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ワールズダスト ~現世に現れし黒き森~  作者: Hekuto
第一章 救出と救済

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第百三話 妙な予感に鈍る足取り

 どうもHekutoです。


 修正等完了しましたので投稿させていただきます。ユウヒの物語を楽しんで頂ければ幸いです。



『妙な予感に鈍る足取り』


 ここは名も無き異世界で最も緑あふれる場所、その中層に位置する獣人たちの首都であるハラリア。


「ふふ、ふふふ・・・」


「んっふふぅ♪」

 そこには若々しく巨大な世界樹が聳え立っており、獣人達やエルフ達を暖かく見守っている。そんな世界樹の足下には限られた者だけが入れる広場が作られており、ユウヒの制作物が並ぶ広場では楽し気な笑い声が漏れ聞こえていた。


「どうやら成功した様ですね。あぁ一時は我が身の不幸を呪いましたが、こんなにも幸運が続くとは・・・なんだか怖くなります」

 しかしその笑い声にはどこか怪しげな雰囲気も混ざっており、笑い声の主である母樹は若葉のベッドに座りながら、頬を上気させた表情でその体の大きさに似つかわしくない妖艶な笑みを浮かべ身を捩っている。


「おとうさんまだかなぁ」

 その隣では、母樹と違い無邪気な笑い声を洩らすシュリが、父と呼ぶユウヒの帰り小さな精霊達と共に待ちわびている様だ。


「帰ってきたらびっくりさせましょう」


「うん!」

 両者ともにユウヒの帰りを待っている様で、若葉のベッドに二人で並びながら笑い声を洩らしている。一見何事も無いようであるが、その場からは、いや二人の感情からは確実にユウヒを怯ませる何かが溢れており、どうやらユウヒの勘はこの気配を感じ取っていた様だ。





 ユウヒの帰りを待ちわびる二人の精霊の噂話は、風の精霊により迅速に届けられ、その風を感じ取ったらしいユウヒは、


「ぶえっくしゅん!」

 例の如く盛大なくしゃみを広い空の上で放っていた。


「・・・これは、悪寒?」

 魔法で体を保護しているとは言え、通常であれば防寒具も着ないで居れる場所ではない高空は、確実にユウヒの体を冷やしたようで、くしゃみと共に悪寒を感じたユウヒは、しかしその悪寒が本当に寒さからなのかわからず首を傾げる。


「うん、そうだな・・・無理は良くないから長めに寄り道をしよう」

 森に近づけば近づくほど、様々な虫の知らせを勘が察知することで、今では逆に勘が鈍くなってしまっているユウヒは、このまま一直線に森へと進む事に僅かな不安を感じ、その不安に従いユウヒは長めの寄り道をすることを決めるのだった。


「元々そのつもりだったし、農村がどうなったかも気になるし? それが少し長くなっても・・・ねぇ?」

 元より一度帰りに農村に寄る予定であったわけで、その予定が少し長くなったところで想定内であると、誰に言い訳しているのか分からないユウヒは、精霊すら見当たらない空の上で誰ともなく同意を求めると、前に進めていた体をその場に停滞させる。


「えっと、このまま行くと小一時間くらいで着くな。そろそろ高度を落とすか」

 地図と周囲の風景をもとに大体の位置を確認したユウヒは、バッグの中に使い慣れて来た地図を仕舞うとバッグを体の前で抱きしめ頭から一気に高度を下げながら加速し始めた。正直体に悪そうな軌道であるが、ユウヒの魔法はしっかりと術者の体を保護できている様だ。





 それから小一時間後のとある農村、農村とは言え人口は二人と言う村とは言えないその場所には、ユウヒが立ち去った頃とは全く違う光景が広がっていた。


「おいもー♪ おいもー♪」

 楽しそうに歌うミノ族の女性であるミルーカの周囲は、芋が大きく新緑の葉を広げており、収穫した場所には大きな芋が多数転がり大地は潤った土の色と大地の香りに満たされている。


