プロローグ 彼らは故郷の土を踏む
どうもHekutoです。
初めての方は初めまして、お久しぶりの人またお会い出来ましたね、待ってましたと喜んでいただける方は愛してます(笑)
そんなわけでようやくプロローグまで辿りつけましたので、『ワールズダスト ~現世に現れし黒き森~』を開始させて頂きます。二作品目となる今回もラストまで頑張ろうと思いますので、お付き合いして頂ければ幸いです。
それではどうぞお楽しみください。
『彼らは故郷の土を踏む』
ごくごく最近のこと、あるところにユウヒと言うどこか眠たげな目の男が居った。その者は突然降りかかった凶報に傷心のまま家を出ると、その日そのまま帰って来なかったと言う。
そんな彼が何をしていたかと言うと、ひょんなことから困り果てた見目麗しい女神と出会い、彼女のお手伝いを安請け合いしたことで、いつの間にか世界の壁を跳び越え、気が付けば異世界の土を踏んでいたのだった。
ある時は悪漢に襲われる王子様を助けお姫さまじゃないのかと肩を落とし、ある時は一国の転覆を企てた簒奪者を神から貰った力で鎮圧する。そんなユウヒは助けた人々に愛され、異世界の安定を担う精霊に愛され過ぎて新たな厨二力に目覚め、信仰することになった兎神からは愛故に圧殺されそうになりながらも、管理神アミールの願いを聞き届け求める物を集める旅を続けた。
しかしその行為はユウヒに更なる試練と言う名の不運を与える事になり、最後には世界の命運を賭けた神々の戦いに強制参加させられ、同朋たる忍者達に暖かい目で心配される中、世界を救う一助となったのであった。
そんな割と不幸な目に遭いつつも自然体で異世界を楽しんだユウヒは、頼れるカッコイイ最高の仲間である忍者達と共に、一時の休息の為故郷である地球の日本へと戻って来たのである。
「めでたしめでたし」
「でござる」
「どうだったユウヒ? 俺等が考えたユウヒ英雄譚のあらすじの出来のほどは」
「ツッコミどころが多すぎて何て答えたらいいのやら」
そんなユウヒは家路につく道すがら、どこか昔話を聞かせるような口調でしゃべる忍者達に、彼ら曰く『ユウヒ英雄譚』のあらすじを聞かされており、その感想を求められていた。しかし感想を求められたユウヒは、あまりにツッコミどころの多い話にどこか探る様なジト目で彼らを見詰める。
「照れないで正直に答えていいのよ?」
「ふふん、褒めてくれて構わんぞ?」
「ぁ・・・因みに拙者が考えたのは最初の部分だけでござるよ?」
ユウヒの表情に胸を張って称賛を要求するヒゾウとジライダ、その一方でユウヒの視線に含まれた意味を察したゴエンモは、ユウヒの欲した情報を付けたし彼を頷かせる。
「うん、とりあえず頭冷やす為に凍らせる方向で良いかな?」
ゴエンモの言葉に頷いたユウヒは、ヒゾウとジライダに近づいたかと思うとおもむろに両手を持ち上げ、
「うはwww予想通りでって冷たツメタ!?」
「おいぃ! こんな街中で魔法はヤメテ!?」
そのまま二人の頭を鷲掴みにすると、傍目から見ると所謂アイアンクローと言う技を極めてじゃれ合っているように見せかけ、手に込めた魔力を冷気に変換すると夏の茹だる様な熱気を受けた二人の頭を急速冷却するのだった。
「と言うかこっちでも問題無く使えるのでござるな」
学生の様なやり取りで周囲の人々から微笑ましげに見られている三人に、ユウヒと共に異世界から帰還した忍者ゴエンモは引きつった笑みを浮かべると、非現実的なユウヒの力に腰が引けるのであった。
「そうみたいだな、それで何か言う事は?」
神から授かった力を使う事にもすっかり慣れたユウヒは、二人から手を放して軽く手を振り冷気を散らすと、ゴエンモに肩を竦めて見せる。そんなユウヒは、冷えきった頭を押さえて震える、同じく異世界からの帰還忍者であるジライダとヒゾウに、ジト目を向けながら問いかけるのだが、
