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引き篭り師弟【拍手SS】絡み合う指 ※アニム視点

「指を絡めたい、のです?」

「はい!」

 しゅたっと。物凄い勢いで腕をあげます。

 いつもの談話室、柔らかい毛のソファー。腰掛けた向かい側にいらっしゃるホーラさんを、ぐっと見つめます。テーブルの上には、陶器のコップにたっぷりと注がれたホットミルクが置かれています。はちみつが入ったミルクはとても甘いのですが。ホーラさん用に、さらにチョコの欠片が入っています。

 きょとんと瞬いている桃色がかった赤い瞳。大きな目を真っ直ぐ向けられ、今更ながら頬が熱を持ってきました。

「アニムとだれが、なのです?」

「もちろん、しっ――って、あの、その。できれば、ししょーとが、いいなぁって」

「はぁ。ウィータと、なのです?」

 一瞬。大声で叫びそうになり、ぐっと声を飲み込みました。体を乗り出して、机向かいにいるホーラさんに近づきます。内緒話です。

 音量を落として伝えたものの、ホーラさんはいたって普通の音量で繰り返しました。やめてー! 談話室のすぐ隣、調理場と談話室を繋ぐ部屋では、師匠とセンさんが魔法図を広げて会議をしています。私とホーラさんは、談話室で女子トーク中なのです。

「念のため、もう一回確認するですけど、ウィータとなのですよね?」

 何度も疑問を返され、さすがの私も黙るしかありません。さすがって意味もよくわかりませんが。

「です。ししょーと、手を繋ぐは、最近あるです。おやすみの、くっ口づけも、あるですけど、もっとさりげないけど、近づける触れあい、ないかなって」

「機会は待つものじゃなくて、つくるものなのです。アニムが潤んだ瞳で上目遣いをしながら両手を胸の前で絡ませて小首傾げてお願いすれば、ウィータなんていちころなのですよー」

「ホーラさん、ものすっごーく、棒読み、気のせいですか」

 目を細めた私を無視して。ホーラさんは一気にホットミルクをあおりました。あちちなんて舌を出している小さな女の子の姿は、とっても可愛いです。

 でも、小さな舌を横に移動して、こつんと自分の頭を叩いた様子は、明らかに黒いです。

「てへっ! なのですよー。思わず本音が滲みでちゃったのですー」

「もう、いいですよ。ホーラさんなら、ししょーの、隙のつきかた、わかる思ったのです、のに」

 変なことを相談した私も私ですが。ホーラさんのあっけらかんとした笑顔に、頬が引きつったのがわかりました。なおも、「てひひー!」とチョコを丸かじりし始めたホーラさんにならって、私もコップに手を伸ばします。

 鼻から甘い香りが広がっていきます。ココアに似た飲物が喉を通り過ぎる頃には、捻くれた心もすっかりあったまっていました。

「ぶっちゃけ、ウィータってばアニムにべたべたなのに、手を繋がれる一歩先とか腕を組まれるとか照れそうなのですよねぇ。自分からなら、まだ可能性はあるかもですけど。そもそも、ウィータが指絡みなんてしてる姿が想像出来ないのですぅ」

「べっべたべたかは、別にして。私も、ししょー、自分から、絡めてくれる、思えないですよ」

 窓の外は大雨です。雷と暖炉の薪が爆ぜる音をバックにする話じゃないですよねぇ。まぁ、だからこそ変な雰囲気にならず、相談出来るかなっていう狙いもあったのですけど。

 ちらりと、横目で広間の師匠を盗み見ます。とても大きな羊皮紙を真剣な顔で覗き込んでいる姿に、つい見惚れてしまいました。組んでいた腕を解いて、羊皮紙に描かれた魔法陣や図を指先でなぞる師匠。時折、センさんが書き込みを加えていきます。

「ふむふむ、なのですね。女心を理解しない恋人をもつと、苦労するのですね」

「こっ――?! 違う、ですよ!」

 思わず。コップを投げ出しそうになったのを、寸前で堪えました。けれど、代わりにといわんばかりに、飛び出た声は広い談話室にも響き渡るほどでした。

 恋人って! そんなわけないじゃないですか! 弟子ですと叫ばなかったのは、頑張ったと思います。弟子なんて単語を使ったら、師匠に根堀葉堀聞かれ、からかわれること間違いなしです。

