表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/6

高橋美智子

「高橋美智子という名前に聞き覚えはないか?」

「悪い、さっぱりだ」

 女官が紅茶を出して来たが反応が今一つ。

 ケーキには紅茶の方が合うと思ったのだが、コーヒーにした方がよかったか。


「うむ、剣道の世界だから無理もないか」

「剣道って、あの、メーンとかいうやつか?」

「そうだ。これでも全日本で優勝した事もあるんだ」

「へーっ、日本一の女剣士ってわけか」

 お菓子はこの世界には無いケーキ。

 これは良さそうだ、ぱくついている。


「正確には、その大会の優勝者だな。日本にはまだまだ強い奴がいる。自分が日本一だと思った事は一度もない」

「その潔さには好感が持てるが、そんな有名人が何だってまたこっちに来たんだ?」

 会話は成立しているが、まだ社交辞令の範囲内だな。

 それにしても、ケーキ好評だ。メイドがおかわりを用意しに行った。


「一言でいえばドジを踏んだんだ」

「ドジ?」

「ああ、あれは帰省ラッシュでホームが混んでいた時だった。子供が落ちたという声を聞いて線路に飛び降りたんだ。やって来る電車も確認したし、運動神経には自信があった。いけると思ったんだが、落ちたのが小学生じゃなくてな。中学生か高校生か、ともかく、その子を助ける時間しかなかったってわけだ」

「ああ、すまん。何か、いやな事を思い出させたな」

 ただのバターケーキなんだが、おかわりもぱくついている。

 話が長すぎたか、それともこいつが甘党なのか。

 あっ、食事に誘っておいてケーキだけだからか。

 失敗したかもしれないが、今更仕方ない。このままいく。


「昔の話さ、気にしちゃいない。気が付いたら赤ん坊だった方が驚きだったしな」

「それで、目や髪の色が違うのか」

「以前に友達から聞いた話なんだが、トラックにはねられて死ぬと黒目黒髪で転生するらしい。今回は電車だったからこうなったんだろう」

「そういう問題か?」

「違うのか?」

「い、いやー。よくわからんが、なんとなく」

 こ、こらー! 友達出てこーい! なんか、ちがうっぽいぞ。


「この顔もけっこう便利だぞ」

「美人は認めるけど、便利なのか?」

「ああ、大抵の男はニコリとするだけで言う事を聞いてくれる。こんな便利なもんは無い」

「まあ、何というか、あんまり童貞君を泣かすなよ、かわいそうに」

 お、苦笑い、いただきました。


「分かってるさ。それよりこの体だ。友達が言っていたように身体能力が高いんだ。何と半年で歩けるようになったんだぞ」

「ちなみに、普通はどのくらいだ?」

「普通は一年くらいだな」

「なるほど。それならずいぶん早いな」

「だろ? これなら前よりも強くなれると思ってな、ガンガン鍛えたんだ」

「――なるほど、思っちゃたわけだ。そんで、ガンガン。そりゃ強くなるわ。ケーキ、おかわりのおかわりの、まっ、いいか」

 いいぞいいぞ、このままいく。


「まてよ。姫様が剣術なんか教わるのか?」

「なんかな、レンカ王国では姫さまも剣をたしなむんだと。最も、剣に触った程度で終わりみたいだがな」

「まあ、普通はそうだろうな」

「随分嫌味も言われたけど、習い事はきっちりやったし、稽古はどこでも出来るからな。まあ、あれだ。学校の勉強と部活を両立するようなもんだ」

「それで日本一になった奴の言葉だと思うと重みが違うな。実際はとんでもない稽古をしていそうだ」

 よし、あともう一つ。


「しかし、ビスチェだけは駄目だったな」

「ビスチェ?」

「ウエディングドレスの肩が出ている奴だ」

「ああ、あれか」

 おお、鼻の下が伸びた。笑える。


「どうかしたか?」

「いや、ちょっと鼻がかゆかった」

「そうか。こっちのドレスは着せてもらうタイプなんだが、お腹を締めつけて息が出来ないほどだ。あれは拷問といってもいい」

 あ、顔がすこし赤くなった。さては、着替えているところまで想像したな。

 警戒心が薄れたことで魅力にも反応するようになったんだろう。鼻血でも出すと面白いのに。


「何とかならないかと思っていた時に、ナロン辺境伯との縁談だ。どんなところか見てみたいとわがまま言って、行っちまえばこっちの物、そのまま居座ったって話だ」

「無茶苦茶だな。それがまかり通るからお姫さまか? いや、おまえが特別なんだろう」

 おまえ、きたー!


「押しかけ女房みたいなもんか?」

「馬鹿言え、相手はまだ五歳だぞ。婚約者というより、いいなずけに近い」

「なるほど、そりゃ無理があるな」

「だろ? しかし、居心地は良かったぞ。辺境伯だって、いてもらった方がいいから好き勝手を許してくれるし、ちょいとガキの相手をするだけであとは自由だ」

「まったく、おつきの侍女たちの苦労がしのばれるぜ」

 あれ?あきれさせたか? いや、大丈夫なはずだ。


「そんなにいい所なら、何だって戻って来たんだ?」

「呼び戻されたんだよ」

「なんで?」

「跡目問題だ」

「ああ、そんな話があったな。王子が死んで、姫の婿さんは誰になるとか、逆玉の輿だと盛り上がっていたっけな」

 よし、行けそうだ。


「結婚するのは姉上だから関係ないと思うんだが、そうもいかんらしい」

「なるほど、あれ? 王様は何してんだ?」

「毎日毎日、性の付く物を食ってるよ」

「ああ、そこまでくると御愁傷様と言いたくなるな」

「いい年こいて何やってんだか。ありゃ、間違いなく腹上死だ」

「とてもじゃないが、羨ましいとは言えんな」

「まったくだ」

 男がはっとして、周りを見渡した。

 話に夢中になっていたとはいえ、思いっきり不敬罪。首切りものだ。

「誰もいないから気にするな」

「ああ、調子に乗り過ぎた」

 よーし、ここまで引き込めばこっちのもんだ。


「そんな時に、黒目黒髪の魔人がいると聞いてな、もしかしたらと思って行ったらお前だったというわけだ」

「なるほどな。すべては、偶然にして必然というやつか」

「お、難しい言葉を知っているな?」

「まあ、あんたに会おうと思ったのもそれだったからな」

「どういうことだ?」

「べつに。出会いは大切にしろって話だ」

 おっと。なんか、はぐらかされたか?


「てことは、いろいろ手伝ってもらえると思っていいか?」

「ああ。だが、こっちだって大学生という身分だ。そう頻繁には来れないぞ」

「ちょ、ちょっと待て」

「うん?」

「お前、もしかして。いや、つまり、あれか? ひょっとして、日本とこっちと、行き来できるのか?」

「驚いたろ」

「お前の首を絞めてやりたくなる程な」

「おっかねえ女だな」

 何だ、どうなってんだ?

 行き来出来るって、聞いてないぞー。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