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今日のあさごはん  作者: あひるのひるね
今日のあさごはん
4/13

4

店を出て、アサは昨日の公園に向かった。あそこは日当たりも良くて、ご飯を食べながらのんびり過ごすのにちょうどいい。

公園には、親子が一組。昨日ここで見た、五歳くらいの女の子とその父親だった。女の子は砂場で一人で遊んでおり、父親はその少し離れた場所で、青いボールを抱えてしゃがんでいる。

アサはベンチに座り、ボールを隣に置いてパンの袋を開けた。朝ごはんにしては遅いけど、昼ごはんにしては早い、この時間にとる食事をブランチと呼ぶらしいということを、昔誰かに聞いた気がする。

焼きたての塩パンはまだ温かくて、一口噛むと底に染みたバターがジュワっと溢れ出した。サクサク、モチモチとしたパン生地と塩気のコンビネーションが抜群で、思わず頬が緩む。これは買ってよかった。逆になぜ今まで買わなかったのか。今度からは塩パンもレギュラーメンバーに組み込もう、そうしよう。そんなことを一人で考えながら頷いていると、親子が遠くからこちらを見ていたようで、会釈をすると父親も軽く頭を下げた。

ふと、女の子の方が手を止めてじっと自分の方を見ていることに気づく。正確には、アサの隣のボールを見つめていた。アサは少し迷った末に、パンの袋を閉じた。メロンパンとクロワッサンは欠片が落ちるし、ここで食べるのはやめておやつに持ち帰ろう。そして袋をカバンにしまい、ボールを持って親子の方へと歩いた。そこで父親と再び目が合い、「こんにちは」と挨拶すると、彼は立ち上がって「こんにちは」と少し気まずそうに挨拶を返してきた。彼はアサの手の中のボールを見て「なんでボール持ってるんですか」と聞いてきた。


「昨日その青いボール見て、欲しくなっちゃったんです。だから昨日買いました」

「そう、ですか……買ってどうする気だったんですか」

「うーん、そこまで考えてなかったですね。そういえば、今日はお子さんとボールで遊ばないんですか?」


父親は黙々と砂遊びをする子供を見つめ、苦笑しながら言った。


「今日はボールで遊びたくないんだそうです。一応持っては来たんですけど、今日はずっと砂遊びで」

「へえ……じゃあ、私がお子さんとボールで遊んでもいいですか?」

「え?」

「このボール、買ったはいいけど一人じゃ遊べないので」

「……構いませんけど」


アサはくるっと体の向きを変え、砂の山をスコップで叩いている女の子のそばにしゃがんだ。


「こんにちは。私も一緒に遊んでいいかな」

「……いいよ」


女の子は顔をこちらに向けることなく、スコップで砂の山を叩き続けている。


「ありがとう。私はアサって言うんだけど、お名前教えてくれる?」

「よしだえま」

「エマちゃんかぁ、よろしくね。……ねぇねぇ、私ボール持ってるんだけど、一緒に遊ばない?」


少し動きを止めたエマは、アサが持っているピンクのボールを一瞥し、また砂の山をぺちぺちと叩き始めた。


「……ボールはやだ」

「そっかぁ」


アサはボールをネットから出し、その場で小さく地面に落としてみた。跳ね返って手の中に戻ってくるボールを、また地面に落とす。それを繰り返す。エマはそれでも砂の山と向き合っている。

アサは、今度は地面にゆっくりと転がしてみた。それを、走って止める。また転がして、走って止める。それを繰り返していると、エマはついに手を止め、こちらを見た。


「なにしてんの」

「これね、いい音鳴ると思わない?落としたり、転がしたりするの。私こうやって遊ぶの好きなんだ」

「……なにそれ。ボールは投げてあそぶものでしょ」

「そうかなぁ。どうやって遊ぶかは、自由じゃない?ほら、音聞いてみて」


アサはまた、ボールを地面に落としたり、転がしてみたりした。砂の地面とビニールのボールが成す音は、軽くてさらっとしている。


「これね、場所を変えると、音も変わるの。それが面白いんだよ。例えば……ほら、あそことか」


アサは滑り台がある場所を指さす。滑り台を滑り終わった時に着地する地面は、砂場付近よりも硬いゴム素材でできている。


「ちょっとおいで」


アサがボールを持って滑り台の方に向かうと、エマも無言でそれに着いてきた。


「それじゃいくよ」


ボールを地面に落とすと、さっきよりも固くはっきりとした音が響いた。アサは何度かボールを落とす。その度に、軽快な音が鳴る。


「ほらね、音が違うでしょ」

「ほんとだ」

「さっきのは『トスッ』って感じだけど、今のは『ポンッ』って感じがするよね」

「んふ、たしかに」

「じゃあ、これを滑り台の上から滑らせたら、どんな音が鳴ると思う?」

「えー?……コロコロって音じゃない?」

「やってみよっか。じゃあエマちゃん、代表して滑り台に登ってくれる?」

「わかった」


アサの言う通り、エマは生き生きと滑り台の階段を登り、エマが上まで登ったのを確認して、アサは下からボールを手渡す。そして、先程の硬い地面のある場所まで移動した。


「私がここで受け止めるから、ボールを転がしてみて」


エマがそっと転がしたボールは、緩やかな傾斜を素早く下り、硬い地面に着地した。そし軽快な音を立て高く跳ね上がったそれを、アサがキャッチする。


「……あははっ、ぜんぜん音しないじゃん!」


エマはそう言って笑い、楽しそうに滑り台を滑って降りてきた。


「そっかぁ、滑り台は音鳴らないんだ。新発見!だね。あ、それじゃあさ、エマちゃんの青いボールとこのピンクのボール、一緒に投げたらどんな音鳴るかな?」

「たしかに!もってくるね」


エマはボールを持って見守る父親の方へ、楽しそうに駆け出した。

その後は、二人で公園中にボールを叩きつけたり転がしたりして、どんな音が鳴るか試した。

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