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始まり

明朝7時40分、電話の鳴り出し音が部屋中に響き、フェデリコは目が覚めた。「またあの夢か…」額には冷や汗が流れていて、体にはかすかな疲労が残っていた。彼は以前からトラウマになるような夢を見ることが多かった。捜査官として、また心理分析官として捜査や研究に没頭するにつれて悪夢を見るようになったからだろう。殺人事件の現場で死体が発見される夢、刑務所の犯罪者を訪れる夢、自身が殺人犯に拳銃で打たれる夢、そのどれもが彼にとって悩みの種だった。半年前に心理療法を受け始めたが改善されず気持ちが次第に落ち込んでいってしまい、捜査にも支障が出てしまう恐れがあった為、フェデリコは一ヶ月の休暇を取る事にした。ここフィレンツェでは観光地として非常に栄えており、彫刻や絵画、建築は見る者を圧倒させるものがある。フェデリコも同様にこの街の芸術を堪能していた。休暇は二週間目に入り、あと二週間はあるはずだった。所が電話は彼が勤めている職場の同僚からで、この明朝にかけてくるという事は重要な連絡に違いない。そう思い、急いで電話を取った。「フェデリコだが…」「フェデリコ、休暇中にすまない」アメリカ出身

の捜査官ピーター・クロフォードからだ。「昨日、殺人事件が発生した。被害者はカトリック教の司祭だ。君さえ良ければ…是非力を貸してほしい」「休暇でだいぶ癒されたから動けるよ。それで場所はどこなんだ?」「場所はサンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会だ。現場検証しているが指紋はもちろん髪や唾液、足跡、爪は発見されていない。唯一、犯人が残した手がかりは通常では考えられないものだ。被害者を十字架に吊るしナイフか何かで右胸の下を突き刺され、そして心臓を刺されていた」「分かった、私もすぐそちらに向かおう。サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会はここからならそう時間はかからないだろう」「ありがとう。ここ数日で同じような事件が多発しているんだ。司祭や司教、枢機卿を中心に殺害されていて今では被害者は六人だ。この被害者達も同様に殺害後も十字架に吊るされていた」「カトリックの地位がある者を狙っているということか?」フェデリコは訝しく思った。「そうだ、不思議な事に君が休暇を取った後に事件が発生している。だから君にはこの情報は流れなかっただろう」「ああ、連絡を取っていなかったからね。しかしそうなる

と犯人はカトリックと何らかの関係があると見てまず間違いないな」「そうだな、その可能性は極めて高いだろう」「とりあえず現場に急行する。現地で会おう」電話を切り、フェデリコは支度を始めた。この事件の手がかりは殺害した後の行動、それが唯一のものであることに疑いを持っていた。何故、犯人はわざわざ十字架に死体をくくりつけて吊るすような事を?殺人事件の多いアメリカでもこのような事は今までになかったであろう。確かにアメリカの連続殺人犯テッド・バンディ、ジェフリー・ダーマー、ジョン・ウェイン・ゲーシー、サムの息子等は凶悪にして嗜虐な犯行を犯した事は世界的にも知られているが、今回はそれとは異なるある種の芸術的な殺害と呼ぶに値するものである。フェデリコはその事を考えながら支度を終え、トーストを一枚食べコーヒーを少し飲んでから自宅を出た。

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