第百十五話 獣魔同盟
どうもHekutoです。
修正等完了しましたので投稿させてもらいます。楽しく読んでもらえれば幸いです。
『獣魔同盟』
ハラリアの東側外壁で行われていた森の住民と基人族の攻防は、森から魔族の大部隊が現れたことで瞬く間に情勢が変わって行った。
ユウヒの魔法とパフェの挑発により、攻城兵器の攻撃を限定させられていた基人族は、それによる膠着状態の中でも着実に門への損害を広げていたが、魔族に背後をとられたことで一気に瓦解。
「こっちだ道があるぞ! 森に逃げ込め!」
縦横無尽に戦場を駆け抜けるラミア、浸透攻撃を仕掛けてくるゴブリン、圧倒的な圧力で蹂躙していくオーク。そんな魔族から這う這うの体ながら生き延びた一部の基人族は、偶然か意図してなのか現れた逃げ道を見つけると、周囲の仲間に声をかけ森へと逃げ込む。
「急ぐぞつかまれ!」
「いてぇいてよ」
「早くしないとまた来るぞ! 後ろは気にせずとにかく前に向かって歩け!」
基人族には一人として無事な者はおらず、大小の差はあれど皆傷だらけである。それでもまだ動ける者達は、一人では逃げられない者達に手を差し伸べて支え合いながら森の中へと逃げ、怪我人にあわせて歩く人々の列の後ろでは、警戒と殿の為に武器を構えた兵士が声を上げて周囲を鼓舞していた。
「おいてかないでくれ!」
「ああ! 引きずっても連れていくさ!」
「いてちょ!? もっとやさしく!?」
また兵士とは違った粗野な出で立ちの男達は、動けない者達を率先して担ぎ上げて森の中と外を往復している。しかし、その姿から傭兵か何かだと思われる彼らは、出で立ち同様に行動も粗野な様で、彼らに運ばれる者達は文字通り引き摺られて行き、つい先ほどまでとは違う種類の悲鳴を上げるのであった。
そんな基人族の様子を見ていたゴブリンキングのロハンは、じっと彼らの行動を見詰めると大きな声を上げる為、戦場の埃で荒れた口を開く。
「逃げる者は追うな! それよりもハラリアの壁となれ! 大楯隊は急ぎ壁を作れ!」
猛禽類の様な目を向けていたロハンは、その気迫と違い追撃することは考えていない様で、大きな声で出した指示は基人族を見逃すものであった。それよりも彼はハラリアの防備を優先し、大楯隊と呼ばれる横にも縦にも大きく、ロハンですら隠れてしまうような盾を複数人で担ぐゴブリン達を急かす。
「イソゲ! ハヤクモッテコイ!」
ロハンの指示に背筋を伸ばしたゴブリン女性は、その小柄な体から出るとは思えない大きな声で大楯隊を急かし、彼らの進路を確保しながら盾に付いている飾り紐を引っ張る。
「ゴブッ!? ヒッパルナタオレル!」
「ノロマハヤクシロ!」
一方、大きく重い楯を担ぐゴブリン男性達は引っ張られたことにより崩れたバランスに慌て、バランスが崩れたことで最も負荷を受け持つことになってしまった先頭のゴブリン男性は、必死に声を上げるも辛辣な声を受けて思わず口を噤んでしまう。
「オモインダ! シカタナイダロ」
しょげた顔で肩を落とすゴブリン男性の後ろから顔を出した大楯隊の仲間は、先導してくれるとは言え邪魔にもなっているゴブリン女性に声を荒げ、その言葉にほかの仲間も賛同して不満を喚き始める。
そんな彼らの担ぐ楯に突然影が差す。
「あらん? 重いのなら手伝ってあげましょうか?」
『ゴブッ!?!?』
急に周囲が暗くなったことに喚いていた口を閉じたゴブリン達の細長い耳に、影を落としていた人物からどこか甘ったるく背筋に寒気を感じる様な声が届く。その声を聞いた瞬間、彼ら大楯隊のお尻になぜかきゅっと力が入り、同じタイミングで飛び上がったかと思うと、それまでの遅い動きが嘘のように機敏なものへと変わる。
「ウワ!? ハヤイ!」
突然移動速度を上げた大楯隊ゴブリンズに驚きの声を上げたゴブリン女性は、迫って来た大楯隊の手により楯の上に撥ね飛ばされると、とんでもない速さで移動を再開した大楯にしがみ付いて大きく目を見開くのであった。
「・・・なぜ逃げる」
ゴブリン達が立ち去った後に残されたのは、大楯を持ち上げるのを手伝おうとして上げた右手が悲しく空を切り、深く影の落ちた顔で納得のいかない感情を低い声で洩らすオーク・・・もといコズナ。
