表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
今日のあさごはん  作者: あひるのひるね
インスタントラーメン
8/14

3

できあがったラーメンを盛り付け、テーブルに運ぶ。市販のチャーシューと刻みネギを乗せたインスタントの味噌ラーメンを、アサはキラキラした目で見つめている。


「ありがとうございます。いただきます」


ラーメンを一口啜ると、アサは「美味しい……」と幸せそうに笑った。誰かのこんな笑顔を、俺はいつぶりに見ただろうか。自分も一口だけラーメンを食べ、そっと箸を置いた。


「あの、聞き流してくれていいんですけど」

「はい」

「俺、東京の大学にまで行かせてもらって、でも何の成果も出せない上にやりたいことも見つかんなくて。高校の時から反抗期で、母親とも上手くいってなくて……というか、それは俺のせいなんすけどね。片親で育ててもらった感謝もろくに伝えず、こんなどうしようもない人間に育っちまって」


アサは、食べていた箸を止め、小さく首を振った。それを見て、俺はまた口を開く。


「なんで俺があの時チューリップを選んだかっていうと、昔よく母親と見に行ってたんですよ、チューリップ畑。そんで、一面に咲いた赤いチューリップがやけに母さんに似合ってたなって、そんな子供の頃の記憶がずっと残ってて」

「……そっか」

「でも、実際お見舞いに持って行ったら、なんて言われたと思います?」


あの時の母親の言葉が、頭に反芻する。


『お見舞いに赤って。普通選ばないでしょ。何も知らないのに買ってきたの?花瓶もないし、持ち帰って』


「あーやっぱ、覚えてたの俺だけかぁ、って。んで、持ち帰ってきたはいいもののオレなんにもわかんないから、危うく枯らしかけちゃったんですよね」


アサは、ずっと箸を置いて俺の話を聞いていた。


「……ラーメン伸びちゃいますよ」

「私、ラーメンは伸びた方が好きなんです」

「変わってますね」


そんなことを言いつつ、自分のラーメンも既に麺は伸びきっているだろう。


「……花もラーメンも、ピークが終わった時の方が好きだったりするんです」

「へぇ?」

「変わってたっていいんです。自分が好きなんだからそれでいい。好きな物とか、やりたいことが見つからないなら、立ち止まってみたっていいんです」


立ち止まったっていい。そんなこと、今まで一度も考えたことなかった。ただがむしゃらに進むことしか、俺には見えてなかった。


「楽しむ方法を探すことだけが人生じゃない。じっと待ってみれば、ドライフラワーが綺麗なことや、伸びたラーメンが美味しいことにも気づけます。だから私は、よく立ち止まって深呼吸をするんです。その結果見つけたものが『変わってる』と言われるようなものだとして、好きになれたならハッピー、それでいいじゃんって思うんです」


アサが伸びた麺を持ち上げたのを見て、自分もそれに倣う。二人して、柔らかくなった麺を啜る。確かに案外美味しかったけど、自分はできたての方が好きだと思った。


「いけなくはないけど、やっぱり伸びてない麺の方が好きかな」

「そっか。じゃあ次からは、伸びないうちに食べないと、ですね」


元の方が好きだから残念、やって失敗、時間の無駄。今まではそう思ってきた。だけど何かに挑戦するのも、何もせずに待つのも、「新たな発見ができたから有意義だった」とこの人は考えるんだろうな。

無駄な時間など、案外ないのかもしれない。伸びたラーメンを美味しそうに啜るアサを見て、俺は人生で初めてそんなことを考えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