四話③
「マタゾウちゃん!」
マタゾウにかけより、抱き抱えて怪我の具合を確認した。
剣はかなり深いところまで切り込んでいる。
息は絶え絶えで今にも命が尽きそうだ。
「マタゾウちゃん、何で……何で私なんか庇ったの?」
私は涙で顔をグシャグシャにして言った。
私の涙をマダソウは肉球で拭った。
「ご主人と出会ってまだ短いですが、もうご主人は我らの仲間ですから、危機に陥っている仲間を救うのは当然のことです」
マタゾウの息が徐々に弱っていくのを、私は両手で感じ取っていた。
嫌だ、死んじゃわないで……。
「マタゾウちゃん……死なないで、私のために死なないでよ」
涙ながらに言う私を、マタゾウは母猫のように暖かい目で見つめている。
「泣かないでご主人、私は……望んであなたを庇ったのです、悔いは、ありません」
マタゾウの口調は、駄々っ子を宥めるように穏やかだった。
「そろそろ駄目そうです、ご主人、私は……消えてなくなるわけではありません、いつまでも貴方の側で見守っていますか……ら」
マタゾウはそう言い終わると、体をグッタリとさせて、動かなくなった。
「嫌だ、嫌だよ!死なないで、死なないで!」
私が必死に呼び掛けても、マタゾウはもう応えてくれない。間抜けな私を嗜めてくれる、あのしっかりとしてカワイイ声は、もう放たれることはない。
私が悲しみにくれていると、大きな足が視界に現れてマタゾウの体を足蹴にした。私の体からマタゾウの体が離れ、吹き飛んでいく。
「なんか茶番やってるとこ悪いんだけど、仕事の邪魔だからもう死んでもらうわ」
リーダーの男はそう言って、今度は殺意をもって振り下ろした。剣が私の頭を直撃し、私もマタゾウの後を追うことになる、筈だったが。
「な、何だと!?」
リーダーの大男が振り下ろした剣が空を切り、地面に突き刺さったのだ。
私は男の背後に回り、後ろ首を掴んだ。
「よくもマタゾウちゃんを……!」
そのまま私は大男をハンドボールみたいに遠くへとぶん投げた。大男は地上十メートル程舞い上がり、そのまま地面に激突して動かなくなった。
私のどこにそんな力が?そんな疑問も、マタゾウちゃんを殺された怒りですぐに吹き飛んだ。
「テ、テメェ!よくもリーダーを!」
リーダーを倒されたことで激昂した部下達の攻撃を私は余裕をもって躱した。
よくもリーダーを、だって?マタゾウちゃんを殺しておいて、そんなこと言う資格がお前らにあるもんか!
私は大きく体制を崩した男たちの腹にに、一発ずつ拳を見舞った。
素人丸出しのパンチだったが、男達は「ギャッ!」と情けない悲鳴を上げて倒れた。
腹を押さえて蹲っている男達を私は冷たい目で見つめていた。
コイツらのせいでマタゾウちゃんが……!コイツらも……殺してやる!
私は男達が落としたサーベルを拾って、男達の頭上に振り上げた。
そして、明確な殺意をもって振り下ろそうとしたのだが。
ガシッ。
私の手を、モフモフが止めた。ハッとして振り返ると、キャスパリーグがふにゃふにゃになりながらも私の手を止めていたのだ。
「キャスパリーグさん、何で止めるの!コイツらは皆と、マタゾウちゃんを!」
「マタゾウは、ココロ殿が手を汚すことを、望んでは、いない筈だ」
マタタビでフラフラになりながらキャスパリーグはそう言った。
キャスパリーグの言葉と同時に、私を嗜めるようなマタゾウの声が聞こえた気がした。
確かに、じゃあマタゾウちゃんはそんなこと望んでないかもしれない。じゃあ、私のこの悲しみはどこに向ければ良いの?
「どうしたら良いの?応えてよ、マタゾウ……」
私の言葉に、応えてくれるあの声はもう聞こえてこなかった。