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外には雪がちらつき始めていた。十二月のとある月曜の夜、アサの部屋には夏に片付けたコタツが再び戻ってきた。
「やっぱり冬はコタツだよねぇ」
「ほんと。今年もありがとね、アサちゃん」
「まだ今年終わってないよなっちゃん」
コタツに足を入れ、テーブルに頬をつけて笑う菜摘が今日持ってきてくれたのは、鶏の唐揚げ。ボリューミーなおかずだからか、タッパーの数がいつもの二倍ほどある。
アサがキッチンでその蓋を開けると、揚げたての香ばしい匂いが広がり、アサは思わず炊飯器の蓋を開け、もわっと温かい蒸気を顔に浴びた。
「これこれ……」
「あはは、アサちゃんまたやってんのー?」
「ごめんごめん、今準備するね」
唐揚げを皿に移し、残りの容器の蓋も開けると、そこにはタッパー二つ分、みっちりと千切りキャベツが入っていた。
「お、キャベツいっぱいだね」
「……あは、ごめん、いつの間にか切っちゃってた」
そう言って笑う菜摘の表情に、いつものような元気がないことに気づく。菜摘は悩んだ時や迷った時、今日みたいに大量の千切りキャベツを作る癖があることを、アサは知っていた。
「いただきます」
菜摘が作る唐揚げは、少し冷めても外はカリカリ、中はしっとりとジューシーで、ニンニクと醤油の濃い味付けが白米と非常によく合う。ご飯のお供選手権を開くなら、アサは間違いなく第一位に菜摘の唐揚げを選ぶだろう。
菜摘は、山盛りのキャベツを少しずつ口に運び、たまに手を止め、ぼーっとどこかを見つめていた。我ここに在らず、といった状態である。目の前のご飯に夢中になっていたアサも、さすがに菜摘のこの様子は見過ごせず、顔を覗き込んで聞いてみた。
「なっちゃん、何かあった?」
「……んー、何かってほどでもないんだけどね。友達とちょっと、上手くいってなくて」
「そっか」
「上手くいってないというか、正しくはこっちが勝手にそう思っちゃってるだけ。向こうはきっと何も思ってないし、気づいてない」
菜摘はまた疲れたように笑い、キャベツを口に入れた。
「前にさ、麻婆茄子の話したでしょ」
「友達が作ってくれたっていう?」
「そう。その子のことをね、私は一番仲良しくらいに思ってたの」
「うん」
「でもその子には彼氏もいて、私以外の友達もたくさんいる。だから忙しいのもわかってるし、私に合わせて欲しいなんて思ってない」
そこで菜摘は初めて、唐揚げに手をつけた。
「……でもさ、その子と私二人だけの大事な予定を忘れられてたり、ドタキャンされたりすると、私も傷ついちゃって。勝手に、向こうも私と同じ熱量なんだと思ってた。けど、そうじゃないのかもって思ったら、不信感とか疑心暗鬼とか、そんな嫌な感情が大きくなっちゃって」
菜摘は、優しい子だ。相手が嫌がることはしないし言わない。相手が喜ぶことは率先してやる。常に相手のことを考えているからこそ、その相手との気持ちに差が見えた時、人一倍深く傷つくのだろう。
アサはうんうんと頷いて、また唐揚げを一つ、自分の皿に置いた。
「期待しすぎちゃうと疲れちゃうよね」
菜摘は咀嚼しながらゆっくりと箸を置き、唐揚げを飲み込んだ後、静かに口を開いた。
「でも、人に期待しないと人は生きていけないんじゃないかな」
その言葉にアサが顔を上げると、菜摘はどこか悲しそうな顔で、アサのことを見つめていた。彼女のそんな表情は、初めて見た。
アサは、何も言えなかった。




