第百話 魔族の救世主 後編
どうもHekutoです。
修正等完了しましたので投稿させていただきます。そこそこの量があると思うので、ゆっくり楽しんで頂ければ幸いです。
『魔族の救世主 後編』
いつも以上に無理をして、さらにいつも通り妙なトラブルが起きた事で気を失ったユウヒが目覚めてから30分は過ぎたであろうか。母樹にも話した異世界に来ることになった話や、魔王領に来ることになった理由を話すユウヒに、ウルスは特に何を話すでもなく頷き聞いていた。
「なるほどなるほど」
「まぁそんなわけでここまで来たんだよ」
そんなユウヒの話しも終わった様で、満足そうに頷くウルスの姿にユウヒは肩を竦めながら苦笑を漏らす。簡単にではあるが、彼女に一通り話しながら自分がこの世界に来てから歩んできた道のりを再確認したユウヒは、なんとも慌ただしい道のりに思わず笑いが込み上げてしまった様だ。
「まさかこの世界に、あなたみたいな救世主が現れるなんて思わなかったわ」
「そんなんじゃないんだが、すべては成り行きだよ」
ユウヒの話を聞き終えたウルスは、その突拍子もない話に感心したような顔で頷くと、苦笑いを浮かべているユウヒの顔をマジマジと覗き込みながら真剣な表情を浮かべ、そんな彼女の言葉にユウヒは首を横に振って肩をすくめる。
「それでも結果やってることは救世主そのものじゃない? 誇っていいのよ?」
「・・・そういうのは苦手なんだよなぁ」
実際、ユウヒがアミールと出会ってから歩んできた道のりは、そのほとんどが行き当たりばったりである。元々勘が異常に鋭いことと、社畜精神あふれる安全志向ゆえに色々な意味で危険を回避してきた彼は、結果として英雄的な結果を引き当てているが、そのどれもが彼の求めた結果ではないのだ。
「謙虚すぎよ・・・あら、いっぱい来たわね」
日本の庶民気質な謙虚さと、昔からぶっ飛んだ両親に振り回されていた経験もあってか、ユウヒは基本的に目立つことを嫌う。またそれは、彼が歩んでしまった黒歴史の反作用とも言えるのだが、そんなユウヒを困った子でも見るような目で見詰めていたウルスの耳に、騒がしげな声と足音が聞こえてくる。
「失礼しますぞ。おお! 本当に目が覚めておるようで」
その足音がユウヒの耳にも聞こえ始めたかと思うと、すぐに部屋の扉が少し力強く開けられた。扉の向こうからは、背が低くずんぐりむっくりとした体に裾が床に届きそうな丈の白衣を身にまとった男性が現れ、ベッドの上に座るユウヒを目にすると驚いたように目を見開き、しかしすぐに目を細め好々爺という言葉がよく似合う笑みを浮かべると、ユウヒの座るベッドに小走りで近づく。
「えっとどうも、いろいろ迷惑かけたみたいで」
さらにその後ろからは、マニリオーネが心配と申し訳なさが合わさった苦笑を浮かべながら現れ、ユウヒに頭を下げられるとニコリと微笑んで見せる。そんな彼女も少し速足でユウヒのベッドに近づくのだが、気のせいかユウヒの目に映った彼女の姿は、昨日の夜より幾分大人びて見え、そのことにユウヒは妙な違和感を感じているようだ。
「体調はどうですか?」
「んーまぁまぁですかね?」
光の加減や着ている服で雰囲気が変わっているのかと、女性の恐ろしさの一端を感じているユウヒは、マニリオーネに体調を聞かれると自分の体を見渡して曖昧に答える。魔力の枯渇感はまだ続いているものの、しかし気を失う様な気配もなく、またしっかり調べたわけではないので曖昧な返事になってしまうユウヒ。
この世界の人間であれば、昨日の時点で命を落としていてもおかしくはないのだが、後天的に魔力を手に入れたユウヒの体は、この世界の規格とは少し違う様だ。
「失礼しますぞ・・・魔力の残り香すら薄れるほど魔力を奪われたというのに、これはすごい」
そんなユウヒの秘密を知らない医者と思しき白衣の男性は、運び込まれてきたユウヒの状態に最悪も考えていた一人である。それ故に、一晩寝ただけで起き上がれるまで回復しているユウヒの姿には驚きしかないようで、ユウヒに断りを入れて手をかざした男性は、魔力を手に集中させながら真剣な表情でユウヒを診察していく。
