棘の真実 4
みかげの指先に触れたのは、柔らかいシルクの温もりだった。
カーテンの隙間から射し込む朝陽が、頬をくすぐっていく。
微睡みの中、布団の上に俯せになっている自分をようやく認識した。
「そうか、わたし……ゆうべは」
落とした眼鏡を拾うみたいに、昨夜の記憶を忙しなく探る。
どうにか自宅までたどり着いたことは……覚えていた。
一重と言葉はおろか顔すら合わさず、自室に引き籠ってしまったことも。
体を投げ出した自分を、柔らかいものが受け止めてくれたことも。
そして……またこうして、朝を迎えている。
とても静かな朝を。
静かだった。
いつも台所から響く、朝食を用意する音も聞こえてこない。
まるで、そこに誰もいないかのように。
「心配させちゃったかな、おばあ……ちゃん」
祖母という『役』の一重は、何を思って自分を待っていたのか、それを考えるのが辛かった。
「でもこのまま、何もしないわけにもいかないし……」
とりあえず今、すること。
制服に着替えて、顔を洗って、歯を磨いて、そして……。
「そして、なんて言おう」
いつもしている朝の挨拶『おはよう』の一言をいう自信がなかった。
あれこれ考えをめぐらせているうちに、居間まで来てしまった。
襖の陰からそっと中をうかがうと……やはり誰もいない。
静まり返った室内に置かれたテーブルには、ナプキンが掛けられたトーストとスクランブルエッグが、そして脇にはメモの切れ端が添えてあった。
『畑の方に行ってきます。朝はちゃんと食べること。お弁当は台所にあります。それもちゃんと食べること』
簡潔な文面に、みかげは思わず吹いた。
「おばあちゃんてば、食べることばかりじゃない」
それでもいつもと変わらぬ言葉遣いに、心が解れた。
正直、食欲はなかったが、トーストを半分ちぎりスクランブルエッグをのせると口に放り込む。
「ごちそうさま」
小さく手を合わせ、台所にあった弁当箱をバッグに詰めると、みかげは急くように家をあとにした。
みかげは大の字になって、青い空を見上げていた。
いや、そうして手足を思い切り伸ばしたかったのだが、なにぶん人目も気になるので、脇を閉じて足を揃えてみたら……小の字になってしまった。
彩原みかげ。本日臨時休業。
河原に広がる草原に寝転びながら、置割川の清々しいせせらぎを聞いている。
「上流はあんなに荒々しいのに、ここではみんな優しいね……」
川面を渉る風は、潰れかけた心を優しく撫でてくれた。
「みんな優しい、か。クラスの皆は、先生は、村の人たちは……どんな思いでわたしを、新しく目覚めた巫女を見ていたんだろ」
見上げる空に、独り言を投げてみる。
それはそのまま、みかげの顔に落ちてきた。
「わたしは……どんなふうに、見ればいいんだろう。みんなを」
どんな顔でどんな言葉でどんな振る舞いで接すればいいのか、望ましい答えは出せていない。
何度目のため息だろう。空に向かって吹きかける。
ぐーーーー……
空が鳴った。いや、鳴ったのは空ではなくみかげのお腹の方だった。かじった程度の朝食では、腹時計の進みも早い。
「こんなときでも、お腹はへるんだ。人であることを、こんなかたちで実感するなんて」
ふふふと、何故か笑みがこぼれた。
みかげは跳ね起きるとバッグを引き寄せ、中から弁当箱とパックジュースを取り出した。
「せっかくだし、いただきますか」
そういって、綺麗な鹿の子模様の包みを解いていく。蓋を開くと、中から黄色い軍団が飛び出してきた。鶏のから揚げ、出汁巻き卵、かぼちゃの煮つけ……そして主食の茶飯。
「これでカレーが加われば、戦隊が組めるね。てか、タマゴ、朝と被ってるし」
ダメ出ししつつ、出汁巻き卵を口へと運ぶと……甘い香り、とろけるような舌触りが口の中を満たした。
