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「ど、どちらからいら、いらしたんのですか?」


 めったに敬語なんて使わないのでおかしな敬語を使ってしまい、言ったとたんに恥ずかしくなってしまった俺。しかしそんな俯き加減の俺を彼女はふふっと軽く微笑を浮かべ、何事もなかったように答えてくれた。


「東京です」

「と、東京ですか? ということはシティーガールですね。……はっ」


 ついどうでもいいことを口走ってしまったと俺は再び後悔の念に駆られる。しかしまたもや彼女は口に手を当て、クスッと笑いこう答えた。


「そういうことになりますかね? あ、でも私の父はこの町の出身なんです」

「え? だ、誰ですか?」


 美女の発言に俺はびっくりしてしまい、思わず目を見開き彼女に聞いてしまった。


「でも言ってもきっとわからないと思いますよ。十九で父は東京に引っ越しましたから」

「そうですか……」


 苗字だけでも聞いてみたかったが美女はさっさと話題を変えてしまったので結局そのことを聞けずじまいだった。

 しっかしいい匂いだなぁ。

 美女の身長は163cm以上はある。なぜなら俺の身長(163cm)よりもやや高めのモデル体型の美女なのだ。なので美女のストレートヘアが俺の顔のちょうどいい位置に揺れる。その髪が揺れるたびにシャンプーのいい匂いが俺の鼻を刺激させる。そんな心地よい気分の俺をよそに美女はハイヤーの看板を指さし、こう言った。


「ここじゃないですか? ハイヤー」

「あ、そ、そうです。これが町唯一の山上ハイヤーです」


 そう言って俺は美女より早足で先に行き、山上家のチャイムを軽やかな手つきでポチっと押した。

 

 ピンポーン


 チャイムが鳴って十秒後くらいに白い、大層ご立派なドアがガチャリと開いた。山上家はこの町、一位、二位を争うほどのお金持ちなのだ。それもそのはず。だってこの町にハイヤー会社なんてここ一軒だけなんだから。お年寄りはよく利用するし、学校のスクールバスも町のバスも山上ハイヤーが請け負っている。そう、この小さな町にも格差社会が存在する。


「お! 帰ってきてたのか??」


 俺は思いもよらぬ人がドアを開けて出てきたのでびっくりしてしまった。


「うん、帰ってきちゃった」


 そう言って笑顔で俺を見つめるボブヘアの小柄な女の子。彼女の名前は山上桃香やまがみももか。俺の幼馴染だ。彼女は高校を卒業してから札幌に行き、銀行に就職したのだが……なんで七月に帰ってきたんだろ? 早めのお盆休みなんだろうか?


「あ、あの、すいません。ハイヤー一台お願いしたいんですけど、自然公園まで」


 俺が桃香がなぜ今頃帰ってきたのか思考を巡らせていると美女が申し訳なさそうに桃香に頼んでいた。


「あ、はい、わかりました……けど、この方、カズヤの知り合い?」


 桃香はこの美女を見た後、キョトン顔で俺を見つめる。


「あ、さ、さっき散歩中に道で会って、自然公園はどこか? って聞かれたんだよ。それでこっから遠いから、ハイヤーで行ったほうが早いって話になってここに連れてきたってわけ」


 俺は付き合ってもいない桃香になぜか誤解されないように必死になって今までのいきさつを話した。


「そう。確かに歩くのにはちょっとキツイもんね……」


 そう言いながら桃香は美女の顔を下から眺める。桃香は150cm位の背丈したないので美女との身長差は10cm以上にもなる。傍から見るとまるで大人と子供だ。


「あのぉ、もしかして観光客の方ですか?」

「はい、東京から来ました」


 その言葉を聞いた桃香は、「あぁ」と言って納得の表情を浮かべる。まぁ、確かにこんな美女、この町どころか隣町探したって見つからないわな……。


「ちなみに学生さんですか?」


 はっ! 桃香、いいこと聞くな。確かにこの美女が何している人なのか、年齢……あ、名前すら聞いてなかった!

