05 ハーベルの街
回収した矢尻鳥と螺旋鳥を手土産に一行は目的の街ハーベルに到着した。
「そんじゃ俺らは冒険者ギルドでコイツを金に変えてくるわ」
「わかったわ。私達は商業ギルドに荷物を卸してから市場で買い物をしてくるから……合流場所は『瀕死の沢蟹』亭でいいのよね?」
「あぁ、いつもの常宿だ」
セドリック達は換金の為に冒険者ギルド前で荷馬車を降り、ルナと買い出し班は商業ギルドへと向かった。ルナの言っていた『瀕死の沢蟹』亭はサジッタ村の者がよく利用している店で合流場所に最適だった。
セドリック達が矢尻鳥と螺旋鳥を手にして冒険者ギルドに入ると顔見知りの職員が出迎えた。
「いらっしゃ……あら、セドリックじゃないか。久しぶりだねぇ」
「おう、ジェニー。冒険者を引退して以来だな」
「ボケんな、ジジィ。その後も何回か会ってるだろうが。オルドーもオリオン君も元気だったかい」
オルドーが軽く手を上げ、オリオンが会釈をする。セドリックと軽口を交わす彼女は冒険者ギルドの副ギルド長で、現役時代は『鬼食いのジェニー』と恐れられた程の戦士だった。
「今日はどうしたんだい? 何か依頼でもしに来たのかい」
「いんや、コレを売りに来た」
矢尻鳥と螺旋鳥をジェニーによく見えるように掲げると、彼女はそれらを調べて感心したように頷いた。
「ふ~ん。矢尻鳥ならまだしも、螺旋鳥まで……アンタら、引退するにはまだ早かったんじゃないかい。螺旋鳥を仕留めるなんて大したもんじゃないか」
「へへ、まぁな……って言っても、大半はオリオンのお陰さ。今の俺らじゃ翻弄されるだけで終いよ」
「なるほどねぇ……どうだいオリオン君。うちで冒険者登録して本格的に冒険者としてやっていかないかい?」
「いえ、俺は村を出る気はないんで」
ジェニーの勧誘にオリオンは首を振った。副ギルド長として多くの冒険者を見てきたジェニーとしてはオリオンは将来の有望株として確保しておきたい人材だが、今はしつこく勧誘せず肩を竦めるだけだった。
「ざ~んねん。それでソイツを売りに来たんだっけ。矢尻鳥は大した金にはならないが螺旋鳥は少し色を付けておくよ」
「珍しいな、査定に厳しいギルドがオマケをくれるなんて」
「ちょうど螺旋鳥の剥製を欲しがってる貴族から捕獲依頼が来てたんだよ。剥製用だからなるべく傷を付けずに捕らえる必要があってどうしたもんかと思っていたんだが、これで面目が立つ」
そう言うとジェニーは数枚の銀貨を支払った。
「おぉ! こりゃ儲けたな。貴族様々だぜ」
「酒でも買って帰るか。飲んで帰るとお嬢が怖ぇからな」
分け前の銀貨を貰ったオリオンが手持ちの所持金を確認し、意を決してジェニーに話し掛けた。
「ジェニーさん。前にお願いしていた例の本の代金、これで足りませんか?」
「ん? あぁ、あの本かい。どれ……ふんふん、確かに足りるね。それじゃ受け取って帰るかい?」
「はい、お願いします」
オリオンから受け取った財布の中身を数え終えたジェニーが包み紙にくるまれた一冊の本をオリオンに渡した。
「オリオン、商業ギルドじゃなくて冒険者ギルドに本なんて頼んでたのか?」
「冒険者ギルドっていうか、ジェニーさん個人にお願いしてたんですよ。俺が商業ギルドに頼むより安く手に入れてくれるって言うんで」
「私の伝手を使えば幾らか安く手に入るからね。代金は余裕がある時で良いって言ったのにキッチリしてるねぇ。酒代のツケを貯めすぎて店から出禁食らってたどこぞの阿呆にも見習わせたいよ」
「……よし、用事は済んだ。行くぞ、二人とも」
過去のやらかしを後輩の前で暴露されて居心地が悪くなったセドリックがそそくさと冒険者ギルドを後にした。
