第三話「火制の獣」
平成27年皇大文芸倉陵祭号掲載
11、鬼ごっこ
どす黒い雲が夜空を覆い、湿気の混じった生暖かい風が顔を撫でる。
ここは公園だ。遊び手のいない、赤黒くサビの浮いた遊具たちが、不気味に佇んでいる。周囲を見渡せば、木造の黒く変色した家屋、錆が浮いた廃工場が闇に溶け込んでいた。
輪は、錆が浮いてボロボロになったジャングルジムの傍に佇んでいる。胸部までジッパーを閉め、ライダースジャケットに身を包み、黒いスカートを穿いている。
一人の少年が、周囲を警戒するように公園内に入ってきた。
「クソっ、出てこい!」
少年――佐原は、輪を確認できないのか、震える声を張り上げた。手には、安物の折り畳みナイフが握られている。
佐原が無防備な背中を晒す。
瞬間、輪の瞳が鋭く光ると、ジャケットのポケットからブラックジャックを取り出し、まるで猟犬のようなすばしっこさで、少年に迫る。
「くっ……」
佐原は彼女の気配を感じ、迎撃しようとするが、一瞬間に合わなかった。
奇麗な弧を描いて振り回されたブラックジャックが、佐原の頭部に直撃する。
ものすごい衝撃を感じ、思わず地面にうずくまる。割れそうなほど傷む自らの頭を押さえ、佐原は苦悶した。
「手加減はしたよ」
輪はつまらなそうに言い放つと、佐原の頭部に、太ももにバンドで止めていた、M36リボルバーの銃口を突き付ける。
「言うとおりにしたら、逃がしてあげる。だけど、仮に君が、聞き分けの良くない豚なら……」
輪は、拳銃の撃鉄を親指で引き起こした。乾いた金属音が、夜の静寂を払う。
「この世とおさらば……いいかな?」
喋っている間、彼女は瞬きをしなかった。ただ、淡々としていた。
「わ、わかった……」
佐原は首をぶるぶると振って、従順の意を示した。輪にはひどく滑稽に見えた。
「スマホを使って、SNSでもメールでもいいから、『○○君、さんが、君を殺そうとしている』ということを仲間に送って」
「そ、そんなこと。出来るわけねぇ……」
瞬間、M36リボルバーの冷たい銃口が、再び押し付けられ、佐原は背筋が凍え、動けなくなった。
「立場を弁えない人は、あまり好きじゃないな、私」
輪は悪戯っぽく笑う。頬にえくぼができて、無邪気に見えるが、手に握られた鈍く光る銃が、そんな幻想を無残に打ち砕く。
「わ、わかりましたっ!言うとおりにする!」
佐原は震える指で、メール送信を開始した。
20分ほどで、全ての送信が完了した。佐原は大きく息を吐いた。
「お疲れ」
「逃がして貰えるんだよな?」
「うん、そだよ」
輪は素っ気なく答えたが、銃は下さなかった。
「クソっ、だましたな!」
「逃がしてあげるとは言ったけど、命の保証まではしなかったんだけどなー」
輪は不敵に口元をつり上げた。佐原は、ズキズキと痛む頭を押さえながら、走った。
「そっちじゃないよ」
そう言って輪は、来た道を戻ろうとする佐原の足元に、銃弾を撃ちこむ。
甲高い音と共に、アスファルトを銃弾が抉り、粉煙が舞い上がった。
佐原は驚いて足を引込め、方向を変えて、路地をふらふらと走っていく。
「鬼ごっこだね……」
輪は感情の籠っていない冷たい声でつぶやくと、後を追って、闇に入っていく。瞳は、獲物を追う猟犬のように爛々と光っていた。
12、人間を狩る漁師
輪は、ふわふわと暖かい世界を漂っていた。心地よさが体を支配し、動く気力を奪われていた。
突然、場面が変わった。
輪はテーブルに座っていた。夕食の席らしい。目の前には両親が居て、何事か話しかけている。声は聞こえなかったが、彼女も、返事をしたように感じた。すると、両親は笑い、自分も笑っていた。
ふと、頬の辺りに痛みを感じた。それは徐々に強くなっていく。