 俺はこの美女に対する基本的情報を全く知らなかったこと、それが情けない話、桃香の質問で気づいたのだった。


「いえ、今は無職です。というのも先月、フランスから帰ってきたばかりなので」

「「フ、フ、フランスですか?!」」


 美女の発言に思わず俺と桃香は大声で聞き返してしまった。気持ちいいくらい調和していた。


「海外に行った人、初めて見た……」


 桃香はポカンと口を半開きにしながらぼそりとそう言った。この町の住民、ほぼ100%と言っていいほど、大半は日本から出たことがない。もちろん俺も桃香も日本から一歩も出たことがないのだ。なので友達の友達が海外に行ったというだけで大盛り上がりしてしまう始末。

 よし、俺も家に帰ってからお袋に言ってみよ! きっと目、丸くして驚くぞ!


「そ、そんな驚かなくても……。ワーキングホリデーで一年住んでいただけですから」

「「外国に住んでた?!」」


 苦笑いをしながら半ば照れくさそうに話す美女を尻目に俺たちはまたもや素晴らしいハーモニーを奏でた。


「い、いや、でも一年だけですよ?」

「一年『だけ』じゃないですよ! 一年『も』ですよ! 住んでたなんて、ほんとすごーい! もしかして英語ぺらぺらなんですか?」


 体を前のめりにさせながら桃香は興奮気味でその美女に尋ねた。もちろん美女は興奮している桃香に苦笑いを浮かべている。


「いえいえ、英語なんてそんなに話せません。それにフランスはフランス語です。あ、あの、もうそろそろハイヤーを……」

「あ、ごめんなさい! ちょっと待ってってくださいね! 今宮田さん、呼んできますから」


 美女が申し訳なさそうに言った言葉を聞いて桃香はハッと我に返り慌てて運転手の宮田おじさんを呼びに行った。ちなみに宮田おじさんと俺の死んだ親父は同級生だ。親父曰く、野球部で俺の球を唯一受け取れた男だと言っていた。そう、親父は中学の時野球部でピッチャーをしていた(エースだったとか。あくまでも本人の証言によるもの)。というか心臓弱いくせに野球なんかやっていて良かったんだろうか?

 そんなことを考えていると、前に会った時よりもかなり肥えている宮田おじさんが出てきた。今は野球部だった面影は全くなく、相撲部に所属していたと言ったほうが納得できる風貌だった。俺の顔を見たとたん宮田おじさんは「おぉ!」と驚きの声を上げ、笑いながら俺の肩をバシンバシン叩いてきた。痛っ、痛いちゅーの!


「カんズヤじゃねぇーが! めんずらしいなぁ。元気がぁ?」

「あ、はい、一応……」

「おんめー、今、どこさ働いてんだ?」

「え? あ、まぁ、適当に……」

「適当にっておんめー、まさかま~だ『ミート』なのか?」


 ミートって、俺、肉じゃないんだし……。それともキ○肉マンの世話係の少年のこと?

 そんな宮田おじさんの本気のボケに俺は心の中で突っ込みを入れる。というか『ミート』って発した後のおじさんの顔はなぜか誇らしげだったのは気のせいだろうか? ここで得た教訓。知ったふりして横文字を安易に使わないこと。

 おじさんは「ずっとミートのままだと母ちゃん悲しむぞ」と言いながら俺の横にいた美女をちらりと見た。


「このべっぴんさんは? まさかカんズヤのコレか?」


 そう言いながら宮田おじさんは俺に向かってニヤニヤ笑いながら小指を立てる。俺はとっさに手をぶんぶんと横に振り「ちがいます!」と強く否定した。ほんとは、「そうなんです。彼女は俺のコレなんです」なんて小指を立てて言ってみたい気持ちは山々だったのだが、そんなこと言ったら美女になんて言われるかある程度想像がついてしまうのでそこは俺の妄想の中でとどめておくことにした。


「宮田さん、そんなバカなことあるわけないでしょ! 早くお客さんを自然公園まで連れて行ってください!」


 そう言ってかなり本気でおじさんをとがめる桃香。

 そんなに顔、真っ赤にして怒らなくてもな……。もしかして今日生理なのか?

