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09 蜘蛛

 盗賊の存在を知らされてから数日、自警団の各班は巡回の範囲を普段よりも広げて、盗賊の接近を警戒していた。


「大蜘蛛を従えた盗賊団か……かなり手荒い奴らみたいだな」

「らしいな。人を捕まえて売り飛ばすなんて真似はせず、大人も子供も容赦なく皆殺しにしているって話しだ。無傷で助かった奴はいないらしい……全く、ひでぇ奴らだぜ」


 セドリック班もいつもより足を延ばし、不審者や怪しい痕跡などが無いか探っていた。

 だが見つかるのは野生の魔物ばかりで、それらしいものは何一つ発見出来なかった。


「怪しい人影もありませんね」

「こりゃこっちの方には来てねぇかもしれねぇな。村の安全の為にもその方がいいっちゃいいんだが……」

「今頃、領軍の討伐隊に討たれているかもしれませんよ」

「それならそれでいいんだが、その可能性は低いかもな」

「どういう事です、セドリックさん?」

「俺は以前、領軍の盗賊狩りに参加した事があるんだがその時もなかなか盗賊団の足取りが掴めず、討伐が長引いたんだ。その原因は盗賊団が街の役人から情報を買っていて、領軍の仕掛けた罠がバレていたせいだった」

「街の役人が? そんな事があるんですか……」


 街の役人が金で裏切る。まだ狭い世界しか知らないオリオンには理解出来ない事実だった。


「あるんだなぁコレが。一生を安全な街の中で過ごす奴らにしてみれば、他所の村や旅人が被害にあっても所詮は他人事。ちょっとした小銭稼ぎのつもりだったんだろ」

「そんな……それで盗賊団の討伐は成功したんですか?」

「何とかな。捕縛した盗賊から様々な情報を搾り取った結果、領軍の動きを流していた小悪党の存在もバレて無事に縛り首になったって話だ」

「どれだけ大金を掴んでもバレたら命が無いのに……どうしてそんな真似を」

「そこまで深く考えてねぇんだろ。その程度の小悪党なんて吐いて捨てるほどいる。もしかしたら今回も……て、思ったのよ」


 どこか諦めているような、寂しさを滲ませた表情でセドリックは地平の先を見詰めた。何か苦い思い出でもあるのだろうかとセドリックの心中を察したオリオンはただ静かに言葉を待った。


「いいか、オリオン。もしも大蜘蛛の盗賊団に繋がる手掛かりを見つけてもお前は絶対に追うな。討伐は領軍に任せて、それ以上は決して関わるな」

「はい、最初からそのつもりです。安全第一、ですよね」

「お前は賢いし、魔法も持っている。人より出来る事は多いだろうが、避けて通れる道は避けても構わないんだ……義務だの立場だので人生を後悔しねぇようにしろ」

「……はい」


 いつもとは違い厳しい表情で言い聞かせようとするセドリックの言葉に込められた複雑な思いを感じ取り、オリオンは神妙な顔で頷いた。


「セドリック、オリオン、そろそろ引き上げようや」

「わかった。帰るぞ、オリオン」

「はい」


 討ち取った魔物を手にセドリック班はサジッタ村へと帰還した。


◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️


 サジッタ村から十数キロ離れた森の中。尾行を警戒し、足早に歩く男がいた。


 男が森深くに進むと洞窟の前に出た。入り口には土や石を付着させた魔物の糸を幾重にも張り巡らせて擬装して簡単に見付からないようにされ、その薄暗い洞窟内部には大勢のならず者がたむろしていた。


 男が洞窟に足を踏み入れるとならず者達の視線が一斉に集まった。注目される中、男はならず者達に構う事なく奥へと進み、リーダーの前に立った。


「帰ったか……何か情報でも掴んで来たか」

「へい、幾つか。まずハーベルって街から規模の大きい商隊が出るって話と、近々大規模な領軍の作戦行動があるかもしれないと」

「ふん……商隊の話は嘘臭いな。俺達は隣領で少々派手に動き過ぎたから、領軍の作戦行動が盗賊狩りなのは間違いねぇ。そんな時に襲って下さいと言わんばかりに商隊が出てくるのは不自然だな。多分、わざと盗賊狩りの情報を掴ませて俺達が動くように仕向け、追い立てられた俺達にその囮の商隊を襲わせようって魂胆だろ」

「じゃあその商隊は偽物って事ですかい」

「あぁ、きっと荷物の代わりに武装した兵を潜ませて俺達を歓迎しようとしてるのよ」

「どうしやす、頭? いっそ領軍の兵をやっちまうのも……」

「……」


 この盗賊団は隣領で討伐隊を返り討ちにした経験から正規兵の力を見くびるようになった。

 しかし、リーダーは手下が調子付いている様子に顔をしかめた。


 前回、討伐隊を返り討ちに出来たのは相手側の油断とこちらの切り札があったお陰で、それでもかなりの被害が出た。今は情報も出回り、前回とは状況が違う。

 領軍と正面からぶつかれば盗賊団の大多数は討ち取られ、団も壊滅するだろう。本音を言えばすぐにでも移動してやり過ごしたい所なのだが、ならず者の盗賊を束ねるリーダーが弱腰な姿を見せるわけにもいかないず、リーダーは不機嫌そうな顔で黙り込んだ。


「あと一つ。この辺りにサジッタという村があるそうで、『サジッタの秘酒』とかで儲けてるらしいですよ」

「『サジッタの秘酒』? あぁ貴族連中が欲しがっているって噂の酒か……悪くねぇな」

「じゃあ、頭。次の獲物は……」


 男は涎を垂らさんばかりに下卑た笑みを浮かべ、上手く領軍を避けつつ、手下に与える餌を見付けリーダーはニヤリと笑い頷いた。


「野郎ども! またひと暴れさせてやるぞ! 次の獲物はサジッタ村だ!」


 洞窟内に男達の奇声がこだまする。

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