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まだ薄暗い冬の早朝。暖房の効いた店内で、アサは店長と優真と、店を開ける準備をしていた。


「そういやほんとに鍋したんですか?」


店内を軽く掃除していた優真は、手を止めてそう聞いてきた。昨日、「夜はなっちゃんと鍋にする」と言ってそそくさと帰っていったアサのその後が気になったのだろう。アサは彼に向かって、親指を立てた。


「最高だったよ」


その顔が本当に幸せそうだったので、優真も「それはよかったっす」と返す。バックヤードから出てきた店長がそれを聞き、楽しそうに笑った。


「アサちゃんは本当にご飯好きね」

「大好きです」

「採用面接の時、興味本位で趣味を聞いたら『ご飯を食べることです』って胸張って言ってきたもんね」

「まじすか。でもそんなに飯が好きなら、飲食の仕事に就くとか考えなかったんですか?」

「ご飯と同じくらい、花も好きだから」


そう言うアサに、店長は優しく微笑む。


「じゃあ、飲食より花屋を選んだ理由はあるんですか」


優真の問いに、アサは少し上を向いてから、また彼に向き直った。


「ご飯は無いと生きていけないけど、花は無くても人は生きていける。でも、あった方が人生は明るいし、楽しい」


そしてくるっと優真の方を向き、にこやかに言った。


「だから私はこの仕事が好き」

「……アサさんらしいっすね」

「そうかな。優真くんは、どうしてここで働こうと思ったの?」

「うーん……朝が好きだからかな」


それを聞いたアサは、また嬉しそうに笑った。


「私も朝好き」


それが思っていた反応と違ったのか、はたまた予想通りだったのか、優真は眉を下げて軽く吹き出した。


「なんか、あんま伝わってねぇかも」

「お二人さん、そろそろ店開けるよ」

「はーい」




さて、今日は何を食べようか。

温かいご飯と、花と、人に出会うために、朝倉明咲の一日は始まっていく。

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