耳をアピールしてくる神官エルフから逃げてきたユウヒは、遠くに修理中の東門が見える広場の切り株に座ている。
「ふぅ・・・なんかつかれた」
獣人たちのパワーと滑車により、じわじわと引き上げられている巨大な門を見ながら溜息を吐いたユウヒは、いつも以上に覇気の籠らない声で小さく呟く。
「おっかしいなぁ、エルフってもっとこう御淑やかな感じだったと思ったけど」
ユウヒの中にあるエルフ像と違う女性神官の姿に首を傾げる彼の中では、エルフはもっとお淑やかで性に対してそれほど旺盛ではない様だ。しかし現実はユウヒ達と大して変わらない性観念を、むしろ強い異性に引かれると言う意味ではずっと性に対して積極的である。
「あの瞳の奥で僅かに揺れる光は肉食女子と同じ奴だったぞ?」
そんな非情な現実を、エルフ女性の目の奥で揺れていた怪しい光で察したユウヒは、どこかの歓楽街で良く感じる雰囲気を思い出して肩を落とす。どうやらこの世界に住むエルフ女子の内に秘める獣は、可愛げのある小動物ではなく、チャンスを逃さぬ狩人の如き肉食獣のそれである。
「やっぱ世界が違うと色々変わるのかな? こっちの世界は開放的なのだろうか?」
大体にしてユウヒの想像するエルフ像などと言うものは、大半が所詮地球の創作文化によるところである為、それが実際の異世界の実情と100%合致することなど有りはしないのであろう。その事を理解しながらも何とも言えない気分になったユウヒは、都会では感じることの少なくなった澄んだ空気と空を見上げゆっくりと息を吐く。
「オークはそういう気配全力だからわかりやすいんだけどなぁ。まさか精霊達が逃げてー、なんて言ってくるとは思わなかったが、相当慌ててたけど何があったのやら?」
見た目と中身の差など、日本でも違うことが多い女性と言う生き物の事を考えるユウヒ曰く、むしろオーク女子は裏表がなくてわかりやすいと零す。しかし、だからと言ってそっちがいいわけではないといった表情で周囲に目を向けたユウヒの視界には、宙を舞い飛ぶ精霊たちが必死な表情で手で×を作たり首を振っている。
「・・・そういえばオーク女子は大人しくしてるんだろか? ちょっと不安になって来た」
そんな精霊たちの様子を不思議そうな笑みで見詰めたユウヒは、今思い浮かべたばかりのオーク女子の生態を考えると急に不安な気持ちが込み上げてきた様で、
「でも近寄るのは怖いし・・・よし、外壁の上から探すかな」
妹と言うよりクマの心配をする必要がある相手に、彼自身も近づきたくはないらしく、視線の先にある外壁を見上げると、遠くから観察してみようと歩き出す。
「えっと登り口は、ちょっと遠いな・・・【飛翔】」
ゆっくりと外壁に近づきながら階段状の登り口を探したユウヒは、階段までの距離とその高さに眉を寄せると迷わず魔法を使うのであった。
「ほんっと魔法って便利だよなぁ、日本に帰ったら無意識に使わないように改めて注意しないと」
ふわりと飛び上がったユウヒは、周囲に精霊を伴いながら低空を外壁に向かって飛び進む。そんな迷いもなく魔法を使った自分の姿に、すっかり魔法のある生活に慣れてしまったと改めて感じたユウヒは苦笑を洩らす。
「魔力の回復手段他にも考えないとな、向こうに魔力を持っていけないものか・・・酸素ボンベ? もしくは電池みたいなイメージだろうか」
このままでは日本に帰った後も、人前で思わず魔法を使ってしまいかねないと眉を寄せるユウヒ。しかし便利なものを使わないのはもったいないと感じたユウヒは、どうにか日本に帰っても問題なく魔法を使えないだろうかと、外壁の上に到着するまでの間ぶつぶつと呟き考えるのであった。
いかがでしたでしょうか?
この世界のゴブリンとエルフは仲良く出来そうですが、異世界の人はエルフに若干の恐怖を感じてしまった様ですね。何か過去に色々ありそうですが、それはまたの機会があればと言う事で、次回もおたのしみに。
それではこの辺で、またここでお会いしましょう。さようならー