 またバカなことを考えてしまったと軽く反省する俺だったのだが、誰かの鋭い視線が目に入ってきた。って桃香だ! なんでそんなに俺を睨み付ける?? やっぱりお前、今日絶対生理だな?


「いんやぁ、カんズヤをたしなめていたら、すっかり忘れちまって。どうもすぃませんねぇ。おい、おめーのせいだかんな! 反省すぃろ!」


 おじさんは美女に笑顔で謝りを入れた後すぐに俺を睨み付けた。って、俺のせいなのか? おじさんが長々と話し込んだせいだと思うんだけど……。

 おじさんは小走りでハイヤーの運転席に乗り込み美女の前に止め、後部席のドアを開け美女を見ながらこう言った。


「大変お待たせすぃました。さぁ、どんぞ」

「はい、失礼します」

「じゃぁ、宮田さん、今日も安全運転でね! いってらっしゃい!」


 桃香のその言葉におじさんはにっこり笑いながら手を振り、美女のワンピースと同じ色をした真っ白なハイヤーを発進させた。ハイヤーが100mほど行ったところまで見送ると桃香は「はぁー」と安心ともいうべきか深いため息をつき、薄い笑みを浮かべながら俺を見つめる。身長の低い桃香から見つめられると自然と上目遣いになるので俺は桃香のこのしぐさが大好きだ。と本人には言えないがいつも心の中で思っている。


「い、色々とサンキュな」


 桃香に見つめられると必ず照れてしまうので照れ隠しのため俺は頭をボリボリとかき、桃香に視線をそらしながらお礼を言った。そんな俺のお礼の言葉に悪戯めいた表情を浮かべる桃香。


「なーにが?」

「何がって……。いや、急に押しかけてちゃったこととか。美……いや、あの女性も助かったと思うよ。ってか、名前まだ聞いてない! しまった!」


 俺が美女の名前を聞かなかった悔しさで天を仰いでいると桃香の口から思ってもみない言葉が発せられた。


「……カズヤ、もしかしてあの女性のこと気になるの……?」

「え?」


 その言葉に俺は思わず恥ずかしさも忘れて桃香の顔を見た。桃香はなぜか切なげな表情

で指を絡めながらぼそりとこう話す。


「だってカズヤ、鼻の下伸びてた……」

「お、俺が??」


 すると桃香は不満げにコクリと頷いた。も、もしかしてこいつ……。その瞬間俺は全身から何か熱いものが通るのを感じた。顔、赤くなっていないだろうか? そんな心配をしながら俺は照れを隠すために冗談半分でこんなことを聞いてしまう。

「ははっ! お、お前、まさかこの俺のことが好きなのか? な~んちって!」

「?!」


 俺の言葉を聞いた途端、桃香は目を丸くし、呆然と俺を見つめた。どうやら彼女は俺の言葉を本気で受け止めてしまったようだ。


「ちょ、お前~! なんで早く言って――」「はーーーーーーーー?!」

「え?!」


 俺の発した言葉にかぶせ気味で大きな声を出す桃香。そんな桃香の顔は怒りのせいなのか熟れたトマトのように紅潮していた。おい、犬の散歩してる鎌田のじいさん、びっくりして入れ歯落ちちゃったぞ! って、慌てて拾ってまた口の中に入れちゃったし……。衛生的に問題ないのか?

