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一週間がたち

 一週間がたち、女が傭兵ギルドを訪れていた。

 傷だらけのドアを抜ければ男臭さが襲ってくる。

「消臭スプレーが欲しい気分ね」

 そのつぶやきが聞こえたわけではないだろうが、ざわついていた広い室内が静かになった。

 まあ、よくある事だと気にも留めずにカウンターに向かう。

 受付嬢は三人だが、驚きながらも笑顔の子がいいだろう。


「魔人はいるか?」

 その言葉に、ウンターの女性が口を開けたまま固まった。変な顔だ。

「そう言えば通じるようにしておくと言われたのだが?」

「は、はい。少々お待ちください」

 慌てて奥の扉に向かう受付嬢を見送っていると、その扉から黒目黒髪の男が出てきた。

 背が高いから痩せて見えるが、筋肉質の体は一週間前に確認済みだ。

 精悍な容姿もいいが、足の運び一つ取っても強いことがうかがえる。

 攻略しがいのある男だと、緩む顔を引き締め、今日も強気で行く。


「おまえは何という所から出て来るんだ? もしかしてギルドの職員だったのか?」

「まあ、そんなとこだ」

 おまえ扱いされた事を気にも留めずに、男がカウンターを乗り越えてきた。

「行儀の悪い奴だな。ちゃんと、通路を通れ」

「ハラペコなんだよ。奢ってくれるんだろ、早く行こうぜ」

「ったく、しょうがない奴だな」

 困ったもんだと女が扉を抜け、苦笑いの男が後に続いた。


「ど、どうなってんだ!」

「俺が知るかよ!」

 こらえきれなくなった誰かが叫べば、誰かが叫び返す。

「ギルドマスターを、おまえだぞ。まさか、彼女?」

「「「「「えええええええええ」」」」」

 室内に声があふれた。

「見た事もねえような美人だったし」

「それにしたって……なあ」

「ああ、ありえん」

 隣にいる奴がだれかなんて気にもしていない。

 同じ事に驚き、恐怖する仲間、それだけで十分だ。

「しかし、ギルマスも男だからな」

「それはそうだが、あのギルマスだぞ」

「血の雨が降らなければいいが……」

「怖い事を言うなよ」

 ギルドの中はいつまでも騒然としていた。


 ギルドの幹部ときたか。

 悪どもでもまとめるとなると頭と度胸がいる。統率力もアリとなれば、なかなかの優良物件だ。

 おっと、話をしないと。


「こんな都会じゃ魔物も出んだろうに、よくギルドが成り立つな」

「実質的に領地を預かっているのは下級貴族だろ?」

 何かを思い出したかのように振り返ると、少し考えた男が返してくる。

「別名貧乏貴族だからお金がない」

「間違っちゃいないが、ずいぶんだな」

 並んで歩くようになったが、今度はこっちが苦笑いだ。

「で、上級貴族にお願いをするわけだ」

「なるほど、その上級がここにいるわけか」

「そういうことだ。地方のギルドに依頼を振る事もあるが、大概は領兵じゃ損失が多いと判断された大物だから、ここの奴らじゃないと歯が立たないのさ」

「よく出来ているんだな」

 地方のギルドまで管轄しているとなると、とんでもない規模になるぞ。

「需要と供給の問題だ。後は商人の護衛任務が多いな。大手はお抱えがいるが、都会にゃ中小の店が多いからな」

「ふーん。商売繁盛で結構な事だ」

 つまり、商売として成り立っているという事か。厄介だな。

 ましてや、それが大陸規模なら、悪の隠れ蓑だと分かっていてもだれにも手は出せないだろう。

 まったく、日本の知識があるとはいえ、とんでもない奴がいたもんだ。

「問題も多いんだぜ。特に、電気がないからパソコンコンが使えなくて苦労してる」

 これにはさすがに立ち止るしかない。睨みつけるような視線を向ける。

 しかし、男はそれを苦笑いで受けた。

「何故、そんな話をする?」

「転生者なんだろ?」

「―――何故わかった?」

「この世界に一週間という概念はない。だが、七日後の今日あんたが来た」

「はーっ、間抜けは私の方か」

 試されていた事に気がつかないとは、頭を抱えたくなった。

「どうした?」

「何でも無い。こっちの話だ」

 これで良かったのか悪かったのか。ともかく、さっさと話を切り上げて城へ向かおう。


 貴族街のその奥、城門へ向かって一直線。悪い事をしている覚えは沢山ある男だ、緊張しているのがよく分かる。

 門前に着くと、門番が門を開け放つ。

 平静を装ってはいるものの、男の喉がコクリと鳴り、視線は左右に振れ動く。

 無駄に広い前庭を抜け、城の扉にも門番がいる。

「お帰りなさいませ」

 武骨な声で迎えられた時には、顔面蒼白だ。

 すれ違う女官は勿論の事、明らかに上級貴族でさえ頭を下げる。

 ようやく目的地の扉に着いた時には、やれやれと言葉まで漏らした。

 入ったのは温室バルコニー。

 冬でも色とりどりの花が咲き乱れ、中央にある白い丸テーブルと椅子が四脚据えられている。

 そして、何所に座ればいいのか分からない男を、椅子を引く為に待ち構えた女官が助け、無事に対面に座った。


「なんだか、どっと疲れたな」

「どうかしたか?」

「したかじゃねえよ。おめえはいったい何者なんだ?」

 八つ当たりもいいとこだが、ぐったりとした様子は笑える。

「ああ、自己紹介がまだだったな。名前は高橋美智子、みっちゃんだ」

「がーっ! みっちゃんじゃねえ! そうじゃなくて、今の話だ! 今は、何者だ?」

「短気な奴だな。今はアフロデア・アレス・レンカ、ここの第五王女だ」

「………………」

 たっぷり十秒はかたまった。再起動を心配するレベルだ。

 驚いたのは姫だったからではない。

 それはそれで驚きだったろうが、私の戦闘能力のほうが問題だったはずだ。しかも、敵として……。

 王都から遠い辺境伯の地で悪さをしていた仲間たちが、たった一人の女兵士に全滅したのだから。


「もしかして、戦姫か?」

「そうだ」

 即答だ。

「単独で龍種を倒した、あの?」

「そうだ」

 問題は、次。

「百人の盗賊団をたった一人で倒した」

「結構詳しいな」

 当り。

「知らん奴はもぐりだぞ。しかし、確か、ナロン辺境伯に嫁いだんじゃなかったか?」

「まあ、色々あってな。聞きたいか?」

「聞かずばなるまい」

 よし、うまくいった。

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