アフターストーリー:ミーニャ編
『影の忠誠、日だまりの幸福』
世界から「寿命の数字」が消え、人々が時間の呪縛から解き放たれた新世界。
シュウたちは学園を卒業し、今は王国の片隅にある静かな屋敷で、仲間たちと共同生活を送っていた。
「……ふわぁ。主様、起きた?」
朝の光が差し込む寝室。
シュウが目を覚ますと、すぐ隣で丸まっていたミーニャが、パタパタと耳を動かして顔を上げた。
かつては「影歩」で気配を消していた彼女だが、今は隠す必要などないと言わんばかりに、シュウの腕の中に潜り込んでいる。
「おはよう、ミーニャ。……今日も早いな」
「うん。……主様の匂い、朝が一番濃いから。……くんくん」
ミーニャはシュウの胸元に鼻を押し付け、満足そうに喉を鳴らす。
かつて彼女の頭上にあった【三五〇年】という数字。それはもう見えないけれど、彼女がシュウに捧げた忠誠と愛情は、形を変えて深まっていた。
「主様。……私、昔は『死ぬこと』が怖かった。……寿命が減るたびに、自分の価値が消えていくみたいで」
ミーニャが細い指先で、シュウの胸をなぞる。
かつて彼が「魔物喰い」で彼女の命を繋ぎ止めた、その場所だ。
「でも、今は……明日が来なくても、後悔しない。……こうして、主様の体温を感じている一秒が、私にとっての『無限』だから」
ミーニャは不意に身を起こすと、シュウの頬に柔らかく唇を寄せた。
猫のような気まぐれさではなく、一人の女性としての、確かな熱。
「……ねえ、主様。……今日は、どこにも行かないで。……私だけを、撫でてて?」
琥珀色の瞳が潤み、甘えるように見つめてくる。
世界を救った英雄も、この小さな「愛の独占欲」には勝てそうにない。
「……ああ。今日は一日中、ミーニャのそばにいるよ」
「……えへへ。約束。……破ったら、噛み付いちゃうから」
クスクスと笑いながら、ミーニャは再びシュウの腕の中に顔を埋めた。
数字のない世界で、ただ重なり合う鼓動だけが、二人の「永遠」を刻んでいた。




