第九話 部屋灯る灯台の足下
どうもHekutoです。
修正等完了しましたので、投稿させて頂きます。是非お暇な時にでも楽しんで頂ければ幸いです。
『部屋灯る灯台の足下』
父と母に今日の調査報告を行い、晩御飯の時間になるまでの間を部屋で寛ぎ、疲れた心と体を癒すことにしたユウヒです。
先ほどまでのやり取りに、うちの両親は絶対に離婚なんかしないだろうと言う安心感と同時に、それでいいのか親父、と言う思いが綯い交ぜになり、何とも言えない気分で自室に戻って来たのは良いのだが、
「ぐぬ、エアコン点けておけばよかったか?」
部屋を出る時にエアコンを点けておくべきでした。
「まぁ・・・どうせ母さん辺りに消されるだろうけど」
と言っても勘の良い母の事である。節電の為にと言ってエアコンを切って、ついでにとばかりタンスの裏やベッドの下を物色するのは目に見えているので、この場合エアコンを点けていないのが正解であろう。
「ぽちっとな・・・こう暑いとベッドにはダイブはしたくないな、こっちの方が涼しそうだ」
そんな蒸し暑い部屋の照明を付けた俺は、照明の分余計に蒸し暑く感じる室内を進むと、ベッドの上に放り投げていたエアコンのリモコンを手に取ることなく、掛布団に沈み込むリモコンの運転ボタンをそのまま押し込んだ。
疲れを感じる体をそのままベッドに投げ出したい衝動も有るのだが、夏の空気で温もりきった布団は地味に気持ち悪く、涼しい部屋でならばまだしも、今この場で飛び込むのは危険である。
「・・・流石に二日続けては来ないよあいた!?」
その為、ベッドから離れ少しでも冷たそうなデスクチェアに座る事にした俺だったが、窓の外に黒い三人が居ないかと振り返り、窓の外を注視しながら椅子へと向かったのが悪かったのか、出した覚えの無い物体に小指をぶつけて思わず声を上げてしまう。
俺の小指に地味に痛い一撃を加えたのは、クロモリオンラインのスターターパックであった。
中には分厚い説明書にディスクが数枚、さらに各種アカウント名やパスワードを記録しておくための専用メモ帳など、クロモリ初心者の為に必要な一通りの物が詰まっている。
「こんな物出した覚えはないのだ・・・が? 動いた?」
このスターターパックを買った中学三年生三学期の俺は、未知のゲームへの期待と不安で満ち満ちていたのを今でも昨日のことのように覚えているが、しかし、そんな昔の事よりも今は目の前で急に立ち上がったPCの方が重要であった。
「電源は落していたと思ったんだが、スリープのままにしてたかな?」
小指の痛みに思わず机に手を付いた拍子にキーボードでも触ってしまったのか、スリープモードになっていたPCが起動し、PCモニターに慣れ親しんだクロモリオンラインの壁紙が表示される。
あの日、俺はあまりの凶報に思わず直接電源スイッチでPCを落し、そのまま家を出た覚えがある。その場合PCは完全に電源が落ちる筈なのだが、間違ってリセットスイッチでも押していたのだろうか? あの時は意識が朦朧としていた気もするし、今でもどうやって家から出て、どこを歩いてアーケード街までたどり着いたのか思い出せない。
「まぁ丁度調べものしようと思っていたからいんだけど、あれかな? PCさんが俺の為にデレ・・・・・・」
実際問題ちゃんと立ち上がってくれるのなら問題無いし、むしろ電源を落した状態からの起動は地味に時間がかかる為、スリープモードだったのはありがたい。これは大事に使ってきた俺に対するPCからのサプライズ・・・だと思ったのだが、どうやら違う様である。
「・・・・・・ふむ、流華め・・・お兄様のPCで何かしたな?」
大量に開かれたままになっているウィンドウのタグを開いて行くと、その中に流華が使っているコミュニケーションアプリのログが残されており、パスワードやアカウントの入力情報も消されずに残っていた。
正直PCに疎いとは言え、兄としては心配になる様な流華のがばがば具合を目にした俺は、彼女の残した一部の痕跡を見なかったことにし消去していく。
「ログを辿れば何をしたか分かるが・・・」
とりあえず、妹とその友人関係間で交わされていた会話内容が見れるウィンドウを閉じた俺は、PCの操作ログを辿って流華が何をしていたのか確かめていく。
「ふむ、見られたらまずいファイルは大丈夫か、まぁむしろそれは母さんに暴かれてそうで怖いんだけど」
パッと見ただけだが、どうやら基本的にネットを使っただけで某保存用ファイルや鍵付きを開こうとした形跡はないようで一安心だ。これが母さんだったら確実に開いて確認したうえで、さらに痕跡まで消してくるので、流華が使ったのは確定だろう。
「ドーム被害者リスト、ドーム帰還者リスト、クロモリコミュニティ・・・サイト?」
とりあえず最悪の想定は回避されたので、安心してログを確認していく。しかしホッとしたのも束の間、予想通り俺がドーム被害者となったことを前提に調べている中、何故か俺の青春とも言えるクロモリオンラインの公式コミュニティサイトのログもあり、ログインまでしていた。
どうやら、この机の下から今も頭だけを出しているスターターパックは、俺のパスワードを得るために流華が持ち出した物のようである。いったい流華の中の何が、こんな犯罪臭がする様な行為に駆り立てたのか、やってる事が母娘でそっくりなあたり、血と言うのは恐ろしいものだと感じるほかなかった。
「・・・ん? ヤメロンの専用チャットルームが稼働している?」