 幸い、師匠は呆れた視線を数秒投げつけてきただけでした。すぐに、センさんへと顔を向けました。

「アニムーお菓子のおかわりが欲しいのですよ。ついでに、ブランデーがあると嬉しいのです」

「ホーラさん。さっき、シフォンケーキ、ワンホール、一人で、食べたばっかり」

 ちなみに。今、テーブルの上には、籠が置かれています。フィーネとフィーニスが十組入りそうな籠です。少し前までは、この籠いっぱいに、チョコやクッキーが入っていました。すっかり空です。

 っていうか、ちょこんと子猫たちが十組って可愛すぎ……!!

 と、あらぶる気持ちを落ち着けて。澄ました顔でコップに口をつけると、ホーラさんはハリセンボン以上に頬を膨らませました。

「ぶー! おなかいっぱいになったら、アニムへのいいアドバイスが浮かぶと思ったのにですー」

「よろこんでっ!」

 自分でも可笑しいくらいのすばやさで、足を動かしていました。

 ついでに私もおかわり持ってきましょう。師匠たちは紅茶に手をつけてないみたいなので、まだ大丈夫ですよね。

 暖炉の上にいるフィーネたちは、まだすやすやと夢の中のようです。時々「にゃふ」と寝言を口にしては、幸せ顔でもみゃもみゃと口を動かしています。

 わずかに残ったココアを飲みながら、新しいものを作りましょう。歩きながら飲むと、お行儀が悪いですからね。

 師匠の横を通り過ぎようとした瞬間。

「おい、アニム。まさか、まだホーラに菓子食わせる気かよ」

「ししょーは、ホーラさん、止められる?」

 集中していたはずの師匠に声をかけられ、ちょっと上ずった声が出てしまいました。落ち着け私。お菓子の報酬に関しては、一ミリたりとも漏らしませんよ!

 師匠ってば。頬を強張らせた私に近づいてきて、髪の先っぽを掴みました。なぜに髪の先を指に絡ませて遊ぶんですか。絡んでくるなら指にしてくださいよ。

「まぁ、無理だろうな」

 腕を組み、無責任に肩をすくめたお師匠様。人を呼び止めておいて、何がしたかったですか。まったく。別に、心の声に対して無理と返られたのではと、被害妄想を抱いたわけじゃありませんよ?

 センさんも肩を震わせて笑ってらっしゃるじゃありませんか。震えに関しては無視をして、センさんに向き直ります。

「センさんは、紅茶、おかわり、大丈夫です?」

「うん、ありがとう。この紅茶、冷めても美味しいしね」

「もし、あったかいのご希望、なら、遠慮なく、言ってくださいです。アニム、誠心誠意、心を込めていれるですよ!」

 柔らかく微笑みながらティーカップに手を伸ばすセンさんは、とても優雅です。私もつられて、へにゃんと笑ってしまいます。つられたのは笑顔だけで、優雅さは全くなかったと思いますけど。

 センさんと微笑みあっていると。すっと横から伸びてきた手に、コップを奪われてしまいました。気がついた時には、とっておいたココアは師匠が飲み干していました。

「あめぇ……」

「ししょー、飲みたいなら、ちゃんと言ってよ。新しいの、用意したのに」

「いらねーこんな甘ったるいの、よく飲めるな」

 人の楽しみをとっておいて、ひどいですよね。突き返されたコップを睨むと、すっからかんでした。一口目でわかるでしょうに、甘さなんて。

 っていうか、どうして、センさんは床で丸まって震えているのでしょう。近頃、センさんの笑いのツボを理解してきたつもりでしたが。さっぱり検討がつきませんよ。

「もー。唇に、つけて。こども、みたい」

「うっせぇ」

 流し込んだからでしょう。師匠の口の端に、ココアがついています。拭うものを持っていないので、親指で取ってあげましょうかね。

 師匠は抵抗して身を引きましたが、抜かりはありません。同時に倍の距離だけ詰めてやりました。伊達に弟子をしていませんよ?

