12-1
なぜか俺は杉子さんが持っていたマイクを突如奪い取り、マイクに向かって自分の今の気持ちを言い放った。
「俺は……俺の夢は平さんと一緒にアメリカに行くことです!」
「あ、アメリカ?! す、すごいじゃない!!」
それを聞いた杉子さんは目をキラキラと輝かせ俺を見つめた。
「それでアメリカに行って何するつもりなの?」
「え? そ、それは……えっと……あの……」
杉子さんの質問に俺は戸惑い、まるで外国人に話しかけられて困っている日本人のようにオドオドしてしまった。俺がなんて言えばいいのか未だに答えが浮かばない中、平さんがこちらに向かって歩いて来た。そして今度は平さんが俺からマイクを奪い取り、そして彼女はこう叫んだ。
「私、平梅乃と小鳥遊カズヤさんはアメリカで結婚します!」
「…………えええええーーーーーー??」
平さんの衝撃発言に俺の目ん玉は思いっきり外に出てしまった。それぐらい驚きを隠せなかったのだ。そして平さんの発言を聞いた会場の人たちが一斉に俺と平さんに拍手と声援を送った。
「「「「「「「「「「ヒューーーーーーーー!!」」」」」」」」」」、「「「おめでとーーーーー!!」」」、「「「お幸せに~~~!!」」」
ふと横にいる平さんをちらりと見て見ると会場からの拍手と声援に彼女は何度も頭を下げていた。そして口元はちいさく「ありがとう」と言っていた。
「なんでそれを早く言わなかったんですか?? コノコノ!」
杉子さんは俺の肩を指で突き、ニヤニヤと笑みを浮かばせながらそんなことを言ってくる。って俺も今さっき知ったばかりなんですけど……。俺は混乱し、今にも爆発しそうな脳みそに「落ち着け!」と言い聞かせながら横にいる笑顔の平さんに小声で尋ねる。
「た、平さん……」
「はい?」
「さ、さっき言ったことって……ほ、ほんとですか?」
「はい、私は本気です。だって……」
その直後、平さんは急に頬を赤らめ軽く呼吸をした後、俺にゆっくりとこう言った。
「私はカズヤさんのことが好きですから……」
「た、平さん?!」
言われたとたんに顔全体から滝のような汗が流れ、顔が一気に火照っていくのがわかった。
「小鳥遊さんが私と一緒にアメリカに行ってくれるって言ったとき、ものすごくうれしかった……。それってつまり私の気持ちを受け入れてくれたってことでしょ? 私、カズヤさんと絶対幸せになりたい」
「平さん……」
俺、このまま本当に何も目的がないまま平さんと一緒にアメリカに行っちゃっていいのかな? 本当に平さんの言う通り、日本以外の世界をこの目で見たらやりたいことが見つかるのかな? で、でもマイクに向かってアメリカに行くって言ったんだ。もう後戻りはできない……。俺はその場でマイクも持たずにこの会場にいる人たちに向かって今までに出したことがないほどの声を最大限に張り上げた。
「俺は……平梅乃さんと結婚します!! そして絶対幸せになります!!」
そして六年後――。
「ホテルの仕事ってほんとに楽しいのよ! いろんな人と出会えるってこういう仕事ならではよね~」
「俺の仕事だっていろんな人との出会いがあるぞ」
俺たちはギラギラと焼け付くような日差しを浴びながらサンフランシスコの中心街をアイスクリームを片手に歩いていた。俺たちは結婚し、今ここに住んでいる。俺は日本人のための現地ツアーガイドをし、梅乃はリゾートホテルで働いているのだ。
「でも世界中の人たちと交流したいって思わない?」
「べ、別に! 俺は日本人とだけで結構!」
「ふふふっ、まーた強がちゃって~。素直に英語あまりしゃべれないって言ったらど~う?」
「べ、別に強がっちゃいねーよ! 一応日常会話程度は話せますよ!」
「ほんとかしら?」
「ったく梅乃の野郎は……。ところでずっと気になってたんだけどさ、梅乃って名前、女みたいな名前だよな?」
「野郎ってなによ~。そんなこと言われたら教えたくない!」
「あ、いや、それは言葉のあやってもんだろ?」
「ふふっ。この名前ね、パパが付けたの」
「え? あの小林さんが?!」
「そんな驚かないでよ~。パパね、私の顔を初めて見たとたん、女の子だと勘違いしてその場で『この子は今日から梅乃だ!』って言って自分で勝手に決めちゃったんだって」
「え? でも誰もこの子は男の子だよって教えなかったの?」
「一応、ママがその場で違うわよって言ったらしいんだけど、パパ、舞い上がって全然人の話聞いてなかったみたいで……」
「はっはっは。なんか小林さんらしいわ~」
「でもママ、こう思ったらしいわ。梅乃って名前、すごく素敵だからこのままでいこうって」
「なるほどね~。なんかほのぼのしちゃう話だね~」
俺は笑顔でそう言いながら手に持っていたアイスクリームをペロリと舐める。その後も他愛のない話で盛り上がる俺たち。しばらくすると遠くから俺たちと同じ言語で話す声が聞こえてきた。だんだん近づいてくる。どうやら母親と娘らしい。
「ここに住んでいる日本人かしらね?」
「それか観光客とか?」
「う~ん、どうかしら?」
100メートル、90、80、70メートル……俺たちとの間隔がだんだんと短くなっていく。すると母親と手をつなぎながら歩いていた女の子がパッと手を放し、急に走り出す。そして俺たちの元へと駆け寄ってきた。
「どうしたのかな?」
俺はその場でしゃがみ、女の子の目線に合わせ尋ねてみる。
「あたち、かりんっていうの」
「へぇ~、かわいい名前だね」
「繰り返さなくてよかったね」
「へ?」
この子が何を言っているのか俺にはさっぱりわからなく、思わず気の抜けた声を出してしまう。するとその子は笑みを浮かべこう言った。しかし、その子の声のトーンに思わず俺は驚いてしまった。
「最悪なシナリオは免れたってことよ」
この声……。この女性の声はどこかで……。あっ!
「君は……」
「パパ、おめでとう。でも、これが本当の幸せかしらね?」
12のストーリーEND