抓られて、引っ張られているのだと気付くと、輪は夢の世界から這い出した。
「……いひぁい」
「……すまない」
そう言って、藤岡は手を離した。
輪は目をこすって、小さな欠伸をした。
「待っている間、寝てしまったようだな」
「うん、恥ずかしながら」
輪ははにかんだ笑顔を藤岡に向ける。ぼうっとした雰囲気の彼は、小さく溜め息を吐いた。
「何故、呼び出した」
「分かってると思うけど」
「何?」
輪は、ひょいと椅子から立ち上がると、藤岡の目の前に立った。彼は背が高く、輪は彼の胸ほどまでにしかならないため、見上げる形になる。
「佐原を殺ったよ」
輪は、くりくりとした大きな瞳を、上目遣いにして言った。美しい深茶色の瞳が妖しく光っている。
「関わるな、と言ったはずだ。これから、どうするんだ?」
藤岡は静かに言ったが、険しい顔をしている。輪は後ろを振り返って、グラウンドの方を見た。
「一緒に仕事をしようよ」
「どういうことだ」
「第一段階で、佐原を殺した。そして、彼のスマホから、SNSとメールで、お互いが疑心暗鬼になるように仕向けた」
輪は、藤岡に向き直る。スカートの裾がふわりと舞った。腕は後ろで組んだ。
「そして、私は第2段階に入ろうとしてるけど、人手が居るんだよ」
「君は、『人間を狩る漁師』にでもなったつもりか?」
「ふふ、確かに新約聖書の『獲る』よりも、私の場合は『狩る』の方があってる。でも、違うよ」
輪は一歩、藤岡に近づいた。
「……全てをやり遂げれば、私たちはそれに見合った報酬を手にできる」
藤岡と輪は、瞬きもせずに、互いに瞳を見ていた。夕陽が室内に差し込み、赤く染めていく。同時に、影も生み出す。
「昔、毎日が退屈だった。毎日、同じことの繰り返し」
藤岡は続ける。
「だが、あの2人と、3人で遊んでいた時、俺は本当に楽しかった。だが、それも昔の話だ……」
「危ないことや、不道徳なことは良くしていたが、いつから……変わってしまったのか」
藤岡は、遠い目をしながら、噛み締めるような口ぶりで言った。
「まるで、バージェスの『時計仕掛けのオレンジ』に出てくる非行少年のグループだね」
「……」
「彼らは、もとから狂っていたんだよ……協力、してくれる?」
「……ああ」
藤岡はカバンを持ちながら言った。
輪は、はにかみながらも、何か含みがある笑顔を見せた。
13、血の連鎖
「これで、5件目か……」
七崎邦雄は、溜め息交じりに呟いた。顔の彫りは深く浅黒い、屈強な身体を持つ、捜査一課の刑事だ。
彼は、ベンチに腰を下ろしていた。缶コーヒーを片手に取る休息は格別だった。
「やはり、射殺と言い、暴力団絡みの線が濃厚か……戦争中だからな」
「多分、そうだとおもうがなあ」
隣に座っている、小太りの同輩――小倉が、下がった眼鏡を指で押し上げながら答える。手には、缶コーヒーが握られている。
「組対4課の仕事だぜ、これは。射殺現場からは、薬莢も弾も見つからなかった。スマホも完全に破壊されている。手慣れの鉄砲玉だな」
組対4課、通称「マル暴」とは、組織犯罪対策第4課のことを指し、主に暴力団絡みの事件を担当している。
「4件とも、お互いに仲よく殺し合っている。最初に射殺された少年の、SNSとメールが全ての引き金だ。友情って脆いもんだな」
「仲が良かった連中が、たった一通のメールかなんかで殺し合うか?」
「というと」
「たぶん、お互いに疑心暗鬼になっているようなグループだったんだろう」
「うーん、さっぱりわからんな。確かに、若い時ってのは衝突が多いもんだが……疑心暗鬼とはねえ」
そう言って、小倉はコーヒーを飲み干した。
「どんなグループだったか、それさえ分かれば……」