「・・・言わせたいのかの?」
「だからあたしは襲わないって言ってるでしょ!」
彼女の哀愁漂う大きな背中を見詰めていたロハンは、誰にでもなく呟かれ、しかし不思議と自分に問われているようにも感じる声に、生暖かい視線を添えて問い返す。その問い返しだけで返答にもなっていたロハンの言葉に、コズナは素早い動きで振り返ると心外だと唾を飛ばしながら叫ぶ。
「ふふ、見分けがつかないのだろ」
「失礼しちゃうわね! ・・・・・・」
心臓の弱い人ならそのまま鼓動が止まってしまいかねない迫力のコズナに、ロハンはくつくつと笑いながら見分けがつかないのだろうと話す。魔族であっても種族が違うと個人の見分けが難しいらしく、納得せざるを得ない理由であるがそれでもコズナは不満であるらしく、大きな鼻息を洩らしながら寂しそうな目で働くゴブリン達を見詰める。
「はっはっは・・・ん?」
「援軍感謝する! ハラリアの代表であるウォボルだ」
彼女自身が言っていた通り、ゴブリン達が働く姿には母性を擽られているらしく、しかしその感情に反して怖がられるている現実は何とも言えない苛立ちをコズナに感じさせていた。そんなコズナの姿に思わず笑い声を上げてたロハン達に、獣人の集団が土煙を上げながら近づき、先頭を走っていたウォボルは地面を僅かに削り止まると、目の前のロハンに大きな声で感謝を伝える。
「あらん素敵なおじ様ですことぉん」
「久しいの」
「うむ、お主が森の奥にまで来るなど何時ぶりであろうか」
歳など感じさせないウォボルの眼光と気迫に、先ほどまで落ち込みと苛立ちで珍妙な表情を浮かべていたコズナは、熱い鼻息を洩らすと頬を緩めて熱の籠った視線をウォボルに向け始めた。一方、互いに睨むような目で見詰め合っていたゴブリンキングと獣人の長は、不意に口元を緩め笑みを浮かべ合うと、懐かしい友人と話すような気安い言葉を掛け合う。
「あら知り合い?」
「古い付き合いだ」
どうやらこの二人は昔からの知り合いであるらしく、互いに笑みを浮かべ合う二人を見比べたコズナは、納得したような表情を浮かべながら溢れ出そうとする涎を飲み込む。
「ゴクリ・・・ぐふふぅ」
「ウォボル殿お久しぶりです」
年季を感じさせる男同士の友情が醸し出す色気を感じたコズナが発情していると、少し駆け足気味に現れたラミア騎士団の副団長がウォボルの前で止まり、いつもより幾分高く感じられる声色でウォボルに話しかける。
「む? ・・・おお、もしやアコナ家のお嬢さんか、大きくなったの」
「アテリ・アコナ。義によって助太刀に参上しました」
どうやらロハンだけではなく、ラミア騎士団副団長こと、アテリもウォボルと面識があったらしく、しかしそれは彼女がまだ騎士となる前の話であるらしい。その事を示す様に、アテリを僅かに見下ろすウォボルの目は、まるで孫でも愛でる様に細められており、そんな視線を向けられるアテリは少し恥ずかしそうである。
「なぁに? 仲間外れなのって私だけ?」
「お主の事も知っておるぞ? オークレディースのコズナ殿であろう? まぁ・・・ユウヒ殿の伝手が魔族傭兵でも有名なお主達とは思わなかったがな」
そんな旧交を温め合う様な空気を感じ取ったコズナは、少し不満そうな声と鼻息を洩らす。僅かな疎外感に対して素直な反応を示したコズナにロハンとアテリが苦笑を浮かべていると、ウォボルはニヤリとした笑みを浮かべながら、コズナ達オークレディースについては森にも名が聞こえてきていると語った。
「あらん♪ 知っててくれるだなんて誘ってるの? いいわよ一肌ぬい「それはいらぬの」・・・・・・」
「ワシも歳だからな、お主の相手は務まらんだろ・・・ふぉっふぉっふぉ」
ユウヒの人脈に少し呆れ気味なウォボルが話したように、彼女達オークレディースは閉鎖的な森にもその名が聞こえて来るほど有名な傭兵である。しかしそれは良い評価だけではなく、悪い評価の方も同時に伝わって来ており、舌なめずりをしながらにじり寄って来たコズナの言葉を即座に遮るウォボル。にじり寄って来た姿勢のまま固まるコズナに肩を竦めたウォボルは、先ほどまで基人族の兵士をなぎ倒していた人物と同じ人物とは思えない、穏やかな笑い声を洩らす。