 無事、ココアを拭ってはあげられましたが、どうしよう。そんな風に考えながらも、無意識なのか、自分の指を舐めていました。

「おまっ――!」

「アニム、大胆だねぇ」

「え?」

 すぽっと指を抜くと、師匠が目元を染めました。お行儀悪かったかな。頭がこてんと傾きます。

 師匠は口をきつく結びました。ですが、センさんは反対に、にやにやと口元を緩めています。対照的な二人の様子。交互に見つめると、師匠から深い溜め息が出てきました。そのまま、私の唇を親指のはらで拭ってきました。

 はっ! まさか!!

「ごっごめんですよ! さっき、フィーネに、同じこと、したから! つい!」

「お前は、師匠を赤子扱いするのか」

 センさんがいなければ、そこまで恥ずかしがることもないのですけれど。

 未だにひーひー喘鳴しながら師匠の肩を叩いているセンさん。そのセンさんの存在をまるっと無視している師匠。お二人の様子になんとも言えない笑みが浮かんだのがわかりました。

「お邪魔しました、です」

 さっさと調理場に逃げ込むが得策ですね。ホーラさんとの会話のこともあって、恥ずかしくなってしまいました。

 片手に持っていたお盆を両手に抱え直したのとほぼ同時、腕から重みが消えていました。紳士なセンさんかと思いきや、珍しく師匠じゃありませんか。

「ししょー?」

「アニムが盛大にこける未来が見えた」

「ししょーは、未来も、見えるですか?!」

 素直に感動した私は悪くないと思います。私だって初耳でしたけど、師匠の大魔法を目の当たりにした後なら、期待を持っても仕方がないと思うのです。

 今の私の顔はとっても輝いているに違いありません。期待を込めて師匠を見上げると、ものすっごく、えぇそれはそれは、非常に呆れた視線を向けられましたよ。

「あほアニムが。んな訳ねぇだろう。今までのこと考えれば、すぐに嘘だってわかるだろうに」

「私、知らないもん。ししょーが、先見の魔法使える、ないは」

 お盆を持ってくれてるのはありがたいです。でも、少しむっとしてしまいました。すみません。願望が叶わないことからの八つ当たりです。

 ぶすりと可愛くない調子でむくれた私の頬を、師匠が半目のまま引っ張ってきました。ほら! スキンシップは割りとあるのに、一歩踏み込んではきてくれないんだ。

「僕はわかるよ?」

「センさんも、私に、うそつくですか。センさんだけは、誠実紳士だって、信じてたのに!」

「おい、待て。まるでオレが違うみてぇじゃないか!」

 別に師匠が紳士でないとは言いません。ただ、センさんの紳士度は段違いなんですもん。スマートというか、女の子をエスコートするのに慣れているといいますか。嘘だって、完璧なものをつきそうだし。

 師匠を横目でちらっと見ると、「なっなんだ、その疑いの眼は……!」と口元を引きつらせちゃいました。それもぷいっと無視してやります。

 かちゃりと音がなったかと思うと。がっつりと、師匠に顔をつかまれました。抵抗です!ぐぎぎ! 師匠の方なんて、見てあげないんだから!

「ぶほっ! ほらね、僕が見えた未来と、同じだ」

「はぁ? 意味わかんねぇよ」

「ウィータとアニムがいちゃつきだす、未来。あたっただろう?」

 センさん、慈愛溢れる微笑です。腕を組んで、やれやれと言わんばかりの笑みを浮かべてらっしゃいます。わー、すごく見守られてる感があります。

 と、師匠と二人して固まっていたのですが。かつかつと近づいてきた高めの音に、はっと我に返りました。視線の先には、愛らしくツンテールを揺らしたホーラさんが、ハムスターのように頬を膨らませていました。

「むー! アニムー! お菓子が遅いと思ったら、ウィータと甘い時間を作っちゃってたのですかぁ。食べられない甘さは、いやなのですぅ。らぶらぶ糖度が美味しいのは、いちゃついてる当人たちだけなのですよ! ぷんっ!」