「全員が死んだわけじゃないが……彼らは、話してくれない」
「……ああ」
七崎は唇を噛み締めた。
「リーダー格2人に話を聞きたいが、圧力がかかっている」
「議員と、警察官僚の子供じゃあなあ」
小倉そう言って、ごみ箱に缶を捨てると、立ち上がった。
「聞き込みを続けるしかない」
「そうだな」
七崎は小倉に外で聞き込みをしてくる、と一言伝えると、警察署を出た。
被害者、加害者の学年、クラスは偏りがなく、真面目な生徒もいれば、不良学生もいるグループ。
生存者に聞いても、ただ遊ぶだけのグループとしか答えない。
捜査本部は、ただの喧嘩から発展した傷害と片付けるつもりでいる。暴力団関連の事件で、署内は多忙を極めていて、気を回す暇など無いのだろう。
周りから聞き込みをするしかない。
七崎は悔しげに唇を噛むと、車に乗り込んだ。
14、現金に体を張れ
学校が終わると、輪に家に来るように呼ばれ、藤岡は向かった。
到着し、目の前の鉄筋造りの3階建ての家を見上げていると、制服姿の輪が玄関から現れて手招きをした。藤岡は頷いた。
「家に男の子を上げるのは……初めて、かな」
輪はそう言って、うーんと考えるように、腕を組んで左腕の人差し指を口元に当てる。
「ところで、警察の聴取は受けた?」
「ああ……心配するな、俺は疑われてはいないようだ」
「なら、いいけど」
藤岡はリビングに通され、テーブルのところに座らされている。
やがて、輪はコーヒーの乗ったトレイを持って来た。
「インスタントだけど、どうぞ」
「どうも」
お互いに一口飲む。
部屋の中は、散らかった様子もなく、奇麗だった。棚には本と、DVDがびっしりと詰まっている。
「映画とか本、好きなのか?」
藤岡は何気なく聞いた。輪は微笑んで答える。
「うん……あ、そうそう、コレとか」
ささっと棚の前に移動して、DVDを一本、棚から取り出す。そして、藤岡の前に突き出した。
「キューブリックの『現金に体を張れ』。競馬場の収益を、人生が色々積んでる人たちが協力して強奪する話で……」
輪は饒舌に語り始めた。藤岡はしばし圧倒される。
「で、それは成功するのか?」
「成功するけど、最終的に主人公は捕まっちゃう。しかも、仲間は全員死ぬし」
「ダメじゃないか」
「でも、私たちは違う」
輪はニヤリと笑うと、棚からノートを引き出して、藤岡に渡した。藤岡はページをパラパラとめくり、読み込んでいく。徐々に表情が険しくなっていく。
「パチスロ店の収益費強奪って、どういうことだ」
「そういうことだけど……何か問題?」
「俺は、汐莉と沢木を殺すことにしか手を貸さない。奴らによる、犠牲者を増やしたくない」
藤岡は有無を言わさぬように言い放った。
「で、でも、なんでもするって言ったよね?」
「記憶にない。いつの話だ?」
藤岡の硬化した態度に、輪は頭を抱え、俯いた。両者の間に沈黙というカーテンが引かれる。
輪は俯いている顔を上げた。顔には暗い翳りがあったが、瞳は爛々と不気味に光っている。
「弱者は、強い力を持った者に淘汰される。だから、犠牲者なんて興味ない」
輪は冷たく言い放つ。まっすぐ、藤岡をその瞳に据えていた。
「私は、身の程知らずの人が嫌い。大した力も無いくせに、弱い人間を狙っているのが気に入らないんだ。だから、奴らを獲物にした。罠にかかって、何人か死んでるみたいだけど」
夕闇が、部屋を包み込んでいた。部屋には影がちらつき、二人の存在を闇があやふやにさせる。
「私は自身の強さを証明するために、強者と戦わないと」
「誰に証明するんだ?」
沈黙していた藤岡が口を開いた。輪の小さな息遣いが一瞬だけ聞こえた。