「美味しいよ、美味しい。やっぱりおばあちゃんの出汁巻き卵は絶品だよ」
目を細めて、しばし幸せに浸る。
「そういえばおばあちゃん、昔からタマゴ料理得意だったもんね。小さいころ、よく食べさせてもらったっけ……」
食べやすく切りそろえられた料理に、自然と目がいく。
「おかしいよね……わたしに昔なんてないのに。小さいころの記憶も作りものなのに」
パックジュースに、ストローを挿す。
「でも、こうして感じている味わいは……満ち足りた気持ちは……嘘じゃない。作りものなんかじゃ、絶対にない」
パックジュースをぎゅっと握りしめる。オレンジの香りと潤いが、喉を落ちていく。
「どーーーん!!!」
「ブーーーッ!!!」
爽やかなオレンジが、宙に汚い弧を描く。
背中を思い切り押されたみかげは、それ以上の勢いでジュースを噴き出した。
「ごほごほごほっ!!」
涙目になりながら、みかげは背中を押した犯人を見た。
「ちょっと、みかげ! あんたなに一人で悠々とランチなんかしてんのよ!!」
「え……え……結?」
ババン!と、仁王立ちの結が目に飛び込んできた。
ついでに顔も仁王様のようだった。
「じゃないでしょ! 無断で学校休んで、みんなどれだけ心配してると思ってるの!!」
なにか、自然と手を合わせたくなるような形相だ。
両サイドに跳ねた髪が、怒りの避雷針のようにピリピリと震えている。
「えっと、これはその……おばあちゃんが作ってくれた出汁巻きで……とてもおいしくて」
「それは良かったわね。て、学校巻きの話しじゃなくて! て、学校巻きってなに!?」
「結、落ち着いて」
「なら煽らないでっ!!」
はーはーと荒い息をしながら、ふたりは互いを見つめた。
息がかかりそうなくらい、そばに顔がある。
ふたりの瞳に、お互いの間の抜けた顔が映り込むと……。
ようやく双方冷静になって、瞳を伏せた。
「ごめん……」
最初に口を開いたのは、みかげだった。
「そんなに大事になってるとは思わなくて……軽率だった。ごめんなさい」
と、頭を下げようとした瞬間。
結はひときわ大きな動作で膝を折り、頭を下げた。
「ごめん!!」
「え……?」
何が起きているのか、分からなかった。
自分の目線の下で、頭を下げている結がいる。
「謝らなきゃいけないのは、私のほう。みかげを騙すようなことして、ホントにごめんなさい!!」
その言葉に、やっと事態を呑み込んだ。
そうだ。これまでに起きた一連のことを、言っているのだ。
「悪いのはみかげじゃなく、私だから! ちゃんとフォローしてあげられなかった、私の責任だから!! だからお願い、私の……私たちのところへ戻ってきて!!」
現実味のないその光景を、みかげはぼんやりと眺めていた。
(わたしは何をみているのだろう)
結が自分の前で、深々と頭を下げている。平謝りしている。声を枯らして叫んでいる。
(ダメだ、こんなこと……あってはいけない光景だ)
みかげは結の肩に手をかけると、強引に引き起こした。
「だめだよ、そんなことしちゃ……絶対にだめ」
強く、芯の通った声に、結はゆっくりと体を起こす。あらためて見たその顔は、赤く火照っていた。
「私ね、決めてたんだよ。みかげに合ったら、まずこうしようって。それが教室だろうと、廊下だろうと、校庭だろうと、道の真ん中だろうと、とにかく謝ろう、頭を下げようって決めてた。なのに……それなのに……」
悔やむように、唇を噛む。
「どうして学校に来ないのよーーーっ!!!」
「だからなんでキレるのーーーっ!!!」
ああ、やっぱりいつもの結だと、みかげは妙な安心感を覚えた。
「それで」
気が付けば結が隣りいて、気が付けばみかげのジュースを飲んでいた。
「少しは、落ち着いたの?」
