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ドラゴンの加護を持つ者

「もしかして、私も日本に帰れるのか?」

「帰りたいか?」

 話の流れから聞いてみたが、意地の悪い言葉が返ってくる。


「いや。死んだ人間だし、容姿も違うし、うーん、ビミョウだな。 だが、両親に元気だとは伝えたいかな」

「異界の扉は多分俺専用だからな。 住所を教えてくれるなら、伝えておいてやる」

「異界の扉?」

「ドラゴンの扉とも言うが、壁にドラゴンの絵が描いてある」

「壁画みたいなものか?」

「ああ。 他の奴には壁画だが、俺だけはドラゴンの周りに扉の輪郭が見えるんだ」

 これは、どういう事だ?

 今更日本に帰っても仕方がないから躱したんだが、この口ぶりでは扉が見えれば行けるという事か。

 訳が分からんが、とにかく扉を目指す方向でいくか。


「何故、これほどの秘密を話してくれたのか、聞いてもいいか?」

「ケーキのお礼だ」

「?」

「俺は甘党なんだよ。 王宮の料理なんか出されたら、緊張して味すら分からなかっただろうよ」

 これは、ケーキで正解だったという事か。

 ならば、もう一押し。


「感謝ついでに、その場所を聞いても?」

「俺の家だと答えておこう。探してみるんだな」

 うーん、無理だったか。


「お前の名前も秘密なのか?」

「こっちの世界じゃ、ギルドマスター。それで十分だろう?」

 ギルドで聞けという事か?

 いや、分かりそうもないな。 何とかヒントを引き出さないと。


「それだけじゃ、ヒントにもなりゃしない。 もっとこう、無いのか?」

「ふっ、そうだな。 ドラゴンの加護を持っていると言ったら信じるか?」

 そう言いながら男が立ち上がる。

 くそーっ、話が飛び過ぎだ。


「ちょっ、ちょっと待て。 ドラゴンの加護を持つのは千年前に現れたという魔導師様のみ。 お前、魔導師様の生まれ変わりなのか?」

「俺は俺だ。 他の誰でもない」

 睨まれた、地雷だったか。

 しかし、逆に言えば本当に加護を持っているという事で、そうなると別の問題が出てくる。


「王家の、継承権における条文を知っているか?」

「いや」

「男子の継承者が無い時はドラゴンの加護を持つ者を王に迎えよ、だ。 そして今、カサシン王国に王子はいない」

「……」

 本当に知らなかったのか。


「王様になれば、好きな事をし放題だな」

「そんな軽薄な男に、ギルドマスターが務まるとは思えんがな」

 ふざけた物言いを辛辣な言葉でくだけば、鋭い視線が交差する。

 ここが正念場だ。


「日本でたとえるなら、顕微鏡の中しか知らない研究者がいきなり総理大臣になる様な物だ。 うまくいくはずがないうえに、精神的な重圧などは想像すらできないだろうよ」

「……」

「それでも、王になってもらいたいとは思っている。 お前が本当にドラゴンの加護を持っているのなら、な」

 しばしの沈黙が流れた。


「出来ないと分かっていてなぜそこまで言う?」

「千年前の魔導師様もこの地に現われたが、当時は迎える事は出来なかった。 そして、隣のスースキ王国に行き、この大陸を統一した。 この条文は当時の名残だが、今も生きている。 お前が何をしようと勝手だが、この国でやってもらいたい。 先人の轍は踏めないと、そういう事だ」

「……」

 否定しない。 もう一押ししてやる。


「一つだけ聞きたい」

「何だ?」

「ドラゴンキャニオンの先にドラゴンの加護を持つ者がいるという噂は本当なのか?」

「……ああ」

「ならば、越えてみせる。 それでどうだ?」

「不可能という言葉を知っているか?」

「待っていてくれる奴がいる時、女は信じられないほどの力が出るんだ」

「それは男のセリフだ」

 苦笑いで男が扉に向かった。 ここまでか。

 まあいい、これでドラゴンの加護を持つ事は確定した。


「門までお送りしろ」

「かしこまりました」

 控えていたメイドに指示を出す。

「道ぐらい覚えている」

「馬鹿言え。 お前みたいな者が城内を歩いていてみろ、近衛兵がすっ飛んでくるぞ。下手すりゃ牢獄だ。 案内してもらえ」

 やれやれと言いながら扉に向かった男が振り返った。

「死体と結婚する趣味は無いぜ」

 この男なりの激励だろう。 そう言い残して扉の向こうに消えていった。


 しかし、ドラゴンキャニオンか、まいったな。

 あそこは竜巻が発生する場所で、挑戦する以前の問題だったんだが、この流れだと、今なら行けるという事になるんだろうな。

 ちょっと整理をしてみよう。

 ドラゴンキャニオンに挑戦する事は決定だ。

 問題はあの男の嫁、王妃を誰にするかだ。

 順番からすれば直近の姉上だが、気が弱いうえに身分違いの恋に悩んでいる。

 四人の姉のうち上の二人は他国に嫁いでいるからいいが、宰相家に嫁いだ三人目は誰を王に据えても口出しをしてくるだろう。

 私がサポートするにも限界があるし、やはり無理だな。

 姉には恋を成就させて幸せになってもらい、私が王妃となって力ずくで国内をまとめるのが最良だろう。

 戦争になるだろうから、反対勢力を片っ端から最前線に送ってやればいい。

 あれ? 私の方が鬼畜か?

 まあいい、それが政治というものだ。

 うん、そういう事にしておこう。


 ともかく、ドラゴンキャニオンだ。

 たしか、麓の村にはなじみの爺さんがいたな。

 会いに行けば何か分かるだろう。

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