輪はストッキングを纏った、すらりとした足を組み、プリーツスカートとストッキングの間の、露出している瑞々(みずみず)しい太ももにはガーターが走っている。それらは夕焼けに反射して、藤岡の瞳に妖しく、そして美しく映った。
「他でもない、自分自身、だよ」
輪は自身に言い聞かせるように、乾いた声で言った。
15、準備
鋭く、乾いた連続する銃声が林の中をこだまし、澱んだ空気を吹き飛ばした。
「……よし」
輪は、満足げに頷いた。腕は、小型の自動小銃を抱えている。ラッパに切れ込みが入っているような、特徴的な消炎器と、レシーバー上部の排莢口からは、濛々とした硝煙が尾を引いている。
彼女は射撃の轟音のため、不快な耳鳴りを振り切るように頭を少し振った。
ここは、輪の家から、少し離れたところにある小高い山だ。家が所有していて、倉庫や畑に使っていたのを、輪は利用した。悪路を登らねばならないのは閉口したが、メリットがその分多い。
メリットの一つは、私有地なので心配は必要なく銃が撃てる。
もう一つは、銃の射程距離まで存分に撃つことができることだ。
特に、彼女が撃っているAKS74U「クリンコフ」自動小銃は5・45×45ミリ小銃弾を用いるため、拳銃よりも遥かに射程が長く、威力がある。ガレージで撃つには近すぎるのだ。
輪はクリンコフを撃つことに満足したのか、木目の美しい短めのハンドガードを一撫でして、すぐ後方にある赤茶色をしたベークライト製の湾曲弾倉を弾倉止め(マガジンキャッチ)のレバーを押さえ、脱し、右側面のセレクターレバーを滑らせ、安全装置を掛けた。
そして、肉抜きされた銃床を、その根元にあるボタンを押して、レシーバーの左側面に折り畳む。
そのまま、コンパクトになったクリンコフをスポーツバッグに、マガジンと共に入れる。
「さてと」
そう言って、輪は近くにある倉庫に軽い足取りで向かう。
ボロボロの倉庫の中には、軽トラ一台が止まっていた。
「そろそろお昼にしよ!」
輪は溌剌とした声で呼び掛ける。手には弁当の包みがある。
すると、軽トラの扉が開き、ジャージに身を包んだ藤岡が長身を折り曲げて、のっそりと出てきた。
二人は近くの倒木に腰を下ろして、風呂敷を広げて、弁当箱を開く。
「軽トラの整備は完了。パイプ爆弾は作り終わったが……冷や汗をかいたぞ」
藤岡は溜め息を吐きながら、サンドウィッチを取り上げる。パイプ爆弾とは、パイプの中に火薬を詰め、両端をボルトで密閉し圧力を増加させ、爆発力を上げたものだ。学生運動が盛んだった頃、過激派学生は「キューリ」と呼んでいた。
「一瞬で天使が迎えに来るから、大丈夫」
「全裸に羽が生えた生物に、迎えられたくはないな」
「確かに合ってるけど。うーん、それもそうだね」
輪はそう言って、サンドウィッチに小さな口で、はむりっと齧り付いた。
「そう言えば、新聞見たけど、手打ちをするみたいだよ。暴力団」
「警察も一息つけるか……」
「そうだね……たぶん、長くは無いけれど」
輪は水筒からお茶を注いだ。そして、一口飲むと口を開いた。
「彼女の情報は確かだよ。しっかり聞くには苦労したよ」
「そうか」
「まだ、迷ってる?」
「そんなことはない」
そう言って、藤岡は相変わらず、ぼうっとしたような仏頂面でサンドウィッチを食べていた。
ふと、彼の咀嚼が止まった。
「これ、美味いな……何が入っているんだ?」
「シシカバブ」
「シシカバブ……」
「うん」
二人はそれから取り留めのないことを話し、食べ終えた。木々と建物はオレンジ色に染まり、太陽が山の向こうに沈もうとしている。
木々の間から見える、街の景色を見ながら、山を下り、帰途に就く。輪が、藤岡の斜め前を先行していた。
「ねえ、今、紛争の数はいくつあるか知ってる?」