「ふふ、楽しいですね」

 そんな彼女の様子を心底楽しそうに見詰めるイジェの姿は、普段と違って鎧ではなく、つばの広いストローハットと厚手の作業着を着こんでおり、肌の見える部分からは青白い肌が見え、その肌からは時折後ろの光景が透けて見えていた。


「うん! こんなにお芋で溢れた畑なんて何年ぶりだろうね!」


「私が知っている限りでは一番豊作でしょうね。・・・と言うより、これって本当にいつものお芋なのでしょうか?」

 基本的にはいつも楽しそうなミルーカであったが、ユウヒが去ってからはたまに見え隠れしていた影もすっかり見なくなっており、それもこれもユウヒが残して行った魔力活性化装置による影響である。


 葉の色が薄く萎れていた芋畑は、今では当初の三倍以上の背丈になっており、屈むと彼女たちの姿も見えなくなってしまい、そこが芋畑であるか疑問に思えるほどの成長具合だ。実際にイジェも収穫をしている今ですら疑問に思えてくるほどの様で、数年ぶりの豊作に喜ぶミルーカに水を差すつもりはなくとも、思わず首を傾げてしまう。


「いつものお芋だよ? 確かに一回り大きかったり、いつもより一つの根に付く数が多かったりするけど」


「形と色は大体おなじなんですよね」

 イジェが零した疑問の声に振り返ったミルーカは、心底不思議そうに首をかしげながら若干いつもと違う芋畑を見渡し、いつもと違うところを上げていきながら採れたて新鮮な泥付きの芋をイジェの両掌に置く。ミルーカの言う通りの状況であるが、それ以外、形や色などはいつも食べている芋と変わらない芋の姿に頷くイジェであるが、そのあまりの大きさと重さのせいで顔には苦笑が浮かべられている。


「だからいつものお芋と一緒だよ! きっとこれもユウヒのおかげだね」


「えぇ・・・確実にそうでしょうね」

 いつもの芋と同じと言い張る、むしろ嬉しそうに笑いユウヒのおかげだと体を揺らしながら語るミルーカに、イジェは困ったように笑うと、その視線を自宅脇の空に伸び上がるような太い柱に向け、彼女の言葉に心の底から同意した。


 イジェが見詰める先には、ユウヒが設置していった風見鶏とその土台と言う名の本体である魔力活性化装置が悠然立っており、設置した直後は幾何学模様の魔力光が美しい柱であったものの、翌朝にはツタが巻き付き、現在ではすっかり緑のヴェールに包まれている。どうやらそれらの草木は樹の精霊が用意したものであるらしく、空気中の不活性魔力を柱へと送り込んで、逆に柱から発生した活性魔力を効率よく空気中に散布しているようだ。


「他の畑も予定より早く成長してるし、これなら今年も来年も食べるのに困らないね」


「むしろ売ってもあまった残りで生活出来そうです」

 緑が濃くなっているのは活性化装置やその近くの芋畑だけではなく、植えられた種類ごとに区分けされた畑はどこも大きな葉が茂っており、簡単に予想しただけで彼女たち二人では食べきれない量の作物が収穫できそうであった。


「焼き畑場もあっと言う間に緑に覆われたし、ユウヒが来たらいっぱいお礼してあげないと!」

 さらには、ミルーカが嫌う黒い焼き畑の失敗跡地まで緑は覆いつくしており、わずかに名残が見える場所に目を向けた彼女は機嫌の良い笑みを浮かべると鼻息荒く気合を込め、ユウヒへのお礼に熱のこもった声を上げる。


「ふふふ、そんなに気合い入れてたらユウヒさんが逃げちゃいますよ?」


「ええ!? なんでー?」

 お礼に気合を入れ立ち上がるミルーカを、きょとんとした表情で見上げていたイジェは可笑しそうに笑い出し、そんなに気合を入れすぎていたらお礼をする前にユウヒが逃げてしまうと話しながら、驚くミルーカにくすくすと笑い声を漏らす。