「・・・うふふ、活性魔力の放出はもう少し待ってね? あなたから魔力を分けてもらった分を呼び水にしているところだから」
男性の断りの声に頷いたユウヒは、じっとしたまま部屋に入ってきた人々を見回し、最後に背後でふわふわと浮いているウルスに目を向ける。目を向けられたウルスは、ユウヒの目が何を訴えているのか察すると、彼の頭を撫でながら眉を八の字にしながら微笑む。
「ウルス様・・・」
「そんな睨まないで? お腹すきすぎて意識がはっきりしてなかったんだもの」
ユウヒが倒れることとなった原因は、マニリオーネが不満の込められた声と視線をぶつけているウルスにある。魔力を限界まで使ったユウヒの不意を突き、彼の唇に自らの唇を重ねた彼女は、魔力枯渇という空腹に支配された思考のまま、彼女たちの感性的においしそうなユウヒから強制的に魔力を奪ったのだ。
「・・・」
そこにしっかりと理性が残っていれば、倒れるまで魔力を吸うことはなかったのであろうが、理性が飛ぶほどの空腹と美味に負けた彼女は、一部ユウヒの生命力まで吸ってしまい、そのことが原因でユウヒは気を失ったのである。
「はぁ、ユウヒ殿申し訳ありませんでした。すぐに食事の準備をいたしますので」
自分が倒れた理由を予めウルスから聞いていたユウヒが、改めて彼女を見詰めながら吸血鬼かサキュバスみたいだなと呆れていると、マニリオーネは小さく頭を下げ、気を失う前にユウヒが空腹を訴えていたことを覚えていたのか、すぐに食事の用意をすると話す。
「あーうん、俺って今どういう扱いなの? 侵入者? それともお客枠?」
明らかに昨日とは違う丁寧な対応に、状況が今一つ呑み込めないユウヒは困ったように頬を引きつらせると、不安そうに自分の扱いについて問いかける。状況を見るに最悪の可能性は無いにしろ、しっかりと聞いておかないと不安で仕方ないようだ。
「救世主です!」
「は?」
そんなユウヒの不安は、先ほども誰かからも聞いた覚えのある言葉で吹き飛ばされ、むしろ吹き飛ばされすぎて理解が追い付かないのか呆けた声を漏らしてしまう。
「ユウヒ殿は魔王国にとっての救世主です!」
「えぇ・・・」
救世主とは人類や世界を救済する者に与えられる称号である。ユウヒとしては全然その気がなかったとしても、ゆっくりと、しかし確実に滅びへと向かっていた魔王国の人間にしてみれば、彼の無謀ともいえる行いは救済以外の何物でもない。たとえ本人が認めていないとしても、称号とは他人が他人を称えるものであるため、そこにユウヒ意思はあまり関係ないのだ。
「ほら言ったでしょ?」
目立つことなどが嫌いなユウヒが、疲れを感じる心底嫌そうな顔と声を漏らす中、彼の背後で宙に浮くウルスは、なぜかドヤ顔で豊満な胸を反らして笑う。
「ふむ、問題ありませんな。素晴らしい回復力です」
「えっと、どうも?」
この日めでたく救世主の称号を手に入れたユウヒは、医者である男性の嬉しそうな声に顔を向けると、問題ないという医者のお墨付きをもらったと言うのにも関わらず、愛想笑いを浮かべるだけの気力しか湧かないのであった。
そんな早朝のドタバタから小一時間後、ユウヒは魔王城に複数ある食堂の中でも、王族がプライベートに使う一室に座っている。
「おぉ・・・」
最初はユウヒの寝ていた部屋に用意するという話もあったのだが、どうせならお城の中も見てみたいと考えたユウヒの提案により、それならばとマニリオーネはここ数年は一人で使っていた広いテーブルのある食堂に案内したのであった。
「どうぞお好きなだけ食べてくださいな、特にマナーも気にしなくていいですので」
一人で使うには広すぎるテーブルは、質素ながら細部に細かな装飾が施され高級感を放っており、その上には様々な種類の料理が乗った食器が所狭しと並べられている。それらの大量の料理は、いっぱい食べてもらおうと言う意味のほかに、ユウヒの好みがわからなかったためでもあった。
