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07 ようこそ

「ようこそおいでくださいました。ロイ様」


 荷馬車がサジッタ村に到着すると村の出入り口でルナの父親フェルネンがロイを出迎えた。


「やぁフェルネン、元気そうだね。皆も変わりないかな?」

「はい、お陰さまで。ルナ、お勤めご苦労。帰って早々にすまないが家に戻ってアメリーの手伝いを頼む」

「母さんの手伝いね、わかったわ。それではロイ様、また後ほど」


 荷馬車から降りたルナが慌ただしく家へと向かった。

 ロイはフェルネンの案内で村の中へと入って行った。


「よーし、仕事は終わり。それじゃここで解散だ」

「おう。セドリックもオリオンもお疲れさん」

「お疲れ様でした。セドリックさん、オルドーさん」


 その場で二人と別れたオリオンは街での土産物を手にして家へと帰った。


 家の前にある小さな畑で芋の収穫をしているエレナを見つけた。


「母さん、ただいま」

「あらオリオン、お帰り。怪我はないかい?」

「うん、平気だよ。フレアとウルトは父さんの手伝い?」

「えぇ、水撒きの手伝いで共同農場へ行ってるわ」

「そっか。畑仕事はまだ掛かる? 手伝おうか」


 腕捲りをして畑に入ってきたオリオンにエレナは微笑みながら答えた。


「ありがと。でももうすぐ終わるから、こっちはいいわ。それより薪割りを頼んでいいかしら」

「うん、わかった」


◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️


 村の外れにある作業場には冬への備えとして半年ほど前に切り出してきた数十本の丸太が転がっており、各自が必要な分を持って行って良い事になっている。


「よい……しょ!」


 オリオンが愛用の斧を振り下ろし、分割した丸太をさらに細かく割っていく。そうして作業を続け、適当な太さに割られた薪が小山のように積み上がっていた。すでに必要な量の薪はあるのだが、力の弱い女性や小さな子供が家の手伝いとして薪拾いに来る事があり、余裕がある者はその分の薪を割っておくという暗黙のルールがあるのだ。


「ふぅ……こんなもんでいいか」


 秋も深まり肌寒い時期ではあるが、それなりに重労働をこなし身体が火照ったオリオンの額に汗が滲む。


「おうおう感心じゃねぇか、若者よ」

「あ、セドリックさん」


 さきほど別れたばかりのセドリックが作業場に現れた。腰には買ったばかりの酒瓶がある。


「セドリックさんも薪割りですか?」

「そのつもりだったけどよ。お優しい若者が用意してくれた薪があるから助かるぜ」

「ダメですよ。セドリックさんなら薪割りなんて余裕でしょ」

「そう固い事言うなよ。最近は腰がよぉ……」

「セドリックさん」

「ちぇ、融通が利かねぇ奴だな」


 渋々、作業用の斧を手に取ろうとしたセドリックが何かを思いつき地面に転がっていた長めの木の棒をオリオンに投げて寄越した。


「何ですか?」

「いっちょ稽古と行こうや。俺が勝ったらあの割ってある薪を貰う。お前が勝ったら大人しく薪割りをするぜ」

「俺に何のメリットも無いんですが」

「うるせぇ、師匠権限ってやつだ。おら行くぞ!」


 唐突に始まった模擬戦。距離を詰めて打ち込んでくるセドリックの両手には二本の棒があり、防ぐオリオンの手には一本。


「ちょっとズルくないですか?」

「ズルくない。実戦の方がよっぽど理不尽だぜ」


 元々、弓使いであるセドリックだが接近戦もそれなりにこなせるようで、調子に乗ったセドリックの猛攻を前にオリオンは防戦一方だ。


「おらおら、どうした! このままじゃ薪はすべて俺が貰っちまうぞ」

「あんなに薪はいらんでしょ。一人占めしたら後で村長に怒られますよ」

「うるせっ! 冗談にマジで返すな!」


 セドリックの気が削がれた瞬間、オリオンは足元に転がる木片をセドリックの顔面目掛けて蹴飛ばした。

 その木片を上体を反らして躱したセドリックだったが、オリオンにその隙を突かれて片方の棒を巻き取られて手放してしまった。


「よい子ちゃんのオリオン君が味な真似するじゃねぇか」

「師匠の影響ですかね」

「ははは、褒めんなよ。照れるぜ!」


 両手でしっかりと棒を握り直し、セドリックが上段から真っ直ぐに振り下ろす。がっしりとした体格のセドリックが渾身の力を込めた一撃を前にオリオンは徐々に押し負けて片膝を突いた。

 そのままセドリックが押し切り勝負が着くかと思われたが、オリオンは不意に力を抜いて身体を前転させて躱し、逆にセドリックはバランスを崩して前のめりになった。


「ちぃ!」


 セドリックは咄嗟に片手を突いてこちらも前転し無防備に倒れ込むのを防いだが、次の瞬間にはオリオンの棒がセドリックの肩に触れた。


「勝負あり……ですよね」

「あぁ、負けたかぁ。成長したな、オリオン」


 悔しそうに立ち上がって服の汚れを払い、セドリックが健闘を称えるようにオリオンの肩を叩き。


「よくぞここまで腕を磨いたな。だがこれに満足する事無く、さらに精進しろ。お前ならもっと強くなれる……じゃあな」


 言葉を残しその場を立ち去ろうとするセドリックをオリオンが呼び止める。


「セドリックさん、薪割りは?」

「……いや、別に、後で……」

「後で来ても、あそこの割ってある薪を取っていくつもりですよね? 自分で言い出した事なんですから、ちゃんと薪割りして行って下さいね」

「……はい」


 しょんぼりしたセドリックは放置して、オリオンは薪を集めて帰宅した。

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