「そりゃ、そんなに鼻息荒かったら襲われそうで怖いからな、男としては恐怖を感じるよ」

 イジェの言葉が理解できないミルーカは、心底不思議そうに首をかしげるも、そんな彼女に理由を教える声が空から聞こえてくる。


「失礼な! ・・・あれ!?」


「ユウヒ!?」

 突然空から聞こえてきた何者かによる、まるでオーク女の様な言われように顔を赤くしたミルーカは、勢いよく空を見上げると声を荒げたが、そこに居た人物が誰であるか認識すると驚きの声を上げた。そこに居たのは数日前にあったばかりで、返しきれないような置き土産を置いていったユウヒ。ミルーカと同時に空を見上げたイジェも、ユウヒの姿を確認すると驚きの声を上げる。


「・・・あーなんだか大変な事になっている様で、申し訳ない」

 畑にゆっくりと降りたユウヒは、久しぶりに感じる柔らかい土の感触にふらつきながら周囲を見渡し、変わりすぎたその光景に口元を引きつらせると、苦笑いで謝罪を口にした。


「ユウヒお帰り!」

 二人で収穫するには大変そうな畑になった原因は、すべてユウヒが設置した魔力活性化装置の影響である。説明されなくて、空から見渡せば理解できる円形に広がるった緑あふれる農村の姿を見て、背中に嫌な汗を流すユウヒであったが、彼を迎えたミルーカの声はとても好意的なものであった。


「お、おかえり?」


「御用は終わったのですか?」

 お帰りと迎えられて戸惑うユウヒであるが、食べ物に困らない地域での異常な豊作と違い、飢饉と言っても差し支えのない場所でのことである為、元々不満をぶつけられるなど有りようもない。そんな不安の解消したユウヒがほっと息を吐いていると、ストローハットを脱いだイジェが、ユウヒにとびかかろうとしているミルーカを片手で押さえつつ、用事は済んだのかと問いかける。


「ああ、無事世界樹の封印も解けたから、時間はかかるだろうけどこの辺りもしばらくすれば落ち着いてくると、思う」

 鼻息荒くハグをしようと両手を広げるミルーカの気迫が、本気でコズナ達オーク女子に見えてきたユウヒは僅かに後ずさると、魔王城で済ませてきた用事が終わったことを簡潔に伝え、しかし周囲の状況がすぐに落ち着くかは自信が持てないようだ。


「「・・・・・・ええええ!?」」


「おう!? 元気がいいな」

 自信の持てない微妙な表情で苦笑いを浮かべるユウヒであったが、そんなことよりも前半部分の時点で思考が凍結していた二人は、動きを止める女性二人に小首をかしげるユウヒが話しかけようとした瞬間、急に驚きの声を上げる。そのあまりの大声とタイミングの悪さで驚き肩を跳ねさせたユウヒは、思わず変な声を洩らすと微笑ましそうな笑みを浮かべるのであった。



 それから十数分後、簡単な説明では満足できなかった二人から、何があったのか詳しく説明を求められたユウヒは、農作業を切り上げた二人と畑からすぐの場所にある家の軒先でお茶を飲みつつ何があったのか話すこととなる。


 道中で見た魔族の大移動の話では二人とも微妙な表情を浮かべ、お城に不法侵入した部分ではミルーカが目を輝かせた一方、イジェは険しい表情で「鍛えなおしが必要だな」などと、どこか不穏な空気を感じる声を洩らしていた。


「なるほどそんなことが・・・」


「ユウヒはすごい祈祷師だったんだね・・・」

 ウルスを復活させた直後に起こった珍事については、自分とウルスの名誉のために伏せ、単純に魔力の使い過ぎで倒れたことにしたユウヒは、聖剣が壊れた話や魔力活性化装置作成時に入室出来た宝物庫の話などを楽しそうに話していく。


