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1-2

「はい、山上ハイヤーです。あ、鎌田のおじいちゃん! おはようございます! はいわかりました。では今から一台向かわせますね~。はい、では失礼いたします」


 ガチャ


「カズヤ、初出動よ!」


 事務室でお茶を飲みながら待機していると早速、お客さんから配車依頼が来た。桃香はピンクレンジャーのように力強い言葉で俺にそう言ってきた。俺はさすがに赤レンジャーの気分にはなれなかったがお茶をテーブルにコトリと置き、腰を上げ白い手袋をはめながらまるでベテランドライバーのような振る舞いでこう答えた。


「鎌田のじいさんのところだべ? してたぶん、じいさんのことだから病院までだよな」

「おじいちゃん家は知ってるわよね?」

「元町だべ。じゃぁ、行ってくんわ」


 そして俺は壁に掛けてあった白い帽子をかぶり事務室を出ようとすると桃香が不思議な面持ちで俺を見てくる。思わず「なんだよ?」と俺はいぶかしげな表情で言ってしまう。


「あれ? 思ったより緊張してないわね?」

「なんで鎌田のじいさん所に行くのに緊張するのさ?」

「あぁ、なるほどね。そう言うことか……」


 そう言うと桃香はニヤニヤと不敵な笑みを浮かべ俺を再び見た。


「ったく、何だよその顔は……」

「ふっふっふ。なんでもない。じゃぁ、気を付けてね~」

 

 バタン


 俺は車に乗り込みシートベルトを締め、エンジンをかけた。ブルンブルンとエンジン音がシートに響く。俺だってさすがに全く緊張していないわけじゃない。俺は顔を手のひらで二回ほどバシバシと叩き気合を入れた。


「よっし、赤レンジャー出動!」



 線路を越え、二百メートルほど行ったところに町営住宅がある。そこのあやめ棟の一階に鎌田のじいさんが住んでいるのだ。


「あ、いたいた!」


 俺は鎌田のじいさんの前に車を止め、後部座席のドアを開けた。


「おはようございます」

「おんや? おめえさんは小鳥遊さんとこの息子さんじゃないかい?」


 鎌田のじいさんは後部座席に座るや否や俺の顔を覗き見てそう言ってきた。ってか帽子かぶってるからバレないと思ったんだけど、よく気づいたな……カンの良いじいさんめ。


「あ、はい……」

「父ちゃんと同じところに就職するとはなぁ~。母ちゃんもうれしかったんじゃないのか~」

「……あの、病院までですよね?」

「いんや~、あの世に行った父ちゃんもびっくりしてる――」「病院までですよね!」


 俺はじいさんの言葉を遮り、強い口調でそう言った。

 じいさんはポカンと口を開け、「あ、あぁ」とだけ言って深く座り込む。別にムカついたわけではなかったのだがうちのことをあぁだこうだ言われるとなんか癇に障るのだ。あ、これってムカついてるってことか……。不機嫌に強く言ってしまったことをじいさんに謝りたい気持ちがあったのだが、この俺の性格、なかなか素直になれず、結局最後まですいませんの言葉もなく、じいさんを病院に降ろしてしまった。後部座席のドアを閉め、俺は深いため息をつく。


「はぁ、最初の任務、成功……ではなかったな……」



 俺は接客業にやっぱり向いてないのかも。

 そんな気持ちを抱きながら俺は二階にある事務所のドアを重々しい表情をしながら開ける。すると――――


「?!」


 俺はその光景に思わず目を丸くさせた。桃香と江張さん、お互いに向かい合った席から腰を上げ仁王立ちになり言い争いをしてたのだ。


「泰子さん、わからないってどういうこと??」

「だって声小さくて聞こえにくくて、聞き返そうとしたらそこで電話切れたのよ! なんでそれを私のせいにすんのよ! 私に非がある?」

「あるわよ! お客さんが誰なのかわからない時点ですぐに聞き返さなければいけないでしょ!」

「ちょっと、その口の利き方、なんなのよ? 私のほうが三つも年上なのよ!」

「はぁ? 今の状況で年上年下関係ある?? 誰だかわからないお客さんの気持ち考えてよ! 今、寒空の中、ハイヤーを待ってる状態なのよ!」

「寒空? 今日はあったかいじゃない!」

「ちょー! ちょっとストップストップ!」


 興奮している二人を見るに見かねて、俺は間に割って入る。


「なんとな~く、二人のやり取り聞いてわかったんだけど、要は、電話来たお客さんが誰なのかわからないってことだべ?」

「「そうよ」」


 あ、そこだけ息ぴったりなのね……。


「この電話機って着信履歴とか分かんないのかよ?」


 俺が事務所の電話をポンと軽く叩いてからそう言うと桃香はハッとした表情を浮かべ、すぐさま電話の着信履歴を表示させた。


「う~ん、この番号、誰かしら……」

「そんなのネットで番号検索してみればいいじゃない?」


 桃香が「う~ん」と考えている横で江張さんがすまし顔でそう言ってきた。ってか原因はおまえだろ? っと嗜めたくなるがそこは我慢して俺は立ったまま桃香の前にあるパソコンを使ってその番号を調べる。


「お、わかったぞ。風間良太かざまりょうたさんって人の家だ。知ってるか?」

「風間さんねぇ……あ、もしかしたら最近隣町から越してきた人かしら。ちょっと風間さんに電話して場所聞いてみるわ」


 そう言うと桃香はリダイヤルを押し受話器を上げた。


「ねぇ、カズヤさんって結構頭が回るのね」

「え? いや……」


 江張さんが俺に近づきそう言ってくる。というか、顔が……近いんですけど……! そして香水の匂いが……。あぁ、いかんいかん! 俺は気が変になる前に彼女から視線を逸らした。やっぱり江張さんって俺に気があるのか……?


「はい、栄町ですね? かしこまりました。それではすぐに一台向かわせます。本当にお待たせしてしまい申し訳ございませんでした」


 桃香は受話器を下ろすと俺を見つめた。そしてまたもやピンクレンジャーのような口調で俺にこう言う。


「カズヤ、出動お願い!」

「お、おう!」

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