「結が?」
「み・か・げ・が、よ!」
言って、みかげの耳を引っ張る。
「私はとっくに落ち着いてる。てゆーか、そもそも取り乱してないし! それよりあなたでしょ、いま大変なのは。大丈夫なの?」
「大丈夫、だと思う。昨日の今日で、あ、今日の今日、かな? ともかく色々なことがありすぎて、心の整理がつかなくなっているけど。わたしさえ覚悟を決めれば、乗り越えられると……思いたい」
「知らせるべき時に、知らせるべき事実を告げなかったのは、私たちの所為だから。みかげだけに負担をかけているこの状況はすごく心苦しいけど……」
「私たち、か」
「あっ」
何気ない一言に、急遽時間が巻き戻る。
「そういえば、結も……巫女なんだよね」
「……うん。黙っててごめん」
「それはもう、いいって。ただちょっと意外だっただけ」
「意外? 驚いた、とかじゃないの?」
「さすがにもう、驚くだけの力は残ってなかったというか」
はははと、何故か照れ笑い。
「そっか、先輩たちのインパクトに比べたら、私はオマケ程度なんだ」
「そ、そんなことないよ! オマケ欲しさに大人買いしちゃったりする人もいるくらいだし、むしろオマケがメインだよ?」
「オマケって認めてるじゃない、それ。謙遜で言ったつもりが事実認定されるなんて……」
「だってあの時、結はいなかったから。いれば同じくらい衝撃だったかもしれない」
それを聞いて、結は俯いた。
「仕方ないよ。みかげのあんな姿みた直後に、何食わぬ顔して会うなんて、できない」
思いもよらない沈んだ声に、みかげは口をつぐんだ。
じゅーーーーじゅるじゅる、じゅっ
ジュースを吸う音が控え目に響く。
「なんかもう、いろいろ台無し」
「はいこれ。返す」
「自分で捨ててください」
「わかった」
ゴソゴソ……。
「そこゴミ箱じゃないから! わたしのカバンだから!」
みかげはバッグを取り上げると、抱きかかえた。
「昨夜、結があの場にいなくて正解だったよ。ぜったい、ドッキリだと思ったもん」
「私も会わなくて正解だったと思う。だってみかげのあんな姿みたら」
「もういいです」
手のひらをかざして、結の台詞にストップをかける。
結はまだ喋り足りなさそうに、ジュースのパックを弄り回している。
「だったら……聞いたんだよね、先輩たちから。事の経緯と詳細については」
「うん、まあ。どの程度頭に入ったかは自信ないけど。わたしが『身柱』と呼ばれる巫女で、人ではなくて、半分不死身で、先代が鏡可さんと呼ばれる人だった……くらいは理解したつもり」
「そっか、先代の鏡可さんの話しも、聞いたんだ」
「うん、杞紗峰先輩の友人だったって。それとたぶん……鏡可さんの見た光景を、わたしも見たのかもしれない……」
「見たの? なにかを?」
「赤がすべての色を呑み込んだ世界で、ひたすら走り続けるわたし……ううん、それが鏡可さんじゃないかって、思ってる。杞紗峰先輩も、それには同意していたし」
「そっか、やっぱり見ていたんだ」
結は心当たりでもあるかのように、空を仰ぐ。
「たぶんそれ、当たってる。私のときもそうだったから」
「結のときも?」
「私たちはね、巫女の力に目覚めるとき、先代さまに導いてもらうの。導くといっても、本物の先代さまが現れるわけじゃなく、残留思念とでもいうのかな? 先代さまが見た光景や感覚などを追体験していくの。それぞれの巫女によって何を見るか感じるかはバラバラで、決まった形はないんだけどね。ただその過程で、目覚め始めた自我と予め植え付けられた記憶の間で、齟齬が生じることがあってね。記憶が上書きされる、といったほうがいいかな。自分で記憶を改ざんすることが時々起きるのよ」
そう言われると、たしかに思い当ることがあった。