「やぁ、ホーラ。ちょうど僕たちも休憩にしようと思っていたところなんだよ。アニムの香りをかいだウィータは、集中力途切れてしまったみたいだからね。ほら。ウィータはお盆持って、アニムを手伝ってあげなよ。僕は一足先に、談話室に向かってるから」

 ホーラさんもセンさんも。言いたいことだけ放って、姿を消していきました。といっても、隣の部屋なので会話はもろに聞こえてくるんですけれど。うん、聞こえなかったことにしておこう。恥ずかしすぎる内容です。

 それでなくとも、らぶらぶ糖度という言葉が恥ずかしすぎて、きっと真っ赤になってます。

「ったく。好き勝手言いやがって。オレの嗅覚は動物並みかってーの」

「私、臭うですかね。朝、エルバのお風呂、入ったですから、良い香りなはず、なのに」

 はっ! もしかして、エルバでもカバーできないほどの体臭ですか?! 

 熱かった体から一気に血の気が引いていきます。おしゃれセンスはないにしても、せめて身だしなみと清潔感だけは保ちたかったのですけど!

 大急ぎで、袖やら髪、それに服の胸元を引っ張って匂いをかぎます。下着も問題ありません。うん、大丈夫! ついでにと、スカートも持ち上げてみましたが、服も臭くはありません。膝下スカートなので、下着大公開ではありません、念のため。

「……あほアニム。隣にオレがいるの忘れてやしねぇか」

「え? ししょーが、嗅いで、確認してくれるの?」

 きょとんと瞬きを繰り返してしまいました。師匠は目を見開いて、口をぱくぱくしていますよ。首を傾げると、髪が唇に引っ付いてしまいました。

 さすがに、お師匠様に頼むのは憚られます。って、師匠としてじゃなくっても、さすがの私も恥じらいというものが――。

 って、うわぁ!! 私、今、とんでもないことを口走りましたか!!

 理解した途端、ぐわっと上がっていく体温。摘んでいたスカートを離すと、師匠もわずかにですが目元を染めました。

「ごっごめん、なさいです! はしたない、意味ですよね! フィーネたちに、かいでもらうです、じゃなくって、お風呂入って、くるですよ!」

 アニムは混乱している。大混乱です。混乱解除の魔法をかけてください。

 混乱テロップが流れてきました、脳内に。

 ぶんぶんと腕を振って言い訳します。けれど、師匠は呆れるどころか目を細めちゃいました。そして、なぜ机と師匠の間に挟まれちゃってるんでしょうか。上質な大理石で造られた机は分厚いので、お尻に食い込んで痛いってことはありません。けれど、それなりの高さなので、座って距離をとることも適いません。

「確かにエルバの香りは、もうしねぇな」

「ししょー! やだ、そんな、くっついて、っていうか、鼻先、擦り付けないで!」

「お前が嗅げって言ったんだろうが。やだなんて、傷つくじゃないかよ」

 師匠の声は笑ってます。絶対に、からかって楽しんでるだけだ。

 ただ単に遊ばれている状況を理解したところで、髪や首筋、あまつさえ胸元に触れる温度と吐息に思考を奪われていきます。

 ぎゅっと背中を掴んでも、師匠は止まってくれません。

「やだっていうのは、さっき、一気に体温あがったから、汗掻いてるかも、いう意味で。 っていうか、胸とか首ばっか! 髪とか袖で、いいじゃない!」

「お前、朝から菓子作ってたろ。甘ったるい上に、少しアルコールも混ざってねぇか?」

「うん。ホーラさん用の、ケーキに……って、ししょー、話、ずらすないよ。それに、やっぱり、動物みたいな、嗅覚。うぅん。動物なくて、えろししょー!」

 ばくばくしすぎちゃってる心音に気がついたのか。師匠はようやく顔をあげてくれました。においをかがれるって、普通にくっつくより危険ですよ! しかも、臭くないかという話の流れで!

