恋のキューピット
僕は社会人三年目の酒井祐樹二十五歳。
彼女いない歴二十五年。
彼女が欲しいとは思うけど、金も無ければ声をかける勇気もない。
ただただ仕事と自宅のアパートを往復する毎日。
恋のキューピットすら僕には振り向かない。
近所には小さなコンビニがひとつ。大手チェーン店ではなく地元だけの店。品ぞろえは大手ほどではないけど、いつも穏やかなおじさんが切り盛りしている感じのいいお店だ。僕はこのコンビニが好きだった。
その年の冬、店先に「中華まん始めました」ののぼりが立った。
ある日の仕事帰り、冷えた身体を温めたくて店に入った。
レジの前ではおばさんの怒鳴り声が響いていた。
「だから中華まんくださいって言ってるの!」
あまり関わりたくなかったのでレジを横目にそっと店内に入る。お客は僕とおばさんだけだった。
店員の女の子は外国人のようだ。
いつものおじさんではなかった。
「中華まん、これ」
彼女は保温ケースの中の肉まんを指さす。
「だからそれは肉まんでしょ!? 私は中華まんが欲しいの!」
女の子はあんまんを指さす。
「だから違うって!」
そして、
「日本語わからないの!? いつものおじさんは?」
「店長、いまいない」
空気がぴりぴりする。
関わりたくなかったが仕方なく声をかけた。
「あの……」
自分でも驚くくらい小さな声だった。
「中華まんっていうのは、肉まんとかあんまんとかの“総称”なんです。だから……中華まん、という種類が別にあるわけじゃなくて」
おばさんは目をぱちくりさせた。
「え? ええ? 肉まん、あんまん、中華まん、の三種類じゃないの?」
「違います。中華まんの中に肉まんやあんまんがあるんです」
しばし沈黙。
「だったら最初からそう言いなさいよ!」
おばさんはそう吐き捨て、そのまま何も買わずに店を出て行った。
ドアのベルが、からん、と鳴る。
僕はしばらく呆然としていた。
すると、横から小さな声。
「……ありがと」
店員の女の子だった。
かわいい子だった。
名札には「グエン」とあった。
「い、いえ」
その出来事があって以降、前にも増してそのコンビニに通うようになった。
グエンさんとも普通に話すような関係になった。
あれから数年。
今、ぼくの隣にはグエンが居る。
ぼくたちは結婚した。
人生、何がきっかけでどうなるかなんてわからない。
結局あのおばさんはあの日以降一度も見かけなかったとグエンは言う。
僕とグエンを出会わせるためのキューピットだったのかもしれない。
激しいおばさんのキューピット、ありがとう。
終