夕陽と影を浴びて、輪の横顔の細い線を浮きだたせていた。
「知らない」
「40以上だよ。そして、紛争地域の住人は23億人」
「多いな」
「彼らの生活の中で、死体転がっていたり、銃弾が飛んでくるのは、当たり前なのかもしれないね」
輪は歩きながら、木々の間から時々見える街を眺めている。だが、その瞳は木々や街よりも、遠くの何かを見ているようだった。
「同情しているのか」
藤岡は訊いた。輪は足を止める。開けた場所で、木々が遮ることはなく、二人を赤く染める。
「……どうだろ」
彼女はぽつりと、無感情に呟いた。
乾いた風がそよぎ、彼女の夕陽を浴びた、色素の薄い、撥ねた髪が靡く。そして美しく、星を散らした。
彼女の後姿は夕陽で朱く染まり、藤岡の瞳に儚く映った。
16、閃光
深夜。郊外にあるパチスロ店の店内は、うっすらと明るく、闇の中でおぼろげに浮かび上がっている。
一台のクラウンが、パチスロ店の駐車場から出てきた。フロントライトが2条の光芒で夜道を照らしている。
クラウンには4人の黒いスーツを着た男が乗り、トランクにはジュラルミンケースが詰められている。
彼らは抗争が終わり、気が緩んでいた。武器はスーツの下に忍ばせているが、心構えと言うものは、どうにもできなかった。
交差点に差し掛かろうとした時、無灯火の軽トラが、突如、右から飛び出してきた。運転手はブレーキを踏み、男たちは前のめりになった。
軽トラに乗っていたのは、輪と藤岡だった。彼らは何故か制服を着ていた。
輪は、クラウンが停車したのを確認し、ドアを開け放ち、ボルトハンドルを引いて初弾を送り込んだクリンコフを構える。脇を締め、態勢を低くしている。
男たちの反応は優れていた。すぐさま、脇から銃を抜き出して、ドアを楯に応戦の構えを見せた。
輪は冷たい瞳で男達を照準に捉え、構わずに引鉄を絞った。セレクターは連射の位置にずらしていた。
パパパッ……。ぽっかりと小さく開いた死の銃口から、オレンジ色の閃光が連続で迸った。乾いた射撃の轟音が、静寂を打ち壊す。
「撃て!」
助手席の男は叫んで、スタームルガーSP101リボルバーの引鉄を引き絞った瞬間、喉笛を、3発の高初速5・45ミリ弾で食いちぎられ、口から黒い血液を吐き出し絶命した。
その時、軽トラのミラーが赤い火花とともに吹き飛ばされた。割れたガラス片がキラキラと輝いた。輪を狙った銃弾が外れたらしい。
「しっかり狙え」
輪は吐き捨てるように呟くと、運転席の男に向かって、薙ぐようにクリンコフをフルオートのまま向ける。
クラウンのフロントガラスは、ミシン目のように銃弾が食い込み、蜘蛛の巣のようになったかと思うと砕け散った。
熱い空薬莢が排莢口から乱舞し、アスファルトに打ち付けられる。
男は銃弾に胸部の肋骨と頭蓋を叩き割られ、血だらけになりながら銃を落し、崩れ落ちた。
残る二人に向けて、輪はクリンコフの引鉄を絞る。心地よいキレのある反動と、濛々と立ち込める硝煙に酔いしれ、輪は瞳を暗く光らせる。
マカロフ自動拳銃を撃ちまくりながら、喚声を上げ突っ込んでくる男に、死の銃弾を送り込む。
男は柘榴のような弾痕を晒しながら、前に崩れ落ちる。輪の瞳には、闇を穿つ連続した眩い射撃の閃光で、スローモーションのように映った。
最後の一人が逃げ出す。輪は数歩歩いて、落ち着いて狙うと、クリンコフを点射した。
男は2発で頭蓋を吹き飛ばされ、錐もみに体を回転させると、地面に叩きつけられるように斃れた。
硝煙が晴れた時、粗いアスファルトの路面は、血だまりで赤黒く染まっていた。
輪は構えた銃を下ろすと、スカートを翻して振り向き、運転席で蹲っている藤岡にガッツポーズを送る。
藤岡は、深いため息とともに頷いた。