流華の行動力に僅かな恐怖を感じながらも、調べる手を止めず動かしていると、クロモりで所属していたギルドの、専用チャットルームが使われている事に気が付き思わず手を止めた。
このチャットルームは俺と球磨が他のメンバーと打ち合わせをするときに使っていたもので、それ以外のメンバーはとある理由でこのチャットルームをあまり使う必要が無かった。それが稼働していると言う事はだ。
「俺の名前で会話が・・・なるほど、ここで球磨と接触したか」
流華が俺に成りすまして・・・いや即座に妹と名乗っているな、そしてクマが球磨だと解ると名前まで・・・流華に今度ネット上でのマナーを教えるべきだろうか。
「そこに姉さんがのっかりぃの、リンゴがのっかり」
そのままチャットのログで内容を確認していくと、どうやらここで球磨に俺の行方を聞いたようである。
さらにそのチャット内容に反応して、うちのギルマスであるパフェの姉さんが会話に混じり、面白そうな匂いを嗅ぎつけたリンゴさんは場を掻き乱すつもりが、予想以上に流華の真面目な対応に自分がペースを乱されると・・・何やってんだあのダメ人間。
「情報収集はメロンとミカンがやったのか・・・収集能力は高いが、ミカンだけだと偏ると見ての配分だな」
さらに他のメンバーも流華の兄捜しを支援する形でチャットに入っている。どうやらこの大量に開かれたままのウィンドウは、ここで教えられたページの様で、その大半が我ギルド最年少のミカンが調べたものの様だ。
まぁ三分の一くらいメロンに却下されているが、なんでアダルトサイトなんか進めてんだよあの小娘。
「これだけか・・・なるほど、重要な部分と言うかBAN対象になりそうな話はリアルで・・・か」
最後まで読み進めると、最後に繁華街でオフ会と言う内容で終わっている。このチャットルームではリアルに関わる会話をし続けると、最悪チャットルームを使えなくなるため、許される範囲でオフ会と言う名目なのであろう。
「中々面白い事をしてくれているではないか姉さん・・・ちょっと、お灸の準備が必要かなぁ?」
しかし、読めば読むほどギルメン達が楽しんでいると言う事が伝わってくるチャット内容に、俺の顔には自然と笑みが浮かんでくる。ただその笑みは酷く動物的もので、こめかみにも血管が浮き出ている様な気がした。
「他の連中も煽っているし・・・パン屋の未来の義妹発言はなんだかなぁ」
さらに流華に要らぬ知識や在らぬ事実を植え付けようとしている愚か者も居る始末、あいつはネタで言っているのか本気なのか判断に困るんだよな、多分ネタ何だろうけど。
「つか一番乗り気なのはパン屋なのか? リアルで会うために店を休みにするとか、あいつ何考えてんだよ」
集合場所はアーケード街で、パン屋の店でオフ会か・・・あいつの店って結構人気があるはずなんだが、それでいいのか? むしろ人気があって儲かっているから良いのか、まぁ住む世界が違うと言う事かな。
「しかしなるほど、流華が熊みたいな大きな人と居たと言うのはこの会話の後か」
まぁいいや、とりあえずこれまでも情報をまとめると、流華の友達が見た熊みたいな人ってのは、球磨のことだろう。
俺は椅子の背に体重を預けながらPCのモニターを眺めると、名に違わぬ男として定評のある友人の事を思い出し、思わず苦笑が漏れてしまう。
「どうやら球磨も最後まで抵抗したようだが、姉さんに押し切られたか・・・押し切られる姿が手に取るようにわかるな」
我友は見た目こそ鮭を捕える熊の様なのだが、その中身はどちらかと言えば野生的より理性的で、常識人なのである。女性に対する押しの弱さもあり、チャットを読むかぎりでは姉さん達の空気に押し流されたと言ったところだろう。
「これで今後の方針は決まったが、俺も俺がいない間のもっと詳しい情報の収集が必要だな」
まさかこんな所に流華を探す重要な手掛かりがあるとは思わなかったが、おかげで明日の予定も決まった。きっと流華の行方はギルメンに聞けば解るだろうし、そのメンバーも全員近くに住んでいる。
最悪の事態もあり得るが、無駄にハイスペックな姉さんの事だから、早々無理はしないと思う。あとは、俺も流華が調べたくらいの情報は知っておいた方が良いだろうな。
「先ずは『ドーム』に関してのニュース記事とまとめサイト関連、後は・・・政府の公式発表、よりも解明が進んでいそうな行動的馬鹿が多い掲示板かな」
俺が居なくなってから起きた異常事態と言う妙な関連性も有るが、どこか漠然と俺がこの現象と無関係で居られる気がしない。
そんな妙な予感に後押しされる様に、俺はキーボードとマウスを動かし始めるのであった。
ユウヒの友人でありクロモリ内でもフレンドである球磨、もといプレイヤーネーム『クマ』とプレイヤーネーム|ユウヒ(流華)のチャットログから、実際に会って話をする事になったことを突き止めたユウヒ。
また、ログを辿った内容からは、様々な掲示板やニュースサイトの情報により、流華はユウヒが異常現象『ドーム』に飲み込まれてしまったと確信している様であった。
自分が居なくなってから現れたドームについて、流華の調べたネットのニュース記事や各種掲示板を辿り、自分なりにドームについて調べ直したユウヒは、そこで驚くべき真実を知る事になるのだった。
いかがでしたでしょうか?
どうやらユウヒの妹はなかなかの行動力を持っているよで、そこは母親譲りなのかもしれません。そんなユウヒの妹である流華はどう物語を盛り立てて行くのか、お楽しみに。
それではこの辺で、またここでお会いしましょう。さようならー