体調を気にしたメイドたちから介護とも言える対応を受けて食堂まで案内され、食堂の席に着いた瞬間あっという間に食べる用意を整えられたユウヒが、目の前に次々と並べられる様々な料理を見て驚く姿に、マニリオーネは笑みを浮かべ食事を勧める。
「あはい、いただきます・・・ところで俺が倒れた後ってどうなったの?」
テーブルの上が整えられる間ずっと気後れしていたユウヒは、マニリオーネの声で正気を取り戻すと、使い慣れた食事を始める言葉を口にし、複数並べられたカトラリーの中から見知った形の物を手に取った。しかしそのフォークとよく似た食器を料理に突き刺す前に、気になっていた事をマニリオーネに問いかける。
「それはもう、城の者すべてが上に下への大騒ぎで・・・」
「大騒ぎ」
自分の侵入がばれてしまったことで何らかの騒ぎが起きると考えていたユウヒは、大騒ぎという言葉に表情を暗くすると料理に延びかけていた手を止めてしまう。しかしその姿に苦笑を浮かべていたマニリオーネは、視線で食事を促しながら自らも朝食に手を付け始める。
「この城は元々世界樹を囲う様に作られていまして、世界樹の恩恵により城には様々な機能が存在するのです」
食事を促されたことで手を動かし始めたユウヒに、マニリオーネは満足そうな笑みを浮かべて続きを話し始めた。彼女曰く、このお城はユウヒが感じていた通り世界樹を中心に築かれた城であり、さらにはその世界樹の恩恵は様々な形で城とその中に住む人々を守っていたのだと言う。
「ふむ」
目の前に食べやすく切り分けられていたテリーヌによく似た料理を次々と口に放り込みながら、彼女の話す世界樹の恩恵に聞き入るユウヒ。城や町のあちこちに張り巡らされた水道設備や、街灯やお城の中の照明、巨大なお城の空調に至るまで世界樹はこの城にとってなくてはならない存在なのだという。
「ウルス様が封印されたことでそれらの装置も停止していたのですが、昨夜ユウヒ殿が封印を解いた事でそれらが一斉に復旧しました」
しかしそれらの機能はウルスが封印されてからはすべてが停止、代わりのエネルギー源を用意しても復旧できたのは1割程度であった。水道の代わりに井戸を使い、空調は使えないので窓を小まめに開け閉めして調整し、街灯は使えず民家は蝋燭で魔王城も一部の高価な魔道具以外はオイルランプや蝋燭を使っていたのだと言う。しかしそれも、ユウヒが剣を抜いた後一気に復旧し始めたらしい。
「なるほど・・・」
「どうぞ」
「あ、どうも・・・とてもおいしいです」
「こちらもおいしいですよ?」
「あ、はい・・・むふぅ」
そんな話を聞くユウヒは、相槌を打ちながら次々と料理を口に入れてはその味に頬を緩めている。空腹も相まって美味しそうに食べるユウヒの姿に、マニリオーネだけではなく周囲のメイドたちも嬉しそうに微笑み、甲斐甲斐しく世話を焼いては次々と彼の前に切り分けた料理を並べていく。
「・・・あ、そのため今は寝ていた者を皆起こして総出で調整作業をさせてます。大部分が放置されていたので不具合が多く、暫くは徹夜になりそうです」
ユウヒの表情から彼の味の趣向を理解していくメイドたちが、彼の好みそうなな料理を並べていくことで、ユウヒの表情は一段と緩み、そんな表情に思わず目を奪われていたマニリオーネは、不思議そうに首をかしげるユウヒの視線に気が付くと恥ずかしそうに頬染めて話を続ける。
「うぅむ・・・急に引っこ抜いて悪かったかな?」
少し恥ずかしそうな笑みを浮かべながら話すマニリオーネによると、突然動き出した様々な装置の中には止まった時のまま放置された物もあり、動くべき時間ではないのに動きだしたり、劣化や障害によりちょっとした事故まで起こしたらしい。それ故それらの不具合を早急に解決するため、眠っていた城の人間は一人残らずたたき起こされたのだった。
そんな話を聞いたユウヒは、ミートボールのような料理を指していたフォークを置くと、難しい表情を浮かべて唸り、申し訳なさそうな表情でマニリオーネや周囲のメイドたちに目を向ける。
「いえ! 皆嬉しい悲鳴だと言ってますわ」