 心臓が破れるかと思いました。とほほ。と、思ったら。袖、というか手首を掴まれてました。今度は指ですか。さっき、フィーネとフィーニスも、甘いとふんふん鼻をならしながら、擦り寄ってきましたけど。肉球で掴ってきた二人は可愛くて癒されたからいいです。師匠は、苦しくなるから駄目です。

 情けない顔になっているに違いありません、私。全身脱力状態でへにゃへにゃになっていると。追撃といわんばかりに、師匠の唇に私の指が触れていました。強制的に。

「ほぅ。どっちが、いやらしいんだか」

「へ?」

 ちょっと待って下さい。私はいやらしい台詞を口にした覚えなんて、全くありません。さっきの嗅ぐ発言は明らかに意図が違うんだと主張します。

 師匠の口が、くいっとあがりました。出た!! 凶悪笑顔!! おまけにと、顔を寄せられました。唇に指をくっつけられたまま。

 私を試すように浮かべられた挑戦的な微笑。

「アニムは内緒話でもしてるつもりだったんだろうが。ホーラの声は、結構でけぇから、まる聞こえだったよ。オレと指を絡めたいんだろ? 色んな捉えようがあるよなぁ。こういう絡みを誘われるって」

「さそっ――!! 私、深い意味、なくてですねっ!」

 まる聞こえでしたか! 暖炉で木が爆ぜる音もあったし、大雨だしと油断してましたよ。

 意地悪に笑っている師匠に何も言い返せん。願ったのは本当だし、それに加えて師匠がかっこよすぎてですね。喉が詰まっています。だって、好きな人に迫られたら、だれだってどきどきしちゃいますよね?

 ぐるぐると考えているうちに。ぎゅっと力が入った指がこじ開けられました。強引にも思える行動とは裏腹に、とても優しく滑り込んできた師匠の指。私よりも断然大きな手。甲を撫でられて、ぞくりとしちゃいました。

「これで、いいのかよ。お前、掌、熱いなぁ。そもそも、ホーラに相談なんてしてねぇで、直接ねだればいいものを。アニムって、変なとこで遠慮するよな」

 爆発寸前の私を、眉を垂らして笑った師匠。仕方ないと言わんばかりの空気です。状況についていけない私の頭を、軽く撫でてもくれました。

 嬉しいのに、可愛くなく、むくれてしまいます。

「私だって、ずかずか言えることと、女として臆病なる部分、あるですよ」

「女として、か。お前にも女の自覚があったのには、驚きだ」

「……普段の私、そんなに女っぽく、ない?」

 けらっと笑った師匠に、不安が過ぎりました。私の方を見ず、いじりながら指を眺めているのが悔しくもあって。

 ぐっと、師匠の手ごと引き寄せます。がっちりと胸元に押さえ込み尋ねると、師匠は体を引いてしまいました。への字口です。じっと視線を向けると、深い溜め息をつかれたじゃありませんか。

 えぇ、まぁ。答えを聞くまでもないですよね。自覚はあります。人に聞く前に、改めろって感じですよね。反省。

「女らしい、らしくない以前の問題だ。無意識にしてやがる行動が持つ意味を考えるとこから始めろ!」

「ふぎっ!」

 鼻先を摘まれ出た音は、可愛さの欠片もありませんでした。

 として出直して来いってご教授ですか、お師匠様。ぐぐっ。いいです。アニム、頑張ります。明日からは一人の人間として、まず頑張ります。

「お前、また的外れな方向に進んでるだろ……」

 疲れた声を無視して、ぐっと拳を握ります。決して、離れた指の感触を忘れないよう、噛み締めているわけではありません。

 と、師匠が口を開きかけた瞬間。

「おーい、ウィータにアニム。こっちにも、全部聞こえているの、わかってるよね? いちゃつくのは、とりあえずホーラにココア淹れてあげてからにしてくれるかな? ホーラが、糖分不足で、ソファーに突っ伏してるのだけれど」

「逆なのですよ。あまーいあまい過ぎて、窒息しそう、なのですよ。ぐほっ。激甘党のわたしでも、胃もたれどころか耳から砂糖が出るのですよぉ」

 ホーラさんには大変申し訳ないとは思ったのですけれど。幸せすぎて、へらっと笑みを浮かべた私。そっと手を掴んでいました。



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