「そう、それじゃ代わりにユウヒ君「全力で阻止させてもらう」・・・ひどくなぁい?」
先ほどまでの気迫が霧散し、どこか好々爺と言った笑い声を洩らすウォボルに詰まらなさそうな表情を浮かべたコズナは、鼻を僅かにひくつかせると軽いステップでハラリアの門へと足を向け不穏な言葉を洩らす。しかし、彼女の次の一歩は周囲を囲み槍を構えたラミア騎士達によって止められてしまう。
「恩人が目の前で死ぬのを見る気はないぞ」
「・・・・・・否定できないわね」
鋭い眼光と槍を向けられる事に頬を膨らませ不満を漏らすコズナは、心底呆れたアテリの声を背中で受けると、目を瞑りしばらく穏やかな表情を浮かべた後、目を開き顔を引き締めると小さく否定できないと呟く。どうやらコズナは必死に自分と向き合い否定の言葉を捜したようであるが、結局見つからなかったようで、すぐに照れたような笑みを浮かべる彼女の姿に、周囲のラミアは鋭い眼光を呆れた様に緩めるのだった。
「圧死かの?」
「圧死だろうの」
『アッシ・・・』
周囲でコズナの部下たちが理解を示す様に頷く中、ウォボルはユウヒの死因を予想しロハンもその予想は正しいだろうと頷く。それ程までに体格差のあるオークとユウヒである、ロハンの隣で話を聞いていたゴブリン達が、その姿を想像して思わず震えた声を洩らすのは仕方ない事である。
<ユウヒに逃げるように伝えないと!>
<ユウヒがつぶされる!?>
「・・・慕われてますね」
小さなゴブリン達がユウヒの危機に小さな声で話し合う声は、争いが落ち着いて戻って来た精霊たちの耳にも入り、困った様に笑みを浮かべる祈祷師のキエラの視線の先を慌てて飛び去って行くのであった。
キエラは微笑ましそうに、そして少し羨ましそうに笑みを浮かべてから2時間後、ここはウォボルの屋敷にある会議用の大部屋。
「それでは! 仮の同盟締結会議を始める!」
「その前に質問なんだけど」
「なんじゃ?」
板張りで道場のようなその部屋には、人、獣人、魔族の多種多様な種族がいつぞやの緩い会議同様に多重の円を描くように座っている。そんな中、その場に居合わせているユウヒから質問の声が上がり、勇ましく会議の開会を告げたウォボルは肩透かしを食らったかのような顔で首を傾げた。
「なんで俺が真ん中に座らされてるの?」
ウォボルに肩透かしを食らわせたユウヒは、きょとんとした目で見てくるウォボルを見上げると、自分の現在位置についての疑問を問いかける。
現在ユウヒは、車座に座る人々の最も真ん中の輪に座り、さらに魔族側の代表と森の住民の代表に挟まれた、まさに中心に座らされていた。本来円を描く座り方は、上下を作らぬ平等な関係を表す意味があるのだが、現在ユウヒの座る位置は周囲の関係性から明らかに重要人物が座る位置である。
「何を言っておるんじゃ、お主が要だからじゃろ」
「そうですね。我々と獣人の仲介に必要な人材だ」
「えー・・・」
そんな位置に座らされて不満しかないユウヒであるが、彼の言葉に賛同してくれる人物は誰一人と居らず、むしろ周囲に人々はユウヒの位置に好意的な視線の方が多い。
「なるほど俺等は巻き添えか」
「フン! フン! フン!」
「・・・姉さんは、楽しそうね」
右からはウォボルの呆れた様な声を受け、左からはアテリの信頼が籠った声を受けるユウヒの背後では、すでに二度目となる巻き添えを喰らったクマが諦めたような呟きを洩らす。そんなクマの目の前には、尻尾があったら全力で振ってそうなパフェがユウヒの肩に手を置き、周囲に溢れるファンタジーを膝立ちになった少し高い位置から見渡している。
「・・・まぁいいか」
「流すなよ!」
美女のお尻が目の前で左右に揺れているが全くドキッとも出来ないクマは、濁った眼でしばしその光景を見詰めると、天井を見上げ考える事を放棄した。そんな背後から聞こえて来たクマの声に、ユウヒは援軍が絶たれたことを察して思わず振り返りクマにツッコミを入れる。
「ほっほっ・・・ゴブリン族としても獣人族は知らぬ仲ではないからの、ユウヒ殿にはいろいろと礼もあるし」
