五人の境界線、未知なる樹海へ
学園の正門前。
そこには、およそ不釣り合いな五人の男女が立っていた。
先頭に立つのは、右腕を黒い包帯でぐるぐる巻きにした俺、シュウ。
その隣には、護衛を自称して譲らない王女フィオナ。
俺の背後で「主様の影」として気配を消す猫耳のミーニャ。
そして、大量の古文書を抱え、狐尻尾をパタパタと揺らす軍師リィネ。
「……なんで私が、こんな野蛮な遠征に付いていかなきゃいけないのよ」
最後尾でぶつぶつと文句を垂れるのは、エルフのエレインだ。
彼女の耳は、数日前の「魔力接触」を思い出したのか、いまだに赤みが引いていない。
「いいじゃない、エレイン。シュウ君の右腕を治す『琥珀の涙』は、あなたの故郷に近い『深緑の樹海』にあるんでしょう?」
「そうよ、フィオナ様。……でも、あそこは寿命の低い人間が足を踏み入れれば、一瞬で森に時間を吸い取られる場所。……今の彼なら、逆にあらゆる寿命を吸い尽くして枯らしてしまいそうだけど」
エレインが俺の右腕をジロリと睨む。
俺の頭上の数字は、前回の「無」の摂食以来、ときおり【ERROR】と【一二〇〇年】の間を激しく行き来していた。
「……行くぞ。いつまでも学園の温い結界の中にいるわけにはいかない」
俺たちは、学園の勢力圏を越え、未開の地へと足を踏み入れた。
数時間の行軍の後。
たどり着いたのは、太陽の光すら届かない、巨大な樹木が蠢く『深緑の樹海』。
そこは、一歩歩くごとに「数日分」の寿命が自然と削られていく、死の森だった。
「……っ、この森、空気が重いわ。私の『八〇〇年』が、じりじりと焼けるような感覚がする……」
フィオナが眉を潜める。
だが、俺の感覚は逆だった。
森全体に満ちる「古い寿命」の匂い。それが、俺の右腕に宿る「捕食者」を呼び覚ましていく。
『警告。超高位生命体の接近を確認——減算予測、計測不能』
リィネの端末が激しくアラートを鳴らした瞬間。
森の奥から、山ほどもある巨大な「黄金の角」を持つ鹿が現れた。
【個体名:古神の落とし子】
【余命:三五〇〇〇年】
「……三万……五千年……!?」
リィネが絶句する。
学園のエリートが一生をかけても届かない、神話級の寿命の塊。
その鹿が一歩踏み出すたび、周囲の草木が急激に成長し、そして枯れ果てていく。時間の奔流。
「みんな、下がれ! こいつは……今までの魔物とは次元が違う!」
俺は右腕の包帯を、引きちぎるように解いた。
黒く変質し、空間を歪める俺の右手が、三万五千年の「極上の獲物」を前にして、歓喜に震えていた。
「……三万年か。全部喰らえば、俺は人間じゃなくなるかもな」
自嘲気味に笑い、俺は『刹那の超過』を発動させる。
残り寿命、あと一分。
死の淵でこそ輝く、俺たちの本当の冒険がここから始まる。