「そうなの?」
気まずげな顔で頭を下げるユウヒであったが、その小さく下げられた頭に周囲の魔族たちは一斉に慌てだす。マニリオーネ達にユウヒを責める意思などは無く、またそれはこの場に居るメイド達や城に住む者達も同様である。マニリオーネが嬉しい悲鳴と言ったように、城の住人達は世界樹復活やそれによる様々な状況の改善を大いに喜び、今まで全く手が付けられていなかった仕事に目を輝かせ邁進していた。
それ故、その立役者であるユウヒに頭を下げ謝らせる事など考えてもいなかった彼女達は、ユウヒの行動を前に大いに慌て、メイド達に宥められる様に体を起こされたユウヒは、きょとんとした表情で首を傾げる。
「はい、都市を守る防衛機構が復旧しましたから、これで町の人々も安心して外に出られます」
「町のあちこちがぼろぼろな理由はそれか」
頭を下げたユウヒの認識としては、残業終わりに舞い込む急な仕事や、夜中に緊急で呼び出しがかかると言った迷惑な仕事と言った認識であった様だ。
しかしユウヒが復旧させることとなった物は、魔王城とその城下町を守る防衛装置や重要なインフラである。先ずにして根本的な認識が違ったことに、マニリオーネの説明で気が付いたユウヒは、三つ目の門番達と出会った城壁がボロボロであったことを思い出し、なるほどと頷く。
「はい、魔物除けや結界が使えなくなっていた間に、何度もワイバーンの襲撃が有りましたので、防衛機構復旧後は街の整備に各城壁の補修にとやることがいっぱいですね」
「・・・うーむ」
それでも、ちょっと頭を下げただけであれほど慌てるものだろうかと、ユウヒは不思議そうに首を傾げ、嬉しそうにまだまだやることがいっぱいあると語るマニリオーネの姿に、ユウヒは眩しそうに目を細めると不思議そうに唸る。
「そ、それでユウヒ殿は・・・しばらく城に滞在してくださるのでしょうか?」
「え?」
急に仕事が舞い込んで嬉しいものだろうかと、心の中で首を傾げ続けるユウヒは、爽やかな柑橘類の香りがする水を一飲みすると、丁度そのタイミングで問われた内容を思わず聞き返す様に声を洩らす。
「できればしばらく、いっそ魔王国に所属、いえもう魔王になられませんか?」
「・・・は?」
ユウヒとしては長居しても迷惑だろうからと、早々に魔王城を後にするつもりで居た。しかし宿泊を許可してもらえるなら、魔力の回復も兼ねて泊めてさせてもらっても良いかなと思いを巡らせたのだが、顔を赤くしたマニリオーネの口から跳び出した言葉は予想もしないようなもので、ユウヒの思考を急停止させる。
「現在魔王は空位なので、私と婚姻を結んでいただければすぐにでも魔王を名乗れます! 魔王国のすべてがユウヒ殿のものになるのです」
思考停止に陥ったユウヒに、マニリオーネは羞恥を興奮で隠す様にオススメ人生プランを語りだし、周囲のメイド達も一様に目を輝かせていた。
「いやいやいや」
「私一人で足りないならいくらでも側室を用意いたしますが?」
嫌な予感に停止していた頭を無理やり動かし、彼女の提案をとりあえず拒否するユウヒ。何度も首を横に振って拒否するユウヒに、マニリオーネは自分の体を見下ろすと不安気に新たな提案を口にする。
「え、何そのハーレム・・・」
自分だけでは足りないのだと考えたらしいマニリオーネの提案に、ユウヒは口元を引きつらせると肩を落として疲れたように呟くと、背後に何者かの気配を感じたのか後ろに目を向けた。
「ユウヒが求めるのなら、私も吝かじゃないわよ?」
「ウルスまで・・・」
ユウヒの後ろに現れたのは、世界樹の精霊であるウルスである。彼女は現れるなりユウヒが求めるならハーレムの一人になってもいいと、どこか妖艶に細められた目で彼を見詰め、しかしその口元は妖艶と言うよりは悪戯な少女の様に弧を描いており、そのアンバランスな表情をユウヒは呆れた様に見詰め返す。
「・・・ハーレムですか、大丈夫です! 男性はそういった物を作りたがると書物で目にしたことがあります! 初代魔王もハーレムを持っていたので用意することも可能です」
