残り寿命、あと七日
その剣が俺の喉を貫いたとき、溢れ出したのは鮮血ではなく、**「時間」**だった。
鈍い音とともに、視界の端でデジタルの数字が狂ったように逆回転を始める。
カチカチカチ、と心臓の鼓動よりも速い速度で、俺の命が削り取られていく。
『直撃。減算推定——三年六ヶ月』
無機質なアナウンスが脳内に響く。
喉に刺さった白銀の剣を引き抜かれても、痛みはない。傷跡すら残らない。
だが、俺の頭上に浮かぶホログラムの数字は、無情にもその分だけ減っていた。
「……はぁ、はぁ……っ」
膝をつく俺を見下ろし、クラスメイトの男子が冷笑を浮かべる。
彼の頭上には、眩いほど黄金に輝く数字が鎮座していた。
【余命:四五八年一一ヶ月〇二日】
「悪いなシュウ。寸止めのつもりだったんだが、お前があまりに鈍いもんで『数年分』ほど掠っちまったよ」
周囲から下卑た笑い声が漏れる。
ここは国立刻限魔導学園。
魔物を狩り、その余生を奪い合うことで「永遠」を競うエリートたちの揺り籠だ。
ここでは、寿命の長さこそが身分であり、強さの証明だった。
「……気にするな。かすり傷だ」
俺は立ち上がり、自分の頭上に浮かぶ「絶望」を見上げる。
【余命:〇〇年〇〇ヶ月〇七日 〇四時間二一分】
残り、あと七日。
学園で唯一、死神の指先が首筋に触れている劣等生。それが俺、シュウだ。
「おい、死に損ない。そんな端金みたいな寿命で、よく学校に来れるな? 記念祭までにゼロになって、消滅しちまうんじゃないか?」
嘲笑を背に受けながら、俺は訓練場を後にする。
誰もが俺を避けて通る。死は伝染するとでも思っているかのように。
「シュウ君!」
背後から、鈴を転がすような声がした。
振り返ると、一人の少女が駆け寄ってくる。
燃えるような赤髪をなびかせた、この国の第一王女——フィオナだった。
「またあんな無茶をして……。あなたの『カウント』はもう、そんなに少ないのに」
彼女の頭上の数字は、八〇〇年を超えている。
俺とは住む世界が違う。それでも彼女だけは、俺の残り僅かな時間を「無価値」とは呼ばなかった。
「大丈夫だ、フィオナ。俺にはこれがある」
俺は、手のひらに宿る黒い紋章を見つめる。
ハズレスキル【魔物喰い】。
他者の寿命を奪うのではない。魔物の肉そのものを喰らい、その「境界線」を超えた力を我が物とする禁忌の力。
「今日の地下演習……俺が行く。そこで、俺の時計を動かしてみせる」
その時、俺はまだ知らなかった。
その地下演習に、俺の残り七日を「一分」にまで追い込む最悪の罠が仕掛けられていることを。