「「本編も任せてくれ!」」
返ってきたのはユウヒを面白おかしくおちょくったことに対する謝罪ではなく、挑発行為と取られても可笑しくない輝く笑顔と、やる気に満ち立てられた親指であった。
「あうとでござる」
その一片の邪気も感じさせない二人の姿に、ゴエンモは呆れて脱力した声を洩らす。
「はぁ・・・むすめ」
「「「は!?」」」
その隣で目を瞑って目頭を揉むように頭を抱えるユウヒ。しばらくそのまま頭を俯かせていたユウヒは、瞼を開き金と青の瞳で二人を見詰めると、対忍者用最終兵器を呼び出す言葉を口にし、ジライダとヒゾウだけでなく、ゴエンモまで同時に怯えさせる。
「わぁ、呼ばないで上げよう。どの道こんなに暑い所で呼んだら可哀想だし」
「あぶねぇ・・・あとちょっと逝くとこだった」
「拙者なんかとばっちりを受ける所でござった」
「ユウヒの容赦なさマジパネェ」
しかし怯える三人と照り付ける太陽を見上げたユウヒは、止めていた足をゆっくり歩かせ始めると、肩を竦めて見せるのだった。すでに彼らを許していたユウヒは、唯単におちょくり返していただけの様で、しかしやられた方からすると堪ったものでは無く、天敵の出現が無くなったことに安堵した三人は、口と体全体でその安堵の感情を表すのだった。
「・・・そう言えば、何だか感情が不安定な気がするかも」
「まぁ、乙女殿に色々抜かれたでござるから、そのせいでは?」
どうやら、神々の戦いを潜り抜けた時に色々なものを取り除かれたユウヒの体には、心身共に様々な影響が出ている様で、忍者達の言葉に何か思い当る節があったのか首を傾げるユウヒに、ゴエンモは苦笑いを浮かべる。
「乙女に抜かれる」
「そこはかとなくエロい・・・」
「そう言われれば確かにエロいでござる」
「俺は良いけど、お前らバレたら狩られるんじゃね?」
ユウヒとゴエンモのやり取りによからぬ妄想を働かせ頬を赤くする忍者達は、ユウヒの言葉の意味を認識すると、何処からともなく襲い掛かって来たプレッシャーに顔を蒼くし、彼らを置いて先を急ぐように歩くユウヒを慌てて追いかけるのであった。
かくして彼らは、非現実的な異世界から帰還し、異変溢れる故郷の道を歩き始めるのである。
そんな彼らの故郷である日本は、現在とある異変に襲われており、それは彼らの母国だけでは無く世界中を等しく襲っていた。
始まりはユウヒが異世界に旅立つほんの少し前、最初の異変が何処からなのかは未だ解っていないが、世界中のあちらこちらで被害規模こそまちまちであるが同一の現象が巻き起こり、一夜にして世界中を恐怖に陥れる。
「―――以上が現在解っている行方不明者の情報です。引き続き首都圏内の交通状況についてお伝えします」
主な現象は、ユウヒ達が異世界から戻って来た時に高層ビルの屋上から見えた黒い半球状の、通称『ドーム』の出現。その場に存在したすべてを飲み込むように現れたドームは、その場に居た人々も飲み込み多数の行方不明者を生み出した。
ユウヒが消えてから戻って来るまでの数日間に、世界は怒涛の勢いでこのドームの対策に振り回される事となる。日本では即座に行方不明者救出の為に必要な法案が可決され、そのあまりにも異例な速度で法案が可決される姿には、日本中で様々な賛否の声が飛び交う事になった。
「―――また首都高は依然一部がドームに取り込まれており、通行に障害が出ています」
またある国では、じわじわと大きくなり続けるドームを止めるべく様々な手が打たれ、毎日轟音が鳴り響いている。また同じ状況に陥っている国は少なくはなく、ドームと言う未知の存在について様々な国の選りすぐられた研究機関が意見を交わし、今までにない研究者同士の交流も行われていた。
