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11 防衛

 自警団の三分の二が盗賊が襲撃してきた村の東側に集結し、応戦する。残りは伏兵への警戒と脱出を控える村人の護衛についた。


「狙いなんて必要ねぇ! 矢も石もどんどん射て!」


 数で劣る自警団はとにかく反撃の手を緩めず迫ってくる盗賊に向けて矢を放ち、石を投げつける。村を囲う空堀と石壁の存在が攻めてくる盗賊の動きを鈍らせるお陰で、経験不足な自警団員でもパニックにならずに済んでいた。


「おい、そろそろ脱出させるか?」

「いや、もう少し様子見だ」


 数十人の盗賊が攻め寄せているがその中に噂の大蜘蛛の姿が無かった。その為、伏兵の存在を警戒して村人の脱出を留めていた。


 次々と放たれる自警団の攻撃を前に手傷を負った盗賊が徐々に後退し始めた。


「何だよ、畜生! ただの村じゃねぇのかよ」

「クソったれ! こんな村を落とすのに命を懸けるなんて割りに合わねぇ……ズラかるか」


 村人の予想以上の抵抗に愚痴り、やる気を失った数人の盗賊が踵を返し逃走しようとした時、極細の斬糸がその身体を輪切りにして辺りに血肉をばら蒔いた。


 突然の惨状に自警団も盗賊達も呆気に取られ、戦闘を中断して固まった。


「何を逃げ出そうとしてんだ。テメェら」


 後方から大蜘蛛に跨がった盗賊のリーダーが現れた。


「か、頭ぁ……」

「テメェらに許されてんのは進む事だけだ。逃げ出すような腰抜けに用はねぇぞ」


 大蜘蛛が放った斬糸が盗賊達の足下を抉ると驚いた盗賊達が踵を返し、多少の負傷を物ともせず死に物狂いでサジッタ村へと攻め寄せた。


「くそ、盗賊どもの目の色が変わった……さっきまでとは違う、死ぬ気で攻めてくるぞ!」

「だが大蜘蛛の姿を確認した。脱出を開始させろ! 警戒中の奴らも集結だ!」


 自警団の合図の笛が鳴り響き、その音を聞いて抜け穴の前で待機していた村人達が脱出を開始する。

 抜け穴を通過して出口から安全な場所に移動するまで、もうしばらく時間が掛かる。それまで自警団は盗賊の進攻を持ち堪えなければならない。


「やべぇ! 盗賊が石壁に取り付いた!」


 深手を負った団員が抜けて、一時的に手薄になった所に詰め寄せた盗賊が石壁をよじ登ってくる。


「『土棘』!」


 すかさずオリオンが魔法で迎撃するが、石壁から飛び出した棘が刺さり身体をのけ反らして倒れる者もいる中、痛みを無視して血塗れで登りきった盗賊がいた。


「やってくれたなぁ……農夫風情がよぉ!」

「ひぃ……!」


 血走った目でニヤリと笑う盗賊に気圧されて後退りする自警団員。盗賊が腰のナイフを抜き、棒立ちの団員に襲い掛かる。


「させるか! 『石槌(ストーンハンマー)』」


 すかさずオリオンが魔法で割って入る。

 足下から飛び出した石の柱に打ち据えられた盗賊が石壁の向こうへと落下していった。

 目前の敵を排除し、ホッとする暇も無く別の場所からも二人、三人と登ってくる。


「クソ盗賊どもが、汚ねぇ足で入ってくんな! 『五つ矢』!」


 セドリックの放った五本の矢を全身に食らい盗賊の一人が力尽きると、その死体を盾にして別の盗賊が迫る。


「死ねぇ!」

「テメェがな!」


 石壁を登りきった盗賊と自警団員が激しくぶつかりあう。恐怖に駆られた盗賊も必死だが自警団員にも後が無い。お互いに一歩も引くわけにはいかず膠着状態となる。

 その光景を眺めていたリーダーは、攻めきれない手下の不甲斐なさに苛立っていた。


「ちっ……チンタラしやがって、領軍が来ちまうだろうが。仕方ねぇ、いっちょ頼むぜ」


 思うように行かない状況に焦れたリーダーが大蜘蛛の背を叩いた。それに応えるように八本の足をゆっくりと動かし、大蜘蛛が巨体を揺らして歩き始めた。

 動き始めた大蜘蛛を見て勝利を確信した盗賊がせせら笑う。


「へ、へへ、お前らはお終いだ。頭の蜘蛛に食われちまいな」

「うるせぇバカ野郎!」


 悪態をつく盗賊を殴り飛ばし、迫り来る大蜘蛛に狙いを定めセドリックが弓を引く。


「『五つ矢』! 『貫通矢』!」


 先に放たれた五本の矢は大蜘蛛の硬い殻に阻まれて刺さらず、威力を高めた最後の矢は空中で斬糸に破壊された。


「クソ……合図はまだか」


 少しずつ押し込まれていく自警団。大蜘蛛を加えた盗賊との戦力差に焦るセドリックの耳に待ち望んでいた脱出完了の笛の音が届いた。


「よし! 作戦の第二段階だ。各自、撤退!」


 セドリックの指示を聞いた団員が煙玉を放ち煙幕を張る。一時的に視界を遮ると怪我人を連れた団員は自警団の詰所小屋に入り、地下への隠し階段を開けると同時に火付けの仕掛けを作動させ小屋を燃やした。


 まだ戦える自警団員は煙幕の中で戸惑う盗賊を攻撃しつつ後退し、火付けの仕掛けを作動させて村のあちこちから上がる火の手によって場を混乱させて後退した。


「や、野郎……事前に油を撒いてやがったのか。火の回りが早ぇ」

「ゴホッ……どうすんだ。このままじゃ俺達まで」

「どうするもねぇ。さっさと追い掛けろ」


 空堀と石壁を破壊して現れた大蜘蛛と盗賊のリーダーは燃え盛る建物を破壊して道を開き、尻込みする手下達に再び活を入れる。


「いいか、テメェら! ここまで俺達をコケにした連中を逃がしてみろ……役立たずなテメェらの命は無いと思え!」

「ひっ! に、逃げた奴らを追え! 何としてでも捕まえろ!」


 大蜘蛛の鋭い爪が振り下ろされ、固い地面を砕く。短い悲鳴を上げて盗賊達が火傷もお構い無しに散り散りになって逃げた自警団員を追い掛ける。


「とは言え、村の連中はどこへ逃げやがった? まさか燃える家の中で自決って訳でもねぇだろ」


 村への放火が何かの策略と見破ったリーダーの意志を受けて大蜘蛛が八つの目で周囲を索敵する。並みの魔物とは一線を画す大蜘蛛の能力ならば数百メートル先まで視界に収める事が出来るのだ。


 大蜘蛛の目の一つが森の中に潜む大勢の人影を捉え、その事を知らせるように大口を開けて一鳴きした。


「くくく、見付けたか……クソッタレどもが、簡単には殺さねぇぞ!」


 村中に散った手下は放置して、盗賊のリーダーと大蜘蛛が村人達が隠れる森の方へと疾走する。

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