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「栄町栄団地の2号棟は……」
俺はゆっくりと走りながらあたりを見回し、風間さんと言う方が近くにいるか真剣に目を凝らした。
「ん? あれが風間さんか? でもどっかで見たことあるような……って!」
俺は慌てた様子でその男の前でブレーキをかけた。その男は真っ金金の髪の毛で鼻にはぴかーんと光るものをつけていた。
「ざーす!」
そう言いながらちらりと俺の顔を見る。そして――
「ん? ってカズヤじゃねーか!」
「ざーすさん! っていや、風間さん!」
俺もざーすさんも思わずびっくりして二人で大声を上げてしまった。いやだって、ざーすさんはざーすさんだろ? 風間なんて言われてもピンと来ないよ? とりあえずざーすさんを乗せ、町はずれにあるあの現場へと車を走らせた。というのもざーすさんは今日寝坊してしまったのだが、今免停中で車を運転できないらしい。ってか何回捕まったら免停になるんだ?
「お前、今度は土方辞めてハイヤーの運転手してるのか?」
「ざーすさんこそ、なんでこの町に住んでるんですか? 引っ越したんですか?」
「そうなんだよ! いい加減隣町から通うのも嫌になってさぁ。たかが二十分くらいの距離でも毎日通うと辛いもんがあって。んで彼女に相談したら、引っ越しても構わないって言うからさ~。ま、そんな感じ? んでお前は?」
「俺は、知り合いに頼まれてここに入ったって感じですね……」
「なるほどね~。ってかお前はいっつも頼まれて仕方なく働いてるみたいなパターンだな?」
その言葉が俺の胸に深く刺さった。ざーすさんは何気なくただ思ったことを言ったつもりなのかもしれないが俺にはかなりキツイ言葉だった。
「……ですね」
俺は軽く苦笑いを浮かべ、遠い目をしながら運転する。
「あ、そうそう、平さん、今小林さんと付き合ってんの知ってたか?」
「え?」
その言葉に俺は我に返った。そして恐る恐る聞いてみる。
「小林さんってあの小林さん……?」
「んだ。班長の小林さんだ」
「で、でも小林さんって結婚してるんじゃないんですか?」
「何言ってんの? 小林さんなんてとっくの昔にバツイチになってるんだぞ」
「えー?!」
「平さんがあの事務所に入ってきたときからずっと彼女のこと気になっていたみたいで、つい最近、二人がデートしている現場を目撃した人が何人もいるんだよ」
「うそでしょ……」
俺はあまりのショックで車にブレーキをかけてしまった。
「お、おい! いくら車走ってないからってど真ん中に止めんなよ! あぶねーだろ!」
「あ、す、すいません!」
ざーすさんの言葉に俺は慌てて車を端に止める。
「でもえれー歳の差だよな~」
「小林さんって何歳なんですか?」
ってか平さんも何歳なんだろう……。
「小林さんは今年で五十って言ってたな~」
「た、平さんは??」
「平さんは俺より二個上って聞いてるから22ってことだよな?」
「ってことは……えーー! 28歳も!」
俺は思わず絶叫してしまう。そんな俺の声にざーすさんは耳をふさぐ。
「うるせーよ! ってかやっぱりお前、平さんのこと好きだったんだろ?」
「い、いや……そういうわけじゃ……」
するとざーすさんはニヤニヤと笑い、軽く腰を上げ、前かがみになり俺の顔を覗き見ながらこう言ってきた。
「会ってくるか?」
その言葉に俺は当然驚く。
「は?」
「『は?』ってなんだよ! 平さんに会ってくるかって言ってんの!」
「い、いや、いいですよ! もうそっちで働いてないですし」
「情けね~な! これだから草食系は嫌なんだよ。してどーすんだ?」
の、のんたんよ……。俺はこういう時どうしたらいいんだ? 俺は心で家にいるのんたんに助けを求めた。
3、『今は仕事中やろ? それになんのために会いに行くん? 彼女と小林さんを別れさせるため? そんなことしたらあかんよ? ちゃんと仕事しないと!』
4、『平さんのことが本当に好きなら会いに行くべきだとウチ、思うんよ。平さんに好きって言って自分の気持ちくらい伝えたらどうなん? まぁそれにこれはウチのカンやけど、二人は普通の男女の関係ではないような気がするん』
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