「あたし達も礼を返しただけだけどね」
「事前の話し合いである程度結論は出ているが、確認して行こうかの」
せめて頭の上ではしゃぐパフェをどうにかしてほしいと言った視線をクマに向けるも、即座にクマから首を横に振られるユウヒに、周囲は暖かい視線を向けながら特に何か注意する事無く話を進めて行く。
「それじゃ俺いらないよな・・・」
「諦めも大事だぞユウヒ!」
それでも何とか状況を改善しようとするユウヒであるが、彼の心労の元の一つであるパフェから元気よく諭すような声が降り注ぎ、ユウヒは肩を落としてようやく諦めるのであった。
「先ず、大前提として今回の同盟は仮である。今は基人族への牽制の為にも迅速さが求められるからの」
「エルフとしてもそれで構いません」
静かになったユウヒを確認したウォボルは、満足気に頷くと魔族と森の住人の同盟を告げ、この同盟が今回の騒動を早期に終着させるためにも必要だと語る。彼の言葉にリーヴェンもいつもの柔らかな笑みを浮かべながら賛同し、森の住民達の代表も特に不満なく頷いていた。
「ラミア、と言うより魔族も問題ない・・・ただ」
一方、魔族側の代表として座っているアテリもリーヴェンと同じように鋭い目を僅かに緩めた笑みで頷き賛同するのだが、少し困った様に眉を寄せるとユウヒを見詰めながら小さく言葉を濁す。
「・・・む?」
「ユウヒ殿、あなたは魔王城で何をしたのだ? 魔王様しか使用できない魔王印の入った手紙がラミアの領主と騎士団宛に届いたらしいのだが・・・」
「ほう?」
視線を感じて顔を上げたユウヒは隣に座るアテリを見上げて首を傾げ、彼の頭上ではパフェが見つめ合う二人を見比べる。周囲からの視線が集まる中、言葉を濁していたアテリは意を決したように目を細めると、彼女が言葉を濁した原因について問いかけ、その問いかけにウォボルは面白そうに声を洩らす。
「ユウヒ殿に格別の配慮をするようにとのお達しで、今回の騒動に助力してもらった件も伝わっている様なのだ」
「・・・手紙が来たの? 早くね?」
アテリの問いかけに少し驚いた表情を浮かべたユウヒは、自分の事を棚の上にあげて指折り数えると、魔王城で彼女達との出会いについて話してから手紙が届くまでの時間が早いことに、小首を傾げながら不思議そうに呟く。
「特殊な方法でな、緊急時しか使わないのだが流石に皆驚いていたよ」
ユウヒの疑問は尤もだと言った表情で、特殊な方法がとられたと話すアテリは、非常事態などの緊急時しか使われない手段で届けられた、魔王印が押された手紙を読んだ領主と騎士団長の顔を思い出し苦笑を洩らすと、同時に自分が問い質されたことを思い出して小さな溜息が洩れる。
「ユウヒ殿は魔王城の世界樹を復活させたそうだ・・・正直母樹様のお言葉が無ければ信じられんかったがの」
「ええ、母樹様はとてもお喜びでした」
僅かに心労の見えるアテリの疑問は、魔族達共通の疑問であった。ユウヒが魔王城に向かったことは皆知っていても、そこで何をして来たのか知る者はこの場の魔族には居ない。唯一キエラだけは何か隠している様に苦笑いを浮かべているが、ウォボルとリーヴェンの話を聞くと周囲の魔族同様驚いた様に目を見開く。
「・・・なんと、母樹様はご無事であったか」
「はい、世界樹の方は奪われましたが今もシュリ様と共におられます」
「それがあの世界樹の、精霊様の名か・・・」
周囲の魔族同様に驚いた表情を浮かべたロハンは、母樹の無事を知りホッとしたように肩から力を抜くと、リーヴェンの説明を聞いて会議場に向かう間に見たハラリアの世界樹を思い出し、感慨深げに深く呟く。
「我々は母樹の世界樹が最後の世界樹だと聞いていたのだがな」
「ふふ、いろいろとあったのですよ」
満足気に頷くロハンを横目に、アテリは呆れとも不満とも取れそうな表情で、聞いていた話しとだいぶ違う状況について呟き、そんな彼女の表情に笑みを深めたリーヴェンは楽し気に話しながらチラリとユウヒに目を向ける。
「話がだいぶ逸れておるの」
「まぁいいじゃない。とりあえず獣人と魔族は同盟しました! 詳しい話は後でじっくりしてもらうとして、しばらくは滞在させてもらうってことで・・・ねぇ?」