周囲のメイドが恐縮する中、見つめ合うユウヒとウルスの姿を見詰めていたマニリオーネは、真剣な表情で大丈夫だと声を上げ、少し赤い顔でハーレムを作ることを了承し問題ないと言いながら立ち上がる。
「・・・かんべんしてください殺されてしまいます」
「・・・ふっふふふふ、もう可愛んだから」
椅子を揺らし勢いよく立ち上がったマニリオーネの宣言に、ユウヒは驚きと呆れが混ざった顔で呆けると、何を想像したのか少し顔を蒼くしながら抑揚の無い声で殺されると呟く。その後ろではユウヒの肩に片手を置いて目を丸めていたウルスが、反対の手で口元を隠し可笑しそうに笑い声をこぼしはじめる。
「しかし我々に出来るお礼など今はそれほど・・・」
ユウヒとウルスの呆れを含んだ雰囲気に、マニリオーネはどこか焦りすら感じる顔を俯かせると、メイドによって位置を調整された椅子の上に静かに座る。
「それどう考えても御礼じゃないよな」
「そうよねー」
落ち込み気味な上目遣いで二人を見詰めるマニリオーネを見返したユウヒは、いつもの勘が彼女の御礼に見え隠れする第三者の思惑を感じ取りすっと目を細め、ユウヒの両肩に手を置き体重を僅かにかけ出すウルスもその言葉に同意する。しかし、ウルスのどこか冷めた目を見る限り、彼女はどこの誰がマニリオーネに余計な助言を行ったのか知っている様だ。
「不法侵入の件が特に罪に問われないのであれば、魔力の回復に一泊か二泊かさせてもらえればありがたいかな?」
明らかに顔色の悪くなるマニリオーネに、ユウヒは肩を竦めながら笑みを浮かべると、罪に問われないのであれば魔力が回復するまで泊めさせてもらいたいと提案し、
「それは、いくらでも泊って行ってくださっても構わないのですが・・・」
マニリオーネはそんなユウヒの提案に顔を上げると、笑みを浮かべるユウヒとその上のウルスを見比べ、どこか恥かしさを感じる苦笑いを浮かべると小さく頷いて見せる。
「無欲ねぇ」
「俺にもいろいろやることがあるからな」
先ほどまでの強引さすら感じる提案を諦めたらしいマニリオーネを、満足そうに見つめ頷いたウルスは、少しの間泊めてくれるだけでお礼は十分だと告げたユウヒの頭を上機嫌に撫で始め、そんなウルスの行動にユウヒはあきらめた様な顔で色々やる事があると話し、ミートボールの刺さったフォークを手に取ると食事を再開するのであった。
「わかった、私は諦めておくことにするわ。あまりしつこくしても嫌われそうだし、抗議もきそうだしね・・・」
フォークに刺さったミートボールを一口で頬張り、すぐに頬を緩めて美味しそうに咀嚼し始めるユウヒ。そんな彼の顔を慈愛に満ちた表情で見下ろすウルスは、ユウヒに嫌われたくないからしつこくするのは止めておくと話し、同時に何者かから抗議も来そうであると肩を竦める。
「嫌われ・・・」
一方、黙々と食事を続けるユウヒの対面に座り、すっかり食事の手が止まったマニリオーネは、ウルスの言葉を耳に入れると顔を蒼くしはじめた。どうやら自分の行動がユウヒの不信につながらないか不安になり始めた様である。
「・・・まぁ、これだけ美味しい物食べられればお礼は十分だよ(だいたいハーレムって、流華になんと言われるか、姉さんには確実に殺されるぞ。シャイニングウィザードからのかかと落としコンボとかされそうだ)」
メイド達がマニリオーネを慰めている中、量も質も豪華な朝食に舌鼓を打ちつつ苦笑を洩らすユウヒは、万が一彼女達のお礼をそのまま受け取ろうものなら後が怖いと、心の中で呟いて背中に嫌な汗を一筋流す。また、彼の勘はもっと大変なことが起きる予感をも感知しており、そのほぼ確実な予感を振り払う様に、ユウヒは空きっ腹に朝食を詰め込んでいくのであった。
いかがでしたでしょうか?
ユウヒが魔王家から救世主と認定されました。でも彼の事なので、黒歴史が刺激されるワードを自称はしないと思われます。彼に今後どういった称号が増えて行くのか楽しみですね。
それではこの辺で、またここでお会いしましょう。さようならー




