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店を出た後、最寄りの駅まで二人で歩いた。彼女はそこで待ち合わせをしているらしい。
「ゆずちゃんと美味しいもの共有できて嬉しかったな」
「……私も、こんな楽しかったの久しぶりかも」
「ほんと? そう言われると、なんか、照れるね」
彼女の言葉は、今まで言われたどんな褒め言葉よりも明るく温かくて、私の心を満たしていく。不思議だな、こんなことってあるんだな。朝も歩いてきた道が、なんだか違う道のように感じた。
駅が近づくと、彼女は「あ、いた」と小さな声で呟いた。視線の先には、駅のモニュメントの前でスマホを見ている男性がいて、ふと彼が顔を上げると、アサは彼に向けて軽く手を振った。
「それじゃあね、ゆずちゃん。今日はありがとう」
「こちらこそありがとう」
「また美味しいもの食べに行こうね」
そう言って、私を見上げてニコッと笑う。彼女はどうしてこうも、私を喜ばせる誘い方ばかりしてくるのだろう。
「もちろん」
彼女と別れ、私は家までの道を一人で歩き始めた。帽子やマスクなんかは外して、立ち止まって大きく息を吸ってみた。涼やかな空気が肺いっぱいに入り込み、それをふうーっと吐いてみる。あぁ、なんて気持ちがいいんだ。
それを見ていた若い女の子二人が、私に近づいてきた。
「あの、すいません、『なりたゆず』さんですか?」
「……そうです」
「やっぱり! あの、私たちファンで、もし良かったら……」
「ありがとう、でもごめんなさい、もう動画辞めるかも」
「……え?」
困惑した顔の彼女たちに、ふふっと笑いかける。
「好きでいてくれてありがとね」
そしてまた、道を歩き始める。歩き慣れた町の中で小さな“ラッキー”を探しながら、私はまた一つ、大きく息を吸った。