 ちょっと大変だけど楽しかったと話したつもりのユウヒと違い、話を聞き終えた二人は少し押し黙ると、イジェは心底感心したように深く頷き、しかしやはりぼそぼそと不穏なつぶやきを繰り返す。またミルーカは目をキラキラと輝かせながらユウヒを見詰め、まるで物語に出てくる祈祷師の様なユウヒの行いに声を震わせ感動している。


「いや、祈祷師ではないのだが(むしろ無職ですが何か・・・)」

 どうやらミルーカの良く知る物語には、精霊と語らい様々な事件を解決していく伝説上の祈祷師に関するお話があるらしく、精霊と話せるというユウヒに、彼女は物語の祈祷師を重ねてみているようだ。しかしユウヒは別に祈祷師ではなく、なったつもりもなく、心の中で自虐ネタに走りつつ困ったようにミルーカを見返す。


「そうですね。これはもう、魔族にとって救世主と言っても過言ではありません」


「きゅうせいしゅ・・・しゅごい!」

 祈祷師を否定したユウヒが、頷き肯定してくれたイジェに笑みを浮かべるも、続く彼女の言葉で頬が自然と引き攣る。イジェの言葉でさらに目を輝かせるミルーカがつぶやいた称号、それは認めたくないものの、すでにリオーネが公式に認めた称号であり、黒歴史が封印されたユウヒの心に多大なダメージを与える言葉であった。


「あぁ・・・否定したいところだが、まぁ結果的にそれっぽいことをした気がする。そう結果的であって意図したわけではなく・・・うぅん」

 しゅごいしゅごいと、何故か舌足らずな声で褒めるミルーカに頬を染めたユウヒは、疲れたように背中を丸めると、否定したくても否定できない事実に抗うかの如く言葉を並べ、しかし最終的に口ごもってしまう。


「ユウヒ、貴方は自分を過小評価しすぎではないでしょうか?」


「あぁたまに言われるけど、よくわからん。俺は俺のやりたいように・・・いや流されるままに行動しているだけだからなー」

 困ったように唸るユウヒの姿を見詰めたイジェは、魔族の常識では考えられないユウヒの異常な謙虚さに眉を寄せると、もっと誇ってもいいのだと言う意味も込めて過小評価のし過ぎだと語りかける。


 子供のころはまだそうでもなかったユウヒであるが、黒歴史を封印した以降は自分への過小評価がより顕著になっていた。それは前にも話したように、彼の周囲の人間は異常な才能の持ち主が多かったこともあって、どうしても自信を持つことが出来なかったためである。


「・・・」

 ユウヒの浮かべる表情を見詰めるイジェは、心を見透かすような澄んだ色の目を細めると、何か理解したように微笑みながら困ったように頷き、ユウヒは彼女の瞳の色に僅かばかり胸の鼓動早くすると視線を逸らし頭を掻くのであった。


「ユウヒはこの後どうするの? 今日も泊っていくよね?」


「ミルーカ・・・」

 二人がそんなやり取りしている間にだいぶ正気を取り戻してきたミルーカは、ユウヒの顔を覗き込むよう近づくと、また泊っていくのだと確信をもって問いかける。そんな彼女の問いかけと言うよりは確認のような言葉に、イジェは呆れたように彼女の名を呟き、ユウヒはミルーカを見上げると少し驚いたように目を見開く。


「んー泊めてもらえるならありがたいが・・・いいのか?」

 ユウヒも泊めてもらえないかと考えていなくはなかったのだが、まだ宿を決めるには少し早い時間と言うこともあって、もう少し進んで野宿の方向で考えていた。しかし暖かく楽しい食事と、屋根のある柔らかい寝床と言う誘惑には抗えられようもなく、さらには美人の誘いとあっては思わず心配そうに問い返してしまうというものである。


「あ、いえ・・・私も泊って行ってくれるならうれしいのだが」

 強引なミルーカに呆れた表情を浮かべていたイジェは、泊ってもいいのか問いかけてくるユウヒの、なんとも不安そうな顔に慌てるとすぐに優しい笑みを浮かべて頷き答えるのだった。


