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アサとラーメンを食べてから、二週間が経った。
乾燥して少し色が落ちたチューリップを、まとめて花瓶に差してみた。咲いているチューリップの鮮やかな赤色は、狭くて暗い部屋に浮いているように感じたけど、このドライフラワーはアンティークな雰囲気が部屋にも馴染んでいる。うん、悪くない。
スマホで調べ物をしていると、母からメッセージが届いた。画面には『退院できるって』の一言。少し迷って、俺はアサの言葉を思い出す。
「……俺が好きなんだから、それでいいよな」
俺は開いていたスマホを閉じ、財布を持って家を出た。
花屋に入ると、アサがいつもの笑顔で出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ」
「退院祝いの花束が欲しいんですけど」
「花のご希望はございますか?」
俺は、赤いチューリップの隣で凛と咲いている、ピンク色のチューリップを指さした。
「これでお願いします」
完成したピンクのブーケを手渡しながら、アサは嬉しそうに声をかけてきた。
「ご退院おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「そういえば、ドライフラワーは上手くいきましたか?」
「はい、お陰様で」
受け取ったブーケは優しく華やかな色合いで、俺はそれを少し掲げ、「次はピンクでもやってみようかな」と言って、店を出た。
病室には、もうすっかり元気そうにしている母親が、看護師と楽しそうに話し込んでいた。
「入るよー」
「優真。わざわざ来たの」
「来るよそりゃ」
親子の時間を邪魔するまいと看護師が病室を出ていったのを見て、先程買ってきたブーケを手渡すと、母親は明らかに顔を顰めた。
「あんたいつも花束なんて大袈裟なのよ、しかもまたチューリップ」
「昔よくチューリップ畑見に行ったじゃん。母さん好きなのかなと思って」
「……よく覚えてたね、そんな前のこと」
「子供の記憶力舐めんなよ?……ていうか、それだけじゃないから。チューリップ選んだ理由」
「何よ」
怪訝そうに首を傾げる母親に、直接言う勇気はやっぱり出なくて、目を逸らしながら花を押し付ける。
「花には花言葉ってのがあんの。あとは自分で調べて」
何それ、と言いながらも、ピンクの花束を持つ母親は、穏やかに微笑んでいた。
「母さん」
「なに」
「俺やりたいこと見つけたかも」
散った桜の絨毯を踏みながら、もう何度か通った道を歩き、花屋の扉を開けるとアサと店長らしき女性が話していた。アサは俺を見ると、またパッと笑顔になる。そんな彼女に笑い返し、俺は店長の目の前に歩みを進めた。
「あの、ここって従業員募集してますか」
二人が同時に目を見開くのがわかる。そんな彼女たちの顔を見て、俺はまた笑った。