 鎌田のじいさんの口の中が気になってついよそ見をしてしまった俺。慌てて桃香のほうを見ると――――


「わっ!」


 俺の真正面にあどけなさが残るうるうるとした瞳とぷっくりとしたやわらかそうな唇がそこにあった。や、ヤバい! 理性が失われそう……。


「わっ! ってなによ? ってかなんで鎌田のおじいさんをじっと見てんのよ? キモいっつーの!」


 あれ? 桃香ってツンデレ要素あったっけ? 桃香の性格にツンデレと言う、そんなすごい要素を隠し持っていたとは……。


「勘違いしないでよね! 私の好きな人は永遠にチャニーズのニノマエくんなの!」

「え? お前、ニノマエのファンだったのか? お袋がテレビでニノマエ出るたびに『カズヤってニノマエくんにそっくりよね~』って言ってるぞ! ってことはだ……」


 俺は顎に手を当て、古畑○三郎なみに『う~ん』とうなりながら考えてみる。しかし俺が一生懸命考えようする間も与えてくれずボブヘアの見た目小学生、山上桃香はピンク色のほっぺを膨らませながらつまんないギャグとともにこう言い放った。


「は?! あんたがニノマエくん?! 冗談はよしこちゃんよ! あんたはニノマエくんの足元にも及ばないわ! あ、ニノマエくんの足とあんたの足は少し似てるかもね……」

「足ってなんだよ? っていうか『よしこちゃん』ってお前は昭和の人間か!」

「誰が昭和よ?! 私は平成生まれですぅ! あんたこそ見た目は昭和よ!」

「俺だって平成生まれだ! 同い年だから当たり前だけど」


 昭和生まれの方、ごめんなさい。そして桃香に代わってもお詫び申し上げます。申し訳ございません。しかし決してバカにしたつもりは微塵もございません。

 俺が昭和の皆様に心の中でお詫びを申し上げていると桃香は肩をすくめて吐息を漏らしながらこう言う。


「はぁ~。カズヤと一緒にいると平常心が乱れちゃうわ~」

「おい! それはこっちのセリフだ! ってかお前いつ札幌に帰るんだよ? 早く帰れよ~」


 俺が冗談まがいに軽く笑いながらそう言うと桃香の表情は一変した。


「そんなに私に札幌へ帰ってほしいんだ……」

「ちょ、なにブルーになってんだよ? さ、さっきのは冗談だろ! ち、ちがうよ! いや、ただ不思議に思ってたんだよ。だって今七月だべ? 会社員はまだ働いている時期だべよ? だから桃香は早めのお盆休みをもらったのかなって思ったんだよ」