しかしそんなエリート集団を脇目に、ネットの世界ではとある話が真しやかに囁かれている。このドームと言う現象と酷似する存在が以前からある場所で確認されており、
「―――で放送は一時中断させて頂き、ここからは特別国会の中継を放送させて頂きます。中川さん聞えますか? 中川さん?」
そのある場所とは、『クロモリオンライン』と言うネットゲームの世界なのであると・・・。
「あー・・・すごい事になってるな」
家電量販店のテレビを見ていたユウヒは、映し出される世界各国の状況に何とも言えない表情で間延びした声を洩らす。
「この感じだと拙者等が異世界に行ったのは昨日くらいでござろうか?」
「そんなもんじゃね? ってことはあれか? あのドームに閉じ込められるとイケメン神様(偽)に会えると?」
「そういえば俺等も黒いのに吸い込まれたわけだが、でも何か違う気がする」
家電量販店のショーウィンドウに並べられたテレビに映し出される様々な番組は、そのほとんどが『ドーム』と言われる異常事態について話されており、すでにドームに関する知識のあったゴエンモ達はそのニュースの内容から異世界と地球の間で起きた時差を読み図ろうとしている様だ。
「・・・おばちゃーん! 魔窟のドームっていつ出たの?」
三人からこちらに来た場所が、魔窟と呼ばれていた公園からと言う話を聞いていたユウヒは、彼らの話に小首を傾げテレビを見ていた視線をお店の奥に移したかと思うと、いきなり大きな声で店の奥に声をかける。
「あらユウヒちゃん久しぶりね? ドーム見に来たの? 出たのは二日前なのよぉ、まだ出て来たばかりなんだけどね、危ないからあまり近づいちゃだめよ?」
「ありがと、だってさ」
この辺りはユウヒの地元であり、どちらかと言えば社交的なユウヒに目立つ両親と言う事もあって、この商店街で昔から店を開く人間は大半がユウヒの顔見知りと言えた。むしろ、この店ではユウヒが度々ゲームソフトや電子マネーなどを買っていたこともあり、特に仲が良くユウヒの突然の問いかけにも快く答えてくれたのである。
「ユウヒちゃん・・・お、おう」
「ちゃん・・・さ、さんきゅぅ」
「ユ、ユウヒ殿この辺が地元でござったか」
ユウヒが彼らの疑問を解消する一助としてかけた声だったのだが、そのやり取りの中でユウヒが『ちゃん』付けで呼ばれる姿がツボに嵌ったらしい三人は、今にも笑い出しそうな自らのお腹や口を押さえて返事を返す。
「・・・まぁね、そしてその顔ウザイ」
笑いこそ堪えられているが、抑え損なった感情はしっかりとその顔から洩れており、ユウヒはゴエンモに返事を返しながらも不満そうなジト目を三人に向け、これ以上彼らにネタを提供しないよう家電量販店を離れる。
「くぷぷ、まぁよくある地元あるあるだな・・・っ」
「だいじょうぶ、うちの近所も似た様なもんさ・・・ぷふっ!」
「とかいいつつ・・・全然表情が変わってないでござる」
そんなユウヒを追いかけるジライダとヒゾウは彼の両側に付くと、肩や背中を叩きながら慰めの様な声をかけるが、ゴエンモの指摘通り表情は変わっておらず、そのまま二度目の【アイスアイアンクロー】を今度はその顔面全体で体験することになるのであった。
そんなやり取りから数分後、彼らは遠くに見えていたドームの足下近くまでやってきていた。
「・・・ふぅむ、隣三軒は巻き込まれてそうだな」
雨天でも安心して買い物が楽しめるアーケード街の一部は、現在警察による規制線が張られており、黄色と黒のテープが張られた向こうには、かつてあまりのゴミの汚さで魔窟と呼ばれていた公園とその周辺ビルを飲み込むように、黒く大きな『ドーム』がその威容を放っている。