ただそれだけでユウヒが関与していそうだと感じ取った魔族側が口を開く前に、ウォボルは話の流れを元に戻すのだが、すでに飽きてきていたコズナにより話が遮れ、元々彼女たちの要望として挙がっていた一時滞在について許可を求められる。
「・・・まぁ良いが問題を起こすでないぞ?」
「我々が監視しておく」
「・・・」
許可を求めるのに誘うようなウィンクまで付けて来たコズナに、何とも言えない表情を浮かべたウォボルは渋々と言った顔で問題を起こさないように念を押す。滞在許可が出たことにオーク族が嬉しそうに声を出す中、ロハンはウォボルの視線を受けてしっかりと頷くのだが、彼らの視界の端でユウヒは浮かない表情を浮かべていた。
「安心してくれ、ユウヒ殿には近づかせない故」
「どういう事よ!」
「・・・・・・!」
どうにも嫌な予感を感じているらしいユウヒに気が付いたアテリは、ユウヒに目を向けると自らの胸を叩き安心させるような笑みを浮かべる。話しながらユウヒを守る様に尻尾で壁を作った彼女の言動と、そんなアテリにツッコミを入れるコズナのやり取りを見ていたパフェは、何か気が付いたのかユウヒの肩を強く掴むと、威嚇するように魔族の女性陣を睨み始めるのだった。
「ふむ・・・まぁあと数日のうちにはマルターナ国軍が動くじゃろうて、事態が治まるまでは魔族は皆滞在してもらって構わん」
「それでいいわよん」
「ただあまり歓待は期待しないでくれ、住居の建築だけでも忙しいのに壁まで壊れたからの」
頭上で小型犬が威嚇するように洩らす小さな唸り声に、不思議そうな表情を浮かべるユウヒ達を見ていたウォボルは、興味深そうな表情で顎髭を撫でると小さく息を吐き、期限付きで魔族全員の滞在許可を出す。期限付きとは言え真面な滞在先に喜ぶ魔族一同であるが、歓待は出来ないと話すウォボル。
歓待できないというウォボルの言葉は、別に魔族に対する差別や猜疑心などではなく、単純にその余裕が無いからである。現在ハラリアの人口は数倍にまで膨れ上がっており、基人族の攻撃もあって様々な場所で手が足りない状態なのだ。そこには大量の魔族を歓待する余裕などあるわけもなく、住居も確保できない為に、現在は急ピッチでテントや仮設住宅を用意していると言った状況である。
「別に歓待なんていらないわよ? むしろ手伝ってあげるわん」
そんな状況であることは、魔族達もゴブリン達の情報収集能力によってわかっている為、理解を示す様に頷いて見せ、むしろ大変であるならば手伝いもするとにこやかに話すコズナ。
そんな、一見善意による提案の様にしか見えない笑みを浮かべるコズナの姿に、大多数の森の民は嬉しそうな笑みを浮かべるのだが、一部の人間、特にユウヒは眉間に深い皺を作る様に眉を寄せると、
「・・・獣人が襲われる予感しかしねぇな」
ぼそりと、しかしよく聞き取れる声で呟く。
「そ、そんなことしないわよ? やぁねぇ?」
その呟きにびくりと肩を跳ねさせたコズナは、僅かに浮いたお尻を床に落ち着けると固い笑みでユウヒに笑いかける。しかしその顔からは妙な汗が流れ出しており、彼女の後ろに控えるオーク女子も周りと視線を合わせないようにしながら全身から汗を流す。
『・・・・・・・・・』
まだ昼前と言う事もあって涼しい時間にも拘らず、突然大量の汗を流し始めたオーク達に、周囲からは何とも言えない視線が集まり、ユウヒの呟きの危険性を感じた者達は満場一致で滞在中のオーク監視を決定し、ラミア達は自らオーク女子の取り締まりに立候補する。
その後も同盟について詳しい話しが小一時間ほどなされ、昼食の時間と言う事もあって会議はにこやかな雰囲気で解散、しかし頭の上に唸る小型犬を載せたユウヒは、いつものやる気なさげな顔で終始訝し気に眉を寄せていたのであった。
いかがでしたでしょうか?
獣人族と魔族が仮同盟を締結した様です。基人族を退け一応の平和を取り戻したハラリアですが、不思議とユウヒの感情は優れない様です。これはまだ何かあるのか、単純に頭上の小型犬が重いのか、続きをお楽しみに。
それではこの辺で、またここでお会いしましょう。さようならー




