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「ただいま~」


 玄関のドアを開けると、お袋がわざわざ俺を出迎えてくれた。


「おかえり! 疲れたでしょ?」

「いや、それほどでもねーよ」

「あら? あんたってそんな体力あるほうだったかしら? まぁいいわ、早く手洗ってきなさい。ご飯用意しとくから」

「おう、わかった」


 実際に俺はそんなに疲れてなんかいなかった。なれない労働で体はあちこち痛いのは確かだがのんたん……いや、平さんという女神を一目見た瞬間、そんな疲れは吹っ飛んでしまったのだ。今はとにかく、明日また平さんに会いたいという気持ちでいっぱいだった。


「お、今日はから揚げか!」


 トイレに行ってから手を洗い、茶の間に入ると香ばしいしょうゆとニンニクの匂いを漂わせたお袋特製のから揚げが食卓テーブルの上にこれでもかってぐらい豪華に鎮座していた。


「体を酷使した時にはガッツリしたもの食べたいでしょ? それにあんたの大好物だし! ささ、早く食べるわよ」


 俺が椅子に座り、お袋が味噌汁を食卓の上に置いたところで俺たちの食事が始まった。


「いただきます」

「ざーーーーす!」

「なんなのその言い方。ちゃんと言いなさい」


 俺は「ちゃんと言ってるよ~ん」と適当にお袋の言葉をかわしながら早速大きめのから揚げを箸で一刺しする。

「もー、どっかのヤンキーじゃないんだから」とお袋は呆れ顔で俺を見ると「あ!」と何かを思い出したようで俺にこう言ってきた。


「ところでスーパーに行く途中、桃香ちゃんに会ったんだけど、桃香ちゃん、『カズヤ、うちに就職するって言ってました?』って聞いてきたのよ? 母さん、何のことがよくわからなかったんだけどもしかしてお前、土方のアルバイトが終わったら山上ハイヤーに就職する気でいるのかい?」

「あ゛! ぶほっ!」


 お袋のその話を聞いて俺は口にまだから揚げが残っているのにもかかわらず声を出してしまった! 口を開けた瞬間、よだれたっぷりのから揚げが勢いよく飛んだ。


「ちょっと! 汚いじゃない!」

「あ! やっべぇ! すっかり忘れてた!」

「はしたない! ちゃんと拾って!」

「桃香に電話しないと!」

「そんなことどーでもいいから、早く始末しな!」


 お袋は俺の話よりも俺がから揚げを口から出したということでかんかんに怒っていた。ってそんなことどーでもいいのかい……。


 バタンッ


「さて、桃香に電話するか」


 から揚げをたらふく食ったところで俺は眠くなる前に桃香に電話しようと自分の部屋に入った。

 しかしここ最近のことを思い出すと俺は美人にばかり会っている。道を聞かれたまだ名前も知らない絶世の美女。札幌から戻ってきた、チビで生意気だけど可愛い桃香。そして、現場の事務所にいた『のんたん』こと女神フェイスの平さん。俺の頭脳の中に存在する美人探知機はドラゴンレーダーなみに美人の居場所をキャッチするものすごく優れた機械なのだということが分かった。だ、誰にもあげないからね! お兄ちゃんなんか大嫌い! あ、違うか……。

 そんなどーでもいいことを考えているうちに部屋に入ってから五分以上経過してしまった。あ、またバカな妄想してしまった。早く電話して断んないと! 

 そう思い、携帯を取出し桃香に電話をした。


 プルルルルルッ プルルルルルッ プルルルルルッ


 なかなか桃香は電話に出ない。もしかして風呂にでも入ってるのかなと思い、電話を切ろうとしたその時――


「もしも~し! カズヤ?」

「あ、やっと出た。風呂にでも入ってたのか?」

「ち、ちがうよ! ちょっとお手洗いに行ってたの」

「あ、うんこか」

「……死ね!!」

 

 ツーッ ツーッ ツーッ……


「はーーーーーーーー?! あいつ切りやがった!!」


 俺は驚きのあまり携帯に向かってそう叫んでしまった。 でもやっぱりレディー(一応)にうんこ発言はまずかったのかと思い再び桃香に電話を入れようとすると、ラブライフの曲が携帯から流れた。


「あ、桃香からだ」


 俺は通話ボタンを押し、電話に出ると同時に桃香に詫びを入れた。


「わりぃ! 許してくれ!」

「もー、カズヤったらほんとデリカシーがないんだから! 今度またあんなこと言ったら絶交だからね!」

「いや、冗談のつもりだったんだけどな……」

「そんなくだらない冗談はよしこちゃんよ!」


 またよしこちゃんって……。こいつやっぱり昭和からタイムスリップしてきた人間だろ?


「ね、ところでハイヤーの話、考えてくれた? ってかその話すをするために私に電話してくれたんだよね?」

「お、おう……。それでさ、実は俺、伯父さんにうまく丸め込まれて今、高田建設で土方のアルバイトしてんだよ。だからハイヤーは――」「知ってるよ」

「え?」

「でも夏の間だけなんでしょ? 今日、カズヤのお母さんに会ったときに言ってたよ」


 あのババァ、余計なことを……。


「んで、夏終わったら、ウチに来るんでしょ?」

「いやそれは……」


 同級生がいる(しかも一方は経営者の娘)会社になんて入りたくねーよ。働きづらいのこの上ないじゃんか……。それに今の仕事を続けていられるうちは平さんに会えるわけだし……。


『そんな深刻にならなくてもいいんちゃう? 桃香さんに自分の気持ち正直に伝えたらウチ、それでいいと思うんよ!』


 平さんのことを考えたらのんたんのあの言葉を思い出してしまった俺。そうだよな。桃香にちゃんと伝えないとな。今の俺の気持ち。


「桃香……。あのさ俺やっぱり――」「じゃぁ夏の間、バイトがんばってよ。バイト終わったらすぐに連絡してね。こっちもいろいろ準備あるから」


 俺の話を遮り、一方的に話を進める桃香。話し終えた後「じゃぁ、おやすみ」と言って桃香は電話を切ってしまった。


「はぁ……。なかなかうまく行かないもんだな……」


 そのうちに俺の意識は遠くへと消えていく……。

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