ご主人様と牝犬の昼。
碓氷 里美。
職業 学生兼M女。
なんやかんやで、ペットやってまーす。
委員長の屋上での告白がクラスで異常な盛り上がりを初めはみせていたけどここ数日は落ち着いていた。
『ご主人様。
明日はお弁当を用意しますから…』
最近はバレンタインで髪の毛や唾液、香水なんか入れた手作りチョコを渡す人も居るとかで手作り自体嫌う人も居るとかで…。
有名な弁当やコンビニの限定なんかを喜んでるとか。
そんな中で僕は特殊なのかもしれないが嬉しい。
…ただあれさえなければと思う。
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朝からクラスは爽やかで幸せそうだ。僕を除いて…。
「委員長!お弁当二つ?」
「これって愛妻!ねぇ愛妻なの♪」
僕と付き合い初めて委員長の回りに少し変化があった。彼女が良く笑うようになった。
「…私のと、彼の…だ。」
「やだ委員長。指にばんそーこーって健気。」
「目の下に隈まで…何時起きなの?」
「…朝3時起き。彼に美味しいって言って欲しくて。」
「高橋くん。愛されてる♪」
「委員長みたいな美人にここまで尽くされる高橋くんは何者なの?」
僕は恥ずかしさのあまり席を立とうとする。
メール着信
『恥ずかしくても逃げないで堂々としていなさい!ご主人様。』
ハハ…良くできた牝犬だよ。主人に首輪を掛けてきやがった。
結局席に座り直しただけだった。
恥ずかしい話は聞きたくないので委員長の居る右側から背を向けて左を見る。
赤毛のリーゼントが鞄から一時限目の教科書を用意していた。田仲くんだ。
田仲くんは、見た目は昭和のヤンキーなんだけど遅刻したり、授業の妨害はしない。時々さぼるけど…。
「あぁ?高橋!何の用だ?」
机に教科書をトントンと揃えながら聞いてきた…田仲くん何で不良をリスペクトしてるの?
それは興味深い内容だけど今は諦める。
「…特に用は無いのだけどね。」
「……だったら…見るなよ…。」
田仲くんお願いだから顔を赤らめて眼をそらさないで…。斜め前の円山くんが睨んでるから。
…席替えまだかな…。
お昼までの授業はこれといった変化は無かった。時々田仲くんがこちらを見て頬を染める現場は有ったが気のせいにしたい。
「ご、ご主人…いえ、良太くん。お弁当作ってきたの…。」
委員長は僕の分と思われる弁当箱を胸に抱えて脇に立っていた。
クラス公認のカップルとはいえ回りは騒々しくなっていた。僕への爆死しろの野次は仕方ないけど、意外なのは委員長への女子からの応援が多かったことだった。
「委員長良かったら椅子使って。」
隣の席の橋元さんが席を譲ってくれたから必然的に弁当箱は僕の目の前置かれすぐ隣に彼女は椅子を寄せてきた。
「良太くんのお口に合うと嬉しいな♪」
蓋をあけると絶対冷凍食品は一つも無いだろうとばかりどれも僕の好みのオカズが入っていた。
「これ、私の自信作…はい。あーん♪」
卵焼きを箸で摘まむと手を添えて前に出してきた。
「か、か、か勝手な事すんじゃねぇよ!」
ガシャーン!!!!
僕は机をひっくり返して教室から逃げるように飛び出した。
後ろから聞こえる教室の中は大騒ぎだったけど心音が高くなり、逃げることしか考えられなかった。
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一方教室内。
「委員長大丈夫?」
「…みんなごめんね。私片付けるからお昼食べてて…ね?」
私は弁当箱に拾えるだけ床に落ちたオカズを拾い集めた。
朝3時から出汁をとりながら作った弁当は一瞬でゴミになった。ゾクゾク
「まさか、高橋くんがあんな人だなんて私知らなかった…委員長大丈夫?」
「私が至らなかったから彼を怒らせてしまったのよ。」
「委員長は悪くないよ…絶対!」
「お願いだから彼を悪く思わないで…お願い。」
「委員長…優しすぎるよ。」
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ハァハァハァ…。
僕は体育館脇の階段に座って頭を抱えていた。
この茶番はいつまでやるんだ?
ドカッ
身体がフワッと浮く感覚と地面に吸い込まれる感覚が同時にやって来た…階段から蹴り落とされたと解ったのはコンクリートに頭を打ち付けながらも背中で着地したから階段の上でヤクザキックの体制で固まってる委員長を見たからだろう。
「何尻尾巻いて逃げて…らっしゃる…このゴミ…いえご主人様ぁ?」
よりにもよって足蹴にして尚ゴミまで言ってるのにまだ主扱いするのか?
