七話 やり過ぎにご注意
ひぃふぅみぃよぉ……、レッサーリザードは全部で五体みたいだね。
開けた場所だから、増援が来ても直ぐに気づけそうだ。
「マグちゃん!このトカゲは私に任せて、馬車の人たちを避難させて!」
「うん、分かった!」
カワイく元気な返事をすると、マグちゃんは子猫を運ぶ母猫みたいに馬車に乗った人たちと護衛を避難させていく。
普段はおバカなのに、いざとなったらシゴデキなのカワエエなぁ。
蕩けた顔でマグちゃんを見ている私の顔を、鞭のようにしなる尻尾が叩いた。
「イタタ~、そういえばこいつらがいたんだった」
五体のレッサーリザードは私を遠巻きに囲み、様子をうかがっているようだ。自慢の尻尾が効いてないから警戒してるのかな?
どうしよう、普通に戦っても倒せるけど、この数じゃ何発くらいは食らっちゃうかも。
転生した時にもらったこのパーカーが破れちゃうのは嫌だしなぁ、この一着しか服無いし……。
……そうだ!こいつらであの魔法を試してみればいいじゃん!
私は一つ深呼吸をしてから、正面にいるレッサーリザードに手をかざした。
そして唱える。
「第一界魔法、ウインドカッター!」
風の刃が飛び出し、レッサーリザードを真っ二つに切り裂いた。
別れたレッサーリザードの体はゆっくりと開いていき、ドサッ……と左右に倒れた。
……いやグッッロ!
え、なにこれ?一番初歩の攻撃魔法だから、もっと弱いと思ってたんだけど……。
仲間の開きを見たレッサーリザード達は一瞬顔を見合わせると、尻尾を巻いて逃げ出した。
うん、なんか……ごめんね。
レッサーリザード達の姿が見えなくなるのを確認して、私はマグちゃんの元へと向かった。
ん?なんか、マグちゃんと護衛が戦ってない?
「やめて!僕は敵じゃないよ!」
マグちゃんの悲痛な叫びが聞こえる。
だが護衛の人間にはニャーニャーと猫の声でしか届かず、護衛達はマグちゃんに剣を向け続けている。
私たちに助けてもらっておいて、その上にマグちゃんに剣を向けるなんて、ぶっ殺してやる!
「お待ちなさい!」
護衛をぶちのめそうと私が拳を握った瞬間、良く通る甲高い声が場を切り裂いた。
護衛達の目線が一斉に馬車へと集まる。馬車の扉が開き、中から華美なドレスの女性が姿を表した。
ドレスは深い青色で、ラメが入っているのかキラキラと輝いている。
少し着崩れているのは襲われたからだろう。
静謐を湛えた端正な顔立ちに、日光を柔らかく反射する長い金髪。
西洋の女神みたいな姿だ。
「その魔物は私たちを守ってくださったのに、なぜ刃を向けているのです。それに後ろの女性を背に載せていた所を見るに、テイムされているのでしょう」
女性はそう言うと私とマグちゃんに向かってきた。
「近づいてはダメです!」
「お止めください!」
護衛達の声を意に返さず、あっという間に私達の前に歩を進めた。
「助けていただきありがとうございます、部下の非礼をお許しください」
女性は深々と頭を下げて言った。なんだ、少しはまともなやつもいるのか。
「私はカリオス王国シャルパ公爵家の長女、スフィア・シャルパと申します」
公爵家の長女?……ってことは貴族のお嬢様ってこと!?
なんか偶然にもすごい人を助けちゃったみたいだね。
「私は猫宮心、この子はマグちゃん」
「マグです!よろしく!」
マグちゃんが元気に挨拶して頭を下げた。カワイイけどこの人たちには聞こえないんだよマグちゃん。
「ココロ殿、失礼ですがギルドには所属していないのですか?プレートを着けていないようですが」
ギルド?プレート?何を言ってるのか分からないよ。
「えーと、私外から来たからこの国のことが分からなくて……ギルドとかプレートって何?」
「まぁ、他の国からいらっしゃったのですね。バルザス帝国ですか?それともドルムンド王国でしょうか?」
どうしよう、猫の魔物が住んでる森から来ましたなんて言ったらヤバイやつだと思われるよね……。
返答に困っていると、スフィアさんの目に疑惑の色に染まり出した。
「あーえっと……バ、バルザス帝国から来ました!」
ヤバイ、とっさに嘘ついちゃった!
バルザス帝国ってドコだよ!
私がそう言うと、スフィアさんは笑顔を取り戻した。
「そうなんですね、歓迎致しますわ」
スフィアさんはそう言うと私の手を取って馬車へと案内した。良かったー、何とか誤魔化せたみたいだね。
護衛の人と少し話してから、スフィアさんも馬車へと乗り込んだ。
そうして私は馬車にのせられてカリオス王国へと入った。
マグちゃんは馬車の上に乗って着いてくることになった。
窓の外から城門を見ると、長い行列が出来ていて、門番が一人一人通行証のようなものをチェックしていた。
どうしよ、私あんなの持ってないんだけど……。
「スフィアさん、私あんな通行証みたいなのって持ってないんですけど?」
「通行証?大丈夫ですよ、私の馬車に乗っているんですから」
スフィアさんの言葉の通り、馬車は城門を検閲もなしに素通りした。
「さぁここがカリオス王国です!」
門を抜けると。大きな街道が姿を表した。石畳で舗装されており、文明レベルの高さが感じられる。
両脇には露店が並び、商人の声が快活に響いていた。
「すごい、今日はお祭りかなんかですか?」
「いえいえ、この中央道はいつもこうですよ!この活気が城の前まで続いているのです」
スフィアさんが指差す先に、ここから見ても大きく見える城がそびえ立っていた。この活気があの城まで!
「それではどちらまでお送り致しましょうか、取りあえず宿屋まででしょうか?」
宿か。
久しぶりにベットで寝てみたいけど、今回の目的は情報収集だから、ここはガマンガマン。
「私この国のことを知りたいんですけど、情報が集まる場所ってドコなんですかね」
「情報が集まる場所ですか……それならバトルギルドでしょうね」
「さっきも言ってましたけど、バトルギルドってどんなところなんですか?」
「バトルギルドは冒険者を統括する組織であるギルドの中でも、魔物の討伐や他国との争いを主に担っている戦闘特化のギルドですわ。国防の一端を担う都合上、国のあらゆる情報が集まる場所ですから、ココロ殿の目的にピッタリの場所ですわ」
バトルギルドか。
物騒な感じだけど、魔物の討伐を担ってるってことは、マタタビの森を襲った奴らのことも分かるかもしれない。
早くも目的達成かな。
「じゃあバトルギルドに行ってください」
「分かりましたわ、バトルギルドに向かわせましょう」
馬車は人混みが気持ち少ないところまで進むと左に曲がり路地に入った。
鍛冶屋に道具屋など、大通りとは店の種類が違うね。
「着きましたわ、ここがバトルギルドです」
馬車から降りると、そこには西部劇に出てきそうな酒場があった。扉の上に剣と杖が交差した看板がつけられている。
「何かありましたら、いつでも私を頼ってくださいね」
そう言うとスフィアさんは、何やら住所のようなものが書かれた紙をくれた。
親切すぎて怖いなこの人、何か裏があるかも。
スフィアさんが見えなくなるまで待ってから、私はバトルギルドのなかに入った。