八話 規格外
バトルギルドに入ると、顔をしかめたくなる程のお酒の匂いが鼻をついた。
頭の悪そうな人達がひしめき合って、昼間から酒を酌み交わしている。
私はカウンターにいる女性に話しかけた。
「このギルドに入りたいのですが」
「冒険者登録ですね、それではこの水晶に触れてください」
「何ですか?この胡散臭い水晶」
「これは触れたもののステータスを見れる水晶です、触れたかたの各数値や職業、スキルまで見れる優れものです」
ステータスを見れる?そんなの鑑定スキルで良いじゃん。まぁ必要ならやっとくか。
私は言われた通りに水晶に触れた。すると水晶が淡い光を放ち、宙に文字を写し出した。
「テイマーなのですね、えーと、テイムされた魔物の数は……え???」
受付のお姉さんは今までの冷静な雰囲気から一変して、目をかっぴらいて宙に浮く文字を何度も見返していた。
「テイム数……63!?優秀なテイマーでも五匹が限界なのに……!!それにこのステータス値、こんなのゴールドプレート……いや、数値だけならミスリルプレートの戦士……きゅぅ」
お姉さんは何やら早口で捲し立てた後、泡を吹いて倒れてしまった。
「失礼いたしました、少々興奮してしまいまして……」
気を取り戻したお姉さんは、少し顔を赤らめながら言った。
「いえ、全然大丈夫ですよ」
本当はお姉さんが気絶した後、周りの皆さんが「俺らのセイラちゃんになにしたんだ!」って騒がれたけどね。
「あの、疑うわけではありませんが、本当にテイマーなのですか?」
「あ、はい。この子が仲間のマグちゃんです」
「マグだよ!よろしく!」
マグちゃんが元気良く自己紹介をする。カワイイけど相変わらず聞こえてないんだよね。
「そうですか……いや、あまりにもステータスの値が現実離れしていたもので……」
「騒がしいなぁ、どうしたの?」
困惑しているセイラさんの横から、快活そうな少年が姿を表した。黒曜石みたいに艶めく黒髪の幼げな顔をカウンターからひょっこりと出している。
「あ、マスター。実はこの方が……」
セイラさんが現れた少年に何やら耳打ちをしている。え、てか今マスターって言った?てことは……この子がこのバトルギルドのマスターってこと!?
「子供じゃないよ、一応言っとくけど」
ナチュラルに心を読んでくるじゃん。
「なるほどね、63匹の魔物を従えていて、ミスリルプレート戦士級のステータスを持つテイマーか……にわかには信じがたいね」
「どうでしょう、ここはひとつ……」
「うん、そうだね」
ちょっとちょっと、二人だけの世界に入らないでよ。私抜きで話進めないで。
「君、今から登録試験もかねて、僕と手合わせしようか」
場面は急に変わって、闘技場のような場所に連れてこられた。石の壁に囲まれた、マグちゃんが小さく見えるほどの広大な闘技場だ。
「じゃあ始めようか」
そして目の前には、どう見ても小学生にしか見えないギルドマスター。私今からこの子と戦うの?
「まだ疑ってるの?僕はドワーフ族だから、もうこの身長で成人だよ」
だからなんで心読めるの?
「じゃあ改めて自己紹介するね、僕はバトルギルドマスターのグラン・バルザック、君の名前は?」
「あ、ココロネコミヤです」
「ココロ君ね、それじゃあ早速始めようか」