祖母の一重が、みかげの父親の名前を言い間違えたこと。
クラスメイトが、みかげの好きなアイドルを勘違いしていたこと。
それらは元々間違っていたのではなく、みかげが無意識のうちに書き換えたものだった。
「鏡可さんについては、どこまで聞いたの?」
「えっとたしか名前は……『水鏡鏡可』だったかな。杞紗峰先輩の友人で、一年前に亡くなってしまったということ以外は、とくに」
「そっか……」
結は含んだように、言葉を濁した。
『巫女は、自分の死期を自分で決めなければならない』
杞紗峰の口から語られたセリフがよみがえる。淡々とした口調は、その裏にある凍てつく現実をより強く想起させた。
「杞紗峰先輩と鏡可さんは同学年だったの。とても仲が良くてね、見た目も性格も違うのに、ううん、違うからこそかな。お互いにないものを補い合える、もう一人の自分みたいな存在だった。だから、鏡可さんを失くしたときの落ち込みようは……口では言い表せないほどで……とにかく辛い時間だった」
みかげは、黙ったまま結の話しを聞いていた。
「ごめんね。これ以上私の口から話すのは、違うと思うから。杞紗峰先輩から直接聞くのが、筋だと思う」
「うん、ありがと。そこまで話してくれただけで、十分だよ。いろいろ気を遣ってくれて、感謝してる」
「ねぇ、みかげ。こんなことになったからといって、杞紗峰先輩を嫌いになったりしないで。大切なものはなにかを、誰よりも分かっている人だから」
真っ直ぐ見つめてくる結に、みかげはありのままの気持ちを告げた。
「安心して。わたしは嫌いになんてならない。杞紗峰先輩だけじゃなく、深山先輩も、結も、クラスメイトも、先生も……おばあちゃんも。みんなみんな、誰ひとりとして、嫌いになんてなりたくない」
誰かが誰かを思う、想いの糸によってこの世界は紡がれているのかもしれない。
みかげは、自分の中に芽生えた温かいものが、次第に輪郭を帯びてくるのが分かった。
それを聞いた結の涙腺は、決壊のデッドラインを軽々と越えた。
「この子てば……この子ってば……本気で泣かせるつもりかーーーっ!!!」
「うわーーーーーーーっっ!!!」
結のフライング・ハグに、みかげは仰向けに転が転がる。
でも悪い気はしなかった。だからそのままスリーカウントを奪われた。
「あ、そういえば」
「んん?」
仰向けのまま、みかげは言った。
「ひとつ、分からないことがあったんだっけ」
「なに。いうてみ」
「ホラ、クラス委員長の竹宮くんがさ、わたしの手を取って急に……」
そこまで言って、はたと口をつぐんだ。
(マズっ、竹宮くんが泣いたこと、結には秘密にしてたんだっけ)
口に手を当てがい、どう取り繕おうかと目をキョロキョロさせる。
「ほほう。竹宮が? みかげの手を取って? 急に? そのあと起きたこと、是非とも聞きたいですな」
「いや~~たいしたことじゃ、ホントたいしたことじゃないから」
「そういえばみかげ。あの時、涙ぐんでたよね」
「いやだからあれは、違うって言ったじゃない。竹宮くんは、まったくの無関係」
「そうやって、庇うんだ」
「庇ってないから! 庇う理由なんてまったくないから!」
「じゃあどうして、涙なんか流してたのよ」
「あ、あれは結が来てくれて、それで安心して……それに泣いたのは、わたしよりも竹宮くんのほうが先……あっ」
つい、ポロリしてしまった。しまったと思うが後の祭り。
結は寝そべったまま、ジト目でこちらを見てくる。
「あーーそう。そういうことか」
「結、勘違いしてる。絶対、事実と違う想像してる」
「みかげ……事実を正しく認識できていないのは、あんたのほうだと思うよ」
「へ? それって、どーいう……」
結はひょいと上半身を起こすと、みかげに手を差し出した。