「御礼をいっぱいしたいからね! フンス!」


「だから、その妙な気迫は何なんだよ」

 ユウヒが泊っていくことが決まったことで、うれしそうな笑みを浮かべたミルーカは両手を胸の前で力強く握ると、気合の入った声と共に大きな鼻息を漏らす。その妙な気迫に恐れを感じたユウヒは、思わず後ずさると引き攣った顔で突っ込みを入れる。


「部屋もそのままなので好きに使ってくれ」

 後ずさるユウヒに首を傾げたミルーカは、ユウヒのお礼の準備を急ぐために急いで農作業を再開する準備を始め、そんな彼女に苦笑を漏らしていたイジェ曰く、依然ユウヒが使った部屋はそのままであるらしく、好きに使っていいという。


「ありがとう。それじゃ俺はこの辺を散歩しながら異常がないか調べる・・・と言うより聞いて回るかな」

 正確には一切手を付けてないだけで、イジェに掃除しておくように言われたが空気の入れ替えくらいしかしていないミルーカは、背後の会話を耳にすると口元引きつらせ準備をする速度を上げる。そんな彼女の必至な気配に気が付かないユウヒは、嬉しそうに笑みを浮かべてると、当初の予定通り活性化装置による異常が出ていないか調査を始めるという。


「そうですか、何かあれば畑に居ますので」

 ユウヒの予定になるほどと感心したように頷いたイジェは、何かあれば畑に来てほしいと話すと草刈鎌を手に取り腰に差す。どうやら彼女が芋の蔓を刈って退かし、地面があらわになった場所をミルーカが掘り進めるという分担になっている様だ。


「・・・手は足りるか?」


「問題ありません」


「昔に比べれば大したことないよ、それに魔力も増えたから体も楽だし」

 ただ作業を二人で行っているせいか、掘り起こされた芋は回収を後回しにされ掘り起こされたままの状態で畑に放置されており、湿った部分と乾いた部分で色がまだらになった畑には大きな芋があちこちに転がっている。


 そんな畑の様子と、さっそく畑に駆け出し芋を掘り進めるミルーカを見詰めたユウヒは、彼女達に付いて歩きながら手伝いは必要ないか問いかけるが、返ってきたのは微笑みを含んだ余裕のある声と楽し気に弾む明るい声であった。どうやらユウヒの活性化装置は、畑や自然だけではなく二人の体調にも変化を与えているようだ。


「ふーん? わかった。また後でな」

 初めて会った時に増して元気なミルーカの表情に、前のような影を見つけられないユウヒは、不思議そうに声を洩らすと頷きその場を後にするのであった。





 魔力の性質がよくわからない今日この頃、右目で調べようと思ったら膨大な量の情報で前が見えなくなるし、眼精疲労からの頭痛を感じるわで踏んだり蹴ったりなユウヒです。


<ようダンナ! やったな!>


<よくやった!>

 そんなこんなで魔力の性質について調べることを諦めた俺が、魔法で頭痛を癒しつつ鬱蒼と言う言葉がよく似合う草地を歩いていると、頭上から荒っぽい言葉使いのわりにかわいらしい声が二つほど聞こえてくる。


「お前らか、どうしたんだ? 何かあったか?」

 どこかで聞き覚えがある声だと真上を見上げた俺の視界には、噂好きな風の精霊が二人、満面の笑み浮かべながら急接近してきており、俺が問いかけた頃にはすでに俺の顔面に抱き着くようにへばり付いていた。


<ウルス様からのお使い途中だよ>


<活性魔力をあちこちに風で運んでる途中なんだ>

 小さな上に風の精霊だからか重さはほとんど感じないものの、鬱陶しくはあるので頭を振って引きはがすと、楽しそうに宙を一回転するように舞っていつものように話し出す。どうやら俺を探していたわけではなく、ウルスのお使いの途中で俺を見かけてダイブしてきただけの様だ。


