誇り高き翠の断罪者
学園の最上層にある「星読の塔」。
そこは、寿命を最も効率的に魔力へ変換する術を学ぶ、選ばれし魔導師たちの聖域だ。
「……汚らわしいわ。魔物の時間を喰らって延命するなど、生命の冒涜よ」
凛とした声が、静謐な教室に響き渡った。
声の主は、窓際に立つ少女——エレイン。
透き通るような白い肌に、宝石のような翠の瞳。そして、その美しい金髪の間から覗く、鋭く尖った耳。
彼女の頭上に浮かぶ数字は、驚愕の**【余命:一九〇〇年】**。
エリート揃いの学園においても、純血のエルフである彼女の寿命は別格だった。
「エレインさん、落ち着いて。シュウ君は皆を助けるために……」
フィオナが取りなそうとするが、エレインは一歩も引かない。
彼女にとって、寿命とは「正しく積み上げ、正しく消費するもの」であり、シュウのような「略奪」による増加は、生理的な嫌悪の対象だった。
「フィオナ様、騙されないで。彼の身体からは、死んだ魔物の怨嗟が漂っている。……シュウ、と言ったかしら? あなたに、この聖なる塔に足を踏み入れる資格はないわ」
エレインが細い指先を向けると、空気が一変した。
彼女の膨大な寿命が一気に「魔力」へと燃焼し、無数の光の矢となって俺を包囲する。
「……資格、か。俺はただ、生きたいだけなんだがな」
俺は静かに応じる。
だが、俺の【一二五〇年】の数字が、彼女の殺気に呼応して赤く明滅し始めた。
大蜘蛛を喰らった代償か、闘争本能が抑えきれなくなっている。
「言い訳は不要よ。その歪んだ時間を、私がここで浄化してあげる!」
放たれた光の矢が、音速を超えて俺を貫こうとする。
だが、俺の視界には、矢の軌道がスローモーションのように見えていた。
【スキル:刹那の超過——部分的発動】
俺は一歩踏み出し、最小限の動きで光の矢をすべて回避する。
そのまま、驚愕に目を見開くエレインの目の前まで肉薄した。
「なっ……速すぎる……っ!?」
彼女が次の呪文を紡ぐより早く、俺は彼女の杖を掴み、その華奢な身体を壁際に追い詰めた。
いわゆる「壁ドン」の形だが、漂っているのは甘い空気ではなく、圧倒的な「死」と「生」のせめぎ合いだ。
「……綺麗事だな、エレイン。あんたのその長い寿命も、誰かが狩った魔物の犠牲の上に成り立っているんじゃないのか?」
「くっ……離しなさい……!」
エレインの頬が、怒りと羞恥で赤く染まる。
彼女は俺を突き放そうとするが、俺の腕はびくともしない。
むしろ、至近距離で俺の放つ「濃密な寿命の匂い」を浴びたことで、彼女の翡翠の瞳が微かに潤み始めた。
「……っ。なによ、この魔力……。不快なはずなのに、どうして……胸が、熱いの……」
エルフは魔力に敏感な種族だ。
シュウが持つ、多種多様な魔物の「命」が混ざり合った混沌とした生命力。
それは清廉潔白に生きてきた彼女にとって、最も毒であり、同時に最も抗いがたい「禁断の果実」だった。
「……覚えておきなさい。私は、あなたを認めない。……絶対に、認めないんだから!」
捨て台詞を吐いて顔を背ける彼女の耳は、真っ赤に染まっていた。