「そのくらいだな」
「あの辺シャッター多かったからわんちゃん?」
飲み込まれたのであろうビルはその大半が無人のビルであったが、中には人が住んでいるビルもあったようで、現在は住民なのか数人の人々が半分ほど飲み込まれたビルの前で警察と話をしていた。
「被害者はユウヒ殿と拙者等だけかもしれないでござるな」
「嫌な事思い出させるな、あの時は生きた心地がしなかったんだから・・・」
特に取り乱していない困り顔の人々が警察とドーム前に居る辺り、どうやらここでの行方不明者は出ていない様である。
しかし、ある意味魔窟で失踪した四人は、ドームの被害者と同一視されても可笑しくは無く、そんな軽い気持ちでゴエンモが放った言葉にユウヒは嫌そうに顔を歪めた。何故なら、それは同時にユウヒが魔窟と言われるほど悪臭と威容を放っていたゴミ箱に、異世界に行く為とは言え、顔から突っ込んだ記憶に繋がるからである。
「「「・・・・・・乙!」」」
「・・・」
結果的には汚れる事も臭くなる事も無かったユウヒが向けてくる嫌そうな顔に、その後の話まで含めて聞いていた三人は、輝く笑みを浮かべて右手親指を同時に立てて見せ、ユウヒの小さなトラウマを逆なでするのであった。
「はぁ・・・それじゃこの辺で解散だな」
「そうでござるか、それではまたでござる」
「ユウヒ、あっち行く時は置いてくなよ?」
「置いてったら泣くぞ!?」
いつでも逃げられる様に腰が引けていた三人の姿に、ユウヒは呆れた様に溜息を漏らすと、彼らが立つ方向とは逆に向かって一歩進み肩を竦めて別れを告げる。そんなユウヒの姿に三人はホッと息を吐き、三者三様のリアクションを示すのだった。
「はいはい、善処するよ。またなー」
手を振って来る三人にちらりと後ろを振り向いたユウヒは苦笑を洩らし、アーケード街の影から抜けると、御座なりに手を振りながらその場を後にする。
「「「またー」」」
三人の声と黒くどこか密林のような模様が揺れるドームを背にしたユウヒは、トレードマークの忍び服を小脇に抱えた普通の姿な忍者達に手を振り、一路自宅へと歩を進めるのであった。
そんな別れから時は過ぎ、ユウヒが忍者達と別れたのと同じ場所、人もまばらな早朝のアーケード街にユウヒの姿はあった。
「・・・さて、行くしかないかな」
規制線の向こうに変わらず聳える巨大な『ドーム』を見上げたユウヒは、いつものリラックスしすぎてやる気を感じさせない表情で呟くと、頭を掻きながら歩き出す。
「体調は先ず先ず、魔力は満タンでは無いが問題無し」
規制線を潜るでもなく軽い足取り跳び越えた彼は、どこか人間離れした動きを一つ一つ確認しながら満足そうに頷く。
「若干違和感は有るけどこっちじゃ試せもしないしな・・・はぁ、ゲームが終わっても問題起すんだから」
しかし満足そうにしながらも漠然と感じる違和感に首を傾げると、小さな溜め息を漏らして愚痴をこぼし始める。
「・・・ふぅ、それではリアルクロモリと洒落込みますかね」
疲れた表情で一通り愚痴を零したユウヒは、ゆっくりと吸った息を小さく吐くと、目の前の真っ黒な壁をもう一度見上げ、表情を引き締めて歩き出す。
「流華・・・泣いてなければいいけど」
彼が向かう先は世界を震撼させ続ける『ドーム』、そして求めるのは行方不明の妹とおバカで愉快な仲間達である。
いかがでしたでしょうか?
帰って来たユウヒ達を早々に妙な雰囲気で歓迎する地球でした。彼らがこの後何をするのか、ユウヒがどこで何をする気なのかなど、楽しみにしていただければ幸いです。
それではこの辺で、またここでお会いしましょう。さようならー