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7-5

 月曜日、俺は眠い目をこすりながらワゴンに乗り込み現場へと向かう。


「なんかお前えらい眠そうだな?」


 俺の隣に座っていたざーすさんが心配そうに俺の顔を覗き込んだ。


「はい、眠いっす」


 そう言うと俺はでかいあくびをざーすさんの目の前でかます。


「ちょ、おめー、息くせーよ! 手、当ててあくびしろよな~」


 ざーすさんは嫌そうに手で自分の目の前の空気を払いのける。


「すんませ~ん。はぁあ~あ~」

「だから、くせーっちゅーの! あ、そうだ! 平さん辞めて、新しい女性入ったって聞いてるか?」

「あ、はい……」


 一瞬で俺の表情は曇った。昨日の平さんの言葉を思い出したからだ。


「なんか平さんに負けず劣らず、スゲー美人らしいぞ!」


 ってかこの人はどっからそんな情報掴んでくるんだか……。


「もう着きますよ、現場」

「まぁ、一回見て来いよ! そして俺に報告しろ! なっ?」

「そ、そんなん自分で見に行けば……」


 その時エンジンが止まった。


「着いたぞ!」


 小林さんの合図で俺たちはワゴンから降り、ラジオ体操と朝礼をする事務所前へと歩く。


「あ、カズヤ、ちょっと事務所に行って昨日の日報もらってきてくれないか? 日付と時間間違ってたんだ」

「あ、はい、わかりました」


 小林さんの命令に俺はためらいもなく二階の事務所へと向かった。



 ガラッ


「失礼します。すいません、昨日の日報を直したいので小林の分の……ってだれもいない……」


 俺が踵を返し事務所の戸を閉めようとしたとき奥にある給湯室から女性の声が聞こえた。


「すいません、すぐ行きます」


 俺はその声に疑問符を浮かべる。

 ん? どこかで聞いたことある声……。そして「すぐ行きます」と言った割に背が高く、髪の長い女性はゆっくりとした足取りで俺の元へと近づいてきた。


「お待たせしました。どんな御用件でしょうか?」


 そう言うとその女性は髪をかき上げた。


「?!」


 驚いた……。本当に、本当に……。彼女の顔を見て俺は驚愕のあまり言葉が出てこなかった。


「昨日、ずっと待ってたんですよ。カズヤさん」

「あ……あ……」

「その日どこに行ってたんですか? 話したいことあったのに」

「す、すいません、花梨さん……」


 美女が平さんの後任者だったなんて……。あぁ、なんでこんなことに……って待てよ。美女って……? 俺は不可解に思ったことを美女に伝えた。


「あのぉ、花梨さんってここに観光しに来たんですよね? な、なんでここで働いてるんですか?」

「それはパパに忠告するために来ました」


 美女の言ったことが理解できずに首をひねる俺。


「パパって?」

「『もう一度前に戻って人生をやり直して』と伝えたいんです」

「パパに?」


 すると美女はクスッと笑った。


「はい、あなたに」


 俺は思わず間抜け面で美女を見た。


「へ?」

「私はパパに頑張ってもらいたくて色々アドバイスしてきたつもりだったのに……ごめんね」


 俺の頭の中の糸がこんがらがる。


「あの、すいません! 花梨さんの言っていることが全く理解できなくて」

「この選択は大失敗ね……パパ」


 何度もわけのわからないことを美女が言うたびにだんだんとイライラしてくる。


「あの、だから……」

「私のこと本当に憶えてないの?」

「へ?」

「私の顔、桃香さんに似てると思わない?」


 俺は彼女の顔をよく見た。真剣に。すると彼女は俺に背を向けこう話す。


「花梨って名前、パパが付けたのよ。この響きが好きだからって」

「かりん……?」


 俺に背を向けていた彼女はくるりと振り向き再び話をつづけた。


「パパ、パパはこの選択を誤ったわ。もう一度言わせて。前に戻って人生をやり直して。この道にずっと進んでもパパは幸せを掴めないわよ」


 この声どこかで……どこかで……。俺は記憶の糸をたどった。なんだ? なんだなんだ?! あぁ、あぁ! 未来の……俺が……こう言っている……。もう一度過去をやり直したい、そう願った。そして俺は過去に…………そして俺は驚愕する――。


「あっ! もしかして……」


 俺は唖然としたまま彼女の胸のあたりについていたネームプレートを見た。そこには――――


「私、別のルートでもこう言ってるのよ。パパは知らないかもしれないけど、『私、未来から来たんです』って。でも信じてくれなくて」


『小鳥遊』のネームプレートがきらりと反射する。


「でも前にも自己紹介したはずなのに、私の名前は小鳥遊花梨だって」


 その瞬間時空がゆがむのを感じた。次第に俺の体も歪み、そして意識が消えていくのを感じる。

 これは夢なのか? 俺は変な夢でも見ているのか……?



「うふっ、決して私を選ばないように。二股なんてもってのほかよ」


 7のストーリー END

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