「足蹴にする前に声ぐらい掛けろよ!」
「教室を出る貴方の後ろ姿に掛けましたが何か?」
「委員長…」
ゲシ!
「私は委員長じゃないし…そう呼ばれるの好きじゃないんですよね…特にあなたには言われたくない…わ!」
そう蹴りながら本心を伝えてくる。委員…碓氷さん。
「碓氷さ…」
ドカッ!
無言で蹴られた。
「里美…」
ドカッ!
「まだ自分の立場が解ってないみたいですね!ご主人ぁ?」
僕は再度押し倒されて胸の上に碓氷里美のお尻の感触を味わう羽目になった。
「私はね…名前で呼ばれる筋合いは
ないのよ!ご主人様に名前で呼んで欲しくないの!解る?」
頷く度にスカートの中が見えますけど…。
「じゃあ何て呼べば?」
「ん…くっ。そっそれくらい…自分で…考え…はっ、なさい…よ!」
「里…」
「牝犬って…めすいぬって…ね?」
「…えぇ~!」
よりにもよって牝犬だった。
「…わたし…馬乗りのまま服を脱ぎたい~いいでしょ?ご主人さぁまぁん!」
全裸は駄目です!何としても阻止しなくては!!
「服を着たままで昼飯にしま…する…ぞ!め、めめすいにゅ!」
「あぁん!脱ぎたいのに~脱がないで食事なんて…ご主人様ってワイルド~いえ、ワイルダーよ~!」
ワイルドは兎も角、ワイルダーってなんだよ!ローラ・インガルス・ワイルダーかよ!?
大草原に小屋建てちゃうの?
ねえ!
「じゃあ第二音楽準備室に行くぞ…碓」
高圧的な睨みで挫けました。
「…めすいぬ」
「はい!ご主人様ぁ☆」
なんとか、全裸を阻止できたけど碓氷さんは変なスイッチが全開で入りっぱなしだった。
「ご主人様ぁ何を食べるの?お弁当はあと一つだけなのぉ」
折角朝早くから用意してくれた弁当を食べないのは彼女的にはありかも知れないけど僕的にはやっぱり食べたい。
猛烈にお腹が大合唱している。
「じゃあ一緒に食べようか?」
「じゃあスープを用意するから食べさせて下さいご主人様」
えっ?食べさせるってつまり…
「あーん」
カップの飲み口を彼女の口元に持っていく。
「…このままでは飲めません。…それにご主人様の匂いがしませんもの。」
「僕の匂いって…」
僕が困惑しているのが可笑しいのか彼女は微笑んでいた。
「なら、口に含んで私に飲ませてくれればいいのですよ♪」
さも当然とばかりに言うから当たり前なのかなって思ってしまえた。
「そうか!口に含んで…えぇ!?」
「早くして下さい。お腹空きました。」
床にペタンと座りながら眼を閉じて顎を上げてる姿はお姫様がキスを待ってるようにも見えた。
口にスープを含むと彼女の口にあてがった…するともう離さないとばかりに僕の頭は押さえられ口腔の自由は彼女の舌で蹂躙され文字通り身動き一つ取れなかった。
やっと解放されるが息が上がってしまう。
「まだ…やりますか?」
「これからずっと…三食これがいいわね♪」
勘弁して欲しい。
三食口移しは理性が持たない。
「でも、時間が掛かるし…ご主人様に奉仕したい乙女心もあるから後は任せて!」
飲み物は口移しでとの意見は却下して彼女の手料理を堪能した。
どれも美味しく毎日食べれるならこの生活も満更でもないかなって少しは思った。
でも、不思議なことに僕の嫌いな食材は入っていなかった。一度もそんな話してないのだけどね。
「ご馳走さまでした。」
「お粗末様でした。」
彼女は鼻歌まじりに弁当箱を片付けてふっとこちらに目を合わせる。
「ねぇご主人様。あの時…教室でビンタか蹴りが入らなかったの?」
「…女の子に暴力は…」
「ふふっ。優しいのね…確かに暴力はダメよね。痛いもの…でもプレイなら痛くないのよ?」
知ってた?と続くのだが正直知りたくなかった。
寧ろ封印したままでいたかった。
無論。彼女が牝犬スイッチで変化するのも知りたくなかった。そんなわけで…。
窓の外を見て空が青いから帰りたくなった。
つづけたいかも。