「ちがうよ……」


 桃香はぼそりと一言否定すると、俯きながらもゆっくりと言葉を紡ぎだした。


「私、もう札幌には帰らないんだ……」

「え? どういう――」「辞めたの」


 俺の言葉を途中で遮り、桃香は先ほどよりもやや強い口調でそう答えた。


「辞めたって会社ってことか?」

「そうだよ。辞めた。辞めちゃった……」

「そっか。でもお前が早々と辞めるなんて意外だな」


 俺は特に理由も求めることはせず、軽くハハッと笑いながら頭をかき、桃香の顔をちらりと見た。そんな桃香の顔は相変わらず暗い表情のままだった。


「人間関係って難しいよね。まさか、大人の世界にもあんなことがあるなんて思ってもみなかったから……」

「そうだよな。人間、大人も子供も関係ないってことだよな。俺も就職して気づいたよ」


 すると桃香は俯いていた顔をあげ、薄い微笑を浮かべてちょっと得意げにこう言った。


「でも、私は二か月で辞めてなんかないわよ。あんたと違って、三か月ちょっとは頑張って働いたわよ」

「お、お、おい! 俺が二か月で辞めたってなんで札幌にいたお前が知ってるんだよ?」


 俺はその場で吉本張りのコケを見せ、苦々しい表情で桃香に尋ねた。


「だって、うちのお母さんがよく電話でこの町のことを話すから。もちろんカズヤのことも」


 お前の母ちゃんも好きだな~。と内心思うも桃香には苦笑いをするだけに留めておいた。


「じゃぁ、お前、これからどうすんだ? ここ継ぐのか?」

「とりあえずは……。働くとこあんまないし」

「いやでも、俺と違ってお前は親父さんのコネ使えば簡単にはいれるだろ?」

「まぁ……でも……コネに頼るのもどうかなって……それにきっと両親も私に山上ハイヤー、継いでほしいと思ってるだろうし」

「そっか、お前は変なところで真面目だかんな」


 そう言いながら俺は上を見上げ、晴天を眺めた。今度は睨むことをせずに。


「カズヤこそ、どうすんのよ?」


 俺がボォーっと青空を見上げていると下のほうからギクッとするような質問が耳に入ってきた。


「え?」

「スーパー辞めてから何もしてないんでしょ?」

「まぁ……な」


 俺が気まずそうにそう答えると桃香はパチンと両手を叩き思ってもみないことを言ってきた。


「じゃあ……山上ハイヤーで働かない??」

「は?」


 俺は思わず目が点になる。思わずリードも離してしまった。というかタロ吉のこと、すっかり忘れていたぜ。しかしタロ吉はまだ四歳にもかかわらず、じいさんみたいな犬なので逃げることはなく、大人しくその場にチョコンと座っていた。


「『は?』じゃなくて! 私は本気で言ってるの!」

「い、いや、ちょっと、いくらなんでもそれは……ってか決定権、お前にないだろ?」

「確かに私には決定権はないけれど話せば、お父さんもお母さんも喜んで入れてくれると思うよ! とくにお母さん、カズヤのこと結構気に入ってるし」


 おばさんに気に入られてもね……。俺はおばさんより若い娘さんのほうが……。そして俺はちらりと桃香を見る。


「まぁ、小さいし、ちょっと生意気だけどよく見れば結構可愛いし……」

「は? 何言ってんの? 何の話? もじもじして、さっきからキモいっちゅーの!」

「あ! しまった!」


 俺は心で思ったことをうっかり口に出してしまっていた。慌てて、ハイヤーの話に戻す。


「いや、ちょっと待てよ。ハイヤーの運転手って普通免許じゃダメだろ?」

「そうよ。二種免がないと、お客さんを乗せることはできないからね」

「だろ~? 俺、うちの親父が運転手だったからよく知ってんだよ」

「じゃぁ、取ればいいじゃない? カズヤのおじさん、運転がすごく丁寧でお年寄りからかなり評判良かったのよ! あんたもおじさんの血を引いているならきっとこの仕事向いていると思うわ!」


 桃香は先ほどとは打って変わって満面の笑みを湛えていた。そんなニッコリ笑うなって。惚れちまうだろ……。あ、言葉間違えた! ちがうちがう。断りずらくなるだろ……。


「いや、でも今の俺は教習所通う金なんてねーぞ」

「任せなさいって! そんなのウチで負担するよ! 絶対ウチで働いたほうが良いって!」


 そう言いながら桃香は自身の胸をドンと叩いた。小柄な割には結構ある桃香の胸が震度六くらい揺れた。胸に目が行きがちになるのを必死にこらえ、俺はタロ吉に目を向けながら話す。


「いやいや、そんな簡単に負担するって言ってもだな~、お前に決定権ないって言ってんだろうが……」

「あ、言葉間違えた! 投資!」

「え?」

「投資よ! 投資! まさかあんた、投資っていう言葉も知らないの?」


 いやいや、お嬢様、この俺様を馬鹿にしちゃいけないよ? とうし、もちろん知ってますとも!


「一年で一番日中が短く、夜が一番長くなる日だろ? 俺んちはその日に必ずかぼちゃの煮つけ食うぞ」

「アッホ! それは冬至でしょ! 私が言ってるのは投資!」


 さすが桃香、突っ込みの才能は高校の時から変わってないなと感心していると桃香は軽くタロ吉の頭を撫でニコリと笑ってこう言った。


「まぁ、投資の意味は辞書で調べなさいな! じゃぁ、考えてみてね。いつでも連絡待ってるから!」


 そして桃香は俺に手を振りながら玄関のドアを開け家へと入っていった。

 あぁ、親父と同じところに就職なんて……。それに桃香もいるし……。考えられないよな……。

 俺は額に汗を垂らしながら再び空を見上げる。しっかし今日は本当に暑い日だ。

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