スフィア視点
屋敷で寛いでいたところに、執事長のドヌムルが部屋に押し入ってきた。
「スフィア様、先程の件について進言したいことがあるのですがよろしいでしょうか?」
「構いません、話なさい」
「スフィア様、あなた様はシャルパ公爵家のご令嬢なのです。そんなお方が、お礼のためとは言えあのような者にあそこまでする必要があるのでしょうか?」
ドヌムルの言うあのような者が、ココロ殿のことを指しているのは直ぐに分かった。
「命を助けていただいた方にお礼をして、何が悪いのでしょう」
私がそう言うと、ドヌムルは直ぐに首を横に振った。
「お礼をするのが悪いのではありません、ただお礼をするだけであれば金銭を渡すだけでよいのでは?と考えているのです。貴女様と同じ馬車に乗らせ、ましてやお屋敷の場所を教え、繋がりを持つ必要があるのかと……」
ドヌムルが進言するのを、私は静かに聞いていた。
そう、謝礼のためだけなら、金銭を渡して終わりで良いだろう。
だが、あの方を送ったのはお礼だけが目的ではないのだ。
「貴方は、あの方が戦っている姿を見ましたか?」
「いえ、あの大きな猫型魔物の対応をしていたので……」
「あの方は、私たちに襲いかかってきていたレッサーリザードを、ウインドカッターで真っ二つに切り裂いたのです……!」
私がそう言うと、ドヌムルは目を丸くして驚いていた。
当然だろう、私だって信じられないのだから。
レッサーリザードは、最弱とは言え龍種の一つに数えられ、その体は強固な鱗で覆われている。
本来であれば、鱗の無い首や腹を攻撃するのが常識なのだが、
それを一太刀で両断したのだ。
風魔法最弱の攻撃魔法であるウインドカッターで。
「レッサーリザードをウインドカッターで真っ二つに……!?そんな芸当、ゴールドプレートの魔術士にも出きるかどうか……」
「そう、それでいてあの方はテイマーで、マグナフェリスまで使役しているのですよ」
マグナフェリスと言えば、猫型魔物の中でもトップクラスの戦闘能力を持つ化け物だ。
「しかし、彼女はハンターになると言っておりました。優秀な人材が増えるのは良いことでは?」
ドヌムルの言う通りだ。
実力がある冒険者が増えれば、様々な素材が市場に流れ、都市周辺の治安も良くなる。
良いことずくめなのだが……。
「私が出身地を聞いた時、明らかに動揺していたのが気になっているのです。ゴールドプレート級の実力者が出身地を隠す理由……」
「……もしや、他国の間者なのでは?」
さすがドヌムルは話が早い。
「すぐに暗部のものを動かしてあの方の素性を探るのです。それと、シャルパ家の息のかかった冒険者に、あの方の監視をお願いいたします。くれぐれも……」
「こちらの動きが悟られないように、ですね?」
私がコクリと頷くと、ドヌムルは部屋を出ていった。
私は一つため息をついた。
私の勘違いならそれで良い。
しかし、あの身震いする程の強さは見逃せない……。
私は窓から見える景色を眺めた。
ここからは人でごった返す市場や、人々の暮らす住宅街、この国の全てが一望できる。
調べなくては、この国の国防を司るシャルパ家の人間として……。