アフターストーリー:リィネ編
『計算不能の幸福論、二人の地平線』
「レギオン」の崩壊後、リィネは学園の特待生という肩書きをあっさりと捨てました。
寿命が「∞」となり、世界の法則が書き換わった今、彼女にとっての「最高に面白い研究対象」は、目の前の少年ただ一人になったからです。
「……んー、やっぱり計算が合わないわね。シュウ君、ちょっとこっち来て」
二人は今、フィオナの用意した戦艦『刻の揺り籠』を改造した移動式拠点で、世界の果てを目指して旅をしていました。リィネは相変わらずホログラムウィンドウを乱立させ、複雑な数式を弾いています。
「また何かバグか? リィネ」
「そうよ、特大のバグ。……私の胸の鼓動、シュウ君が隣に座るだけで、通常の2.4倍に跳ね上がるの。これ、物理法則的に説明がつかないわ」
リィネは呆れたように肩をすくめ、長い狐尻尾をパタパタと揺らしました。
彼女の頭上にあった【二〇〇年】という数字。それは今、彼女自身が開発した「幸せ測定器」に置き換わり、限界値を突破して真っ赤に点滅しています。
「……ねえ、シュウ君。私、数字で世界を見るのが好きだった。不確かなものなんて、この世にはないと思ってたから。でも……」
リィネは不意に端末を閉じると、シュウの膝の上に潜り込みました。
柔らかな髪の感触と、微かに香る機械オイルと花の匂い。
「……あなたの『無限』に触れてから、数字なんてどうでもよくなっちゃった。一秒先が予測できない。……そんなの、科学者失格よね」
リィネはシュウの首に腕を回し、その耳元で小さく、いたずらっぽく囁きました。
「でも、悪くないわ。……私と一緒に、この広い世界の『面白いこと』を全部数えに行きましょう? 多分、一万年あっても足りないけれど」
リィネはシュウの鼻先に自分の鼻をコツンとぶつけ、黄金色の瞳を細めました。
「解析完了。……私の未来には、シュウ君が不可欠よ。……逃げようなんて思わないことね?」
計算外の幸福に包まれながら、リィネは満足そうにシュウの胸で丸まりました。
二人の乗った戦艦は、数字のない、新しい地平線へと加速していきます。