「・・・なるほどサボりか、これは報告だな」

 それはつまりあれだ、仕事中にもかかわらず私情を優先したということはサボりと言っても過言ではないだろう。まぁちょっと話しに来るくらい大したことではないだろうが、元職場の先輩なんかは仕事中にパチンコ行ったり競馬行ったりとギャンブルに精を出し、さらにはそのまま直帰するというウルトラGな業務スタイルをかましていたから、それに比べればかわいいものだ。


 まぁ、とは言えいろいろこいつらからは迷惑被っているのでおちょくりはするのだが・・・。


<ちょま!? 休憩! 休憩ですぅ!>


<やめてくれよ!? ウルス様あれで怒ると怖いんだから・・・>


「そうなのか? あぁ、確かに俺を見る目に野生が見え隠れしていたな。あれは怒っていたのか」

 どうやら効果は抜群であったようで、俺の報告するという言葉を聞いて機敏かつ過敏に反応した二人は、いかにウルスが起こると怖いか切々と語りだす。俺の知る限りは頼れる隣のお姉さんに少し天然が混ざった様な性格に感じられた・・・いや、偶に俺を見る目に獲物を狙うような野性味あふれる光が宿っていたが、あれは怒っていたのだろうか。


<それは・・・また別の理由だと思うんだけど>


「まぁがんばれよ? 俺の仕事は終わったからな、後は精霊に任せるよ」

 どうやらあれは怒っていたものとは違うようだが、まぁしばらく会うこともないだろうし考えても仕方がない。俺がやるべきことはすべて終わったのだ、あとは精霊たちやこの世界の人たちに頑張ってもらうしかないだろう。


<おう! ほんと感謝してるぜ>

 うん、どうやらやる気に満ちているようだし頑張ってほしい。とりあえずこの辺の異常繁殖した植物が早めに落ち着くのを願おう。


<今はなにしてるんだ? 薬草摘みか?>


「精霊達に異常がないか聞きつつ、薬の材料になりそうな物をな」

 薬の材料になりそうな植物が多く繁殖しているのはありがたいのだが、どう考えても自然に良さそうな状況には見えないのだ。精霊たちは問題ないと言っているが、普通ならこういう場所には多種多様な草木が生えるものではなかろうか。実際調べ始めてまだ片手で数えられる程度の種類しか見当たらず、大半が陣取りゲームでもやっているかの如く群生しているのだ。


<ああ、ものすごく不味いって噂の薬か・・・>


「魔力回復薬だけが不味いんだけどな、性能重視で作ったらそうなったんだ」

 魔力回復薬に使った薬草がすべてそろったのはありがたいが、どうやらその味は精霊たちの中でも知れ渡っているらしい。


<興味があるけど、ちょっと怖いな>


「やめとけやめとけ、好奇心は猫を殺すって言うからな」

 今のところあの味を経験しているのは俺のほかに数人の精霊だけである。彼女たち二人は、作成中にこっそり舐めて痙攣した土の精霊経由でうわさを聞いたのであろう。


<<・・・・・・>>


 好奇心が精霊一強いらしい風の精霊の二人は、怖いと言いつつも俺の目と手元の薬草をチラチラと見続け、俺の忠告を耳にしても黙り込むだけでその視線の先を変えることはなかった。


 尚、この後二人ほど風の精霊が痙攣して地面に墜落することになるのだが、俺は飲ませてなんていない。ただ目の前で合成魔法を使って魔力回復薬を作っただけで、さらに瓶詰した後の余りをこれ見よがしに切り株の上に置いただけである。うん、実学って大事だよね。


 いかがでしたでしょうか?


 森からのプレッシャーに足の鈍るユウヒの寄り道、また何かやらかすのかと思いきや風の精霊ぇ・・・彼女達の冥福を祈りたいと<逝ってねぇよ!><バカーー!>・・・だそうです。次回もまたユウヒの冒険を楽しんで頂ければ幸いです。


 それではこの辺で、またここでお会いしましょう。さようならー

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