4-2
俺はショックだった。
「恥ずかしいな……。私もカズヤ君と一緒で初めてなのよ」
だって頬を赤らめている彼女の体には――――
「うそ……」
「いつか私、カズヤ君に言ったことあるわよね? ある目的があってあそこで働いているって。私、アメリカに移住したいがためにあそこで働いてお金を稼いでいるの。あ、知ってる? アメリカのいくつかの州では同性婚が認められているのよ。だから……私と一緒にアメリカへ行きましょう」
そう、俺と同じ「モノ」がついていた……。
「好き……抱いて……」
そして六年後――。
「ホテルの仕事ってほんとに楽しいのよ! いろんな人と出会えるってこういう仕事ならではよね~」
「俺の仕事だっていろんな人との出会いがあるぞ」
俺たちはギラギラと焼け付くような日差しを浴びながらサンフランシスコの中心街をアイスクリームを片手に歩いていた。俺たちは結婚し、今ここに住んでいる。俺は日本人のための現地ツアーガイドをし、梅乃はリゾートホテルで働いているのだ。
「でも世界中の人たちと交流したいって思わない?」
「べ、別に! 俺は日本人とだけで結構!」
「ふふふっ、まーた強がちゃって~。素直に英語あまりしゃべれないって言ったらど~う?」
「べ、別に強がっちゃいねーよ! 一応日常会話程度は話せますよ!」
「ほんとかしら?」
「ったく梅乃の野郎は……。ところでずっと気になってたんだけどさ、梅乃って名前、女みたいな名前だよな?」
「野郎ってなによ~。そんなこと言われたら教えたくない!」
「あ、いや、それは言葉のあやってもんだろ?」
「ふふっ。この名前ね、パパが付けたの」
「え? あの小林さんが?!」
「そんな驚かないでよ~。パパね、私の顔を初めて見たとたん、女の子だと勘違いしてその場で『この子は今日から梅乃だ!』って言って自分で勝手に決めちゃったんだって」
「え? でも誰もこの子は男の子だよって教えなかったの?」
「一応、ママがその場で違うわよって言ったらしいんだけど、パパ、舞い上がって全然人の話聞いてなかったみたいで……」
「はっはっは。なんか小林さんらしいわ~」
「でもママ、こう思ったらしいわ。梅乃って名前、すごく素敵だからこのままでいこうって」
「なるほどね~。なんかほのぼのしちゃう話だね~」
俺は笑顔でそう言いながら手に持っていたアイスクリームをペロリと舐める。その後も他愛のない話で盛り上がる俺たち。しばらくすると遠くから俺たちと同じ言語で話す声が聞こえてきた。だんだん近づいてくる。どうやら母親と娘らしい。
「ここに住んでいる日本人かしらね?」
「それか観光客とか?」
「う~ん、どうかしら?」
100メートル、90、80、70メートル……俺たちとの間隔がだんだんと短くなっていく。すると母親と手をつなぎながら歩いていた女の子がパッと手を放し、急に走り出す。そして俺たちの元へと駆け寄ってきた。
「どうしたのかな?」
俺はその場でしゃがみ、女の子の目線に合わせ尋ねてみる。
「あたち、かりんっていうの」
「へぇ~、かわいい名前だね」
「繰り返さなくてよかったね」
「へ?」
この子が何を言っているのか俺にはさっぱりわからなく、思わず気の抜けた声を出してしまう。するとその子は笑みを浮かべこう言った。しかし、その子の声のトーンに思わず俺は驚いてしまった。
「最悪なシナリオは免れたってことよ」
この声……。この女性の声はどこかで……。あっ!
「君は……」
「パパ、おめでとう。でも、これが本当の幸せかしらね?」
4のストーリー END