「全く、セドリックもだらしがねぇよな」
「オルドーさんはそういうのは無かったんですか?」
「俺はちゃんと店主がぶちギレる前に払ってた」
「(ツケでは飲んでたのか……)」
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ハーベルの大通りから外れた路地にある泡を吹く蟹の看板を掲げた小さな店が、良心的な価格で旅人に人気な宿屋『瀕死の沢蟹』亭である。
その日の予定を終えた一行は宿屋で合流し、テーブルを囲んで夕食を取っていた。
「必要な物は買えたのか?」
「うん、大体はね。麦と野菜の売値が若干落ちてたけど『サジッタの秘酒』が前より高値で買い取ってもらえたから少しプラスって感じ。でも鉄と塩が値上がりしてて予想より出費が嵩んだわ」
「そっか……今のままだと農作物が値崩れしたり、不作になった時が問題だな」
「まぁね。お爺ちゃんは共同農場を拡げて何とか収入を増やそうとしてるみたいだけど、人手が足りないし不作の不安は変わらないのよね」
「秘酒の生産量も増やせないからなぁ……コレが役に立てばいいんだけど」
オリオンが冒険者ギルドで手に入れた本を手に取り、パラパラと捲った。
「オリオンが買った本かぁ……何の本なの?」
「紙の作り方を書いた本だよ」
「紙? 羊皮紙とか、そういうの? 上手くいくの?」
「うちの村で羊皮紙みたいな高級品はまず無理だろ。理想としては植物を原料にした安価で他の紙とは違う特徴を持った紙が出来ればな~って感じ」
「特徴ねぇ……そう上手くいくかしら?」
「まぁダメ元だよ。上手くいけばラッキー、ダメなら別の物を探せばいいさ。それより、明日の出発は早いのかい?」
「うん。明日は早めに正門前に集まってお役人様をお待ちするわ。今日確認したけど、やっぱりロイ様みたいね」
「うちの村の事をよく知ってるからな。村の視察が終われば村長の家で宴会かな? 半分くらいはそれが目的だろ」
「あはは、多分ね。いつも嬉しそうに『サジッタの秘酒』をお土産に持って帰るもん」
「やっぱり人気だなぁ。もっと城塞蜂と交渉出来れば良いんだけど」
「まぁいいじゃない。今でも十分に助かってるもの、そんなに焦る事ないわよ。それより明日も早いし、そろそろ休みましょう」
ルナが食事を終えて晩酌を楽しむセドリック達の重い腰を上げさせて、宿の大部屋に移動した。余計な金を掛けられないので全員が一緒の雑魚寝状態だ。
寝息やイビキが響く部屋の中で硬い長椅子で眠っていたオリオンが目を覚ますと、暗い部屋の隅で小さなランプの灯りの下で本を読んでいるルナがいた。
「どうしたんだルナ。眠れないのか?」
「……あ、オリオン。ごめん、起こしちゃった?」
「いや、そうじゃないけど。明日、早いんだろ? 寝た方がいいんじゃないか」
「おっさん達のイビキが五月蝿すぎるのよ。アンタの方こそよく寝れるわね」
「あはは……まぁ、慣れてるからな」
自警団の仕事でサジッタ村の周辺の森で夜営をする事もある。この程度の騒音では動じなくなっていた。
「気になるようなら眠れるように魔法を掛けてやろうか?」
「オリオンって土魔法以外にも使えるの?」
「簡単なやつなら、ちょっとだけな」
「じゃあお願いするわ」
ルナがそれまで暇潰しに読んでいた本を閉じてベッドに戻ると、オリオンは魔法を掛けた。
「それじゃおやすみ……『睡眠』」
「えぇ、おやす、みな……ぃ」
ルナは魔法の効果で早々に眠りについた。静かな寝息を立てるルナを見届けて、オリオンも長椅子に横になった。