何のことかわからず、みかげはとりあえず出された手を掴んで体を起こす。
「竹宮の泣いた理由よ。みかげの手を取って、急に、みたいなこと言ったでしょ」
「う、うん」
「竹宮の想い人だったのよ、鏡可さんは」
「えっ」
予想だにしなかった告白に、みかげは言葉を失った。
結は、みかげの聞く準備が整うのを待ってから、静かに話し始めた。
「竹宮が中学三年のときだったらしい。鏡可さんと初めて出会ったのは。私たち巫女は、歳を取らないの。だから、鏡可さんはずっと二年生のまま。なら、もうしばらく、あと少しで彼女と同学年になれる、一緒のクラスになれる。いずれ追い越して自分は卒業してしまうけれど、二年生のその一年間だけは、彼女と共に過ごせる。そうなったら告白しようと……決めていたみたい」
みかげに向けた、竹宮のあの優しい笑顔は──
「なのにその年の夏、鏡可さんは亡くなってしまった。私はそのとき、すでに一年生だったから、中学生の竹宮と顔を合わせる機会はなかったのだけど……とにかく、その悲しみ、悔やみかたは、すごいものだったらしい。周りの人たちもしばらく手を付けられないほどだったって。あとから、聞いた話しなんだけどね」
またしてもみかげではなく、別の人へ宛てたものだったのだろうか。
「だから、竹宮が雛威高校に入学してきたとき、同じ一年の私はどう接したらいいのか分からなくて、思いっきり構えたわよ。でもアイツは……全然違っていた。話しで聞いたような感情の昂ぶりも、近寄りがたい雰囲気もなく、普通すぎるくらい普通の振る舞いだった。成績も良かったし、運動もできる。そのうえ皆からの人望も厚かったから、すぐにクラス委員長にもなった。でもその陰で、見えないところで、自分を懸命に律している姿がね、所々に垣間見えるのよ」
だとしても。みかげの差し出した手を取り、涙したのは──
「竹宮が、みかげに何を見ているのか。それは私にも見えない。でも、鏡可さんの生まれ変わりであるみかげと出会った、竹宮の気持ちは……少しくらいなら、分かる気がする」
確かな想いが、そこにあったからだろう。
みかげは無言のまま、思いを深く巡らせていた。
杞紗峰の、そして竹宮の、自分へ向けた眼差しをどう受ければいいのか。
そもそも自分という人間が、受け取っていいものなのか。
自分の知らない過去と、その延長線上に佇む現在の自分と。
同一なのか、それとも異なる存在なのか。
(記憶と同じだ……どこからが本物の自分なのか、境界線が見えない……)
みかげの瞳が、苦悩に曇る。
光を失いそうになった視界に、あたたかい温もりが映り込む。
それは──自らの手に重なる、結の白い手のひらだった。
「私はここにいるよ。間違いなく、こうしてみかげの手を握っている。不安かもしれないけど、いまこれで我慢して」
そういってもう一度、その手に力を込めた。
温もりが深く、体を透して心まで伝う。
自分が見るべきもの。見失ってはならないもの。それはきっと、この温もりの中にあると、みかげは思った。
「じゃあそろそろ私いくから。急に先生から授業で使う教材の買い出し、頼まれちゃって。チャリでひとっ走り、文具店までいってくる」
結は勢いよく立ち上がると、スカートについた枯草や埃をぱっぱっと払う。
なにげない仕草が、とても凛々しく見える。
「うん、気をつけて。それと今日はわたし……」
「わかってる、皆まで言うな。今日は一日、ゆっくり休みなさい。先生やクラスのみんなには、私からちゃんと報告しておくから」
みかげが頷いたのを確かめると、結は土手の上に止めた自転車のところへ戻っていく。
「ありがとう、結! また明日ね!」
ペダルをこぎ始めた結に振った手は、不思議なくらい軽くなっていた。




